伊勢物語 第10章(第61段〜第64段)
たはれ島とつくも髪
筑紫で色好みとからかわれた男の染河の歌、地方で落ちぶれたかつての妻との再会、老いてなお恋を求める女の願いを聞き入れる「つくも髪」の段、そして風になって簾のすき間から忍び入りたいと願う男の歌までを読む。
- 1昔昔むかし、、、男男おとこ、、、筑筑つく紫紫しまでまでまでいきいきいきたりたりたりけるけるけるににに、、、「「「これこれこれはははいろいろいろこのむこのむこのむなるなるなるすきすきすきものものもの」」」ととと、、、すだれすだれすだれのののうちうちうちなるなるなる人人ひとのののいひいひいいけるけるけるををを聞聞ききききててて、、、
- 2「「「そめそめそめをををわたらわたらわたらむむん人人ひとのののいかでいかでいかでかはかはかは色色いろににになるなるなるてふてふちょうことことことのののなからなからなからむむん」」」。。。
- 3女女おんなかへしかへしかへし、、、
- 4「「「名名なにににしししおはおはおわゞゞばあだあだあだにににぞぞぞあるあるあるべきべきべきたはれたはれたわれ浪浪なみのののぬれぬれぬれぎぬぎぬぎぬきるきるきるととといふいふいうなりなりなり」」」。。。
- 5昔昔むかし、、、年年としごろごろごろ音音おとづれづれずれざりざりざりけるけるける女女おんな、、、心心こころかしこくかしこくかしこくやややあらあらあらざりざりざりけむけむけん、、、はかなきはかなきはかなき人人ひとのののことことことにににつきつきつきててて、、、ひとひとひとののの國國くになりなりなりけるけるける人人ひとにににつかはつかはつかわれれれててて、、、もともともと見見みししし人人ひとののの前前まえにににいでいでいで來來きててて、、、ものものものくはせくはせくわせなどなどなどしししけりけりけり。。。長長ながききき髪髪かみをををきぬきぬきぬののの袋袋ふくろににに入入いれれれててて、、、遠遠とお山山やまのののながきながきながきあをあをあおをををぞぞぞ着着きたりたりたりけるけるける。。。夜夜よさりさりさり「「「このこのこのありありありつるつるつる人人ひとたまへたまへたまえ」」」ととと、、、あるじあるじあるじにににいひいひいいけれけれければばば、、、おこせおこせおこせたりたりたりけりけりけり。。。男男おとこ、、、「「「我我われをををばばば知知しらららずずずややや」」」とてとてとて、、、
- 6「「「いにしへいにしへいにしえのののにほひにほひにおいはははいづらいづらいずら櫻櫻さくら花花ばなこけこけこけるるるかごかごかごととともももなりなりなりにににけるけるけるかなかなかな」」」。。。
- 7ととといふいふいうををを、、、いといといとはづかしはづかしはずかしととと思思おもひひいててて、、、いらへいらへいらえもももせせせででで居居いたるたるたるををを、、、「「「などなどなどいらへいらへいらえもももせせせぬぬぬ」」」ととといへいへいえばばば「「「涙涙なみだのののこぼるゝこぼるゝこぼるるににに目目めももも見見みえええずずずものものものもももいはいはいわれれれずずず」」」ととといふいふいう。。。
- 8「「「これこれこれやややこのこのこのわれわれわれにににあふあふあう身身みをををのがれのがれのがれつゝつゝつつ年年とし月月つきふれふれふれどどどまさりまさりまさりがほがほがおなきなきなき」」」
- 9ととといひいひいいててて、、、きぬきぬきぬぬぎぬぎぬぎてててとらとらとらせせせけれけれけれどどどすてゝすてゝすてて逃逃にげげげにににけりけりけり。。。いづちいづちいずちいぬいぬいぬらむらむらんとととももも知知しらららずずず。。。
- 10昔昔むかし、、、世世よつけつけつけるるる女女おんな、、、いかでいかでいかでこゝろこゝろこころなさけなさけなさけあらあらあらむむん男男おとこにににあひあひあい見見みてててしがしがしがなななととと思思おもへへえどどど、、、いひいひいい出出いでででむむんたよりたよりたよりなさなさなさににに、、、まことまことまことならならならぬぬぬ夢夢ゆめがたりがたりがたりをををすすす。。。子子こみたりみたりみたりををを呼呼よびびび集集あつめめめてててかたりかたりかたりけりけりけり。。。二二ふた人人りののの子子こははは、、、なさけなさけなさけなくなくなくいらへいらへいらえててて止止やみみみぬぬぬ。。。三三さぶ郞郞ろうなりなりなりけるけるける子子こなむなむなん「「「よきよきよき御御おおん男男おとこぞぞぞゐゐいてててこここむむん」」」とととあはするあはするあわするににに、、、
