古典ライブラリー

和泉式部日記 第4章

月の夜と人の噂

月の明るい夜に歌を交わした翌晩、宮は女の家を訪れるが、門に別の車が止まっているのを見て引き返す。宮は女にほかの男がいると疑い、文も間遠になる。女が月の歌を送ると宮は忍んで訪れ、扇に文を添えて渡すが、源少将や兵部卿が通っているという噂を聞いて、ふたたび便りを絶つ。

  1. 1二三日ふつかみか二三日ふつかみかふつかみかほどほどほどありありありててて月つき月つきつきいみじういみじういみじゅうあかきあかきあかき夜よ夜よよ、、、はしはしはしににに出い出いいでででゐゐいててて見み見みみるるるほどほどほどににに、、、「「「いかにいかにいかにぞぞぞややや月つき月つきつきははは見み見みみ給たま給たまたまふふうややや」」」とてとてとて、、、「「「わわわがががごとくごとくごとく思おも思おもおもひひいはははいづいづいずややや山やま山やまやまのののはははののの月つき月つきつきにににかけかけかけつゝつゝつつなげくなげくなげくこゝろこゝろこころををを」」」。。。
  2. 2例れい例れいれいののの折をり折をりおりよりよりよりはははをかしきをかしきおかしきうちうちうちにににももも、、、宮みや宮みやみやにににててて月つき月つきつきのののあかゝりあかゝりあかかりしししににに、、、人ひと人ひとひとややや見み見みみるるるらむらむらんととと忍しの忍しのしのびびびたりたりたりししし、、、思おも思おもおもひひい出い出いいでででらるゝらるゝらるるほどほどほどににに、、、ふとふとふと、、、「「「一ひと一ひとひと夜よ夜よよ見み見みみししし月つき月つきつきぞぞぞととと思おも思おもおもへへえどどどながむれながむれながむればばばこゝろこゝろこころもももゆかゆかゆかずずず目め目めめはははそらそらそらにににしししててて」」」
  3. 3ととと聞きこ聞きこきこえええてててももも猶なほ猶なほなお獨ひとり獨ひとりひとりながめながめながめ居ゐ居ゐいたるたるたる程ほど程ほどほどにににはかなくはかなくはかなくててて明あ明ああけけけぬぬぬ。。。またまたまたののの夜よ夜よよおはしましおはしましおわしましたりたりたりけるけるける、、、こなたこなたこなたにににははは聞き聞ききかかかずずず。。。かたがたかたがたかたがたににに人ひと人ひとひとののの住す住すすむむむ處ところ處ところところなりなりなりけれけれければばば、、、そなたそなたそなたににに人ひと人ひとひとののの來きた來きたきたりりりたるたるたる車くるま車くるまくるまををを御ご御ごご覽らん覽らんらんじじじててて、、、「「「人ひと人ひとひとののの侍はべ侍はべはべるるるにににこそこそこそ。。。車くるま車くるまくるまはべりはべりはべり」」」ととときこゆれきこゆれきこゆればばば「「「よしよしよし歸かへ歸かへかえりりりなむなむなん」」」とてとてとておはしましおはしましおわしましぬぬぬ。。。
  4. 4人ひと人ひとひとのののいふいふいうははは誠まこと誠まことまことにににこそこそこそとととおぼすおぼすおぼすもももむつかしけれむつかしけれむつかしけれどどど、、、さすがさすがさすがににに絕た絕たたえええはてはてはてむむんものものものとととはははおぼさおぼさおぼさゞりゞりざりけれけれければばば文ふみ文ふみふみつかはすつかはすつかわす、、、「「「よべよべよべ參まゐ參まゐまいりりりたりたりたりとととばかりばかりばかりははは聞き聞ききききき給たま給たまたまひひいけむけむけんややや。。。それそれそれもももえええ知し知ししりりり給たま給たまたまははわざりざりざりしししにににやややととと思おも思おもおもふふうこそこそこそいみじけれいみじけれいみじけれ。。。松まつ松まつまつ山やま山やまやまににに浪なみ浪なみなみたかしたかしたかしとととははは見み見みみてててしかしかしかどどど今日けふ今日けふきょうのののながめながめながめはははたゞたゞただならならならぬぬぬかなかなかな」」」
  5. 5とととありありあり。。。雨あめ雨あめあめうちうちうち降ふ降ふふるるるほどほどほどなりなりなり。。。あやしかりあやしかりあやしかりけるけるける事こと事ことことかなかなかな、、、人ひと人ひとひとのののそらごとそらごとそらごとををを聞きこ聞きこきこえええたりたりたりけるけるけるにににやややととと思おも思おもおもひひいててて、、、「「「吾われ吾われわれをををこそこそこそ末すゑ末すゑすえののの松まつ松まつまつとととはははおもひおもひおもいつれつれつれひとしひとしひとしなみなみなみにににははは誰たれ誰たれたれかかかこゆこゆこゆべきべきべき」」」ととと聞きこ聞きこきこえええつつつ。。。
