古典ライブラリー

和泉式部日記 第6章

野分と有明の月

八月末の野分の日、宮から見舞いの歌が届く。九月十日過ぎの有明のころ、宮は女の家の門を叩くが、家の者がなかなか起きず、宮は帰ってしまう。眠れずに夜明けの空を眺めていた女は、その思いを手習のように書きつけ、宮の歌への返事として送る。

  1. 1つごもりつごもりつごもりがたがたがたににに風かぜ風かぜかぜいたういたういとう吹ふ吹ふふきききててて、、、のわきのわきのわき立た立たたちちちててて雨あめ雨あめあめなどなどなど降ふ降ふふるるるににに、、、常つね常つねつねよりよりよりももも物もの物ものもの心こころ心こころこころぼそうぼそうぼそうながむるながむるながむるににに、、、例れい例れいれいののの御おほん御おほんおおん文ふみ文ふみふみありありあり。。。折をり折をりおりしりしりしりがほがほがおにににののの給たま給たまたまははわせせせたるたるたるににに、、、日ひ日ひひごろごろごろののの罪つみ罪つみつみももも許ゆる許ゆるゆるししし聞きこ聞きこきこえええつつつべしべしべし。。。
  2. 2「「「なげきなげきなげきつゝつゝつつ秋あき秋あきあきのののみみみ空そら空そらそらをををながむれながむれながむればばば雲くも雲くもくもうちうちうちさわぎさわぎさわぎ風かぜ風かぜかぜぞぞぞはげしきはげしきはげしき」」」。。。かへりかへりかえり事ごと事ごとごと、、、「「「秋あき秋あきあき風かぜ風かぜかぜはははけしきけしきけしき吹ふ吹ふふくくくだにだにだに戀こひ戀こひこいしきしきしきにににかきかきかきくもるくもるくもる日ひ日ひひはははいふいふいうかたかたかたぞぞぞなきなきなき」」」。。。
  3. 3實げ實げげにににさささぞぞぞあらあらあらむむんかしかしかしとととおぼせおぼせおぼせどどど例れい例れいれいののの程ほど程ほどほど經へ經へへぬぬぬ。。。
  4. 4九く九くく月ぐわつ月ぐわつがつ十とを十とをとおよよよ日か日かかばかりばかりばかりののの有あり有ありあり明あけ明あけあけののの月つき月つきつきににに御おほん御おほんおおん目め目めめさましさましさましててていみじくいみじくいみじく久ひさ久ひさひさしうしうしゅうもももなりなりなりにににけるけるけるかなかなかな、、、あはれあはれあわれこのこのこの月つき月つきつきははは見み見みみるるるらむらむらんかしかしかしとととおぼせおぼせおぼせばばば、、、例れい例れいれいののの童わらは童わらはわらわばかりばかりばかりををを御おほん御おほんおおん供とも供ともともにににててておはしましおはしましおわしましてててかどかどかどををを叩たた叩たたたたかかかせせせ給たま給たまたまふふうににに、、、
  5. 5目め目めめをををさましさましさましててて、、、よろづよろづよろずををを思おも思おもおもひひいつゞけつゞけつづけ臥ふ臥ふふしししたるたるたるほどほどほどなりなりなりけりけりけり。。。すべてすべてすべてこのこのこのごろごろごろははは折をり折をりおりからからからにににややや、、、物もの物ものもの心こころ心こころこころぼそうぼそうぼそう哀あは哀あはあわれれれににに常つね常つねつねよりよりよりももも覺おぼ覺おぼおぼえええてててぞぞぞながめながめながめけるけるける。。。
  6. 6怪あや怪あやあやししし、、、誰たれ誰たれたれならならならむむんととと思おも思おもおもひひいててて前まへ前まへまえなるなるなる人ひと人ひとひとををを引ひ引ひひききき起おこ起おこおこしししててて事こと事ことこと問と問ととはははせせせむむんとととすれすれすれどもどもどもとみとみとみにににももも起お起おおきききずずず。。。辛から辛からかろうじてうじてうじて驚おどろ驚おどろおどろかしかしかしててて又また又またまた人ひと人ひとひとおこせおこせおこせどもどもども起お起おおきききずずず。。。からからかろうじてうじてうじて起お起おおきききてててもももこゝかしここゝかしこここかしこものものものにににあたりあたりあたり騒さわ騒さわさわぐぐぐ程ほど程ほどほどににに叩たた叩たたたたきききやみやみやみぬぬぬ。。。
