和泉式部日記 第9章
霜の朝と童
月の明るい夜が明け、霜の白い朝、宮が文を出そうとするより先に女から「手枕の袖」に霜が置いたという歌が届く。先を越されて悔しがる宮は、遅れて来た童を叱り、二人は童を種に戯れの歌を交わす。数日後の明け方、宮から「山の端に澄める月」の歌が届き、宮は女を近くに置きたい思いを強める。
- 1そのそのその夜夜よののの月月つきもももいみじういみじういみじゅう明明あこううう澄澄すみみみててて見見みゆるゆるゆるををを、、、こゝこゝここよりよりよりもももかしこかしこかしこにににてててもももながめながめながめあかしあかしあかしててて、、、またまたまたつとめてつとめてつとめて御御おおん文文ふみ賜賜たまははわせせせむむんとてとてとて「「「例例れいののの童童わらわ參參まいりりりたりたりたりややや」」」ととと問問とはははせせせ給給たまふふうほどほどほどににに、、、女女おんなももも霜霜しものののいといといと白白しろきききににに驚驚おどろかかかされされされてててにににややや、、、
- 2「「「手手た枕枕まくらのののそでそでそでにににももも霜霜しもはははおきおきおきけるけるけるををを今今け朝朝さうちうちうち見見みれれればばばしろたへしろたへしろたえにににしししててて」」」
- 3ととと聞聞きこえええさせさせさせたりたりたり。。。ねたうねたうねとうせんぜせんぜせんぜられられられぬるぬるぬるなどなどなどおぼしおぼしおぼしててて、、、「「「妻妻つま戀戀ごふふうとととおきおきおきあかしあかしあかしつるつるつる霜霜しもなれなれなればばば」」」とととぞぞぞうちうちうちののの給給たまははわせせせたるたるたる。。。
- 4「「「唯唯ただ今今いまぞぞぞ人人ひと參參まいりりりたれたれたればばばうたてうたてうたてあべきあべきあべきものものものかなかなかな。。。疾疾とくくくととと思思おもひひいつるつるつるににに」」」とてとてとて御御み氣色氣色けしきあしうあしうあしゅうててて賜賜たまははわせせせたれたれたればばばもてもてもていきいきいきててて、、、「「「又又またこれこれこれよりよりより聞聞きこえええさせさせさせ給給たまははわざりざりざりけるけるける時時ときよりよりよりめしめしめし侍侍はべりりりけるけるけるををを、、、今今いままでまでまで參參まいらららずずずとてとてとてさいなむさいなむさいなむなりなりなり」」」とてとてとて御御おおん文文ふみををを取取とりりり出出いでででたりたりたり。。。
- 5「「「よべよべよべののの月月つきはははいみじういみじういみじゅうあかゝりあかゝりあかかりしししものものものかなかなかな」」」とてとてとて、、、「「「寢寢ねぬるぬるぬる夜夜よののの月月つきははは見見みるるるやややととと今今け朝朝さはははしもしもしも起起おききき居居いててて待待まてててどどどとふとふとう人人ひともももなしなしなし」」」。。。
- 6げにげにげにかれかれかれよりよりよりののの給給たまははわせせせけるけるけるととと見見みゆるゆるゆるももも、、、同同おなじじじ心心こころにににをかしうをかしうおかしゅうててて、、、「「「まどろままどろままどろまででで一一ひと夜夜よながめながめながめししし月月つき見見みれれれどどどおきおきおきながらながらながらしもしもしも明明あかしかしかしがほがほがおなるなるなる」」」
- 7ととと聞聞きこえええさせさせさせててて、、、このこのこの童童わらわのののいかにいかにいかにさいなむさいなむさいなむらむらむらんとととおくれおくれおくればばば、、、をかしうをかしうおかしゅうてててはしはしはしににに、、、「「「霜霜しもののの上上うえににに朝朝あさ日日ひさすさすさすめりめりめり今今いまははははやはやはやうちうちうちとけとけとけにににけるけるけるけしきけしきけしき見見みせせせなむなむなん。。。いたういたういとうわびわびわびはべはべはべめりめりめり」」」とととありありあり。。。
- 8見見み給給たまひひいててて「「「今今け朝朝さしたりしたりしたり顏顏がおにににおぼしおぼしおぼしたりたりたりつるつるつるもももいといといとにくしにくしにくし。。。このこのこの童童わらわ殺殺ころしししてててばやばやばやとととまでまでまでなむなむなん」」」とてとてとて、、、「「「朝朝あさ日日ひさしさしさし今今いまははは消消きゆゆゆべきべきべきしもしもしもなれなれなれどどどうちうちうち解解とけけけがたきがたきがたき空空そらのののけしきけしきけしきぞぞぞ」」」