  6. 6宮みや宮みやみやははは一ひと一ひとひと夜よ夜よよののの事こと事ことことをををなまなまなま心こころ心こころこころうくうくうくおぼしおぼしおぼしててて、、、久ひさ久ひさひさしうしうしゅうのたまはのたまはのたまわせせせででで、、、かくかくかく、、、「「「つらしつらしつらしともともとも又また又またまた戀こひ戀こひこいしししともともともさまざまさまざまさまざまににに思おも思おもおもふふうことことことこそこそこそひまひまひまなかりなかりなかりけれけれけれ」」」。。。
  7. 7御おほん御おほんおおん返かへ返かへかえしししははは聞きこ聞きこきこゆゆゆべきべきべき事こと事ことことなきなきなきにににしもしもしもあらあらあらねねねどどど、、、わざとわざとわざとおぼさおぼさおぼされれれむむんももも耻はづ耻はづはずかしくかしくかしくててて、、、かくかくかくぞぞぞ、、、「「「あふあふあう事こと事ことことはははとまれとまれとまれかくまれかくまれかくまれ歎なげ歎なげなげかかかじじじをををうらみうらみうらみ絕た絕たたえええせせせぬぬぬ中なか中なかなかとととなりなりなりせせせばばば」」」ととと聞きこ聞きこきこえええさするさするさする。。。
  8. 8さてさてさて後のち後のちのちもももまどほまどほまどおににになむなむなん。。。月つき月つきつきのののあかきあかきあかき夜よ夜よようちうちうち伏ふ伏ふふしししててて、、、「「「うらやましくうらやましくうらやましくももも」」」などなどなど詠なが詠ながながめめめらるれらるれらるればばば、、、宮みや宮みやみやにににかうかうこうぞぞぞ聞きこ聞きこきこえええけるけるける、、、「「「月つき月つきつきををを見み見みみててて荒あ荒ああれれれたるたるたる宿やど宿やどやどにににながむながむながむとととははは見み見みみにににこここぬぬぬまでまでまでももも誰たれ誰たれたれにににつげよつげよつげよととと」」」。。。
  9. 9ひすましひすましひすまししてしてして「「「右う右うう近こん近こんこんのののぞうぞうぞうにににさしさしさし取と取ととらせらせらせてててきききねねね」」」とてとてとてやるやるやる。。。宮みや宮みやみやはははおおお前まへ前まへまえににに人ひと人ひとひと々びと々びとびとしししててて物もの物ものもの語がたり語がたりがたりしししててておはしますおはしますおわしますほどほどほどなりなりなりけりけりけり。。。人ひと人ひとひとまかでまかでまかでなどなどなどしししててて入い入いいらららせせせ給たま給たまたまふふうににに右う右うう近こん近こんこんのののぞうぞうぞうさしさしさし出い出いいでででたれたれたればばば、、、「「「例れい例れいれいののの車くるま車くるまくるまにににさうぞくさうぞくそうぞくせせせさせさせさせよよよ」」」とてとてとておはしますおはしますおわします。。。
  10. 10をんなをんなおんなはしはしはしににに月つき月つきつきながめながめながめててて居ゐ居ゐいたるたるたるほどほどほどににに人ひと人ひとひとののの入い入いいりりりくれくれくればばば簾垂すだれ簾垂すだれすだれうちうちうちおろしおろしおろしててて居ゐ居ゐいたれたれたればばば、、、誠まこと誠まことまことににに目め目めめなれなれなれたるたるたる御おほん御おほんおおんさまさまさまにににはははあらあらあらででで、、、御おほん御おほんおおん直なほ直なほのうなどなどなどのののいたういたういとうなれなれなれたるたるたるしもしもしもをかしうをかしうおかしゅう見み見みみゆゆゆ。。。
  11. 11物もの物ものものももものたまはのたまはのたまわででで唯ただ唯ただただ御おほん御おほんおおん扇あふぎ扇あふぎおうぎににに文ふみ文ふみふみをををさしさしさし入い入いいれれれさせさせさせ給たま給たまたまひひいててて、、、「「「御おほん御おほんおおん使つかひ使つかひつかいのののとくとくとくまかりまかりまかりにににけれけれければばば」」」とてとてとてさしさしさし入い入いいれれれさせさせさせ給たま給たまたまひひいててて、、、物もの物ものもの聞きこ聞きこきこえええむむんにににほどほどほど遠とほ遠とほとおくくくてててびなけれびなけれびなければばば、、、女をんな女をんなおんな扇あふぎ扇あふぎおうぎをををさしさしさし出いだ出いだいだしししててて取と取ととりりりつつつ。。。
