和泉式部日記 第8章
宮の誘い
手枕の夜から、宮はたびたび訪れて女の暮らしぶりを知り、頼る人もなく心細げな様子に心を痛める。宮は「わたしの邸に来ないか」と誘い、女は世間の噂や北の方のことを思って迷うが、このまま濡れ衣を着せられて過ごすよりはと心を動かす。宮が明け方に帰ると、「露むすぶ道」の歌が届く。
- 1それそれそれよりよりより後後のち心心こころ苦苦ぐるしうしうしゅうおぼさおぼさおぼされれれてててしばしばしばしばしばしばおはしましおはしましおわしましててて有有あり樣樣さまなどなどなど御御ご覽覽らんじじじもてもてもていくいくいくににに、、、世世よににに馴馴なれれれたるたるたる人人ひとにににもももあらあらあらずずず。。。唯唯ただいといといと物物ものはかなはかなはかなげげげににに見見みゆるゆるゆるもももいといといと心心こころ苦苦ぐるしうしうしゅうおぼさおぼさおぼされれれてててあはれあはれあわれににに語語かたらはらはらわせせせ給給たまふふうににに、、、
- 2いといといとかくかくかくつれづれつれづれつれづれににに詠詠ながめめめさせさせさせ給給たまふふうらむらむらんををを思思おもひひい怠怠おこたるるる事事ことなけれなけれなけれどどど、、、「「「唯唯ただおはせおはせおわせかしかしかし。。。世世よののの中中なかののの人人ひともももいといといとびなげびなげびなげにににいふいふいうなりなりなり。。。時時とき々々どき參參まいりりりくれくれくればばばにににややや、、、見見みぬるぬるぬる事事こともももなけれなけれなけれどどど、、、それそれそれももも人人ひとのののいといといと聞聞ききききにくゝにくゝにくくいふいふいうににに、、、
- 3又又またたびたびたびたびたびたびかへるかへるかえるほどほどほどののの心心ここ地地ちのののわりなかりわりなかりわりなかりしししももも、、、ひとげなうひとげなうひとげのうおぼえおぼえおぼえなどなどなどせせせしかしかしかばばば、、、いかにいかにいかにせせせましましましなどなどなど思思おもひひいなるなるなる折折おり々々おりもももあれあれあれどどど、、、ふるめかしきふるめかしきふるめかしき心心こころなれなれなればばばにににややや、、、聞聞きこえええたらたらたらむむん事事ことのののいといといと哀哀あわれにににおぼえおぼえおぼえてててなむなむなん。。。
- 4さりさりさりとてとてとてかくかくかくのみのみのみえええ參參まいりりりくくくまじきまじきまじきををを、、、誠誠まことににに聞聞きくくく事事ことありありありててて制制せいするするする事事ことなどなどなどあらあらあらばばば空空そらゆくゆくゆく月月つきにににもももあらあらあらむむん。。。もしもしもしののの給給たまふふうやうやうようなるなるなるつれづれつれづれつれづれならならならばばば彼所彼所かしこにににもももおはしおはしおわしなむなむなんややや。。。人人ひとはははあれあれあれどどどびなかるびなかるびなかるべきべきべきにににもももあらあらあらずずず。。。
- 5もとよりもとよりもとよりかゝるかゝるかかるすぢすぢすじにににつきつきつきたよりたよりたよりなきなきなき身身みなれなれなればばばにににややや。。。人人ひとげげげなきなきなき所所ところににについついつい居居いなどなどなどもももせせせずずず、、、おこなひおこなひおこないなどなどなどするするする事事ことだにだにだに唯唯ただひとりひとりひとりあれあれあればばば、、、同同おなじじじ心心こころににに物物もの語語がたりなどなどなどももも聞聞きこえええてててあらあらあらばばば慰慰なぐさむむむ事事こともももやややあるあるあるととと思思おもふふうなりなりなり」」」とととののの給給たまひひい思思おもふふうにににももも、、、
- 6げにげにげに今今いま更更さらにににさやうさやうさようにににびなきびなきびなき有有あり樣樣さまはははいかゞいかゞいかがはははせせせむむんととと思思おもひひいててて、、、一一いちののの宮宮みやののの事事ことももも聞聞きこえええきかきかきかででであるあるあるををを、、、さりさりさりとてとてとて山山やまのののあなたあなたあなたにににしるべしるべしるべするするする人人ひともももなきなきなき程程ほどににに、、、かくかくかくてててすぐすすぐすすぐすははは明明あけけけぬぬぬよよよののの心心ここちちちのみのみのみすれすれすればばば、、、
- 7はかなきはかなきはかなきたはぶれたはぶれたわぶれごとごとごともももいふいふいう人人ひとあまたあまたあまたありありありしかしかしかばばば怪怪あやしきしきしきさまさまさまにににのみのみのみぞぞぞいふいふいうべかべかべかめるめるめる、、、さりさりさりとてとてとてことことことざまざまざまのののたのもしきたのもしきたのもしき方方かたもももなしなしなし、、、何何なにかかかはははさてさてさてももも試試こころみみみむむん、、、