- 9とととあれあれあればばば「「「殺殺ころさささせせせ給給たまへへえるるるこそこそこそ」」」とてとてとて、、、「「「君君きみははは來來こずずずたまたまたまたまたまたま見見みゆるゆるゆるわらはわらはわらわをををばばばいけいけいけともともとも今今いまはははいはいはいわじじじととと思思おもふふうかかか」」」ととと聞聞きこえええさせさせさせ給給たまへへえれれればばば、、、うちうちうち笑笑わらははわせせせ給給たまひひいててて、、、
- 10「「「ことわりことわりことわりややや今今いまはははころさころさころさじじじこのこのこの童童わらわしのびしのびしのびのののつまつまつまのののいふいふいうことことことににによりよりより。。。まことまことまことかかか手手た枕枕まくらののの袖袖そでははは忘忘わすれれれ給給たまひひいにににけるけるける」」」とととあれあれあればばば、、、
- 11「「「人人ひと知知しれれれぬぬぬこゝろこゝろこころにににかけかけかけててて忍忍しのぶぶぶをををばばば忘忘わするるるとととやややおもふおもふおもう手手たまくらまくらまくらのののそでそでそで」」」ととと聞聞きこえええたれたれたればばば、、、
- 12「「「物物ものもももいはいはいわでででやみやみやみなななましかましかましかばばばかけかけかけてててだにだにだに思思おもひひい出出いでましましましややや手手た枕枕まくらのののそでそでそで。。。猶猶なおかくかくかくはははおぼしおぼしおぼしつつつ」」」とととぞぞぞあるあるある。。。
- 13かくかくかくててて二三日二三日ふつかみか音音おともももせせせさせさせさせ給給たまははわずずず。。。たのもしげたのもしげたのもしげにににののの給給たまははわせせせししし事事ことどもどもどもゝゝもいかにいかにいかになりなりなりぬるぬるぬるにににかかかととと思思おもひひいつゞくるつゞくるつづくるにににいいいもももねねねられられられずずず。。。目目めををを覺覺さましししててて臥臥ふしししたるたるたるににに、、、やうやうやうやうようよう明明あけけけぬぬぬらむらむらんかしかしかしととと思思おもふふうににに門門かどををを打打うちちち叩叩たたくくく。。。
- 14あなあなあなおぼえおぼえおぼえなななととと思思おもへへえどどど問問とはははすれすれすればばば、、、宮宮みやののの御御おおん文文ふみなりなりなりけりけりけり。。。思思おもひひいかけかけかけぬぬぬ程程ほどなるなるなるををを心心こころややや行行ゆきききてててととと哀哀あわれににに覺覺おぼえええててて、、、妻妻つま戶戶どををを押押おししし明明あけけけててて見見みれれればばば、、、「「「見見みるるるやややきみきみきみさささ夜夜ようちうちうちふけふけふけててて山山やまののの端端はにににくまくまくまなくなくなく澄澄すめめめるるる秋秋あきののの夜夜よののの月月つき」」」。。。
- 15かけはしかけはしかけはしうちうちうちながめながめながめられられられててて常常つねよりよりよりももも哀哀あわれにににおぼゆおぼゆおぼゆ。。。「「「門門かどをををあけあけあけねねねばばばおぼつかなうおぼつかなうおぼつかのう、、、使使つかいまちまちまちどほどほどおににに覺覺おぼゆゆゆらむらむらん」」」とてとてとて、、、「「「更更ふけけけぬぬぬらむらむらんととと思思おもふふうものものものからからから寢寢ねられられられねねねどどどなかなかなかなかなかなかなれなれなればばば月月つきはははしもしもしも見見みずずず」」」
- 16とととあるあるあるををを、、、おしおしおしたがへたがへたがえたるたるたるくちくちくちつきつきつきををを書書かくくくにににしもしもしもあらあらあらずずずかしかしかしとととおぼすおぼすおぼす。。。いかでいかでいかでかかか近近ちこうううてててかゝるかゝるかかるはかなしはかなしはかなし事事ごともももいはいはいわせせせててて聞聞きかかかむむんとととおぼしおぼしおぼしたつたつたつ。。。
現代語訳
その夜の月もたいそう明るく澄んで見えたので、こちらでもあちらでも眺めて夜を明かして、さらに翌朝、(宮が)お手紙をおやりになろうとして、「いつもの童は参っているか」とお尋ねになっているうちに、女のほうも霜がたいそう白いのに目を覚まされたのだろうか、
「手枕の袖にも霜は置いていたのですね。今朝見ると真っ白になっていて」
と申し上げた。(宮は)先を越されて悔しいなどとお思いになって、「妻を恋うて起きて夜を明かした(わたしの)霜なのだから」とお詠みかけになる。