  12. 12宮みや宮みやみやももものぼりのぼりのぼりなむなむなんとととおぼしおぼしおぼしたりたりたり。。。前せん前せんせん栽ざい栽ざいざいのののをかしきをかしきおかしき中なか中なかなかをををありかありかありかせせせ給たま給たまたまひひいててて「「「人ひと人ひとひとははは草くさ草くさくさ葉ば葉ばばののの露つゆ露つゆつゆなれなれなれややや」」」などなどなどののの給たま給たまたまははわすすす、、、いといといとなまめかしなまめかしなまめかし。。。
  13. 13近ちか近ちかちこううう寄よ寄よよらららせせせ給たま給たまたまひひいててて「「「今こ今ここ宵よひ宵よひよいははは罷まか罷まかまかりりり出い出いいでででなむなむなんとととよよよ。。。誰たれ誰たれたれににに忍しの忍しのしのびびびつるつるつるももも見み見みみあらはしあらはしあらわしににになむなむなん。。。あすあすあすははは物もの物ものもの忌いみ忌いみいみととといふいふいうなりなりなりつるつるつるににに、、、なくなくなくばばば怪あや怪あやあやしししととと思おも思おもおもひひいなむなむなん」」」とてとてとてかへらかへらかえらせせせ給たま給たまたまへへえばばば、、、
  14. 14「「「こゝろみこゝろみこころみににに雨あめ雨あめあめももも降ふ降ふふらららなむなむなん宿やど宿やどやど過す過すすぎぎぎててて空そら空そらそらゆくゆくゆく月つき月つきつきのののかげかげかげやややとまるとまるとまるととと」」」。。。
  15. 15人ひと人ひとひとのののいふいふいうほどほどほどよりよりよりもももこめきこめきこめきてててあはれあはれあわれにににおぼさるおぼさるおぼさる。。。「「「あああががが君きみ君きみきみややや」」」とてとてとてしばししばししばしのぼらのぼらのぼらせせせ給たま給たまたまひひいててて出い出いいででで給たま給たまたまふふうとてとてとて、、、「「「あぢきなくあぢきなくあじきなく雲くも雲くもくもゐゐいののの月つき月つきつきにににさそはさそはさそわれれれててて影かげ影かげかげこそこそこそ出い出いいづれづれずれこゝろこゝろこころやややはははゆくゆくゆく」」」
  16. 16とてとてとておはしましおはしましおわしましぬるぬるぬる後のち後のちのち簾す簾すすをををあげあげあげててて、、、ありありありつるつるつる御おほん御おほんおおん文ふみ文ふみふみ見み見みみれれればばば、、、「「「我われ我われわれゆゑゆゑゆえににに月つき月つきつきをををながむながむながむとととつげつげつげつれつれつればばばまことまことまことかかかととと見み見みみににに出い出いいでででゝゝて來き來ききにににけりけりけり」」」とととぞぞぞあるあるある。。。
  17. 17猶なほ猶なほなおをかしくをかしくおかしくおはしますおはしますおわしますかなかなかな、、、いかにいかにいかにいといといと怪あや怪あやあやしきしきしきものものものにににきこしめしきこしめしきこしめしたるたるたるべかべかべかめるめるめるににに、、、きこしめしきこしめしきこしめしなほさなほさなおされれれにににしかしかしかなななととと思おも思おもおもふふう。。。
  18. 18宮みや宮みやみやもももいふいふいうかひかひかいなからなからなからずずずつれづれつれづれつれづれののの慰なぐさ慰なぐさなぐさみみみにににはははととと思おぼ思おぼおぼさるゝさるゝさるるほどほどほどににに、、、あるあるある人ひと人ひとひと々びと々びとびとののの聞きこ聞きこきこゆるゆるゆるやうやうよう「「「このこのこの頃ごろ頃ごろごろははは源げん源げんげん少せう少せうしょうなどなどなどいまいまいますなりすなりすなり。。。晝ひる晝ひるひるものものものししし給たま給たまたまふふうなりなりなり」」」ととといへいへいえばばばあるあるある人ひと人ひとひとありありありててて「「「兵ひやう兵ひやうひょう部ぶ部ぶぶ卿きやう卿きやうきょうもももおはすおはすおわすなるなるなるははは」」」などなどなど口くち口くちくち々ぐち々ぐちぐちににに聞きこ聞きこきこゆるゆるゆるにににいといといとあはあはしうあはあはしうあわあわしゅう覺おぼ覺おぼおぼささされれれててて久ひさ久ひさひさしうしうしゅう御おほん御おほんおおん文ふみ文ふみふみもももなしなしなし。。。
