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和泉式部日記 第11章

伏見の方違えと宮仕えの決意

十月、宮は方違えのために従兄の三位中将の家に泊まり、女を連れ出して車の中で一夜を語り明かす。女はついに宮邸に参ろうと決心し、言い寄る男たちの文も断るが、宮から「よし唯石見潟」と冷たい文が届き、女は動揺する。噂を聞いて試したのだとわかり、二人はふたたび歌を交わして和解する。

  1. 1おはしましおはしましおわしましたるたるたるにににこなたこなたこなたのののふたがりふたがりふたがりたれたれたればばば、、、例れい例れいれいのののいといといと忍しの忍しのしのびびびてててゐゐいててておはしますおはしますおわします。。。「「「このこのこの頃ごろ頃ごろごろははは四十五日しじふごにち四十五日しじふごにちしじゅうごにちののの御おほん御おほんおおん方かた方かたかたさせさせさせ給たま給たまたまふふう」」」とてとてとて御おほん御おほんおおんいとこいとこいとこののの三位さむゐ三位さむゐさんみののの家いへ家いへいえにににおはしますおはしますおわします。。。
  2. 2「「「例れい例れいれいならならならぬぬぬ所ところ所ところところにににさへさへさへあれあれあればばば見み見みみ苦ぐる苦ぐるぐるししし」」」ととと聞きこ聞きこきこゆれゆれゆれどどど强し强ししひひいててておはしましおはしましおわしましててて、、、御み御みみ車くるま車くるまくるまながらながらながら人ひと人ひとひとももも見み見みみぬぬぬ車くるま車くるまくるまやどりやどりやどりににに引ひ引ひひききき立た立たたてててゝゝて入い入いいらららせせせ給たま給たまたまひひいぬれぬれぬればばば、、、恐おそろ恐おそろおそろしうしうしゅう思おも思おもおもふふうににに、、、人ひと人ひとひとしづめしづめしずめてててぞぞぞおはしましおはしましおわしましててて、、、御み御みみ車くるま車くるまくるまににに奉たてまつ奉たてまつたてまつりりりててて萬よろづ萬よろづよろずののの事こと事ことことをををののの給たま給たまたまははわせせせけるけるける。。。
  3. 3心こころ心こころこころ得え得ええぬぬぬとのゐとのゐとのいびとびとびとのののをのこをのこおのこどもどもどもぞぞぞめぐりめぐりめぐりありくありくありく。。。例れい例れいれいののの右う右うう近こん近こんこんのののじようじようじようこのこのこの童わらは童わらはわらわなどなどなどぞぞぞ近ちか近ちかちかくくくさぶらふさぶらふさぶらう。。。哀あは哀あはあわれれれにににものものものゝゝのおぼさるゝおぼさるゝおぼさるるまゝまゝままににに、、、おろかおろかおろかなるなるなるさまさまさまははは過す過すすぎぎぎにににしししかたかたかたさへさへさへ悔くや悔くやくやしうしうしゅうおぼしめさるゝおぼしめさるゝおぼしめさるるもももあながちあながちあながちなりなりなり。。。
  4. 4明あ明ああけけけぬれぬれぬればばば、、、やがてやがてやがてゐゐいててておはしましおはしましおわしましててて、、、「「「人ひと人ひとひとののの起お起おおきききぬぬぬさきさきさきににに」」」ととと急いそ急いそいそぎぎぎ歸かへ歸かへかえらららせせせ給たま給たまたまふふう。。。つとめてつとめてつとめて、、、「「「ねねねぬるぬるぬる夜よ夜よよののの寢ね寢ねね覺ざめ覺ざめざめののの夢ゆめ夢ゆめゆめにににならひならひならいてててぞぞぞ伏ふし伏ふしふしののの里さと里さとさとををを今け今けけ朝さ朝ささははは起お起おおきききつるつるつる」」」。。。
  5. 5御おほん御おほんおおんかへしかへしかえし、、、「「「そのそのその世よ世よよよりよりより我わ我わわががが身み身みみののの上うへ上うへうえははは知し知ししられられられねねねばばばすゞろすゞろすずろにににあらあらあらぬぬぬ旅たび旅たびたび寢ね寢ねねをををぞぞぞするするする」」」などなどなど聞きこ聞きこきこゆるゆるゆる。。。
  6. 6何なに何なになにかかかははは、、、かくかくかくねんごろねんごろねんごろににに忝かたじけな忝かたじけなかたじけなききき御おほん御おほんおおん志こころざし志こころざしこころざしををを見み見みみ知し知ししらららずずず、、、心こころ心こころこころこはきこはきこわきさまさまさまにににもてなすもてなすもてなすべきべきべき事こと事ことことはははさしもさしもさしもあらあらあらでででなどなどなど思おも思おもおもへへえばばば、、、參まゐ參まゐまいりりりなむなむなんととと思おも思おもおもひひい立た立たたつつつ。。。まめやかまめやかまめやかなるなるなる事こと事ことこととてとてとていふいふいう人ひと人ひとひとあれあれあれどどど耳みみ耳みみみみにににもももたゝたゝたたずずず。。。
