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伊勢物語 第8章(第43段〜第50段)

行く螢と若草

賀陽親王の寵愛する女をめぐるほととぎすの贈答、地方へ下る人への餞別の歌、男を恋い慕いながら死んだ娘をしのぶ螢の歌、遠国の友との文通。浮気者と噂される男と女の「大幣」の贈答、妹への戯れの歌、そして互いの浮気を言い合う「あだくらべ」まで、恋と別れの歌が続く。

  1. 1むかしむかしむかし、、、かやかやかやのののととと申まう申まうもうすすすみこみこみこおはしおはしおわしましましましけりけりけり。。。そのそのそのみこみこみこ女をんな女をんなおんなをををおぼしおぼしおぼしめしめしめしててて、、、いといといとかしこくかしこくかしこく惠めぐ惠めぐめぐみみみつかうつかうつこう給たま給たまたまひひいけるけるけるをををひとひとひとなまめきなまめきなまめきてててありありありけるけるけるををを、、、若わか若わかわかききき人ひと人ひとひとはははゆるさゞりゆるさゞりゆるさざりけりけりけり。。。我われ我われわれのみのみのみととと思おも思おもおもひひいけるけるけるををを、、、またまたまた人ひと人ひとひと聞き聞きききききつけつけつけててて、、、文ふみ文ふみふみやるやるやるとてとてとて、、、郭公ほととぎす郭公ほととぎすほととぎすのののかたかたかたをををかきかきかきててて、、、
  2. 2「「「郭公ほととぎす郭公ほととぎすほととぎすななながががなくなくなく里さと里さとさとのののあまたあまたあまたあれあれあればばばなほなほなおうとまうとまうとまれれれぬぬぬおもふおもふおもうものものものからからから」」」
  3. 3ととといへいへいえりりり。。。このこのこの女をんな女をんなおんなけしきけしきけしきをををとりとりとりててて、、、
  4. 4「「「名な名ななのみのみのみたつたつたつしでしでしでのののたたたはははけさけさけさぞぞぞ鳴な鳴ななくくく庵いほり庵いほりいおりあまたあまたあまたとととうとまうとまうとまれれれぬれぬれぬればばば」」」。。。
  5. 5時とき時ときときはははさつきさつきさつきににになむなむなんありありありけるけるける。。。男をとこ男をとこおとこかへしかへしかへし、、、
  6. 6「「「いほりいほりいおりおほきおほきおおきしでしでしでののの田た田たた長をさ長をさおさはははなほなほなおたのむたのむたのむわわわがががすむすむすむ里さと里さとさとににに聲こゑ聲こゑこえしししたえたえたえずずずははは」」」。。。
  7. 7むかしむかしむかし、、、をとこをとこおとこ、、、あがたあがたあがたへへへゆくゆくゆく人ひと人ひとひとににに、、、馬むま馬むまうまのののはなむけはなむけはなむけせせせむむんとてとてとて呼よ呼よよびびびててて、、、疎うと疎うとうとききき人ひと人ひとひとにににしししあらあらあらざりざりざりけれけれければばば、、、いへいへいえににに盃さかづき盃さかづきさかずきさゝさゝささせせせててて、、、女をんな女をんなおんなのののさうさうそう束ぞく束ぞくぞくかづけかづけかずけむむんとととすすす。。。あるじあるじあるじののの男をとこ男をとこおとこ歌うた歌うたうたよみよみよみてててものものものにににゆひゆひゆいつけつけつけさすさすさす。。。
  8. 8「「「いでゝいでゝいでてゆくゆくゆく君きみ君きみきみがががためためためにににととと脫ぬ脫ぬぬぎぎぎつれつれつればばば我われ我われわれさへさへさえもももなくなくなくなりなりなりぬぬぬべきべきべきかなかなかな」」」。。。
  9. 9このこのこのうたうたうたはははあるあるあるがががなかなかなかにににおもしろけれおもしろけれおもしろければばば心こころ心こころこころとゞめとゞめとどめてててよまよまよますすす。。。はらはらはらにににあぢはひあぢはひあじわいててて。。。