  19. 19小こ小ここ舍ど舍どど人ねり人ねりねり童わらは童わらはわらわ來き來ききたりたりたり、、、ひすましひすましひすまし童わらは童わらはわらわ例れい例れいれいにににももも語かた語かたかたらへらへらえばばば物もの物ものものなどなどなどいひいひいいててて「「「御おほん御おほんおおん文ふみ文ふみふみやややあるあるある」」」ととといへいへいえばばば「「「さささもももあらあらあらずずず。。。一ひと一ひとひと夜よ夜よよおはしましおはしましおわしましたりたりたりしかしかしかどどどみかどみかどみかどににに車くるま車くるまくるまのののありありありしししををを御ご御ごご覽らん覽らんらんじじじててて御おほん御おほんおおんせうそこせうそこしょうそこもももなきなきなきにににこそこそこそあめれあめれあめれ。。。人ひと人ひとひとおはしましおはしましおわしましかよふかよふかようやうやうようにににこそこそこそきこしめしきこしめしきこしめしたりたりたりけれけれけれ」」」などなどなどいひいひいいててていぬいぬいぬ。。。
  20. 20かくかくかくなむなむなんいふいふいうととと聞き聞きききききててていといといといとほしくいとほしくいとおしく、、、何なに何なになにやややかやかやかやとととわざとわざとわざと聞きこ聞きこきこえええさせさせさせわざとわざとわざと賴たの賴たのたのみみみ聞きこ聞きこきこえええさするさするさする事こと事ことことこそこそこそなけれなけれなけれどどど、、、時とき時ときとき々どき々どきどきもももかうかうこうおぼしおぼしおぼし出い出いいでででむむんほどほどほどははは、、、聞きこ聞きこきこえええさせさせさせかよはしかよはしかよわしてててあらあらあらむむんとととこそこそこそ思おも思おもおもひひいつれつれつれ、、、事こと事ことことしもしもしもこそこそこそあれあれあれ、、、けしからけしからけしからぬぬぬ事こと事ことことにににつけつけつけてててもももかうかうこうおぼさおぼさおぼされれれぬるぬるぬるととと思おも思おもおもふふうもももいといといと心こころ心こころこころ憂う憂ううくくくててて、、、なぞなぞなぞもももかくかくかくととと歎なげ歎なげなげくくく程ほど程ほどほどににに御おほん御おほんおおん文ふみ文ふみふみありありあり。。。
  21. 21「「「日ひ日ひひごろごろごろははは怪あや怪あやあやしうしうしゅうみだりみだりみだりごゝちごゝちごこちののの惱なや惱なやなやましさましさましさににになむなむなん。。。いつぞやいつぞやいつぞやももも參まゐ參まゐまいりりりててて侍はべ侍はべはべりりりしかしかしかどどど、、、をりふしをりふしおりふし惡あ惡ああしうしうしゅうてててのみのみのみかへれかへれかえればばば、、、いといといとひとげなきひとげなきひとげなき心ここ心ここここ地ち地ちちしししてててなむなむなん」」」とてとてとて、、、「「「よしやよしやよしやよしよしよし今いま今いまいまはははうらみうらみうらみじじじ磯いそ磯いそいそににに出い出いいでででゝゝて漕こ漕ここぎぎぎ離はな離はなはなれれれゆくゆくゆく海あ海ああ士ま士ままののの小を小をお舟ぶね舟ぶねぶねををを」」」
  22. 22とととあれあれあれどどど、、、「「「あさましきあさましきあさましき事こと事ことことをををきこしめしきこしめしきこしめしたたたなれなれなればばば、、、耻はづ耻はづはずかしけれかしけれかしければばば、、、きこえきこえきこえさせさせさせむむんもももつれなけれつれなけれつれなけれどどど、、、このこのこのたびたびたびばかりばかりばかりははは」」」とてとてとて、、、「「「袖そで袖そでそでののの浦うら浦うらうらにににたゞたゞただわわわがががやくやくやくとととしほたれしほたれしおたれててて舟ふね舟ふねふね流なが流ながながしししたるたるたる海あ海ああ士ま士ままとととこそこそこそなれなれなれ」」」ととと聞きこ聞きこきこえええさせさせさせつつつ。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