  7. 7心こころ心こころこころ憂う憂ううききき身み身みみなれなれなればばばすくせすくせすくせににに任まか任まかまかせせせてててあらあらあらむむんととと思おも思おもおもふふうにににももも、、、そのそのその宮みや宮みやみや仕づかへ仕づかへづかえよよよ、、、今いま今いまいま更さら更さらさらにににほいほいほいにににもももあらあらあらずずず、、、巖いは巖いはいわほほおののの中なか中なかなかこそこそこそ住す住すすまままゝゝまほしけれほしけれほしけれ、、、又また又またまた憂う憂ううききき事こと事ことこともももあらあらあらばばばいかゞいかゞいかがせせせむむん、、、いといといと心こころ心こころこころなきなきなきさまさまさまにににこそこそこそ思おも思おもおもひひいいはいはいわめめめ、、、猶なほ猶なほなおかくかくかくてててややや過す過すすぎぎぎなななましましまし、、、
  8. 8近ちか近ちかちかくくくてててだにだにだにおやおやおやはらからはらからはらからののの御おほん御おほんおおん有あり有ありあり樣さま樣さまさまももも見み見みみ聞きこ聞きこきこえええむむん、、、又また又またまたほだしほだしほだしのののやうやうようなるなるなる人ひと人ひとひと々びと々びとびとのののうへうへうえももも見み見みみ定さだ定さださだめめめむむんととと思おも思おもおもひひい立た立たたちちちにににたれたれたればばばあいなしあいなしあいなし。。。
  9. 9參まゐ參まゐまいらららむむん程ほど程ほどほどまでまでまでだにだにだにひなびひなびひなびにににいらへいらへいらえ聞きこ聞きこきこしししめさめさめされれれじじじ、、、近ちか近ちかちかくくくてててはははさりさりさりともともとも御ご御ごご覽らん覽らんらんじじじてててむむんととと思おも思おもおもひひいててて、、、「「「すきごとすきごとすきごとせせせししし人ひと人ひとひと々びと々びとびとののの文ふみ文ふみふみもももなしなしなし」」」とととのみのみのみいはいはいわせせせててて、、、更さら更さらさらににに返かへ返かへかえ事りごと事りごとりごともももせせせずずずのみのみのみあるあるある程ほど程ほどほどににに御おほん御おほんおおん文ふみ文ふみふみありありあり。。。
  10. 10見み見みみれれればばば「「「さりさりさりともともともととと賴たの賴たのたのみみみけるけるけるがががをこをこおこなりなりなり」」」などなどなど多おほ多おほおおくくくののの事こと事ことことののの給たま給たまたまははわせせせででで、、、「「「よしよしよし唯ただ唯ただただ石いは石いはいわ見み見みみ」」」とととばかりばかりばかりあるあるあるににに胸むね胸むねむねうちうちうちつぶれつぶれつぶれてててあさましうあさましうあさましゅう覺おぼ覺おぼおぼゆゆゆ。。。
  11. 11珍めづ珍めづめずらからからかなるなるなるそらごとそらごとそらごとどもどもどもなどなどなどいといといと多おほ多おほおおくくく出い出いいでででくれくれくれどどど、、、さばれさばれさばれなからなからなからむむん事こと事ことことはははいかゞいかゞいかがせせせむむんなどなどなど覺おぼ覺おぼおぼえええててて過すぐ過すぐすぐしししきききぬるぬるぬるををを、、、これこれこれはははまめやかまめやかまめやかにににののの給たま給たまたまははわせせせたれたれたればばば、、、思おも思おもおもひひい立た立たたちちちけるけるける事こと事ことことほのほのほの聞き聞きききききけるけるける人ひと人ひとひともももあべかあべかあべかめるめるめるににに、、、をこをこおこなるなるなる目め目めめをををももも見み見みみるるるべかべかべかめるめるめるかなかなかなととと思おも思おもおもふふうににに、、、悲かな悲かなかなしくしくしくててて御おほん御おほんおおん返かへ返かへかえししし聞きこ聞きこきこゆゆゆべきべきべき事こと事ことことももも覺おぼ覺おぼおぼえええずずず。。。
