伊勢物語 第17章(第94段〜第99段)
天の逆手
別れた妻に扇の絵を頼み、新しい夫を恨む秋と春の歌。二条の后に仕える女房と物越しに逢う男の彦星の歌。秋になったら逢おうと約束した女が兄に連れ去られ、男が天の逆手を打って呪う段。堀河の大臣の四十の賀、太政大臣への梅の作り枝、右近の馬場のひをりの日に見初めた女との贈答までを読む。
- 1昔昔むかし、、、男男おとこ女女おんなありありありけりけりけり。。。いかゞいかゞいかがありありありけむけむけん、、、そのそのその男男おとこすますますまずずずなりなりなりにににけりけりけり。。。のちのちのちににに男男おとこありありありけれけれけれどどど、、、子子こあるあるあるなかなかなかなりなりなりけれけれければばば、、、こまかこまかこまかにににこそこそこそあらあらあらねねねどどど、、、時時とき々々どきものものものいひいひいいおこせおこせおこせけりけりけり。。。女女おんなかたかたかたににに繪繪えかくかくかくひとひとひとなりなりなりけれけれければばば、、、扇扇おうぎにににかきかきかきにににやれやれやれりりりけるけるけるををを、、、今今いまののの男男おとこのののものものものすすすとてとてとて、、、一一ひと日日ひ二二ふつ日日かおこせおこせおこせざりざりざりけりけりけり。。。かのかのかの男男おとこいといといとつらくつらくつらく、、、「「「おのおのおのががが聞聞きこゆるゆるゆることことことをををばばば今今いままでまでまで給給たまははわぬぬぬはははことわりことわりことわりととと思思おもへへえどどど、、、なほなほなお人人ひとをををばばば恨恨うらみみみつつつべきべきべきものものものににになむなむなんありありありけるけるける」」」とてとてとて、、、よみよみよみてててやりやりやりけるけるける、、、時時ときははは秋秋あきににになむなむなんありありありけるけるける。。。
- 2「「「秋秋あきののの夜夜よははは春春はる日日ひわするゝわするゝわするるものものものなれなれなれやややかすみかすみかすみにににきりきりきりやややちへちへちえまさるまさるまさるらむらむらん」」」
- 3とととなむなむなんよめよめよめりりりけるけるける。。。女女おんなかへしかへしかへし、、、
- 4「「「千千ち々々ぢののの秋秋あきひとつひとつひとつののの春春はるにににむかはむかはむかわめめめやややもみぢもみぢもみじももも花花はなもももともともともにににこそこそこそ散散ちれれれ」」」。。。
- 5昔昔むかし、、、二二に條條じょうののの后后きさきににに仕仕つこうううまつるまつるまつる男男おとこありありありけりけりけり。。。女女おんなののの仕仕つこうううまつるまつるまつるををを常常つねににに見見みかはしかはしかわしてててよばひよばひよばいわたりわたりわたりけりけりけり。。。「「「いかでいかでいかでものものものにににだにだにだに對面對面たいめんしししててて、、、おぼつかなくおぼつかなくおぼつかなく思思おもひひいつめつめつめたるたるたることことこと少少すこしししはるかさはるかさはるかさむむん」」」ととといひいひいいけれけれければばば、、、女女おんないといといと忍忍しのびびびててて物物ものごしごしごしにににあひあひあいにににけりけりけり。。。ものものものがたりがたりがたりなどなどなどしししててて、、、男男おとこ、、、
- 6「「「ひこひこひこぼしぼしぼしにににこひこひこいはははまさりまさりまさりぬぬぬ天天あまののの川川がわへだつるへだつるへだつるせきせきせきををを今今いまはははやめやめやめてててよよよ」」」。。。
- 7このこのこの歌歌うたにににめでゝめでゝめでて逢逢あひひいにににけりけりけり。。。