二、三日ほどして、月がたいそう明るい夜、(女が)端近くに出て座って見ていると、(宮から)「どうですか、月はご覧になっていますか」と言って、「わたしと同じように思い出してくれますか。山の端の月に心をかけて嘆くわたしの心を」。

いつもの折よりも趣深いうえに、宮の邸で月の明るかった夜、人が見ているだろうかと忍んだことを思い出しているところだったので、すぐに、「あの一夜に見た月だと思うけれど、眺めると心も晴れず、目はうわの空で」

と申し上げても、なおひとりで物思いに沈んで座っているうちに、むなしく夜が明けた。次の夜、(宮が)いらっしゃったのを、こちらでは知らない。(女の家は)あちこちに人の住んでいる所だったので、そちらに人の来ていた車をご覧になって、(供の者が)「人が来ているようです。車がございます」と申し上げると、「よし、帰ろう」と言ってお帰りになった。

人の噂はやはり本当だったのかとお思いになるのも不快だけれど、さすがに縁を切ってしまおうとはお思いにならなかったので、文をおやりになる、「昨夜参ったということだけはお聞きになったでしょうか。それもご存じなかったのではと思うと、たまらない。末の松山を浪が越えた(あなたが心変わりした)とは見たけれど、今日の長雨(物思い)はただごとではないことだ」