  7. 7歸かへ歸かへかえりりりぬるぬるぬるにににやややあらあらあらむむん。。。いぎたなしいぎたなしいぎたなしととと思おぼ思おぼおぼしししぬぬぬらむらむらんこそこそこそ物もの物ものもの思おも思おもおもははわぬぬぬさまさまさまなれなれなればばば、、、同おな同おなおなじじじ心こころ心こころこころにににまだまだまだ寢ね寢ねねざりざりざりけるけるける人ひと人ひとひとかなかなかな、、、誰たれ誰たれたれならならならむむんととと思おも思おもおもふふう。。。
  8. 8辛から辛からかろうじてうじてうじて出い出いいでででゝゝて人ひと人ひとひともももなかりなかりなかりけるけるけるにににそらそらそら耳みみ耳みみみみきゝきゝききおはさうじおはさうじおわそうじててて、、、夜よ夜よよののの程ほど程ほどほどだにだにだに何なに何なになにとととかかかまどはさまどはさまどわさるゝるゝるる、、、さわがしさわがしさわがしののの殿との殿とのとののののだちだちだちやややととと腹はら腹はらはら立だ立だだちちちてててまたまたまた寢ね寢ねねぬぬぬ。。。
  9. 9女をんな女をんなおんなはははやがてやがてやがて起お起おおきききててていみじういみじういみじゅうきりきりきりたるたるたる空そら空そらそらをををながめながめながめつゝつゝつつ、、、あかくあかくあかくなりなりなりぬれぬれぬればばば、、、このこのこの曉あかつき曉あかつきあかつきおきおきおきのののほどほどほどののの心こころ心こころこころににに覺おぼ覺おぼおぼゆるゆるゆる事こと事ことことどもどもどもををを、、、はかなきはかなきはかなきものものものににに書か書かかきききつくるつくるつくる程ほど程ほどほどにににぞぞぞ宮みや宮みやみやよりよりより例れい例れいれいののの御おほん御おほんおおん文ふみ文ふみふみあるあるある。。。たゞたゞただ、、、
  10. 10「「「秋あき秋あきあきののの夜よ夜よよのののありありありあけあけあけののの月つき月つきつきののの入い入いいるるるまでまでまでにににやすらひやすらひやすらいかねかねかねててて歸かへ歸かへかえりりりにににしししかなかなかな」」」。。。
  11. 11いでいでいでやややげにげにげにいかにいかにいかに口くち口くちくち惜を惜をおしきしきしきものものものにににおぼさおぼさおぼされれれつらむつらむつらむととと思おも思おもおもふふうよりよりよりももも、、、猶なほ猶なほなおをりふしをりふしおりふしすぐしすぐしすぐし給たま給たまたまははわずずずかしかしかしととと、、、誠まこと誠まことまことにににあはれあはれあわれなるなるなる空そら空そらそらののの氣色けしき氣色けしきけしきををを見み見みみ給たま給たまたまひひいけるけるけるととと思おも思おもおもふふうにににいといといとをかしうをかしうおかしゅうててて、、、このこのこの手て手ててならひならひならいのののやうやうようににに書か書かかきききたるたるたるものものものをををぞぞぞ御おほん御おほんおおん返かへ返かへかえしししのののやうやうようににに引ひ引ひひききき結むす結むすむすびびびててて奉たてまつ奉たてまつたてまつるるる。。。
  12. 12風かぜ風かぜかぜののの音おと音おとおと木こ木ここののの葉は葉ははののの殘のこ殘のこのこりりりあるあるあるまじげまじげまじげににに吹ふ吹ふふきききみだるみだるみだる、、、常つね常つねつねよりよりよりももも物もの物ものものあはれあはれあわれににに覺おぼ覺おぼおぼゆるゆるゆる。。。ことごとしうことごとしうことごとしゅうかきかきかき曇くも曇くもくもるるるものものものからからから唯ただ唯ただただけしきけしきけしきばかりばかりばかり雨あめ雨あめあめうちうちうち降ふ降ふふるるるはははせむせむせむかたかたかたなくなくなく哀あはれ哀あはれあわれににに覺おぼ覺おぼおぼえええててて、、、
  13. 13「「「秋あき秋あきあきのののうちうちうちににに朽く朽くくちちちはてはてはてぬぬぬべしべしべしことわりことわりことわりののの時雨しぐれ時雨しぐれしぐれにににたれたれたれかかか袖そで袖そでそでをををからからからましましまし」」」