- 8むかしむかしむかし、、、男男おとこありありありけりけりけり。。。女女おんなをををとかくとかくとかくいふいふいうことことこと月月つき日日ひへへへにににけりけりけり。。。いはいはいわきききにににしししあらあらあらねねねばばば心苦心苦こころぐるしししとととややや思思おもひひいけむけむけん、、、やうやうやうやうようようあはれあはれあわれととと思思おもひひいけりけりけり。。。そのそのその頃頃ころみなみなみなつきつきつきのののもちもちもちばかりばかりばかりなりなりなりけれけれければばば、、、女女おんな身身みにににかさかさかさ一一ひとつつつ二二ふたつつついできいできいできにににけりけりけり。。。女女おんないひいひいいおこせおこせおこせたるたるたる、、、「「「今今いまははは何何なにのののこゝろこゝろこころもももなしなしなし。。。身身みにににかさかさかさももも一一ひとつつつ二二ふたつつついできいできいできにににけりけりけり。。。時時ときもももいといといとあつしあつしあつし。。。少少すこししし秋秋あき風風かぜ吹吹ふききき立立たちちちなななむむんときときとき必必かならずずずあはあはあわむむん」」」ととといへいへいえりりりけりけりけり。。。秋秋あきまつまつまつころほひころほひころおいにににこゝかしここゝかしこここかしこよりよりよりこのこのこの人人ひとのののもともともとへへへいないないなむむんずずずなりなりなりとてとてとていできいできいできにににけりけりけり。。。さりさりさりけれけれければばばこのこのこの女女おんなのののせうとせうとしょうと、、、俄俄にはかにににむかへむかへむかえにににきたりきたりきたりけれけれければばば、、、女女おんなかへでかへでかへでのののはつはつはつ紅葉紅葉もみじをををひろはひろはひろわせせせててて、、、歌歌うたをををよみよみよみててて書書かきききつけつけつけててておこせおこせおこせたりたりたり。。。
- 9「「「秋秋あきかけかけかけててていひいひいいしししながらながらながらもももあらあらあらなくなくなくににに木木こののの葉葉は降降ふりりりしくしくしくえええにににこそこそこそありありありけれけれけれ」」」
- 10とととかきかきかきおきおきおきててて、、、「「「かしこかしこかしこよりよりより人人ひとおこせおこせおこせばばばこれこれこれをををやれやれやれ」」」とてとてとていぬいぬいぬ。。。さてさてさてやがてやがてやがて後後のちつひつひついにににけふけふきょうまでまでまでしらしらしらずずず、、、善善よくくくてててやややあるあるあるらむらむらん、、、惡惡あしくしくしくてててやややあるあるあるらむらむらん、、、いにいにいにししし所所ところももも知知しらららずずず。。。かのかのかの男男おとこははは天天あまののの逆逆さかをををうちうちうちてててなむなむなんのろひのろひのろいをるをるおる。。。「「「むくつけきむくつけきむくつけきことことこと、、、人人ひとののののろひのろひのろい事事ごとははは負負おふふうものものものにににやややあらあらあらむむん、、、負負おははわぬぬぬものものものにににやややあらあらあらむむん、、、今今いまこそこそこそははは見見みめめめ」」」とととぞぞぞいふいふいうなるなるなる。。。
- 11昔昔むかし、、、堀堀ほり河河かわのののととと申申もうすすすいまそかりいまそかりいまそかりけりけりけり。。。四四よ十十そじののの賀賀が九九く條條じょうののの家家いえにににてててせせせられられられけるけるける日日ひ、、、中將中將ちゅうじょうなりなりなりけるけるけるおきなおきなおきな、、、
- 12「「「さくらさくらさくら花花ばなちりちりちりかひかひかいくもれくもれくもれおいおいおいらくらくらくのののこここむむんととといふいふいうなるなるなる道道みちまがふまがふまがうがにがにがに」」」。。。
- 13昔昔むかし、、、ととときこゆるきこゆるきこゆるおはしおはしおわしけりけりけり。。。つかうつかうつこうまつるまつるまつる男男おとこながながながつきつきつきばかりばかりばかりににに、、、梅梅うめのののつくりつくりつくりえだえだえだににに雉雉きじをををつけつけつけててて奉奉たてまつるるるとてとてとて、、、