とある。雨の降るころである。妙なことだ、誰かが(宮に)作り話を申し上げたのだろうかと思って、「わたしこそあなたを末の松(変わらぬ心の人)と思っていたのに。誰でも同じように、浪が末の松山を越えるようなこと(心変わり)をするでしょうか」と申し上げた。

宮はあの夜のことを何となく不快にお思いになって、長い間お便りをくださらず、このように、「恨めしいとも、また恋しいとも、さまざまに思うことが絶え間ないことです」。

お返事は申し上げるべきことがないわけではないけれど、わざわざ弁解すると(宮が)お思いになるのも恥ずかしくて、このように、「お逢いすることは、どうなろうと嘆きはしません。恨み続けてくださる仲であるなら(それだけ思ってくださるのですから)」と申し上げる。

その後も間遠なのであった。月の明るい夜に横になって、「うらやましくも」などと口ずさまれるので、宮にこのように申し上げた、「月を見て荒れた宿で物思いにふけっていると、見に来てくださらないまでも、誰に告げよとおっしゃるのですか」。

樋洗童に「右近の尉に渡してきなさい」と言って使いに出す。宮は御前で人々とお話をしていらっしゃるところだった。人々が退出などして(宮が)奥へお入りになるときに、右近の尉が(文を)差し出したので、「いつもの車の支度をせよ」と言ってお出かけになる。

女が端近くで月を眺めて座っているところに人が入ってきたので、簾を下ろして座っていると、(宮は)本当に見慣れたご様子ではなく、直衣などのたいそう着慣れてやわらかくなっているのがかえって趣深く見える。

何もおっしゃらず、ただ扇に文を載せて差し入れなさって、「お使いが早く帰ってしまったので(返事を渡せなかった)」と言って差し入れなさるので、お話を申し上げるには距離があって具合が悪いので、女は扇を差し出して受け取った。

宮も(簾の内に)上がりたいとお思いになった。前栽の趣深い中をお歩きになって、「人は草葉の露なのか」などとおっしゃる。たいそう優美である。

近くにお寄りになって、「今夜は帰らなければならないのですよ。(あなたが)誰と忍んでいるのかを見届けに(来たのです)。明日は物忌だと言われていたので、(邸に)いないと妙だと思われるでしょう」と言ってお帰りになるので、

「試しに雨でも降ってほしい。宿を通り過ぎて空をゆく月の光(=あなた)が、とどまるかと思って」。

人が噂するよりもおっとりと子どもっぽくて、しみじみといとしくお思いになる。「ああ、いとしい人よ」と言って、しばらく(簾の内に)お上がりになってから、お帰りになるとき、「心ならずも雲居の月に誘われて、姿こそ出てゆくけれど、心は出てゆくものか」

と詠んでお帰りになったあと、簾を上げて、さっきのお手紙を見ると、「わたしのために月を眺めていると知らせてくれたので、本当かと見に出て来たのです」と書いてある。

やはり趣深くいらっしゃることよ。どんなにか(わたしのことを)とんでもない女だとお聞きになっているようなのに、聞き直していただきたいものだと思う。

宮も、話し相手としてかいがないわけではない、所在なさの慰めにはとお思いになっているうちに、ある人々が申し上げるには、「このごろは源少将などが通っていらっしゃるそうです。昼も来ていらっしゃるそうです」と言うと、ある人が「兵部卿もいらっしゃるそうですよ」などと口々に申し上げるので、たいそう軽薄な女だとお思いになって、長い間お手紙もない。

小舎人童が来た。樋洗童がいつも親しく話しているので、話などして「お手紙はあるの」と言うと、「そうでもありません。先夜いらっしゃったのですが、門に車があったのをご覧になって、お便りもないのでしょう。ほかの男がお通いになっているようにお聞きになったのですよ」などと言って帰った。

こう言っていると聞いて、たいそう心苦しく、あれこれとわざわざ申し上げたり、わざわざ頼りにしたりすることはないけれど、時々でもこのように思い出してくださる間は、お便りを交わしていようと思っていたのに、事もあろうに、とんでもないことでこのように思われてしまったと思うのもたいそうつらくて、どうしてこうなのかと嘆いていると、お手紙がある。