  14. 14ととと歎なげ歎なげなげかしうかしうかしゅう思おも思おもおもへへえどどど知し知ししるるる人ひと人ひとひともももなしなしなし。。。草くさ草くさくさ木き木ききののの色いろ色いろいろさへさへさへ見み見みみしししまゝまゝままにににもももあらあらあらずずずなりなりなりもてもてもて行ゆ行ゆゆくくく。。。しぐれしぐれしぐれむむん程ほど程ほどほどののの久ひさ久ひさひさしさしさしさもももまだきまだきまだきににに覺おぼ覺おぼおぼゆるゆるゆるににに、、、風かぜ風かぜかぜににに心こころ心こころこころ苦ぐる苦ぐるぐるしげしげしげにににうちうちうち靡なび靡なびなびきききたるたるたるにににははは、、、唯ただ唯ただただ今いま今いまいまももも消き消ききえええぬぬぬべきべきべき露つゆ露つゆつゆののの我わ我わわががが身み身みみぞぞぞあやしうあやしうあやしゅう草くさ草くさくさ葉ば葉ばばにににつけつけつけててて悲かな悲かなかなしきしきしきまゝまゝままににに、、、
  15. 15奧おく奧おくおくにににももも入い入いいらららででで頓やが頓やがやがててて端はし端はしはしににに臥ふ臥ふふしししたれたれたればばば、、、つゆつゆつゆ年とし年としとしふふふべくべくべくもももあらあらあらずずず。。。人ひと人ひとひとののの皆みな皆みなみなうちうちうちとけとけとけててて寢ね寢ねねたるたるたるにににそのそのその事こと事ことことととと思おも思おもおもひひいわくわくわくべくべくべくもももあらあらあらねねねばばば、、、つくづくつくづくつくづくととと目め目めめをををのみのみのみ覺さま覺さまさましししててて何なに何なになに心ごころ心ごころごころなうなうのううらめしううらめしううらめしゅうのみのみのみ思おも思おもおもひひい臥ふ臥ふふしししたるたるたる程ほど程ほどほどににに、、、
  16. 16雁かり雁かりかりのののはつかはつかはつかにににうちうちうち鳴な鳴ななきききたるたるたる、、、人ひと人ひとひとはははかうかうこうしもしもしも思おも思おもおもははわずずずやややあらあらあらむむん、、、いみじういみじういみじゅう堪た堪たたへへえがたきがたきがたき心ここ心ここここちちちしししててて、、、「「「まどろままどろままどろまででであはれあはれあわれいくいくいく夜よ夜よよににになりなりなりぬぬぬらむらむらん唯ただ唯ただただかりかりかりがねがねがねををを聞き聞ききくくくわざわざわざにににしししててて。。。かくかくかくてててのみのみのみあかさあかさあかさむむんよりよりよりははは」」」とてとてとて
  17. 17つまどつまどつまど押お押おおししし明あ明ああけけけたれたれたればばば、、、おほおほおおぞらぞらぞらににに西にし西にしにしにににかたぶきかたぶきかたぶきたるたるたる月つき月つきつきのののかげかげかげ遠とほ遠とほとおくくくすみすみすみわたりわたりわたりててて見み見みみゆるゆるゆるにににきりきりきりわたりわたりわたりたるたるたる空そら空そらそらののの氣色けしき氣色けしきけしき、、、鐘かね鐘かねかねのののおとおとおと、、、とりとりとりののの聲こゑ聲こゑこえひとつひとつひとつににに響ひび響ひびひびきききあひあひあいててて、、、更さら更さらさらににに過す過すすぎぎぎにににししし方かた方かたかたいまいまいま行ゆ行ゆゆくくく末すゑ末すゑすえのののことことこともももかゝるかゝるかかる折をり折をりおりはははあらあらあらじじじととと、、、袖そで袖そでそでののの色いろ色いろいろさへさへさへあはれあはれあわれにににめづらかめづらかめずらかなりなりなり。。。
  18. 18「「「我われ我われわれならならならぬぬぬ人ひと人ひとひともももさささぞぞぞ見み見みみむむむ長なが長ながなが月つき月つきつきののの有あり有ありあり明あけ明あけあけののの月つき月つきつきにににしかしかしかじじじあはれあはれあわれははは」」」。。。
  19. 19唯ただ唯ただただ今いま今いまいまこのこのこのかどかどかどをををうちうちうち叩たた叩たたたたかかかするするする人ひと人ひとひとのののあらあらあらむむんにににいかにいかにいかに覺おぼ覺おぼおぼえええむむん。。。いでいでいでややや誰たれ誰たれたれかかかかくかくかくててて明あか明あかあかすすす人ひと人ひとひとはははあらあらあらむむん。。。
  20. 20「「「よそよそよそにににてててももも同おな同おなおなじじじこゝろこゝろこころににに有あり有ありあり明あけ明あけあけののの月つき月つきつきををを見み見みみるるるやややとととたれたれたれにににとはとはとはましましまし」」」。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

