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和泉式部日記 第10章

まゆみの紅葉と葛城の神

宮は女車をよそおって昼に訪れ、邸へ来るよう重ねて促す。帰りぎわ、色づいたまゆみを見て上の句を詠みかけ、女が下の句を付ける。翌日には葛城の神の故事をめぐる贈答があり、霜の朝の歌のあと、宮は紅葉狩りに誘うが物忌で行けなくなる。時雨の朝、二人は紅葉と高瀬舟の歌を交わす。

  1. 1二日ふつか二日ふつかふつかばかりばかりばかりありありありててて、、、女をんな女をんなおんなのののやうやうようにににてててやをらやをらやおらおはしましおはしましおわしましぬぬぬ。。。晝ひる晝ひるひるなどなどなどはははまだまだまだ御ご御ごご覽らん覽らんらんぜぜぜられられられねねねばばば耻はづ耻はづはずしけれしけれしけれどどど、、、さまさまさま惡あ惡ああしうしうしゅうはははひかくるひかくるひかくるべきべきべきにににもももあらあらあらずずず。。。又また又またまたののの給たま給たまたまははわするするするやうやうようもももあらあらあらずずず。。。耻は耻ははぢぢじ聞きこ聞きこきこえええさせさせさせてててやややあらあらあらむむんずるずるずるとてとてとてゐざりゐざりいざり出い出いいでででたりたりたり。。。
  2. 2日ひ日ひひごろごろごろののの覺おぼ覺おぼおぼ束つか束つかつかなさなさなさなどなどなど語かた語かたかたらはらはらわせせせ給たま給たまたまひひいててて暫しば暫しばしばしししうちうちうち臥ふ臥ふふさささせせせ給たま給たまたまひひいててて、、、「「「このこのこの聞きこ聞きこきこえええさせさせさせしししやうやうようにににはやはやはやおぼしおぼしおぼしたてたてたて。。。かゝるかゝるかかるありきありきありきののの常つね常つねつねにににうひうひしくうひうひしくういういしく覺おぼ覺おぼおぼゆるゆるゆるををを、、、さりさりさりとてとてとて參まゐ參まゐまいりりり來こ來ここぬぬぬはははいといといとおぼつかなけれおぼつかなけれおぼつかなければばば、、、はかなきはかなきはかなき世よ世よよののの中なか中なかなかににに苦くる苦くるくるしうしうしゅう」」」とととののの給たま給たまたまははわすれすれすればばば
  3. 3「「「ともかくもともかくもともかくもののの給たま給たまたまははわせせせむむんにににととと思おも思おもおもひひい給たま給たまたまふるふるうるににに、、、見み見みみてててももも歎なげ歎なげなげくくくととといふいふいう事こと事ことことにににこそこそこそ思おも思おもおもひひい給たま給たまたまへへえわづらひわづらひわずらいぬれぬれぬれ」」」ととと聞きこ聞きこきこゆれゆれゆればばば、、、「「「よしよしよし試こころ試こころこころみみみ給たま給たまたまへへえ。。。鹽しほ鹽しほしおやきやきやきにににぞぞぞあらあらあらむむん」」」とととののの給たま給たまたまひひいててて出い出いいでででさせさせさせ給たま給たまたまふふう。。。
  4. 4まへまへまえ近ちか近ちかちかきききすいがいすいがいすいがいのののもともともとにににをかしげをかしげおかしげなるなるなるのののあるあるあるががが、、、少すこ少すこすこしししもみぢもみぢもみじたるたるたるををを御ご御ごごらんらんらんじじじててて、、、かうらかうらこうらににに押お押おおしししかゝらかゝらかからせせせ給たま給たまたまひひいててて、、、「「「ことことことのののははは深ふか深ふかふかくくくなりなりなりにににけるけるけるかなかなかな」」」とととののの給たま給たまたまははわすれすれすればばば、、、
  5. 5「「「しらしらしら露つゆ露つゆつゆのののはかなくはかなくはかなくおくおくおくととと見み見みみしししほどほどほどににに」」」ととと聞きこ聞きこきこえええさするさするさするほどほどほど、、、猶なほ猶なほなおなさけなさけなさけなからなからなからずずずとととをかしうをかしうおかしゅうおぼさるおぼさるおぼさる。。。
  6. 6宮みや宮みやみやののの御おほん御おほんおおんさまさまさまなどなどなどいといといとめでたしめでたしめでたし。。。御おほん御おほんおおん直なほ直なほのう衣し衣ししにににてててえならずえならずえならずめでたきめでたきめでたき御おほん御おほんおおんぞぞぞいだしいだしいだしもももししし給たま給たまたまへへえるるる、、、いといといとあらまほしあらまほしあらまほしげげげににに見み見みみゆるゆるゆる、、、目め目めめさへさへさへあだあだしきあだあだしきあだあだしきにににやややとととまでまでまで覺おぼ覺おぼおぼゆゆゆ。。。