  10. 10昔むかし昔むかしむかし、、、男をとこ男をとこおとこありありありけりけりけり。。。人ひと人ひとひとのののむすめむすめむすめのののかしづくかしづくかしずくをををいかでいかでいかでこのこのこの男をとこ男をとこおとこにににものものものいはいはいわむむんととと思おも思おもおもひひいけりけりけり。。。うちうちうちいでいでいでむむんことことこと難かた難かたかたくくくやややありありありけむけむけん、、、ものものものやみやみやみにににをりをりおりててて死し死ししぬぬぬべきべきべきときときときににに、、、かくかくかくこそこそこそおもひおもひおもいしかしかしかととといひいひいいけるけるけるををを、、、親おや親おやおや聞き聞きききききつけつけつけててて、、、なくなくなくなくなくなく告つ告つつげげげたりたりたりけれけれければばば、、、まどひまどひまどい來き來ききたりたりたりけれけれけれどどど、、、死し死ししにににけれけれければばば、、、つれづれつれづれつれづれととと籠こも籠こもこもりりりをりをりおりけりけりけり。。。時とき時ときときはははみなみなみなつきつきつきのののつごもりつごもりつごもりいといといと暑あつ暑あつあつきききころほひころほひころおいににに、、、宵よひ宵よひよいはははあそびあそびあそび居を居をおりりりててて、、、夜よ夜よよふけふけふけてててやゝやゝやや涼すず涼すずすずしきしきしき風かぜ風かぜかぜ吹ふ吹ふふきききけりけりけり。。。螢ほたる螢ほたるほたるたかくたかくたかく飛と飛ととびびびあがるあがるあがる。。。このこのこの男をとこ男をとこおとこ見み見みみふせふせふせりりりててて、、、
  11. 11「「「ゆくゆくゆくほたるほたるほたる雲くも雲くもくものののうへうへうえまでまでまでいぬいぬいぬべくべくべくははは秋あき秋あきあきかぜかぜかぜふくふくふくとととかりかりかりにににつげつげつげこせこせこせ」」」。。。
  12. 12「「「暮く暮くくれれれがたきがたきがたき夏なつ夏なつなつののの日ひ日ひひぐらしぐらしぐらしながむれながむれながむればばばそのそのそのことゝことゝこととなくなくなくものものものぞぞぞ悲かな悲かなかなしきしきしき」」」。。。
  13. 13むかしむかしむかし、、、男をとこ男をとこおとこ、、、いといといとうるはしきうるはしきうるわしき友とも友ともともありありありけりけりけり。。。片かた片かたかた時とき時ときとき去さ去ささらららずずずあひあひあい思おも思おもおもひひいけるけるけるををを、、、ひとひとひとののの國くに國くにくにへへへいきいきいきけるけるけるををを、、、いといといとあはれあはれあわれととと思おも思おもおもひひいてててわかれわかれわかれにににけりけりけり。。。月つき月つきつき日ひ日ひひ經へ經へへててておこせおこせおこせたるたるたる文ふみ文ふみふみににに、、、「「「あさましくあさましくあさましく對面たいめん對面たいめんたいめんせせせででで月つき月つきつき日ひ日ひひののの經へ經へへにににけるけるけることことこと、、、忘わす忘わすわすれれれやややししし給たま給たまたまひひいにににけむけむけんととと、、、いたくいたくいたく思おも思おもおもひひいわびわびわびてててなむなむなん侍はべ侍はべはべるるる。。。世よ世よよののの中なか中なかなかののの人ひと人ひとひとののの心こころ心こころこころははは、、、めめめかるれかるれかるればばば忘わす忘わすわすれれれぬぬぬべきべきべきものものものにににこそこそこそあああめれめれめれ」」」ととといへいへいえりりりけれけれければばば、、、よみよみよみてててやるやるやる、、、
  14. 14「「「めめめかるかるかるともともともおもほえおもほえおもおえなくなくなくににに忘わす忘わすわすらららるゝるゝるるときときときしししなけれなけれなければばば面おも面おもおもかげかげかげにににたつたつたつ」」」。。。
  15. 15むかしむかしむかし、、、男をとこ男をとこおとこねんごろねんごろねんごろにににいかでいかでいかでととと思おも思おもおもふふう女をんな女をんなおんなありありありけりけりけり。。。されどされどされどこのこのこの男をとこ男をとこおとこをををあだあだあだなりなりなりととと聞き聞きききききててて、、、つれつれつれなさなさなさのみのみのみまさりまさりまさりつゝつゝつついへいへいえるるる、、、
  16. 16「「「大おほ大おほおおのののひくひくひく手て手ててあまたあまたあまたににになりなりなりぬれぬれぬればばば思おも思おもおもへへえどどどえええこそこそこそたのまたのまたのまざりざりざりけれけれけれ」」」。。。