(八月の)末ごろに風がひどく吹いて、野分が起こって雨などが降るので、いつもより心細く物思いに沈んでいると、いつものお手紙がある。時節をわきまえたようにくださったので、このところの(無沙汰の)罪も許してさしあげたくなる。

「嘆きながら秋の空を眺めると、雲は騒ぎ、風が激しく吹いている」。お返事は、「秋風は気配ばかり吹くだけでも恋しいのに、空がかき曇る日は、言いようもありません」。

(宮は)なるほどそうであろうとお思いになるけれど、いつものように日が過ぎた。

九月十日過ぎごろの有明の月に(宮は)お目をお覚ましになって、ずいぶん長く(訪れないままに)なってしまったなあ、ああ、この月は(あの人も)見ているだろうとお思いになるので、いつもの童だけをお供にしていらっしゃって門を叩かせなさると、

(女は)目を覚まして、あれこれと思い続けて横になっているところだった。総じてこのごろは季節のせいだろうか、心細くしみじみといつもより感じられて、物思いにふけっていたのである。

不思議だ、誰だろうと思って、近くにいる侍女を起こして尋ねさせようとするけれど、すぐには起きない。やっと起こして、また別の人を起こすけれど起きない。やっと起きても、あちこち物にぶつかって騒いでいるうちに、叩く音はやんだ。

帰ってしまったのだろうか。寝坊だとお思いになっただろうことこそ、物思いをしていない様子のようで(つらいが)、(それにしても)同じ心でまだ寝ていなかった人なのだな、誰だろうと思う。