  7. 7又また又またまたののの日ひ日ひひ「「「きのふきのふきのうののの御み御みみ氣色けしき氣色けしきけしきのののいといといとあさましあさましあさましとととおぼいおぼいおぼいたりたりたりしししこそこそこそいといといと心こころ心こころこころ憂う憂ううきききものものものゝゝのあはれあはれあわれなりなりなりしかしかしか」」」とととののの給たま給たまたまははわせせせたれたれたればばば、、、
  8. 8「「「葛城かづらき葛城かづらきかずらきのののもももさこそさこそさこそはははおもひおもひおもいけめけめけめ久く久くく米め米めめ路ぢ路ぢじにににわたすわたすわたすはしたはしたはしたなきなきなきまでまでまで。。。わりなくわりなくわりなくこそこそこそははは思おも思おもおもひひい給たま給たまたまへへえしかしかしか」」」ととと聞きこ聞きこきこえええさせさせさせたれたれたればばば、、、立た立たたちちちかへりかへりかえり、、、
  9. 9「「「おこなひおこなひおこないのののしるししるししるしもももあらあらあらばばば葛城かづらき葛城かづらきかずらきのののはしたはしたはしたなしなしなしとてとてとてさてさてさてややや止や止ややみみみなむなむなん」」」
  10. 10などなどなどいひいひいいててて、、、ありありありしししよりよりよりははは時とき時ときとき々どき々どきどきおはしましおはしましおわしましなどなどなどすれすれすればばばこよなくこよなくこよなくつれづれつれづれつれづれももも慰なぐさ慰なぐさなぐさむむむ心ここ心ここここ地ち地ちちすすす。。。かくかくかくてててあるあるあるほどほどほどににによからよからよからぬぬぬ人ひと人ひとひと々びと々びとびとののの文ふみ文ふみふみなどなどなどおこするおこするおこする、、、又また又またまたみづからみづからみずからももも立た立たたちちちさまよふさまよふさまようにににつけつけつけてててももも、、、よしよしよしなきなきなき事こと事ことことののの出い出いいでででくるくるくるににに、、、とくとくとく參まゐ參まゐまいりりりやややしししなななましましましととと思おも思おもおもへへえどどど、、、猶なほ猶なほなおつゝましくつゝましくつつましくてててすがすがしうすがすがしうすがすがしゅうももも思おも思おもおもひひいたゞたゞただずずず。。。
  11. 11霜しも霜しもしものののいといといと白しろ白しろしろきききつとめてつとめてつとめて、、、「「「我わ我わわがががうへうへうえははは千ち千ちち鳥どり鳥どりどりもももつけつけつけじじじおほおほおおとりとりとりのののはねはねはねにににももも霜しも霜しもしもはははさささやややははは置お置おおきききけるけるける」」」ととと聞きこ聞きこきこえええさせさせさせたれたれたればばば、、、
  12. 12「「「月つき月つきつきももも見み見みみでででねねねにににきききととといひいひいいししし人ひと人ひとひとのののうへうへうえにににおきおきおきしもしもしもせせせじじじををを大おほ大おほおおとりとりとりのののごとごとごと」」」とととののの給たま給たまたまははわせせせてててやがてやがてやがて暮くれ暮くれくれにににおはしましおはしましおわしましたりたりたり。。。
  13. 13「「「このこのこの頃ごろ頃ごろごろののの山やま山やまやまののの紅もみ紅もみもみ葉ぢ葉ぢじいかにいかにいかにをかしからをかしからおかしからむむん。。。いざいざいざさせさせさせ給たま給たまたまへへえ。。。見み見みみむむむ」」」とととののの給たま給たまたまははわすれすれすればばば、、、「「「いといといとよくよくよく侍はべ侍はべはべるるるなりなりなり」」」ととと聞きこ聞きこきこえええててて、、、そのそのその日ひ日ひひににになりなりなりててて、、、「「「今日けふ今日けふきょうははは物もの物ものもの忌いみ忌いみいみにににとぢとぢとじ籠こ籠ここめめめられられられてててあれあれあればばばなむなむなんいといといと口くち口くちくち惜を惜をおしうしうしゅう。。。これこれこれすぐしすぐしすぐしてててはははかならずかならずかならず」」」とととののの給たま給たまたまははわせせせたるたるたるににに、、、