「たった今、人(女の使い)が参ったので、具合の悪いことだな。早くと思っていたのに」と言って、ご機嫌が悪くて(文を童に)お与えになったので、(童は)持って行って、「また、こちらから申し上げなさらなかったときから呼んでいらっしゃったのに、今まで参らなかったとお叱りになるのです」と言って、お手紙を取り出した。
「昨夜の月はたいそう明るかったことだ」と言って、「共寝した夜の月は見ているかと、今朝は起きて待っていたけれど、訪れる人(便り)もない」。
なるほど、あちらから(先に)お便りしようとなさっていたのだと見えるのも、同じ心で趣深くて、「まどろみもせずに一晩じゅう眺めた月を見ていましたが、起きていながら、あなたのほうが夜を明かした顔をしていらっしゃる」
と申し上げて、この童をどんなにお叱りになるだろうと思うので、おかしくて端に、「霜の上に朝日がさしているようです。今はもう打ち解けたご様子を見せてください。(童が)ひどく困っているようです」とある。
(宮は)ご覧になって、「今朝得意顔をしていらっしゃったのもたいそう憎らしい。この童を殺してやりたいとまで思うほどで」と言って、「朝日がさして今は消えるはずの霜だけれど、打ち解けがたい空の様子だよ」
とあるので、「殺しておしまいになるなんて」と言って、「あなたは来ないで、たまたま姿を見せる童を、生かしておけとも今は言うまいとお思いなのですか」と申し上げなさったので、(宮は)お笑いになって、
「もっともだ。今は殺すまい、この童を。忍んで通う妻の言うことに従って。それはそうと、手枕の袖はお忘れになったのですか」とあるので、
「人知れず心にかけて慕っているのを、忘れたとお思いですか、手枕の袖を」と申し上げると、
「(わたしが)何も言わずに終わっていたら、少しでも思い出したでしょうか、手枕の袖を。やはりそうはお思いでしたか」とある。
こうして二、三日お便りもくださらない。頼もしげにおっしゃったことの数々もどうなってしまったのかと思い続けると、眠ることもできない。目を覚まして横になっていると、しだいに夜も明けただろうと思うころ、門を叩く。
まあ、思いもかけないと思うけれど、尋ねさせると、宮のお手紙であった。思いがけない時刻なのを、(わたしの)心が通じたのかとしみじみと思われて、妻戸を押し開けて見ると、「見ていますか、あなた。夜が更けて、山の端に曇りなく澄んでいる秋の夜の月を」。
(女は)つい眺めずにはいられなくて、いつもよりしみじみと思われる。(宮は)「門を開けないので気がかりで、使いも待ち遠しく思っているだろう」と言って、(女の返事を見ると)「(夜が)更けたことだろうと思いながら眠れないけれど、(見ればかえってつらいので)なまじっか月は見ません」
とあるのを、(宮は)ふつうの歌の詠みぶりとは違って、ありきたりではないとお思いになる。なんとかして近くにいて、このようなちょっとした歌も言わせて聞きたいものだと決心なさる。
意訳
同じ月を眺めて夜を明かした翌朝、宮が文を出そうとしたところへ、女の「手枕の袖にも霜が置いた」という歌が先に届く。悔しがる宮は「妻を恋うて起き明かした霜」と付けるように詠み、使いの童が遅いと機嫌を損ねる。
女は叱られる童を気の毒がって、「朝日がさしたのだから打ち解けて」ととりなす。宮は「この童を殺してやりたい」と、第3章の鶏のような大げさな言い方で戯れ、女は「来ないあなたの代わりに来る童まで殺すのですか」と切り返す。宮は笑って許し、「しのびのつま(忍び妻)」と女を呼ぶ。恋人どうしの軽やかなやりとりが、童をはさんで続く。
「手枕の袖」の言葉は、ここでも二人を結ぶ合言葉として交わされる。
数日後の明け方、思いがけず宮の文が届く。「山の端に澄む月を見ていますか」という問いに、女は「見ればかえってつらいので見ない」と答える。期待どおりの返事をしない女の詠みぶりに、宮は感心し、いつも近くに置いて歌を聞きたいと、女を邸に迎える決心を固める。
語釈・文法注
文法
- 「ねたうせんぜられぬる」
- 「先ぜられぬる」。先を越されてしまった。
- 「妻戀ふとおきあかしつる霜なれば」
- 宮が女の歌に付けて詠んだ上の句だけの歌。下の句は言わずにおき、女の歌と合わせて一首になるようにした。
- 「又これより聞えさせ給はざりける時よりめし侍りけるを」
- 童の言葉。こちら(女)からお手紙を差し上げる前から(宮は)お呼びだったのに。