  17. 17かへしかへしかへし、、、男をとこ男をとこおとこ、、、
  18. 18「「「大おほ大おほおおぬさぬさぬさととと名な名ななにににこそこそこそたてたてたてれれれ流なが流ながながれれれてててもももつひつひついににによるよるよる瀨せ瀨せせはははありありありととといふいふいうものものものををを」」」。。。
  19. 19昔むかし昔むかしむかし、、、男をとこ男をとこおとこありありありけりけりけり。。。馬むま馬むまうまのののはなむけはなむけはなむけせせせむむんとてとてとて人ひと人ひとひとををを待ま待ままちちちけるけるけるににに、、、來こ來ここざりざりざりけれけれければばば、、、
  20. 20「「「今いま今いまいまぞぞぞしるしるしるくるしきくるしきくるしきものものものととと人ひと人ひとひとまたまたまたむむん里さと里さとさとをををばばばかれかれかれずずず訪と訪ととふふうべかりべかりべかりけりけりけり」」」。。。
  21. 21むかしむかしむかし、、、男をとこ男をとこおとこ、、、妹いも妹いもいもうとうとうとのののいといといとをかしげをかしげおかしげなるなるなるををを見み見みみ居を居をおりりりててて、、、
  22. 22「「「うらうらうらわかわかわかみみみねねねよげよげよげににに見み見みみゆるゆるゆる若わか若わかわか草くさ草くさくさををを人ひと人ひとひとのののむすばむすばむすばむむんことことことをををしししぞぞぞおもふおもふおもう」」」ととときこえきこえきこえけりけりけり。。。かへしかへしかへし、、、
  23. 23「「「初はつ初はつはつ草くさ草くさくさのののなどなどなどめづらしきめづらしきめずらしきことことことののの葉は葉ははぞぞぞうらうらうらなくなくなくものものものをををおもひおもひおもいけるけるけるかなかなかな」」」。。。
  24. 24むかしむかしむかし、、、男をとこ男をとこおとこありありありけりけりけり。。。怨うら怨うらうらむるむるむる人ひと人ひとひとをををうらみうらみうらみててて、、、
  25. 25「「「鳥とり鳥とりとりののの子こ子ここををを十とを十とをとおづゝづゝずつとをとをとをはははかさぬかさぬかさぬともともともおもはおもはおもわぬぬぬ人ひと人ひとひとををを思おも思おもおもふふうものものものかはかはかは」」」
  26. 26ととといへいへいえりりりけれけれければばば、、、
  27. 27「「「朝あさ朝あさあさ露つゆ露つゆつゆははは消き消ききえええのこりのこりのこりてててもももありありありぬぬぬべしべしべしたれたれたれかかかこのこのこの世よ世よよをををたのみたのみたのみはつはつはつべきべきべき」」」。。。またまたまた、、、男をとこ男をとこおとこ、、、
  28. 28「「「ふくふくふくかぜかぜかぜにににこぞこぞこぞののの櫻さくら櫻さくらさくらははは散ち散ちちらららずずずともともともあなあなあなたのみたのみたのみがたがたがた人ひと人ひとひとのののこゝろこゝろこころははは」」」。。。またまたまた、、、女をんな女をんなおんなかへしかへしかへし、、、
  29. 29「「「ゆくゆくゆく水みづ水みづみずにににかずかずかずかくかくかくよりよりよりもももはかなきはかなきはかなきはははおもはおもはおもわぬぬぬ人ひと人ひとひとをををおもふおもふおもうなりなりなりけりけりけり」」」。。。またまたまた、、、男をとこ男をとこおとこ、、、
  30. 30「「「ゆくゆくゆく水みづ水みづみずとととすぐるすぐるすぐるよはひよはひよわいとととちるちるちる花はな花はなはなととといづれいづれいずれまてまてまててふてふちょうことことことをををきくきくきくらむらむらん」」」。。。
  31. 31あだあだあだかたみかたみかたみにににしししけるけるける男をとこ男をとこおとこ女をんな女をんなおんなののの、、、忍しの忍しのしのびびびありきありきありきしししけるけるける事こと事ことことをををいふいふいうなるなるなるべしべしべし。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