- 11このこのこの女女おんなけしきけしきけしきいといといとよしよしよし。。。ことことこと人人びとはははいといといとなさけなさけなさけなしなしなし。。。いかでいかでいかでこのこのこの在在ざい五五ごにににあはせあはせあわせてててしがしがしがなななととと思思おもふふうこゝろこゝろこころありありあり。。。狩狩かりしししありきありきありきけるけるけるにににいきいきいきあひあひあいててて、、、道道みちにににててて馬馬うまののの口口くちをををとりとりとりててて、、、かうかうかうかうこうこうなむなむなん思思おもふふうととといひいひいいけれけれければばば、、、あはれあはれあわれがりがりがりててていきいきいきてててねねねにににけりけりけり。。。さてさてさて後後のち、、、男男おとこ見見みえええざりざりざりけれけれければばば、、、女女おんな、、、男男おとこののの家家いえにににいきいきいきてててかいまかいまかいまみみみけるけるけるををを、、、男男おとこほのかほのかほのかににに見見みててて、、、
- 12「「「もゝもゝももとせとせとせににに一一ひととせとせとせたらたらたらぬぬぬつくもつくもつくもわれわれわれををを戀戀こふふうらしらしらしおもおもおもかげかげかげににに見見みゆゆゆ」」」
- 13ととといひいひいいててて、、、馬馬うまににに鞍鞍くらおかおかおかせせせててて出出いでででたつたつたつけしきけしきけしきををを見見みててて、、、うばらうばらうばらからからからたちたちたちにににかゝりかゝりかかりててて家家いえににに來來きてててうちうちうちふせふせふせりりり。。。男男おとこ、、、このこのこの女女おんなのののせせせしししやうやうようににに、、、忍忍しのびびびててて立立たてててりりりててて見見みれれればばば、、、女女おんな歎歎なげきききてててぬぬぬとてとてとて、、、
- 14「「「さささにににころもころもころもかたかたかたしきしきしき今宵今宵こよいもももやややこひしきこひしきこいしき人人ひとにににあはあはあわでででわわわがががねねねむむん」」」
- 15とととよみよみよみけるけるけるををを、、、男男おとこあはれあはれあわれととと思思おもひひいててて、、、そのそのその夜夜よはははねねねにににけりけりけり。。。世世よののの中中なかのののれいれいれいとしてとしてとして、、、おもふおもふおもうをををばばば思思おもひひい、、、おもはおもはおもわぬぬぬをををばばばおもはおもはおもわぬぬぬものものものををを、、、このこのこの人人ひとはははおもふおもふおもうをををもももおもはおもはおもわぬぬぬをををもももけぢめけぢめけじめ見見みせせせぬぬぬ心心こころなむなむなんありありありけるけるける。。。
- 16むかしむかしむかし、、、男男おとこ女女おんな、、、みそかみそかみそかにににかたらふかたらふかたらうわざわざわざもももせせせざりざりざりけれけれければばば、、、いづくいづくいずくなりなりなりけむけむけん、、、あやしあやしあやしさささににによめよめよめるるる、、、「「「ふくふくふく風風かぜにににわわわががが身身みをををなさなさなさばばば玉玉たますだれすだれすだれひまひまひまもとめもとめもとめつゝつゝつつ入入いるるるべきべきべきものものものををを」」」。。。
- 17かへしかへしかへし、、、
- 18「「「とりとりとりとめとめとめぬぬぬ風風かぜにににはははありありありともともとも玉玉たますだれすだれすだれ誰誰たががが許許ゆるさささばばばかかかひまひまひまもとむもとむもとむべきべきべき」」」
- 19とてとてとて止止やみみみにににけりけりけり。。。
現代語訳
〔第61段〕昔、ある男が筑紫まで行ったときに、「この人は色好みの風流人だ」と、簾の内にいる女が言ったのを聞いて、
「染河を渡る人が、どうして色に染まらないでいられようか(ここへ来れば誰でも色好みになるのです)」。
女の返歌、
「名前のとおりなら、たはれ島は浮気な島でしょうが、あれは波に濡れ衣を着せられているだけだといいます(あなたも名ばかりではありませんか)」。