- 「おきながらしも明かしがほなる」
- 起きていたのはわたしなのに、あなたのほうが夜を明かした顔をしている、とからかう。
- 「聞えさせ給へれば」
- 底本のまま。女の言葉に「給ふ」が付くのは異例で、地の文の書き手が混乱したものか。
- 「かけはしうちながめられて」
- 底本のまま。意味のとりにくい箇所で、通行本文とは異なる。月をつい眺めてしまう意に解した。
- 「おしたがへたるくちつき」
- ふつうとは違う詠みぶり。月を見るかと問われて「見ない」と答えた女の歌の意外さを言う。
和歌
手枕のそでにも霜はおきけるを今朝うち見ればしろたへにして
- 詠者
- 女
- 状況
- 月を眺めて明かした翌朝、宮より先に送った歌。
修辞
- 言葉の受け
- 「手枕の袖」をくり返す。
- 枕詞
- 「しろたへ」は白い布。霜の白さを言う。
妻戀ふとおきあかしつる霜なれば
- 詠者
- 帥宮
- 状況
- 女の歌に付けた上の句。
修辞
- 掛詞
- 「おき」に霜が「置き」と人が「起き」を掛ける。
寢ぬる夜の月は見るやと今朝はしも起き居て待てどとふ人もなし
- 詠者
- 帥宮
- 状況
- 童に持たせた、先に用意していた歌。
修辞
- 掛詞
- 「しも」に強意の「しも」と「霜」を響かせる。
まどろまで一夜ながめし月見れどおきながらしも明かしがほなる
- 詠者
- 女
- 状況
- 宮の歌への返事。
修辞
- 掛詞
- 「おき」「しも」に霜の縁を重ねる。
霜の上に朝日さすめり今ははやうちとけにけるけしき見せなむ
- 詠者
- 女
- 状況
- 叱られる童をかばって書き添えた歌。
修辞
- 見立て
- 宮の機嫌を霜に、とりなしを朝日に見立てる。
- 掛詞
- 「うちとけ」に霜が「解け」と心が「打ち解け」を掛ける。
朝日さし今は消ゆべきしもなれどうち解けがたき空のけしきぞ
- 詠者
- 帥宮
- 状況
- 女のとりなしの歌への返事。
修辞
- 言葉の受け
- 女の「霜」「朝日」「うちとけ」をそのまま受ける。
君は來ずたまたま見ゆるわらはをばいけとも今はいはじと思ふか
- 詠者
- 女
- 状況
- 童を殺したいと言う宮への返事。
修辞
- 掛詞
- 「いけ」に「行け」と「生け(生かす)」を掛ける。
ことわりや今はころさじこの童しのびのつまのいふことにより
- 詠者
- 帥宮
- 状況
- 女の歌に笑って答えた歌。
修辞
- 呼びかけ
- 女を「しのびのつま(忍び妻)」と呼ぶ。
人知れぬこゝろにかけて忍ぶをば忘るとやおもふ手まくらのそで
- 詠者
- 女
- 状況
- 手枕の袖を忘れたのかと問う宮への返事。
修辞
- 掛詞
- 「かけ」に心に「掛け」と袖を「掛け」を響かせる。
物もいはでやみなましかばかけてだに思ひ出ましや手枕のそで
- 詠者
- 帥宮
- 状況
- 女の歌への返事。
修辞
- 反実仮想
- 「ましかば…まし」で、言わなかったら思い出さなかっただろうと言う。
見るやきみさ夜うちふけて山の端にくまなく澄める秋の夜の月
- 詠者
- 帥宮
- 状況
- 数日の途絶えのあと、明け方に届けた歌。
修辞
- 呼びかけ
- 初句「見るやきみ」で直接呼びかける。
更けぬらむと思ふものから寢られねどなかなかなれば月はしも見ず
- 詠者
- 女
- 状況
- 宮の月の歌への返事。
修辞
- 逆説
- 月を見るかと問われて、かえってつらいので見ないと答える。
解説
霜の朝の贈答は、宮と女が同じ月を見て同じ時刻に文を書こうとしていたという一致から始まる。先を越された宮が童に八つ当たりし、女がとりなすという場面は、恋人どうしの戯れとして明るく描かれ、日記の中でもほほえましい一節である。
宮が女を「しのびのつま」と呼ぶのは、二人の関係が忍んで通う妻にまで深まったことを示す。
月を見るかと問われて「見ない」と答える女の歌に、宮は「おしたがへたるくちつき(常とは違う詠みぶり)」を感じる。期待を裏切りながら心をつかむ和泉式部の歌の妙が、宮をさらに惹きつけてゆく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(和泉式部日記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、440–442頁(コマ232–233)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日