〔第43段〕昔、賀陽親王と申し上げる親王がいらっしゃった。その親王が、ある女をご寵愛になって、たいそう手厚くお目をかけてお使いになっていたが、その女は色めいたところがあったので、若い男は放っておかなかった。自分だけの女だと思っていた男がいたが、またほかの男がそれを聞きつけて、手紙をやるというので、ほととぎすの絵を描いて、

「ほととぎすよ、おまえが鳴く里はたくさんあるので、やはり嫌になってしまう。いとしく思ってはいるものの」

と言ってやった。この女は、男の気持ちを察して、

「浮気だという名ばかりが立つほととぎすは、今朝こそ泣いています。通う庵がたくさんあると嫌われてしまったので」。

時は五月のことであった。男の返歌、

「通う庵が多いほととぎすでも、やはり頼りにしているよ。私の住む里に、その声が絶えないのならば」。

〔第44段〕昔、ある男が、地方官として任国へ下る人に餞別の宴をしようとして招き、親しい間柄だったので、妻に盃をすすめさせて、女の装束を引き出物として与えようとする。主人の男が歌を詠んで、装束の裳の腰に結びつけさせる。

「旅立って行くあなたのためにと、(裳を)脱いだので、私まで喪がなくなってしまいそうです(あなたの旅に災いがありませんように)」。

この歌は、その場で詠まれた歌の中でも趣があったので、心にとめて、声に出しては詠まず、腹の中でじっくり味わって。

〔第45段〕昔、ある男がいた。大切に育てられていたある家の娘が、なんとかしてこの男に思いを打ち明けたいと思っていた。口に出すことができなかったのだろうか、病気になって死にそうになったときに、「このように思っていたのです」と言ったのを、親が聞きつけて、泣く泣く男に知らせたので、男はうろたえてやって来たけれど、娘は死んでしまったので、男はぼんやりと喪に籠もっていた。時は六月の末、たいそう暑いころで、宵のうちは管絃などをして過ごし、夜がふけて、やや涼しい風が吹いてきた。螢が高く飛びあがる。この男は、横たわってそれを見て、

「空を飛んで行く螢よ、雲の上まで行けるのなら、地上ではもう秋風が吹いていると雁に告げておくれ」。

「なかなか暮れない夏の長い一日を、物思いにふけって過ごしていると、なんということもなく悲しいことだ」。

〔第46段〕昔、ある男に、たいそう親しい友がいた。片時も離れず思い合っていたのに、その友が地方へ行くことになったので、たいそう名残惜しく思って別れた。月日がたって友が寄こした手紙に、「あきれるほど長く会わずに月日がたってしまったので、お忘れになってしまったのではないかと、ひどく心配しております。世の中の人の心は、会わずにいると忘れてしまうもののようですから」と書いてあったので、詠んで贈った、

「会わずにいるとも思われないことだ。あなたを忘れる時がないので、いつも面影に立って見えるから」。

〔第47段〕昔、ある男が、なんとかして親しくなりたいと思う女がいた。けれども、女はこの男を浮気者だと聞いて、つれない態度ばかりがつのって、詠んで寄こした、

「大幣のように、あなたを引き寄せる手はたくさんあるので、思ってはいても、とても頼りにすることはできません」。

男の返歌、

「大幣だと評判は立っていますが、大幣も流れ流れて、最後には寄る瀬があるというではありませんか(私の行き着く先はあなたです)」。

〔第48段〕昔、ある男がいた。餞別の宴をしようとして人を待っていたが、来なかったので、

「今こそ分かった、待つのはつらいものだと。人が待っているであろう里を、離れずに訪ねるべきだった」。

〔第49段〕昔、ある男が、妹がたいそうかわいらしいのを見ていて、

「若々しくて共寝をしたらよさそうに見える若草のようなあなたを、ほかの男が結ぶ(妻にする)のが惜しく思われます」と申し上げた。妹の返歌、

「初草のように、なんと珍しいお言葉でしょう。私は何の隔てもなく兄上をお慕いしていましたのに」。

〔第50段〕昔、ある男がいた。恨み言を言ってきた女を逆に恨んで、

「鳥の卵を十ずつ十回重ねることができたとしても、思ってくれない人を思うことなどあろうか」

と言ったところ、女は、

「朝露は消え残ることもあるでしょうが、誰がこの男女の仲を最後まで頼りにできるでしょう」。また男が、

「吹く風に去年の桜は散らずに残っていたとしても、ああ頼りにならない、人の心は」。また女の返歌、

「流れる水に数を書くよりもはかないのは、思ってくれない人を思うことです」。また男が、

「流れゆく水と、過ぎゆく年齢と、散る花と、どれが『待て』という言葉を聞いてくれるだろうか」。

浮気くらべを互いにしていた男女が、それぞれ人目を忍んで出歩いていたことをいうのであろう。

意訳

〔第43段〕親王に寵愛される女は、ほかの男にも心を寄せる。恋の相手をほととぎすにたとえて、あちこちで鳴く浮気を責める男に、女は「浮名ばかり立って、今朝は泣いている」と応じ、男もそれでも頼りにしていると返す。初夏のほととぎすに託した、恋のかけひきである。