〔第62段〕昔、何年も便りをしなかった女が、思慮が足りなかったのだろうか、頼りにならない人の口車に乗って、地方に住む人に使われるようになって、もと夫婦だった男の前に出て来て、食事の給仕などをした。長い髪を絹の袋に入れて、遠山摺りの長い青い衣を着ていた。夜になって、男は「さっきの人をよこしてください」と主人に言ったので、主人はその女を寄こした。男が「私が分からないのか」と言って、
「昔のあでやかさはどこへ行ったのか。花を散らした桜の枝のように、すっかりしぼんでしまったことだ」。
と言うのを、女はたいそう恥ずかしく思って、返事もしないで座っていたので、男が「どうして返事もしないのか」と言うと、女は「涙がこぼれて目も見えず、ものも言えません」と言う。
「これがあの、私と夫婦になる身を逃れて、年月を経たけれど、少しも栄えた様子もない人なのか」
と言って、着物を脱いで与えたけれど、女はそれを捨てて逃げてしまった。どこへ行ったのかもわからない。
〔第63段〕昔、男女の情を知った女が、なんとかして情のある男に会いたいものだと思ったけれど、言い出すきっかけがないので、本当ではない夢の話をする。子ども三人を呼び集めて話した。二人の子は、そっけなく答えてそれきりになった。三男であった子が「よい男が現れるでしょう」と夢を占うと、
この女はたいそう機嫌がよい。ほかの人では情けがない。なんとかしてこの在五中将に会わせたいものだと、三男は思った。中将が狩りをして歩いているところに行き会って、道で馬の口を取って、「母がこれこれと思っております」と言ったところ、中将は気の毒に思って、女のもとに行って共寝をした。その後、男が来なくなったので、女は男の家に行ってのぞき見していたのを、男がちらりと見て、
「百年に一年足りない九十九歳のような白髪の人が、私を恋しく思っているらしい。面影に見える」
と言って、馬に鞍を置かせて出かけようとする様子を見て、女は茨やからたちに引っかかりながら家に帰って来て横になった。男は、この女がしたように、こっそり立って見ていると、女は嘆いて寝ようとして、
「狭い筵に衣の片袖を敷いて、今夜もまた、恋しい人に逢えずに私はひとりで寝るのだろうか」
と詠んだのを、男は気の毒に思って、その夜は共寝をした。世間の常として、思う人を思い、思わない人は思わないものなのに、この人は、思う人にも思わない人にも、分けへだてを見せない心を持っていたのだった。
〔第64段〕昔、ある男と女が、ひそかに語り合うこともしなかったので、女はどこに住んでいるのだろうかと、不審に思って男が詠んだ、「吹く風にわが身を変えることができたなら、玉すだれのすき間を探して入って行けるのに」。
女の返歌、
「とらえどころのない風であったとしても、玉すだれのすき間を、誰の許しを得て探すことができるでしょう」
と言って、それきりになってしまった。
意訳
〔第61段〕筑紫で「色好みの風流人」とうわさされた男は、「染河を渡れば誰でも色に染まる」と開き直る。女は「たはれ島も名ばかりで、濡れ衣を着せられているだけ」と、男の評判も名ばかりだとやり返す。地名を使った機知の応酬である。
〔第62段〕かつて男を捨てて去った女が、地方で召使いとして落ちぶれ、旅の男の給仕に出る。男は女に気づき、昔の美しさはどこへいったのかと、厳しい歌を浴びせる。女は涙で答えられず、男が与えた衣も捨てて逃げ去る。第60段の「花橘」とよく似た、再会の悲劇である。
〔第63段〕年老いてなお恋をしたい母のために、三男は在五中将(業平)に頼みこむ。中将は哀れに思って一夜をともにし、のちに白髪の女が自分を慕ってのぞき見に来ると、茨の中を帰っていく姿や、独り寝を嘆く歌に心を動かされ、ふたたび訪れる。思う人も思わない人も分けへだてしない「けぢめ見せぬ心」こそ、この男の真骨頂だと語り手は結ぶ。
〔第64段〕会う手立てのない女に、「風になって簾のすき間から入りたい」と願う男。女は「風であっても誰の許しを得て入るのか」と拒む。かなわぬ恋の短いやりとりである。
語釈・文法注
- そめ川
- 染河。筑前国(今の福岡県太宰府市付近)を流れる川とされる。「色に染まる」を連想させる。
- たはれ島
- 戯れ島。肥後国(今の熊本県)宇土半島沖の島とされる。「戯る(浮気する)」を連想させる。
- 遠山摺
- 遠くの山の模様を摺り出した衣。召使いの着る仕着せ。
- 世ごゝろ
- 男女の情愛を解する心。色恋の心。
- 在五中將