(侍女は)やっと出て、誰もいなかったので、「空耳をお聞きになって、夜中にまで何を騒がされるのか。騒がしいお屋敷の女房たちだこと」と腹を立てて、また寝てしまった。

女はそのまま起きて、ひどく霧の立ちこめた空を眺めながら、明るくなったので、この暁に起きていたあいだに心に浮かんだことを、ちょっとした紙に書きつけているところに、宮からいつものお手紙がある。ただ、

「秋の夜の有明の月が沈むまで、ためらっていられずに帰ってしまったことだ」。

いやもう、本当にどんなに残念な者だとお思いになっただろうと思うよりも、やはり(宮は)折を逃さずにいらっしゃることだ、本当にしみじみとした空の様子をご覧になったのだと思うと、たいそう趣深くて、この手習いのように書いたものを、お返事のようにして結んで差し上げる。

(その手習いには、こう書いてあった。)風の音が、木の葉が残りそうもないほどに吹き乱れて、いつもよりしみじみと感じられる。大げさに空がかき曇るものの、ほんの気配ばかり雨が降るのは、どうしようもなく哀れに思われて、

「秋のうちに(涙で)朽ち果ててしまいそうです。(秋に降るのが)道理の時雨に、誰が袖を借りましょうか(わたしの袖は自分の涙で濡れているのに)」

と嘆かわしく思うけれど、知る人もいない。草木の色まで、見ていたときのままではなくなってゆく。時雨の降るあいだの長さもまだその季節にならないうちから感じられるが、風に痛々しくなびいている草葉には、今にも消えてしまいそうな露のようなわが身が、不思議なほど草葉につけて(思われ)悲しいので、

奥にも入らないで、そのまま端近くに横になると、少しも眠れそうにない。人はみな気を許して寝ているので、何ということもなく、ただつくづくと目を覚ましたまま、何となく恨めしい思いでばかり横になっていると、

雁がかすかに鳴いたのは、ほかの人はこうまでは思わないだろうか、ひどく堪えがたい気持ちがして、「まどろむこともなく、ああ、幾夜になったのだろう。ただ雁の声を聞くことを仕事にして。こうして夜を明かしてばかりいるよりは」と言って、

妻戸を押し開けると、大空に西に傾いた月の光が遠く澄みわたって見えるうえに、霧の立ちこめた空の様子、鐘の音、鶏の声がひとつに響き合って、まったく過ぎ去った昔も、これからの未来にも、これほどの折はあるまいと思われて、(涙にぬれた)袖の色までしみじみと珍しいほどである。

「わたしではない人も、きっとこのように見ているでしょう。九月の有明の月のしみじみとした趣にまさるものはないのだから」。

今ちょうど、この門を叩かせる人がいたら、どんなにうれしく思われるだろう。いやもう、誰がこうして夜を明かす人がいようか。

「離れていても同じ心で有明の月を見ているかと、誰に尋ねたらよいのでしょう」。

意訳

野分の日、宮は「雲うちさわぎ風ぞはげしき」と、荒れた空に自分の心の騒ぎを重ねる。女は「けしきばかり吹くだけでも恋しいのに」と応じ、無沙汰の恨みを恋しさに変えて返す。

九月の有明、宮は思い立って門を叩くが、家の者は寝ぼけて起きない。やっと出た侍女は「空耳だ」と腹を立ててまた寝てしまう。女は誰かが同じ心で起きていたのだと思いながら、寝坊と思われたかと気にかける。滑稽な侍女の描写が、すれ違いの切なさをかえって引き立てる。

朝、宮から「有明の月が入るまで待ちきれずに帰った」と歌が届く。女は、宮が自分と同じ空を見ていたことに感動し、夜明けまでに書きつけた手習いを、そのまま返事として送る。