「このところは妙に気分がすぐれなくて。いつぞやも参ったのですが、折悪しく帰ってばかりなので、ひどく人並みに扱われない気持ちがして」と言って、「ままよ、もう恨むまい。磯から漕ぎ離れてゆく海人の小舟(のようなあなた)を」

とあるけれど、「あきれるようなことをお聞きになったようなので、恥ずかしいので、お返事申し上げるのも平気な顔のようだけれど、今度だけは」と言って、「袖の浦で、ただ自分の役目として潮に濡れて、舟を流してしまった海人のように、わたしは涙に濡れているのです」と申し上げた。

意訳

月の夜、宮は「わたしと同じ思いか」と問い、女は宮の邸で見た月を思い出して応じる。ところが翌晩、宮が訪れると門に他人の車がある。同じ敷地に住む別の人の客だったのだが、宮は噂どおりほかの男がいると思い込んで引き返す。

宮は「末の松山を浪が越えた」と女の心変わりをなじり、女は「わたしこそ待つ身だった」と言い返す。宮の文は「つらし」と「恋し」の間で揺れ、女は弁解を控えて「恨んでくれるうちは嘆かない」と、宮の嫉妬をむしろ愛情の証と受けとめる。

しばらく途絶えたのち、女は月の歌で宮を呼ぶ。宮はすぐに車を出し、着慣れた直衣のくつろいだ姿で現れて、扇に文を載せて差し出す。中の文には「わたしのために月を眺めると言うので、本当かと見に来た」とある。すぐに帰らねばならないと言う宮を、女は「雨でも降ってとどめてほしい」と引きとめ、宮はその子どもらしさをいとしく思う。

しかし宮の周囲からは、源少将や兵部卿が通っているという噂が届き、宮はまた便りを絶つ。童どうしの会話から、門前の車が誤解の原因だったと知った女は、身に覚えのない噂に傷つく。宮の「漕ぎ離れてゆく小舟を恨むまい」という歌に、女は涙に濡れた海人の姿で応じる。噂と誤解が、恋の行方を左右してゆく。

語釈・文法注

ひすましわらは
樋洗童(ひすましわらわ)。便器の掃除などの雑用をする少女。女の家の召使いで、小舎人童と親しい。
御直衣
直衣(のうし)。貴族の平服。着慣れてやわらかくなった直衣は、くつろいだ忍び姿を表す。
源少將
源氏の少将。誰を指すかは諸説ある。後の「兵部卿」とともに、女のもとへ通うと噂された男たち。

文法

「人の侍るにこそ。車はべり」
宮の供の者の言葉。同じ敷地のほかの住人の客の車を、女の客と思った。
「おぼさゞりければ」
「おぼさざりければ」。お思いにならなかったので。
「吾をこそ末の松とは」
底本は「吾」の脇に異本の字を小字で注記する。本文は底本の大字に従い、「われ」と読んだ。
「さうぞくせさせよ」
「装束せさせよ」。車の支度をさせよ。
「人は草葉の露なれや」
『拾遺和歌集』「わが思ふ人は草葉の露なれやかくれば袖のまづそぼつらむ」の句を口ずさんだもの。
「きこしめしなほされにしかな」
「にしかな」は願望の終助詞。(悪い噂を)聞き直していただきたいものだ。