〔第44・45段〕地方へ下る友を、妻に盃をすすめさせ、装束を贈って送り出す男。裳を脱いだので「喪(災い)」もなくなる、という機知の歌を、語り手は声に出さず腹で味わったという。一方、思いを打ち明けられないまま死んだ娘のために喪に籠もった男は、夏の夜の螢に、亡き人の魂を天に運ぶ使いを見る。

〔第46〜50段〕遠国の友には「あなたを忘れる時がない」と書き送り、浮気者と警戒する女には「最後に流れ着く瀬はあなただ」と応じる。妹への戯れの歌もあれば、互いの浮気を言い合う「あだくらべ」もある。恋と友情の歌が、さまざまな形で並べられている。

語釈・文法注

かやのみこ
賀陽親王(794〜871)。桓武天皇の皇子。
しでのたをさ
死出の田長(たおさ)。ほととぎすの異名。
いへとうじ
家刀自。主婦。妻。
もこし
裳(も)の腰。裳は女性の正装で腰の後ろにつける衣。その腰紐の部分。
大ぬさ
大幣。祓えのときに用いる大きな幣(ぬさ)。祓えのあと人々が引き寄せて身をなでたことから、引く手あまたのたとえ。最後は川に流した。
あだくらべ
浮気くらべ。互いの不実を言い合うこと。

文法

「ゆるさゞりけり」
放っておかなかった。(女を)親王一人のものにさせておかなかった。
「うとまれぬ」
「る」は自発、「ぬ」は完了。自然と嫌になってしまう。
「疎き人にしあらざりければ」
「し」は強意。疎遠な人ではなかったので。
「よます。はらにあぢはひて」
声に出しては詠まず、腹の中でじっくり味わって、の意に解される。底本の表記は「よます」。
「つげこせ」
「こせ」は願望の助動詞「こす」の命令形。告げてくれ。
「めかるれば」
「目離(か)る」は、会わずに離れている。
「え こそたのまざりけれ」
「え…ず」で不可能。頼りにすることができない。
「うらわかみ」
「うら若し」の語幹に「み」が付いて、若々しいので。
「まててふこと」
「てふ」は「といふ」のつづまった形。「待て」という言葉。