  14. 14其そ其そそののの夜よ夜よよしぐれしぐれしぐれ常つね常つねつねよりよりよりももも木き木きき々ぎ々ぎぎののの木こ木ここののの葉は葉はは殘のこ殘のこのこりりりありありありげげげもももなくなくなく聞きこ聞きこきこゆるゆるゆるににに目め目めめをををさましさましさましててて「「「風かぜ風かぜかぜののの前まへ前まへまえなるなるなる」」」とととひとりひとりひとりごちごちごちててて皆みな皆みなみな散ち散ちちりりりぬぬぬらむらむらんかしかしかし、、、昨日きのふ昨日きのふきのう見み見みみでででととと口くち口くちくちをしうをしうおしゅう思おも思おもおもひひい明あか明あかあかしししたるたるたるつとめてつとめてつとめて、、、かれかれかれよりよりより、、、
  15. 15「「「神かみ神かみかみ無な無なな月づき月づきづき世よ世よよにににふりふりふりにににたるたるたるしぐれしぐれしぐれとととややや今日けふ今日けふきょうのののながめながめながめをををあかあかあかずずず見み見みみるるるらむらむらんさてさてさてははは口くち口くちくち惜を惜をおしうしうしゅうこそこそこそ」」」とととののの給たま給たまたまははわせせせたれたれたればばば、、、
  16. 16「「「時雨しぐれ時雨しぐれしぐれかもかもかも何なに何なになににににぬれぬれぬれたるたるたるたもとたもとたもとぞぞぞとととさだめさだめさだめかねかねかねてててぞぞぞわれわれわれもももながむるながむるながむる」」」とてとてとて「「「まことまことまことややや、、、もみぢもみぢもみじ葉ば葉ばばはははよはよはよわのののしぐれしぐれしぐれにににあらあらあらじじじかしかしかし昨日きのふ昨日きのふきのう山やま山やまやま邊べ邊べべををを見み見みみたらたらたらましかましかましかばばば」」」
  17. 17とととありありありけるけるけるををを御ご御ごご覽らん覽らんらんじじじててて、、、「「「そよそよそよやややそよそよそよなどなどなどててて山やま山やまやま邊べ邊べべををを見み見みみざりざりざりけむけむけん今け今けけ朝さ朝ささはははくゆれくゆれくゆれどどど何なに何なになにのののかひかひかいなしなしなし」」」とてとてとてはしはしはしににに、、、「「「あらあらあらじじじとととははは思おも思おもおもふふうものものものからからからもみぢもみぢもみじ葉ば葉ばばののの散ち散ちちりりりややや殘のこ殘のこのこれれれるるるいざいざいざたづねたづねたずね見み見みみむむむ」」」とととののの給たま給たまたまははわせせせたれたれたればばば、、、
  18. 18「「「うつろはうつろはうつろわぬぬぬときはときはときわののの山やま山やまやまももも紅もみ紅もみもみ葉ぢ葉ぢじせせせばばばいざいざいざかしかしかし行ゆ行ゆゆきききてててのどのどのどのどのどのどととと見み見みみむむむ。。。をこをこおこならならならむむん方かた方かたかたにににぞぞぞ侍はべ侍はべはべらららむむん」」」とてとてとて、、、
  19. 19一ひと一ひとひと日ひ日ひひおはしおはしおわしたりたりたりしししににに、、、障さは障さはさわるるる事こと事ことことありありありててて聞きこ聞きこきこえええさせさせさせぬぬぬぞぞぞととと申まう申まうもうしししゝゝしををを思おぼ思おぼおぼししし出い出いいでででゝゝて、、、「「「高たか高たかたか瀨せ瀨せせ舟ぶね舟ぶねぶねはやはやはや漕こ漕ここぎぎぎ出い出いいでででよよよさはるさはるさわることことことさしさしさしかへりかへりかえりにににししし蘆あし蘆あしあし間ま間ままわけわけわけたりたりたり」」」
  20. 20ととと聞きこ聞きこきこえええさせさせさせたるたるたるをををおぼしおぼしおぼし忘わす忘わすわすれれれたるたるたるにににややや、、、「「「山やま山やまやま邊べ邊べべにににははは車くるま車くるまくるまににに乘の乘ののりりりててて行ゆ行ゆゆくくくべきべきべきをををたかせたかせたかせののの舟ふね舟ふねふねはははいかゞいかゞいかがよるよるよるべきべきべき」」」とととあれあれあればばば、、、
  21. 21「「「紅もみ紅もみもみ葉ぢ葉ぢじばばばののの見み見みみにににくるくるくるまでまでまでももも散ち散ちちらららざらざらざらばばば高たか高たかたか瀨せ瀨せせののの舟ふね舟ふねふねのののいかゞいかゞいかがこがれこがれこがれむむん」」」とてとてとてそのそのその日ひ日ひひももも暮く暮くくれれれぬぬぬ。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