  12. 12又また又またまたいかなるいかなるいかなる事こと事ことことをををきこしめしきこしめしきこしめしたるたるたるにににかかかととと思おも思おもおもふふうににに耻はづ耻はづはずしうしうしゅうててて御おほん御おほんおおん返かへ返かへかえ事りごと事りごとりごとももも聞きこ聞きこきこえええねねねばばば、、、ありありありつるつるつる事こと事ことことををを耻はづ耻はづはずしししととと思おも思おもおもふふうなめりなめりなめりとととおぼしおぼしおぼしててて、、、
  13. 13「「「などなどなどかかか御おほん御おほんおおん返かへ返かへかえしししももも侍はべ侍はべはべらららぬぬぬ。。。されされさればばばよよよとととこそこそこそおもほゆれおもほゆれおもおゆれ。。。いとゞしくいとゞしくいとどしくももも變かは變かはかわるるる御み御みみ心こころ心こころこころかなかなかな。。。人ひと人ひとひとのののいふいふいう事こと事ことことありありありしかしかしかばばば、、、よもよもよもととと思おも思おもおもひひいながらながらながら思おも思おもおもははわましかましかましかばばばとととばかりばかりばかり聞きこ聞きこきこえええしししぞぞぞ」」」とととあるあるあるににに、、、
  14. 14胸むね胸むねむね少すこ少すこすこしししあきあきあきててて御み御みみ氣色けしき氣色けしきけしきもももゆかしくゆかしくゆかしくててて、、、何事なにごと何事なにごとなにごとにににかかかととと聞き聞ききかかかまほしくまほしくまほしくててて、、、「「「誠まこと誠まことまことにににかくかくかくもももおぼさおぼさおぼされれればばば」」」とてとてとて、、、「「「今いま今いまいまののの間ま間ままににに君きみ君きみきみきききまさまさまさなむなむなんこひしこひしこいしとてとてとて名な名ななもももあるあるあるものものものををを我われ我われわれゆかゆかゆかむむんやややははは」」」
  15. 15ととと聞きこ聞きこきこえええたれたれたればばば、、、「「「君きみ君きみきみいまいまいまははは名な名ななののの立た立たたつつつことことことををを思おも思おもおもひひいけるけるける人ひと人ひとひとからからからかゝるかゝるかかるこゝろこゝろこころとととぞぞぞ見み見みみるるる。。。これこれこれにににさへさへさへ腹はら腹はらはらさへさへさへ立た立たたちちちぬれぬれぬれ」」」とととぞぞぞあるあるある。。。
  16. 16かくかくかくわぶるわぶるわぶる氣色けしき氣色けしきけしきををを御ご御ごご覽らん覽らんらんじじじててて、、、戲たは戲たはたわぶれぶれぶれせせせさせさせさせ給たま給たまたまふふうとととははは見み見みみれれれどどど猶なほ猶なほなお苦くる苦くるくるしうしうしゅうててて、、、「「「猶なほ猶なほなおいといといと怪あや怪あやあやしうしうしゅうこそこそこそ侍はべ侍はべはべれれれ。。。いかにいかにいかにもももありありありててて御ご御ごご覽らん覽らんらんせせせさせさせさせまほしうまほしうまほしゅうこそこそこそ」」」ととと聞きこ聞きこきこえええさせさせさせたれたれたればばば、、、
  17. 17「「「うたがはうたがはうたがわじじじ又また又またまたうらみうらみうらみじじじととと思おも思おもおもへへえどもどもども心こころ心こころこころにににこゝろこゝろこころかなはかなはかなわざりざりざりけりけりけり」」」。。。御おほん御おほんおおんかへしかへしかえし、、、「「「うらむうらむうらむらむらむらん心こころ心こころこころははは絕た絕たたゆるゆるゆるかぎりかぎりかぎりなくなくなくたのむたのむたのむ君きみ君きみきみをををぞぞぞ我われ我われわれもももうたがふうたがふうたがう」」」
  18. 18などなどなど聞きこ聞きこきこえええてててあるあるある程ほど程ほどほどににに、、、暮く暮くくれれれぬれぬれぬればばばおはしましおはしましおわしましたりたりたり。。。「「「猶なほ猶なほなお人ひと人ひとひとのののいふいふいう事こと事ことことあれあれあればばばよもよもよもとととははは思おも思おもおもひひいながらながらながら聞きこ聞きこきこえええしししににに、、、かゝるかゝるかかる事こと事ことこといはいはいわれれれじじじととと思おも思おもおもひひい給たま給たまたまははわゞゞばいざいざいざ」」」ととと聞きこ聞きこきこゆるゆるゆるににに、、、「「「いざいざいざ給たま給たまたまへへえかしかしかし」」」などなどなどののの給たま給たまたまははわせせせててて、、、明あ明ああけけけぬれぬれぬればばば出い出いいでででさせさせさせ給たま給たまたまひひいぬぬぬ。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