和歌

わがごとく思ひはいづや山のはの月にかけつゝなげくこゝろを

詠者
帥宮
状況
月の明るい夜、女に送った歌。

修辞

掛詞
「かけ」に「(心を)掛け」と月の「影」を響かせる。

一夜見し月ぞと思へどながむればこゝろもゆかず目はそらにして

詠者
女
状況
宮の邸で月を見た夜を思い出しながら返した歌。

修辞

掛詞
「そら」に「空」と「上の空」を掛ける。

松山に浪たかしとは見てしかど今日のながめはたゞならぬかな

詠者
帥宮
状況
女の家の門に車があるのを見て引き返した翌日の歌。

修辞

本歌
『古今和歌集』東歌「君をおきてあだし心をわが持たば末の松山浪も越えなむ」をふまえ、女の心変わりをなじる。
掛詞
「ながめ」に「長雨」と「眺め」を掛ける。

吾をこそ末の松とはおもひつれひとしなみには誰かこゆべき

詠者
女
状況
宮の疑いを打ち消す返事。

修辞

掛詞
「松」に「待つ」、「なみ」に「並」と「浪」を掛ける。
本歌
宮と同じく「末の松山」の歌をふまえて切り返す。

つらしとも又戀しともさまざまに思ふことこそひまなかりけれ

詠者
帥宮
状況
疑いを抱いたまましばらく便りを絶ったあとの歌。

修辞

対句
「つらし」と「恋し」を並べて、揺れる心を言う。

あふ事はとまれかくまれ歎かじをうらみ絕えせぬ中となりせば

詠者
女
状況
宮の歌への返事。

修辞

逆説
恨みが絶えないのは思われている証だから、逢えなくても嘆かないと言う。

月を見て荒れたる宿にながむとは見にこぬまでも誰につげよと

詠者
女
状況
月の明るい夜、途絶えていた宮に送った歌。

修辞

引歌
直前に口ずさんだ「うらやましくもすめる月かな」(『拾遺和歌集』藤原高光)の気分を受ける。

こゝろみに雨も降らなむ宿過ぎて空ゆく月のかげやとまると

詠者
女
状況
訪れてすぐ帰ろうとする宮を引きとめる歌。

修辞

見立て
宮を空をゆく月に見立てる。

あぢきなく雲ゐの月にさそはれて影こそ出づれこゝろやはゆく

詠者
帥宮
状況
帰りぎわに、女の歌に答えた歌。

修辞

言葉の受け
女の「空ゆく月」を受けて「雲居の月」と言う。
対比
「影(姿)」は出てゆくが「心」は残ると対比する。

我ゆゑに月をながむとつげつればまことかと見に出でゝ來にけり

詠者
帥宮
状況
扇に載せて差し入れた文の歌。女の月の歌への返事として書いてあった。

修辞

言葉の受け
女の「月を見て」「ながむ」「つげよ」を受ける。

よしやよし今はうらみじ磯に出でゝ漕ぎ離れゆく海士の小舟を

詠者
帥宮
状況
噂を聞いて途絶えたのち、体調を口実に送った歌。

修辞

見立て
自分から離れてゆく女を、漕ぎ離れてゆく小舟に見立てる。
縁語
「磯」「漕ぐ」「海士」「小舟」は海の縁語。

袖の浦にたゞわがやくとしほたれて舟流したる海士とこそなれ

詠者
女
状況
宮の歌への返事。噂に傷ついた身を嘆く。

修辞

縁語
宮の歌の海の縁語を受けて、「浦」「しほたれ」「舟」「海士」と続ける。
掛詞
「やく」に「役」と(塩を)「焼く」を掛ける。

解説

同じ敷地に別の住人がいたために生じた誤解が、宮の疑いを決定的にする。当時の中流貴族の女性は、一つの邸の中に親族や他人と住み分けていることが多く、門前の車だけでは誰の客かわからなかった。

「源少将」「兵部卿」の噂は、和泉式部が恋多き女として知られていたことを背景にしている。藤原道長が和泉式部の扇に「浮かれ女の扇」と書いたという逸話も伝わる。日記は、こうした評判に傷つきながら、宮の心だけは取り戻したいと願う女の姿を描く。

扇に文を載せて渡す、着慣れた直衣で現れるなど、宮の振る舞いは優雅で、女もそれに心を動かされる。女の「雨も降らなむ」という素朴な引きとめに、宮が「人のいふほどよりもこめきて」と感じる場面は、噂の女と実際の女との落差を宮が知る大切な一節である。

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出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』日記草子部(和泉式部日記) 板倉屋書房、明治36年(1903)、428–431頁(コマ226–227)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日