二日ほどして、(宮は)女車のようにしてそっといらっしゃった。昼などはまだお目にかかったことがないので恥ずかしいけれど、みっともなく隠れるわけにもいかない。また、(宮が)おっしゃることもない(ので黙っているわけにもいかない)。恥ずかしがってばかりいてよいものかと思って、にじり出た。

このところの無沙汰などをお話しになって、しばらく横におなりになって、「この前申し上げたように、早く決心なさい。このような忍び歩きはいつもぎこちなく思われるけれど、そうかといって参らずにいるのはたいそう気がかりなので、はかない世の中に苦しくて」とおっしゃるので、

「どうにでも、おっしゃるとおりにと思っておりますが、(お会いしても)見ても嘆くということになりはしないかと思い悩んでおります」と申し上げると、「まあ、試してごらんなさい。塩焼き衣のように(なれ親しんでゆくもの)でしょう」とおっしゃってお出になる。

前庭近くの透垣のもとに趣深いまゆみの木があって、少し紅葉しているのをご覧になって、高欄に寄りかかりなさって、「言の葉(まゆみの葉)が深く色づいたことだ(あなたとの仲も深まったものだ)」とおっしゃるので、

「白露がはかなく置くと見ているうちに(葉は色づくのですね)」と申し上げるのも、やはり情趣がないわけではないと趣深くお思いになる。

宮のお姿などがたいそうすばらしい。直衣姿で、なんとも美しい御衣を出し袿にしていらっしゃるのが、たいそう理想的に見えるので、(見とれる)目までも浮気になったのではないかと思われるほどである。