(宮が)いらっしゃったが、こちら(女の家)の方角が塞がっていたので、いつものようにたいそうこっそりと(女を)連れてお出かけになる。「このごろは四十五日の方違えをしていらっしゃる」というので、従兄の三位中将の家においでになる。

「いつもと違うよその家でさえあるので、見苦しいことです」と申し上げるけれど、無理にお連れになって、お車のまま人も見ない車宿りに引き入れてお入りになったので、恐ろしく思っていると、人を静めてからいらっしゃって、お車にお乗りになって、さまざまなことをおっしゃった。

事情のわからない宿直の男たちが見回りをしている。いつもの右近の尉とこの童などが近くに控えている。しみじみと物思いをなさるにつけて、(これまで女を)いいかげんに扱っていた過去までも悔やまれてお思いになるのも、ひたむきなことである。

夜が明けたので、すぐに(女を)連れていらっしゃって、「人が起きないうちに」と急いで(自邸に)お帰りになる。翌朝、「共寝した夜の寝覚めの夢に慣れて、伏見の里を今朝は(臥し見て)起きたことだ」。

お返しに、「あの夜から、わが身の上はどうなるかわからないので、思いがけない旅寝をするのです」などと申し上げる。

どうして、こんなに心をこめた、もったいないお気持ちを知らないふりをして、強情にふるまうべきでもあるまい、などと思うので、(宮邸に)参ってしまおうと決心する。(参らないほうがよいと)真剣なことだとして言う人もいるけれど、耳にも入らない。

つらい身の上なのだから前世からの宿縁に任せていようと思うにつけても、その宮仕えも、今さら本意ではない、巌の中にこそ住みたいものだ、また、つらいことがあったらどうしよう、たいそう分別のないことだと(人は)思い、言うだろう、やはりこのまま過ごそうか、

(いや、宮邸の)近くにいてこそ、親や兄弟のご様子も見聞きしよう、また、ほだし(手放せない子)のような人々の身の上も見届けようと、決心してしまったのだから(迷っても)どうにもならない。