- 14「「「我我わがががたのむたのむたのむ君君きみがががためためためにににとととをるをるおる花花はなはははときときときしもしもしもわかわかわかぬぬぬものものものにににぞぞぞありありありけるけるける」」」
- 15とととよみよみよみててて奉奉たてまつりりりたりたりたりけれけれければばば、、、いといといとかしこくかしこくかしこくをかしがりをかしがりおかしがり給給たまひひいててて、、、使使つかいににに祿祿ろくたまへたまへたまえりりりけりけりけり。。。
- 16昔昔むかし、、、右右う近近こんののの馬馬うま塲塲ばのののののの日日ひ、、、むかひむかひむかいににに立立たてててたりたりたりけるけるける車車くるまににに、、、女女おんなののの顏顏かおののの、、、したしたしたすだれすだれすだれよりよりよりほのかほのかほのかににに見見みえええけれけれければばば、、、中將中將ちゅうじょうなりなりなりけるけるける男男おとこのののよみよみよみてててやりやりやりけるけるける、、、
- 17「「「見見みずずずもももあらあらあらずずず見見みもももせせせぬぬぬ人人ひとののの戀戀こいしくしくしくはははあやあやあやなくなくなく今日今日きょうやややながめながめながめくらさくらさくらさむむん」」」。。。
- 18かへしかへしかへし、、、
- 19「「「知知しるるるしらしらしらぬぬぬ何何なにかかかあやあやあやなくなくなくわきわきわきててていはいはいわむむん思思おもひひいのみのみのみこそこそこそしるべしるべしるべなりなりなりけれけれけれ」」」。。。
- 20のちのちのちははは誰誰たれとととしりしりしりにににけりけりけり。。。
現代語訳
〔第94段〕昔、男と女がいた。どうしたことか、その男は通わなくなってしまった。その後、女には新しい男ができたけれど、子のある仲だったので、こまやかにというほどではないが、もとの男は時々手紙を寄こしていた。女は絵を描く人だったので、男が扇に絵を描いてもらおうと送ったところ、今の夫が来ているというので、一日二日、返してこなかった。もとの男はたいそうつらく、「私の申し上げることを今まで聞いてくださらないのはもっともだと思いますが、やはり人を恨まずにはいられないものでしたよ」と言って、歌を詠んで贈った。時は秋であった。
「秋の夜は、春の日を忘れてしまうものなのだろうか。春霞よりも、秋霧のほうが幾重にもまさるのだろうか(新しい夫に夢中で、私を忘れたのか)」
と詠んだのだった。女の返歌、
「千の秋も、一つの春にかなうでしょうか。でも、紅葉も花も、どちらも散ってしまうものです(あなたも今の人も、いずれは離れていくのです)」。
〔第95段〕昔、二条の后にお仕えする男がいた。同じく后にお仕えする女房を、いつも見かけて、求婚しつづけていた。「なんとかして、物越しにでもお会いして、晴れない思いを少しでも晴らしたい」と言ったので、女はたいそう人目を忍んで、物越しに会った。語り合ったりなどして、男が、
「七夕の彦星よりも、私の恋の思いはまさっています。天の川のように二人を隔てる関を、今はもう取り払ってください」。
この歌に感じ入って、女は男と結ばれた。
〔第96段〕昔、ある男がいた。女にあれこれ言い寄るうちに月日がたった。女も岩や木ではないので、気の毒に思ったのだろうか、しだいに男をいとしく思うようになった。ちょうどそのころは六月の十五日ごろだったので、女の体におできが一つ二つできてしまった。女が言い寄こしたことには、「今は何の隔て心もありません。体におできが一つ二つできてしまいました。季節もたいそう暑い。少し秋風が吹きはじめたときに、必ずお会いしましょう」と言ってきた。秋を待つころに、あちこちから、「あの人のところへ行こうとしているそうだ」と、文句が出てきた。それで、この女の兄が急に迎えに来たので、女は楓の初紅葉を拾わせて、歌を詠んで書きつけて寄こした。
「秋になったらと約束しておきながら、そうはならずに、木の葉が降り敷くように、浅い縁であったことです」