翌日、(宮から)「昨日のご様子が、(昼間に会って)たいそうあきれたことだと思っていらっしゃったのが、ひどくつらいものの、しみじみといとしかった」とおっしゃったので、

「葛城の神もそのように思ったでしょう。久米路に渡す橋のように、きまりが悪いほどに(昼の明るさの中では)。どうしようもないほど(恥ずかしく)思いました」と申し上げると、すぐに、

「行の効験があるなら、葛城の神のように、きまりが悪いといってそのままでやめてしまうものか(いや、やめはしない)」

などと言って、以前よりは時々いらっしゃったりするので、このうえなく所在なさも慰められる気持ちがする。こうしているうちに、よからぬ男たちが手紙などをよこし、また自分でも(家のあたりを)うろつくにつけても、つまらない噂が立つので、早く(宮の邸に)参ってしまおうかと思うけれど、やはり気がねで、すっきりとは決心がつかない。

霜がたいそう白い朝、「わたしのことは千鳥も告げないでしょう。(羽を重ねて寝る)おおとりの羽にさえ霜は置いたりするでしょうか(わたしはひとり寝なので、霜は置かないはず)」と申し上げると、

「月も見ないで寝たと言った人の上に、霜など置きはしないだろうに、おおとりのように」とおっしゃって、そのまま夕暮れにいらっしゃった。

「このごろの山の紅葉はどんなに美しいだろう。さあ、いらっしゃい。見に行こう」とおっしゃるので、「たいそうけっこうでございます」と申し上げて、その日になって、「今日は物忌に閉じこめられているので、たいそう残念で。これが過ぎたら必ず」とおっしゃったが、

その夜、時雨がいつもより激しく、木々の葉が残りそうもなく散る音が聞こえるので、目を覚まして「風の前なる(木の葉)」と独り言を言って、すっかり散ってしまっただろう、昨日見に行かないでと、残念に思って夜を明かした翌朝、あちら(宮)から、

「十月に、ありふれて降る時雨だと思って、今日の長雨(物思い)を飽きずに見ているのでしょうか。それにしても残念でした」とおっしゃったので、

「時雨なのでしょうか、何に濡れた袂なのかと決めかねて、わたしも物思いにふけっています」と書いて、「そういえば、紅葉は夜半の時雨に(散らずに)残ってはいないでしょう。昨日山辺を見ていたら(よかったのに)」

とあったのをご覧になって、「そうだ、そうだ。どうして山辺を見なかったのだろう。今朝は悔やむけれど何のかいもない」と言って、端に、「残ってはいまいと思いながらも、紅葉が散り残っているか、さあ訪ねて見よう」とおっしゃったので、

「色の変わらない常盤の山も紅葉するなら、さあ行ってゆっくりと見ましょう。(散った紅葉を見に行くなんて)間の抜けたことでございましょう」と言って、

先日(宮が)いらっしゃったときに、差し支えがあってお目にかかれなかったと申し上げたのを思い出して、「高瀬舟よ、早く漕ぎ出しなさい。差し障りのあったことは、棹さして帰っていった、その蘆の間を分けて(今度はお会いできます)」

と申し上げたのを、(宮は)お忘れになったのだろうか、「山辺には車に乗って行くのがふさわしいのに、高瀬の舟ではどうして寄れようか」とあるので、

「紅葉が見に来るまで散らずにいたら、高瀬の舟はどうして(漕がれるように)焦がれることがありましょう」と書いて、その日も暮れた。

意訳

宮は女車をよそおって昼に訪れ、邸に来る決心を急がせる。女は「見ても嘆く」ことになるのではと不安を口にし、宮は「塩焼き衣のように、なれ親しめばよい」と答える。帰りぎわ、色づいたまゆみを見た宮が「言の葉深く」と上の句を詠みかけると、女はすかさず「白露のはかなく置くと見しほどに」と付ける。とっさの連歌に、宮は女の機知をあらためて感じる。