参るまでの間だけでも、(宮に)田舎びた返事をしているとはお聞きになられまい、近くにいたらいくら何でも(わたしの心を)おわかりになるだろうと思って、(言い寄る男たちには)「色めいたことをした人々の文も(今は)ない」とだけ言わせて、まったく返事もしないでいるうちに、(宮から)お手紙がある。

見ると、「それでもと頼りにしていたのが愚かだった」などと、多くのことはおっしゃらず、「よし唯石見潟(ままよ、ただ言うまい)」とだけあるので、胸がつぶれる思いで、あきれてしまった。

とんでもない作り話がたいそう多く出てきても、それならそれで、ないことはどうしようもないなどと思って過ごしてきたが、これは真剣におっしゃっているので、(宮邸に参ろうと)決心したことをほのかに聞いた人もいるようなのに、ばかを見ることになりそうだなと思うと、悲しくてお返事に申し上げることも思いつかない。

また、どんなことをお聞きになったのだろうかと思うと恥ずかしくて、お返事も申し上げないので、(宮は)さっきのことを恥ずかしいと思っているのだろうとお思いになって、

「どうしてお返事もないのですか。やはりそうだったのかと思われる。いっそう変わってしまうお心だね。人の言うことがあったので、まさかと思いながら、(もし本当ならと)思ったらと思っただけ申し上げたのだ」とあるので、

胸が少し晴れて、(宮の)ご様子も知りたくて、どういうことかと聞きたくて、「本当にそうお思いなら」と言って、「今すぐにあなたがいらっしゃってほしい。恋しいからといって、(噂の)名も立っているのに、わたしから行けましょうか」

と申し上げると、「あなたは今は、名が立つことを気にしているのか。人のせいでこういう心になるのだと見ていますよ。これにまで腹が立ってしまった」とある。

(女が)このように困っている様子をご覧になって、(宮は)からかっていらっしゃるのだとは思うけれど、やはりつらくて、「やはりたいそう納得がまいりません。どのようにでもして(わたしの心を)お見せしたいものです」と申し上げたところ、

「疑うまい、また恨むまいと思うけれど、心が思うとおりにならないのだ」。お返しに、「恨んでいらっしゃるお心は絶えることがあっても、限りなく頼りにしているあなたをこそ、わたしも疑います」

などと申し上げているうちに、日が暮れたので(宮は)いらっしゃった。「やはり人の言うことがあるので、まさかとは思いながら申し上げたのです。このようなことを言われまいと思われるなら、さあ(邸へ)」と申し上げると、「さあいらっしゃいよ」などとおっしゃって、夜が明けたのでお帰りになった。

意訳

十月、宮は方違えで滞在中の三位中将の家に女を連れ出し、人目のない車宿りの車の中で一夜を語り明かす。宿直の男たちが見回るなか、右近の尉と童だけが控えている。宮はこれまで女を軽く扱ったことを悔やむほど、思いを深めている。翌朝の「伏見の里」の歌は、その夜のひそやかさを伝える。

女はついに宮邸に参る決心をする。だがその決心も、一筋ではない。出家して巌の中に住みたいという思い、つらいことがあったらという不安、親兄弟や子どもの身の上を見届けたいという気持ちが、次々に浮かんでは消える。結局「思い立ってしまったのだから」と覚悟を決め、言い寄る男たちとの文通を断つ。

ところがそこへ、宮から「よし唯石見潟」とだけ書いた冷たい文が届く。決心を人に漏らしたばかりの女は、笑い者になると絶望する。だが返事がないのを見た宮は、「人の噂を聞いて、もしやと思っただけだ」と打ち明ける。女の心を試したのである。

安心した女は「恋しいなら来て」と甘え、宮は「名の立つのを気にするのか」とすねてみせる。「疑うまい、恨むまいと思っても心が言うことを聞かない」という宮の歌は、噂に揺れる恋心の正直な告白である。その夜、二人はあらためて宮邸に行くことを約束する。