その手習いには、風の音、時雨、なびく草葉、雁の声、有明の月、鐘と鶏の声が、眠れぬ夜から夜明けへの時の流れとともに書きとめられている。「同じ心で有明の月を見ている人がいるだろうか」という問いは、まさに宮が門の外で見ていた月であった。手紙を書こうとしたわけではない独白が、そのまま最もふさわしい返事になる。この日記の中でもとりわけ美しい一節である。

語釈・文法注

おもと
女房など、身近に仕える女性を親しんで呼ぶ語。ここでは侍女が、門を叩いたのは宮の邸の女房たちのいたずらだと腹を立てている。

文法

「折しりがほに」
時節を心得た顔つきで。ちょうどよい折にお便りをくださったので、の意。
「おはさうじて」
「おはさうず」は「おはす」に尊敬の「さうず」がついた形。侍女が皮肉をこめて主人を高めて言う。
「さわがしの殿のおもとだちや」
底本のまま。「殿」は宮の邸。宮の邸の人々を、騒がしいお屋敷の女房たちよ、とあざける侍女の言葉。
「この手ならひのやうに書きたるもの」
以下「たれにとはまし」までが、女が暁に書きつけていた手習い。地の文と歌が交互に続く、日記の中の日記のような文章である。
「しかじあはれは」
「しかじ」は及ぶまい、まさるものはない。九月の有明の月のあわれにまさるものはない。

和歌

なげきつゝ秋のみ空をながむれば雲うちさわぎ風ぞはげしき

詠者
帥宮
状況
八月末、野分の日に送った見舞いの歌。

修辞

象徴
荒れた空の様子に、宮自身の心の乱れを重ねる。

秋風はけしき吹くだに戀しきにかきくもる日はいふかたぞなき

詠者
女
状況
宮の野分の歌への返事。

修辞

掛詞
「けしき」に風の「気色」と、ほんの「けしき(気配)」を掛ける。

秋の夜のありあけの月の入るまでにやすらひかねて歸りにしかな

詠者
帥宮
状況
有明のころに門を叩いたが開かなかった翌朝の歌。

修辞

本歌
『後拾遺和歌集』赤染衛門「やすらはで寝なましものをさ夜ふけてかたぶくまでの月を見しかな」と通じる。

秋のうちに朽ちはてぬべしことわりの時雨にたれか袖をからまし

詠者
女
状況
暁に書きつけた手習いの歌。

修辞

見立て
涙に濡れた袖を、時雨に濡れて朽ちるものに見立てる。

まどろまであはれいく夜になりぬらむ唯かりがねを聞くわざにして

詠者
女
状況
手習いの歌。眠れずに雁の声を聞いて詠んだ。

修辞

掛詞
「かりがね」に「雁が音」と「仮」を響かせるとする説もある。

我ならぬ人もさぞ見む長月の有明の月にしかじあはれは

詠者
女
状況
手習いの歌。妻戸を開けて有明の月を見て詠んだ。

修辞

倒置
「あはれは(有明の月に)しかじ」を倒置して結ぶ。

よそにても同じこゝろに有明の月を見るやとたれにとはまし

詠者
女
状況
手習いの最後の歌。

修辞

問いかけ
同じ月を見ている人を思いながら、問う相手のいなさを嘆く。

解説

有明の月の夜の場面は、『和泉式部日記』の中でも最も名高い一節の一つである。門が開かなかったという行き違いが、宮と女が離れたまま同じ月を見ていたという一致に転じ、女の手習いがそのまま宮への返事になる。

女が書きつけた手習いは、地の文と歌が交互に続く、日記の中の小さな日記のような文章である。風、時雨、草葉の露、雁の声、鐘と鶏の声と、秋の夜から暁への移ろいが感覚的に描かれ、和泉式部の歌人としての表現力がよく表れている。

寝ぼけた侍女が「空耳だ」と腹を立てる場面のような、身近な人々の生き生きとした描写も、この日記の魅力である。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(和泉式部日記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、434–436頁(コマ229–230)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日