昼の光の中で見る宮の姿は美しく、女は「目までも浮気になったか」と思うほどである。翌日、宮が「昨日はあきれていたようだね」と言うと、女は醜い顔を恥じて夜しか働かなかったという葛城の神の故事を引き、昼に会った恥ずかしさを伝える。宮は「やめはしない」と返す。

紅葉狩りの約束は宮の物忌で流れ、その夜の時雨で紅葉は散ってしまう。翌朝の贈答では、二人とも「昨日見ていれば」と悔やみ合う。女はさらに、以前宮を帰してしまったことを詫びる「高瀬舟」の歌を送るが、宮はそれを紅葉狩りの誘いと取り違え、「山辺には車で行くもの」と返す。行き違いすらも歌の応酬の楽しみになっている。

語釈・文法注

女車
女性が乗っているように見せかけた牛車。簾の下から女物の衣の裾を出すなどして、人目を避けた。
鹽やき衣
塩を焼く海人の衣。着古してなじむものとして、男女の仲がなれ親しむことのたとえに用いる。『古今和歌集』「須磨の海人の塩焼き衣なれゆけど」など。
まゆみ
檀(まゆみ)。秋に美しく紅葉するニシキギ科の木。弓の材料にした。
いだしうちき
出袿(いだしうちぎ)。直衣の下に着た袿(うちき)の裾を、直衣の裾から出して見せる、おしゃれな着こなし。
葛城の神
大和国の葛城山の一言主神。役行者に命じられて葛城山と吉野の金峰山の間に岩橋を架けようとしたが、醜い顔を恥じて夜しか働かなかったので、橋は完成しなかったという。

文法

「ひかくるべきにもあらず」
「ひき隠るべきにもあらず」の意。隠れているわけにもいかない。
「耻ぢ聞えさせてやあらむずる」
恥ずかしがってばかりいてよいものか。「むずる」は「むとする」の約。
「見ても歎くといふ事」
『伊勢物語』などに見える「見ても嘆く」の句をふまえ、宮邸に入っても嘆くことになりはしないかと言う。
「ことのは深くなりにけるかな」
宮が詠みかけた歌の下の句。女がこれに上の句を付けて、二人で一首にした。
「とく參りやしなまし」
「まし」はためらいの意志。早く参ってしまおうか。
「風の前なる」
「風の前なる木の葉」の意で、はかないもののたとえ。白居易らの詩句に由来する言い回し。
「さはることさしかへりにし」
「さはる(障る)」に「棹」を響かせ、差し障りのあった日に宮を帰したことを、舟が棹さして帰るさまにたとえる。