- 在原氏の五男で近衛中将であった在原業平の通称。物語中で業平の名が明示される数少ない箇所。
- つくも髪
- 九十九髪。老女の白髪。「百」から「一」を除くと「白」になることから、九十九を「白」にかけた。
- さむしろ
- 狭筵(さむしろ)。幅の狭い粗末な敷物。「寒し」を掛けることもある。
文法
- 「いかでかは色になるてふことのなからむ」
- 「かは」は反語。どうして色に染まるということがないだろうか。
- 「心かしこくやあらざりけむ」
- 思慮深くなかったのだろうか。
- 「こけるかご」
- 底本の表記。「こく」は(花を)しごき落とす。花を散らした枝のように。通行本文には「こけるからとも」とするものがある。
- 「あひ見てしがな」
- 「てしがな」は願望。会いたいものだ。
- 「あはするに」
- 「あはす」は夢を占う、夢解きをする。
- 「女歎きてぬとて」
- 「ぬ」は「寝(ぬ)」の終止形。寝ようとして。
- 「けぢめ見せぬ心」
- 「けぢめ」は区別。分けへだてをしない心。
- 「わが身をなさば」
- 「なす」は変える。わが身を(風に)変えたならば。
和歌
そめ川をわたらむ人のいかでかは色になるてふことのなからむ
- 詠者
- 男
- 状況
- 筑紫で、簾の内の女に色好みとうわさされて詠んだ歌。
修辞
- 掛詞
- 「色」に「染めた色」と「色好み」を掛ける。
- 縁語
- 「そめ」「色」が縁語。
名にしおはゞあだにぞあるべきたはれ島浪のぬれぎぬきるといふなり
- 詠者
- 女
- 状況
- 男の歌への返歌。
修辞
- 掛詞
- 「ぬれぎぬ」に「波に濡れた衣」と「無実の罪(濡れ衣)」を掛ける。
- 縁語
- 「島」「浪」「ぬれ」が縁語。
いにしへのにほひはいづら櫻花こけるかごともなりにけるかな
- 詠者
- 男
- 状況
- 地方で召使いになっていたもとの妻に再会して詠んだ歌。
修辞
- 比喩
- 花を散らした桜の枝に、容色の衰えた女をたとえる。
これやこのわれにあふ身をのがれつゝ年月ふれどまさりがほなき
- 詠者
- 男
- 状況
- 泣いて答えない女に、さらに詠みかけた歌。
修辞
- 詠嘆
- 「これやこの」で、目の前の女がかつての妻であることを確かめる。
もゝとせに一とせたらぬつくも髪われを戀ふらしおもかげに見ゆ
- 詠者
- 男(在五中将)
- 状況
- 老女が自分の家をのぞき見しているのに気づいて詠んだ歌。
修辞
- 言葉遊び
- 「百」から「一」を引くと「白」になることから、九十九の白髪をいう。
さむしろにころもかたしき今宵もやこひしき人にあはでわがねむ
- 詠者
- 老女
- 状況
- 家に帰って、独り寝を嘆いて詠んだ歌。『古今和歌集』恋四の「さむしろに衣かたしき今宵もや我を待つらむ宇治の橋姫」に似る。
修辞
- 表現
- 「ころもかたしき」は、自分の衣の片袖だけを敷く独り寝の姿。
ふく風にわが身をなさば玉すだれひまもとめつゝ入るべきものを
- 詠者
- 男
- 状況
- 会う手立てのない女に贈った歌。
修辞
- 仮想
- 風になったらと想像して、恋しい思いを表す。
とりとめぬ風にはありとも玉すだれ誰が許さばかひまもとむべき
- 詠者
- 女
- 状況
- 男の歌への返歌。
修辞
- 反語
- 「誰が許さばか」で、誰も許さないと拒む。
解説
第63段は「つくも髪」の段として知られ、物語の中で「在五中将」と主人公の名が明かされる珍しい段である。老女の願いをかなえる主人公の「けぢめ見せぬ心」は、相手を分けへだてしない情け深さとして、『伊勢物語』の「色好み」の理想を示すものと考えられてきた。
第62段は、宇佐の使の段(第60段)と同じく、男を捨てた女が地方で落ちぶれて元の夫と再会する話である。第60段の女は昔を思い出して尼になり、この段の女は恥じて逃げ去る。似た筋の話を並べることで、それぞれの結末の違いが際立つ。
第61段の染河・たはれ島は、どちらも九州の歌枕である。たはれ島は今の熊本県宇土市沖の小島とされ、「戯れ」の名から恋の歌に詠まれた。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部三 雑上(伊勢物語) 板倉屋書房、明治36年(1903)、51–52頁(コマ29–30)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日