語釈・文法注

方たがへ
方違え。陰陽道で、行き先が凶の方角にあたるとき、前夜に別の方角の家に泊まって方角を変えること。四十五日にわたる大がかりなものもあった。
三位中將
宮の従兄にあたる三位の中将。藤原兼家の孫の藤原兼隆とする説がある。
伏見
山城国の地名。「臥し見る」を掛ける歌枕で、三位中将の家があった所とも、単に歌の言葉とも解される。
石見潟
石見国(島根県西部)の潟。「言はじ」を掛ける歌枕。「何かは言はむ(言うまい)」と言いさして、ことさら冷たく突き放した。

文法

「强ひておはしまして」
「しひて」。無理に。女の遠慮をおして連れて行く。
「その宮仕よ」から「あいなし」まで
女の心中の思い。宮仕えを望まない気持ち、出家への憧れ、不安、身内を見守りたい思いが、迷いながら続く。
「巖ほの中こそ住まゝほしけれ」
『古今和歌集』「いかならむ巌の中に住まばかは世の憂きことの聞こえこざらむ」をふまえ、世を逃れたい気持ちを言う。
「ひなびにいらへ」
底本のまま。田舎びた(無風流な)返事をすること。宮邸に参るまでは、宮に軽んじられるような対応はするまい、の意に解した。
「思はましかばとばかり聞えしぞ」
もし(噂が本当だと)思ったら、ということだけを申し上げたのだ。冷たい文は女の心を試したものだと打ち明ける。
「御覽せさせまほしうこそ」
「御覧ぜさせまほしく」。(わたしの心を)お見せしたいものだ。

和歌

ねぬる夜の寢覺の夢にならひてぞ伏見の里を今朝は起きつる

詠者
帥宮
状況
三位中将の家で車の中で語り明かした翌朝の歌。

修辞

掛詞
「伏見」に地名と「臥し見る」を掛ける。

その世より我が身の上は知られねばすゞろにあらぬ旅寢をぞする

詠者
女
状況
宮の伏見の歌への返事。

修辞

掛詞
「世」に「夜」を響かせ、あの夜から、と言う。
言葉の受け
宮の「寝る」「伏見」を受けて「旅寝」と返す。

今の間に君きまさなむこひしとて名もあるものを我ゆかむやは

詠者
女
状況
「石見潟」の文の真意を知って、安心して送った歌。

修辞

本歌
『拾遺和歌集』「恋しくは来ても見よかし」などの類型を借り、男が来るべきだと甘える。

君いまは名の立つことを思ひける人からかゝるこゝろとぞ見る

詠者
帥宮
状況
女の歌への返事。

修辞

皮肉
名の立つのを気にするのは人(ほかの男)のせいだろう、とすねてみせる。

うたがはじ又うらみじと思へども心にこゝろかなはざりけり

詠者
帥宮
状況
心の証を見せたいと言う女への返事。

修辞

反復
「心に心かなはざりけり」と「心」を重ね、思うようにならない心を言う。

うらむらむ心は絕ゆるかぎりなくたのむ君をぞ我もうたがふ

詠者
女
状況
宮の歌への返事。

修辞

言葉の受け
宮の「うたがはじ」「うらみじ」を受けて、「うらむ」「うたがふ」と返す。
逆説
限りなく頼りにしているからこそ疑う、と言う。

解説

方違えの家の車宿りで、車の中で一夜を過ごすという場面は、宮の恋がどれほど人目をはばかるものだったかをよく示している。同時に、宮が女を「いとこの家」にまで連れて行くほど、二人の関係が深まったことも表している。

女が宮邸に参ろうと決心する心中の独白は、出家願望と現実の生活、世間体と身内への思いが入りまじり、決断の重さを伝える。「ほだしのやうなる人々」は、和泉式部の娘の小式部内侍らを指すと考えられている。

「よし唯石見潟」という一句の文は、多くを語らずに相手を動揺させる、宮の巧みな、しかし意地の悪い試しである。噂が恋人どうしの信頼を揺るがし、そのたびに歌のやりとりで修復される――その繰り返しが、この日記の恋の形である。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(和泉式部日記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、445–447頁(コマ234–235)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日