和歌

郭公ながなく里のあまたあればなほうとまれぬおもふものから

詠者
男(あとから言い寄った男)
状況
親王に寵愛される女に、ほととぎすの絵を描いて贈った歌。『古今和歌集』夏によみ人しらずとして載る。

修辞

擬人法
ほととぎすに呼びかけ、浮気な女にたとえる。
逆接
「おもふものから」で、恋しいのに嫌になる心を表す。

名のみたつしでのたをさはけさぞ鳴く庵あまたとうとまれぬれば

詠者
女
状況
男の気持ちを察して返した歌。

修辞

掛詞
「鳴く」に「泣く」を掛ける。
比喩
自分をほととぎす(しでのたをさ)に、通う男たちを庵にたとえる。

いほりおほきしでの田長はなほたのむわがすむ里に聲したえずは

詠者
男
状況
女の歌への返歌。

修辞

比喩
前の歌を受けて、ほととぎすの声に女の訪れをたとえる。

いでゝゆく君がためにと脫ぎつれば我さへもなくなりぬべきかな

詠者
あるじの男
状況
地方へ下る人への餞別に、女の装束を贈るときに裳の腰に結びつけた歌。

修辞

掛詞
「も」に「裳」と「喪(わざわい)」を掛ける。

ゆくほたる雲のうへまでいぬべくは秋かぜふくとかりにつげこせ

詠者
男
状況
自分を思って死んだ娘のために喪に籠もり、夏の夜、高く飛ぶ螢を見て詠んだ歌。『後撰和歌集』秋上に在原業平の歌として載る。

修辞

擬人法
螢に、雁への伝言を頼む。
寓意
螢に亡き人の魂を、秋に来る雁に亡き人の帰りを重ねて読む説がある。

暮れがたき夏の日ぐらしながむればそのことゝなくものぞ悲しき

詠者
男
状況
同じく、喪に籠もって夏の長い一日を過ごしながら詠んだ歌。

修辞

掛詞
「日ぐらし」に「一日中」と蝉の「ひぐらし」を掛けるとする説がある。

めかるともおもほえなくに忘らるゝときしなければ面かげにたつ

詠者
男
状況
地方へ行った親友から、忘れてしまったのではと手紙が来たときの返事。

修辞

逆説
会っていないのに、面影がいつも見えるので会わない気がしない、と言う。

大ぬさのひく手あまたになりぬれば思へどえこそたのまざりけれ

詠者
女
状況
浮気者と噂される男に贈った歌。『古今和歌集』恋四に載る。

修辞

比喩
多くの人に引かれる大幣に、多くの女に慕われる男をたとえる。

大ぬさと名にこそたてれ流れてもつひによる瀨はありといふものを

詠者
男
状況
女の歌への返歌。『古今和歌集』恋四に在原業平の歌として載る。

修辞

縁語
「大ぬさ」「流れ」「瀬」が縁語。
比喩
最後に流れ着く瀬に、行き着く先の女をたとえる。

今ぞしるくるしきものと人またむ里をばかれず訪ふべかりけり

詠者
男
状況
餞別の宴の客を待っていて、来なかったときに詠んだ歌。『古今和歌集』雑下に在原業平の歌として載る。

修辞

気づき
待たされる身になって、待つ人のつらさを初めて知る。

うらわかみねよげに見ゆる若草を人のむすばむことをしぞおもふ

詠者
男(兄)
状況
かわいらしい妹を見て詠んだ戯れの歌。

修辞

掛詞
「ね」に「根」と「寝」、「むすぶ」に「(草を)結ぶ」と「契りを結ぶ」を掛ける。
比喩
妹を若草にたとえる。

初草のなどめづらしきことの葉ぞうらなくものをおもひけるかな

詠者
妹
状況
兄の歌への返歌。

修辞

縁語
「初草」「葉」「うら(末)」が縁語。
掛詞
「うらなく」に「末無く」と「心無く(隔てなく)」を掛ける。

鳥の子を十づゝとをはかさぬともおもはぬ人を思ふものかは

詠者
男
状況
恨み言を言う女を逆に恨んで詠んだ歌。

修辞

誇張
卵を十個ずつ十回積み重ねるという、ありえないことを持ち出す。
反語
「ものかは」で、思うものかと強く否定する。

朝露は消えのこりてもありぬべしたれかこの世をたのみはつべき

詠者
女
状況
男の歌への返歌。

修辞

対比
はかない朝露よりも、男女の仲のほうが頼りにならないと言う。

ふくかぜにこぞの櫻は散らずともあなたのみがた人のこゝろは

詠者
男
状況
女の歌を受けてさらに詠んだ歌。

修辞

倒置
「人のこゝろは」を最後に置いて強調する。

ゆく水にかずかくよりもはかなきはおもはぬ人をおもふなりけり

詠者
女
状況
男の歌を受けてさらに返した歌。『古今和歌集』恋一によみ人しらずとして載る。

修辞

比喩
流れる水に数を書くことに、むなしい片思いをたとえる。

ゆく水とすぐるよはひとちる花といづれまててふことをきくらむ

詠者
男
状況
あだくらべの最後に男が詠んだ歌。

修辞

列挙
水・年齢・花と、とどまらないものを並べる。

解説

第45段の螢の歌は、『後撰和歌集』に業平の歌として載る。螢を亡き人の魂と見る考え方は和歌によく見られ、和泉式部の「物思へば沢の螢もわが身よりあくがれいづる魂かとぞ見る」も知られている。

第49段の兄妹の贈答は、『源氏物語』総角の巻で、匂宮が姉の女一宮に『伊勢物語』の絵を見せる場面で引かれている。物語の中で物語が読まれる例として注目される。

第50段の「あだくらべ」は、男と女が五首の歌を交互に詠み、はかないもの、頼りにならないものを次々と挙げていく。歌をつなげて一つの場面を作る『伊勢物語』の方法がよく表れた段である。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部三 雑上(伊勢物語) 板倉屋書房、明治36年(1903)、46–48頁(コマ27–28)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日