和歌

ことのは深くなりにけるかな

詠者
帥宮
状況
色づいたまゆみを見て、女に詠みかけた下の句。

修辞

掛詞
「ことのは」に「言の葉」と、まゆみの「葉」を掛ける。
連歌
下の句を先に詠み、上の句を女に付けさせる。

しら露のはかなくおくと見しほどに

詠者
女
状況
宮の下の句に付けた上の句。

修辞

連歌
宮の句と合わせて「白露のはかなくおくと見しほどにことの葉深くなりにけるかな」の一首になる。
縁語
露が置くうちに葉が色づくという、紅葉の縁でまとめる。

葛城の神もさこそはおもひけめ久米路にわたすはしたなきまで

詠者
女
状況
昼に宮と会った翌日、恥ずかしかったと伝えた歌。

修辞

掛詞
「はしたなき」に「橋」と「はしたなし(きまりが悪い)」を掛ける。
故事
葛城の一言主神が醜い顔を恥じて夜しか働かなかった話をふまえる。

おこなひのしるしもあらば葛城のはしたなしとてさてや止みなむ

詠者
帥宮
状況
女の葛城の神の歌への返事。

修辞

言葉の受け
女の「葛城」「はしたなし」を受け、役行者の行の効験に重ねて、関係をやめはしないと言う。

我がうへは千鳥もつけじおほとりのはねにも霜はさやは置きける

詠者
女
状況
霜の白い朝、宮に送った歌。

修辞

引歌
催馬楽「おほとり」の「大鳥の羽に、やれな、霜降れり、やれな、誰かさ言ふ、千鳥ぞさ言ふ」をふまえる。

月も見でねにきといひし人のうへにおきしもせじを大とりのごと

詠者
帥宮
状況
女の霜の歌への返事。

修辞

掛詞
「おきしも」に「置き霜」と「起きし(も)」を掛ける。
言葉の受け
第9章の女の歌「月はしも見ず」を受ける。

神無月世にふりにたるしぐれとや今日のながめをあかず見るらむ

詠者
帥宮
状況
紅葉狩りの約束が流れ、時雨の降った翌朝に送った歌。

修辞

掛詞
「ふり」に「(世に)古り」と「降り」、「ながめ」に「長雨」と「眺め」を掛ける。

時雨かも何にぬれたるたもとぞとさだめかねてぞわれもながむる

詠者
女
状況
宮の時雨の歌への返事。

修辞

見立て
涙に濡れた袂を、時雨に濡れたのかと言いなす。

もみぢ葉はよはのしぐれにあらじかし昨日山邊を見たらましかば

詠者
女
状況
返事に続けて書いた歌。

修辞

反実仮想
「ましかば」で、昨日見ていればよかったと悔やむ。

そよやそよなどて山邊を見ざりけむ今朝はくゆれど何のかひなし

詠者
帥宮
状況
女の紅葉の歌への返事。

修辞

同意
「そよやそよ(そうだそうだ)」と口語的に相づちを打つ。

あらじとは思ふものからもみぢ葉の散りや殘れるいざたづね見む

詠者
帥宮
状況
返事の端に書き添えた歌。

修辞

誘い
散り残った紅葉を訪ねようと、改めて女を誘う。

うつろはぬときはの山も紅葉せばいざかし行きてのどのどと見む

詠者
女
状況
宮の誘いへの返事。

修辞

反実仮想
色の変わらない常盤の山が紅葉することはないので、散った紅葉を見に行くのは無理と、やんわり断る。

高瀨舟はや漕ぎ出でよさはることさしかへりにし蘆間わけたり

詠者
女
状況
以前、差し支えがあって宮を帰したことを詫びた歌。

修辞

掛詞
「さはる」に「障る」、「さし」に「(棹)差し」を掛ける。
縁語
「高瀬舟」「漕ぐ」「棹さす」「蘆間」は舟の縁語。

山邊には車に乘りて行くべきをたかせの舟はいかゞよるべき

詠者
帥宮
状況
女の高瀬舟の歌への返事。紅葉狩りの話と取り違えている。

修辞

対比
山には車、舟では行けないと、女の比喩を文字どおりに受けて切り返す。

紅葉ばの見にくるまでも散らざらば高瀨の舟のいかゞこがれむ

詠者
女
状況
宮の歌への返事。

修辞

掛詞
「くるま」に「来る(まで)」と「車」、「こがれ」に「漕がれ」と「焦がれ」を掛ける。

解説

まゆみの紅葉を見て、宮が下の句を詠みかけ、女が上の句を付ける場面は、短連歌の早い例として知られる。とっさに上の句を付けられるのは歌に練達した人だけで、宮は女の才にあらためて心を動かされる。

昼に会うことの恥じらいは、平安時代の恋が夜を中心にしていたことの裏返しである。女が葛城の神を引き合いに出したのは、明るい中で顔を見られる恥ずかしさを、醜さを恥じて夜しか働かなかった神にたとえた機知である。

紅葉狩りの約束、時雨、散った紅葉を惜しむ歌、取り違えられた高瀬舟の歌と、十月の贈答は秋の終わりの景物を次々に取り込んで続く。宮と女の歌の応酬が、季節の移ろいそのものを描いている。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(和泉式部日記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、442–445頁(コマ233–234)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日