と書き置いて、「あちらから使いが来たら、これを渡しなさい」と言って去った。そうしてそのまま、とうとう今日まで消息は分からない。幸せでいるのだろうか、不幸せでいるのだろうか、行った先も分からない。あの男は、天の逆手を打って呪っているという。「気味の悪いことだ。人の呪いというものは身に受けるものなのだろうか、受けないものなのだろうか。今にきっと分かるだろう」と言っているそうだ。
〔第97段〕昔、堀河の大臣と申し上げる方がいらっしゃった。四十歳の祝賀を九条の家で催された日に、中将であった翁が、
「桜の花よ、散り乱れて空を曇らせよ。老いがやって来るという道が、花に紛れて分からなくなるように」。
〔第98段〕昔、太政大臣と申し上げる方がいらっしゃった。お仕えする男が、九月ごろに、梅の造り枝に雉をつけて献上するといって、
「私が頼りにしているわが君のためにと折った花は、季節も分かたず咲くものでございました」
と詠んで献上したところ、大臣はたいそう面白がりなさって、使いの者に褒美をお与えになった。
〔第99段〕昔、右近の馬場の騎射の日に、向かい側に立ててあった牛車の中に、女の顔が下簾越しにほのかに見えたので、中将であった男が詠んで贈った、
「見なかったわけでもなく、はっきり見たわけでもない人が恋しくて、わけもなく今日一日、物思いにふけって過ごすのだろうか」。
女の返歌、
「知っているとか知らないとか、どうしてわけもなく区別して言うのでしょう。恋の思いこそが、道しるべなのですから」。
のちに、男は相手が誰なのかを知ったのだった。
意訳
〔第94段〕別れた妻に扇の絵を頼んだのに、新しい夫が来ているので返ってこない。男は「秋(今の夫)にかまけて春(私)を忘れたのか」と恨み、女は「千の秋も一つの春にはかなわない。でも紅葉も花も、いずれは散るもの」と、元の夫を立てつつ突き放す。
〔第95・96段〕二条の后の女房に、彦星よりも強い恋だと訴えて結ばれる男。一方、秋になったら逢おうと約束した女は、うわさを聞いた兄に連れ去られ、「浅い縁でした」と紅葉に書き残して消息を絶つ。男は天の逆手を打って呪い、語り手は「呪いは身に受けるものかどうか、今に分かるだろう」と、不気味な余韻を残す。
〔第97〜99段〕堀河の大臣の四十の賀では、桜よ散り乱れて老いの来る道を隠せと祝い、太政大臣には季節外れの梅の作り枝に「君のためなら時を分かたず咲く」と添える。右近の馬場では、ちらりと見えた女に恋をして歌を贈り、女は「思いこそが道しるべ」と応じる。宮廷の儀礼や行事を背景にした、華やかな歌の段である。
語釈・文法注
- ものごし
- 物越し。簾や几帳などを隔てて会うこと。
- くぜち
- 口舌(くぜつ)。言い争い、文句、うわさ。
- 天の逆手
- 人を呪うときに打つ柏手とされる。手の甲を合わせて打つなど、ふつうと逆の打ち方をいうか。
- 堀河のおほいまうちぎみ
- 堀河の大臣。藤原基経(836〜891)。二条の后高子の兄。四十の賀は貞観十七年(875)。
- おほきおほいまうちきみ
- 太政大臣。藤原良房(804〜872)を指すとされる。
- ひをり
- 五月に宮中の馬場で行われた騎射(うまゆみ)の行事。右近の馬場では五月六日に行われた。語源は諸説ある。
文法
- 「こまかにこそあらねど」
- こまやかにというわけではないが。
- 「今の男のものすとて」
- 「ものす」は、いる、来る。今の夫が来ているというので。
- 「むかはめや」
- 「や」は反語。匹敵するだろうか、いや匹敵しない。
- 「いはきにしあらねば」
- 「岩木」。感情のない岩や木ではないので。
- 「いなむずなり」
- 「むず」は推量・意志。「なり」は伝聞。行こうとしているそうだ。
- 「えにこそありけれ」
- 「え」に「江(入り江)」と「縁」を掛ける。浅い縁であったことよ。
- 「今こそは見め」