- 8よしよしよし北北きたののの方方かたはははおはすれおはすれおわすれどどど唯唯ただことことこと御御おおん方方かたにににててて御御お乳乳め母母のとこそこそこそははは萬萬よろずののの事事ことをををすすすなれなれなれ、、、又又またににに色色いろめかめかめかばばばこそこそこそあらあらあらめめめ、、、さるさるさるべきべきべきかくれかくれかくれなどなどなどにににあらあらあらむむんにににははは、、、なでふなでふなじょう事事ことかかかはははあらあらあらむむんなどなどなど思思おもひひいててて、、、このこのこのぬれぬれぬれぎぬぎぬぎぬはははさりさりさりともともとも着着きやみやみやみなむなむなんをををととと思思おもひひいててて、、、
- 9「「「何事何事なにごとももも唯唯ただわれわれわれよりよりより外外ほかのののとととのみのみのみぞぞぞ思思おもひひい給給たまへへえつゝつゝつつ、、、過過すぐしぐしぐし侍侍はべるるる程程ほどのののまぎらはしまぎらはしまぎらわしにににははは、、、かやうかやうかようなるなるなる折折おりたまさかたまさかたまさかにににももも待待まちちちつけつけつけ聞聞きこえええさするさするさするよりよりより外外ほかののの事事こともももなけれなけれなければばば、、、唯唯ただいかにいかにいかにももも侍侍はべれれれ、、、ののの給給たまははわせせせむむんまゝまゝままにににととと思思おもひひい給給たまへへえれれればばば、、、
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- 13「「「露露つゆむすぶむすぶむすぶ道道みちのののまにまにまにまにまにまにあさぼらけあさぼらけあさぼらけ濡濡ぬれれれてててぞぞぞきききつるつるつる手手たまくらまくらまくらののの袖袖そで」」」。。。
- 14このこのこの袖袖そでののの事事ことをををはかなきはかなきはかなき事事ことなれなれなれどどど、、、思思おぼししし忘忘わすれれれでででののの給給たまははわせせせたるたるたるをかしうをかしうおかしゅうおぼゆおぼゆおぼゆ。。。
- 15「「「道道みち芝芝しばのののつゆつゆつゆとととおきおきおきぬるぬるぬる人人ひとよりよりよりももも我我わががが手手たまくらまくらまくらのののそでそでそではははかわかかわかかわかずずず」」」。。。
現代語訳
それから後は、(宮は女を)気の毒にお思いになって、たびたびいらっしゃって暮らしぶりなどを見ていかれると、世間ずれした人でもない。ただたいそう頼りなげに見えるのも、たいそう気の毒にお思いになって、しみじみとお話しになるには、
「ほんとうにこうして所在なく物思いにふけっていらっしゃるだろうことを、思わないことはないけれど、ただ(わたしの邸へ)いらっしゃい。世間の人もたいそう不都合なように噂しているそうだ。時々参って来るからだろうか、(ほかの男と)出会うこともないけれど、それも人がひどく聞き苦しく言うので、
また、たびたび(門の前から)帰ったときの気持ちがやりきれなかったのも、人並みに扱われないように思われなどしたので、どうしようかなどと思うようになる折々もあるけれど、古風な心だからだろうか、(あなたと)お話ししているのがたいそういとしく思われてね。
そうはいっても、こうしてばかりも参って来られないので、本当に(周囲が)聞きつけて止めることなどがあったら、空をゆく月のように(あなたから遠ざかることに)もなるだろう。もし、おっしゃるような所在なさなら、あちら(わたしの邸)にいらっしゃいませんか。(北の方などの)人はいるけれど、不都合なはずはない。
もともとこういう方面には縁のない身だからだろうか。人のいない所にちょっと座っていることもしないし、勤行などをすることさえただひとりなので、同じ心でお話などしていたら、慰められることもあるかと思うのです」とおっしゃる。(女は)思うにつけても、
なるほど、今さらそのような不都合な様子(宮仕え)はどうしたものかと思って、一の宮のことも申し上げずにいたのだが、そうかといって「山のあなた」へ導いてくれる人もいないので、こうして過ごすのは明けない夜の気持ちばかりするので、
(また)つまらない戯れ言を言ってくる人が大勢いたので、(世間は)妙なふうにばかり言うのだろう、そうかといってほかに頼りになる方もない、なに、それならいっそ試してみよう、
まあ、北の方はいらっしゃるけれど、ただ別の御方としてお暮らしで、乳母こそが万事を取りしきっているそうだ、また(わたしが)表立って懸想めいたふるまいをするならともかく、しかるべき物陰などにいるのなら、何の差し障りがあろうかなどと思って、この濡れ衣(噂)も(宮邸にいれば)それでも着なくなる(晴れる)だろうと思って、
「何事もただ、わたしより(つらい身の上の人は)ほかにいないとばかり思いながら過ごしております慰めには、このような折にたまにお待ち申し上げるほかのこともございませんので、ただどのようにでも、おっしゃるとおりにと思っておりますが、
(このままでも)よそながら見苦しい者と(人は)申し上げているでしょう。まして(宮邸に参って噂が)本当だと見られましたら、きまりの悪いことでございましょう」と申し上げるけれど、