- 今に(その結果を)見ることになるだろう。
- 「道まがふがに」
- 「がに」は、…するように。道が分からなくなるように。
- 「あやなく」
- 「あやなし」は、わけがわからない、筋が通らない。
和歌
秋の夜は春日わするゝものなれやかすみにきりやちへまさるらむ
- 詠者
- もとの男
- 状況
- 扇の絵を頼んだのに、新しい夫が来ているので返してこない女に贈った歌。
修辞
- 比喩
- 「秋」に今の夫、「春」に自分をたとえ、「霧」と「霞」を比べる。
千々の秋ひとつの春にむかはめやもみぢも花もともにこそ散れ
- 詠者
- 女
- 状況
- もとの男の歌への返歌。
修辞
- 対比
- 「千々の秋」と「ひとつの春」を対比する。
- 比喩
- 紅葉と花に、二人の男をたとえる。
ひこぼしにこひはまさりぬ天の川へだつるせきを今はやめてよ
- 詠者
- 男
- 状況
- 二条の后に仕える女房と物越しに会って詠んだ歌。
修辞
- 見立て
- 二人を隔てる簾や几帳を、天の川の関に見立てる。
秋かけていひしながらもあらなくに木の葉降りしくえにこそありけれ
- 詠者
- 女
- 状況
- 兄に連れ去られるとき、楓の初紅葉に書きつけて残した歌。
修辞
- 掛詞
- 「秋」に「飽き」、「え」に「江」と「縁」を掛ける。
- 縁語
- 「木の葉」「降りしく」「江」が縁語とされる。
さくら花ちりかひくもれおいらくのこむといふなる道まがふがに
- 詠者
- 中将であった翁
- 状況
- 堀河の大臣(藤原基経)の四十の賀で詠んだ歌。『古今和歌集』賀に在原業平の歌として載る。
修辞
- 擬人法
- 「おいらく(老い)」を、道を通ってやって来るものとして描く。
- 命令
- 桜に「散りかひくもれ」と呼びかける。
我がたのむ君がためにとをる花はときしもわかぬものにぞありける
- 詠者
- 男
- 状況
- 九月に、梅の作り枝に雉をつけて太政大臣に献上したときの歌。
修辞
- 機知
- 季節外れの梅(作り枝)を、主君のためなら時を分かたず咲く花と言いなす。
見ずもあらず見もせぬ人の戀しくはあやなく今日やながめくらさむ
- 詠者
- 中将であった男
- 状況
- 右近の馬場のひをりの日、牛車の下簾からほのかに見えた女に贈った歌。『古今和歌集』恋一に在原業平の歌として載る。
修辞
- 対句
- 「見ずもあらず」「見もせぬ」で、ちらりと見ただけの状態を表す。
- 掛詞
- 「ながめ」に「眺め」と「長雨」を掛ける。
知るしらぬ何かあやなくわきていはむ思ひのみこそしるべなりけれ
- 詠者
- 女
- 状況
- 中将の歌への返歌。『古今和歌集』恋一によみ人しらずとして載る。
修辞
- 対応
- 「あやなく」を受けて返す。
- 掛詞
- 「思ひ」の「ひ」に「火」を掛け、火が道しるべになるとする説がある。
解説
第96段の「天の逆手」は、古事記の国譲りの神話で事代主神が打ったとされる「天の逆手」に由来する呪いのしぐさである。消えた女を呪う男と、それを不気味がる語り手の言葉で終わるこの段は、雅な恋の物語が多い『伊勢物語』の中で異色の結末を持つ。
第97段の堀河の大臣藤原基経は、二条の后高子の兄で、第6段では芥川で高子を取り返した人物として語られていた。その基経の四十の賀で、老いを寄せつけまいと祝う歌を詠む「中将なりけるおきな」は業平とされ、かつての恋の相手の兄を祝う場面として読まれてきた。
第99段の歌の贈答は『古今和歌集』恋一に並んで載る。ちらりと見ただけの相手に恋をする「見ずもあらず見もせぬ」恋は、垣間見とともに平安時代の恋の始まり方の典型であった。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部三 雑上(伊勢物語) 板倉屋書房、明治36年(1903)、66–68頁(コマ37–38)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日