「それは、わたしのほうこそどうとも言われるでしょう。(あなたを)見苦しいなどと誰が見ようか。たいそうよく隠れた所を作って、それから(迎えに来ると)申しましょう」などと頼もしげにおっしゃって、夜深いうちにお帰りになった。
格子も上げたままにしてある。いつもならただひとり寝でどうしたものか、それにしても人に笑われるようなことになりはしまいかと、さまざまに思い乱れて横になっていると、お手紙がある、
「露の置く道を行くにつれて、夜明けに濡れて帰ってきたのです、わたしの手枕の袖は」。
この袖のことは、つまらないことだけれど、お忘れにならずにおっしゃったのを趣深く思う。
「道芝の露のように起きて帰っていった人よりも、わたしの手枕の袖は乾きません(涙で濡れて)」。
意訳
通ううちに、宮は女が噂のような浮ついた女ではなく、むしろ頼りなげな人だと知る。宮の長い言葉には、周囲の非難、門前で帰されたときの屈辱、それでも女と語り合うことの慰めが率直に語られる。そして「わたしの邸に来ないか」と切り出す。孤独なのは女だけではなく、勤行さえひとりでする宮もまた、心を分かち合う相手を求めていた。
女は迷う。今さら宮仕えのような身の振り方は世間体が悪い。だが出家して「山のあなた」へ導いてくれる人もいない。このままでは夜明けの来ない夜のようで、言い寄る男たちのせいで噂ばかり立つ。北の方は別に暮らし、邸のことは乳母が取りしきっているというし、物陰に控えているぶんには差し障りもあるまい。宮邸に入れば、かえってこの濡れ衣も晴れるだろう――女の心中の長い独白が、迷いから決断へと少しずつ傾いてゆく過程を描く。
女は「お言葉どおりに」と答えつつ、本当に噂どおりと見られるのはきまりが悪いと言う。宮は「隠れた所を用意する」と約束して帰る。翌朝届いた「露むすぶ道」の歌は、手枕の袖の約束を忘れていないしるしである。女は「わたしの袖のほうが乾かない」と返し、恋が一歩進んだことを示す。
語釈・文法注
- けさう
- 懸想(けそう)。恋い慕うこと。女が宮邸で、人目につくように恋人らしくふるまうなら問題だが、という意。
文法
- 「唯おはせかし」
- 「おはす」は「来」の尊敬語。ただ、いらっしゃいよ。宮が自邸へ来るよう誘う言葉。
- 「空ゆく月にもあらむ」
- 空を遠く過ぎてゆく月のように、あなたから離れてしまうこともあるだろう。第4章の女の歌「宿過ぎて空ゆく月」を受ける。
- 「一の宮の事も聞えきかであるを」
- 底本のまま。解釈の定まらない箇所で、通行本文とも異なる。宮仕えのことを誰にも相談しないでいた意に解しておく。
- 「山のあなたにしるべする人」
- 「み吉野の山のあなたに宿もがな世の憂き時の隠れ家にせむ」(『古今和歌集』)をふまえ、世を捨てて山に隠れる手引きをしてくれる人。
- 「なでふ事かはあらむ」
- 「なでふ」は「なにといふ」の約で、何の。何の差し障りがあろうか。反語。
- 「このぬれぎぬはさりとも着やみなむを」
- 底本は「着」の字形が「若」に近いが、「濡れ衣」を「着」るの意に解した。噂という濡れ衣も、宮邸に入れば着ないですむだろう。
和歌
露むすぶ道のまにまにあさぼらけ濡れてぞきつる手まくらの袖
- 詠者
- 帥宮
- 状況
- 邸に来るよう誘った夜、明け方に帰ってから送った歌。
修辞
- 言葉の受け
- 前夜の「手枕の袖」をくり返し、約束を忘れていないことを示す。
- 掛詞
- 「濡れて」に露と涙を重ねる。
道芝のつゆとおきぬる人よりも我が手まくらのそではかわかず
- 詠者
- 女
- 状況
- 宮の歌への返事。
修辞
- 掛詞
- 「おき」に露が「置き」と人が「起き」を掛ける。
- 対比
- 露に濡れて帰った宮の袖と、涙で乾かない自分の袖を比べる。
解説
宮が女を自邸に迎えようと誘うこの場面は、日記の大きな転換点である。宮の言葉は長く、周囲の非難や自分の孤独を正直に語っていて、身分の高い親王が女に心を開いたことがうかがえる。
女の心中を語る長い一文は、出家、宮仕え、世間の噂、北の方の存在を一つずつ数え上げながら、結局「試みむ」へと傾いてゆく。地の文に心中の思いがそのまま流れ込むこの書き方は、のちの『源氏物語』の心理描写にも通じる。
ここで女が「宮仕え」のように宮邸に入ることを考え始めるのは、正式な妻としてではなく、召人(めしうど)という主人の身の回りの世話をしながら寵愛を受ける女房の立場である。北の方がいる邸に入ることの危うさは、日記の最後で現実のものとなる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(和泉式部日記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、438–440頁(コマ231–232)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日