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伊勢物語 第6章(第25段〜第38段)

恋の贈答さまざま

逢うとも逢わないとも言わない女、水鏡に映る自分の泣き顔、水漏らさじと契った仲の破綻、玉の緒・しづのをだまき・玉かづら・下紐。地の文はわずか一、二行で、歌が主役となる短い段が十四続く。最後は紀有常と「恋とは何か」を問い合う友情の歌で結ぶ。

  1. 1むかしむかしむかし、、、男をとこ男をとこおとこありありありけりけりけり。。。逢あ逢ああははわじじじととともももいはいはいわざりざりざりけるけるける女をんな女をんなおんなののの、、、さすがさすがさすがなりなりなりけるけるけるがががもともともとにににいひいひいいやりやりやりけるけるける、、、「「「秋あき秋あきあきののの野の野ののにににさゝさゝささわけわけわけししし朝あした朝あしたあしたののの袖そで袖そでそでよりよりよりもももあはあはあわでででぬるぬるぬる夜よ夜よよぞぞぞひぢひぢひじまさりまさりまさりけるけるける」」」。。。
  2. 2色いろ色いろいろごのみごのみごのみなるなるなる女をんな女をんなおんな、、、かへしかへしかへし、、、
  3. 3「「「みるみるみるなきなきなき我わ我わわががが身み身みみをををうらうらうらととと知し知ししらららねねねばばばやややかれかれかれなでなでなであまあまあまののの足あし足あしあしたゆくたゆくたゆくくるくるくる」」」。。。
  4. 4むかしむかしむかし、、、男をとこ男をとこおとこ、、、五ご五ごご條でう條でうじょうわたりわたりわたりなりなりなりけるけるける女をんな女をんなおんなをををえええ得え得ええずずずなりなりなりにににけるけるけることゝことゝことと、、、わびわびわびたりたりたりけるけるける人ひと人ひとひとののの返かへり返かへりかえり事ごと事ごとごとににに、、、「「「おもほえおもほえおもおえずずず袖そで袖そでそでにににみなとみなとみなとのののさわぐさわぐさわぐかなかなかなもろこしもろこしもろこし船ぶね船ぶねぶねのののよりよりよりしししばかりばかりばかりににに」」」。。。
  5. 5むかしむかしむかし、、、男をとこ男をとこおとこ、、、女をんな女をんなおんなののの許もと許もともとににに一ひと一ひとひと夜よ夜よよいきいきいきててて、、、またまたまたもももいかいかいかずずずなりなりなりにににけれけれければばば、、、女をんな女をんなおんなののの親おや親おやおや腹はら腹はらはら立だ立だだちちちててて、、、手て手てて洗あら洗あらあらふふう所ところ所ところところににに、、、ぬきぬきぬきをををとりとりとりててて投な投ななげげげすてすてすてけれけれければばば、、、たらひたらひたらいののの水みづ水みづみずににに泣な泣ななくくくかげかげかげののの見み見みみえええけるけるけるををを、、、みづからみづからみずから、、、
  6. 6「「「我われ我われわればかりばかりばかり物もの物ものもの思おも思おもおもふふう人ひと人ひとひとはははまたまたまたもももあらあらあらじじじとととおもへおもへおもえばばば水みづ水みづみずのののしたしたしたにににもももありありありけりけりけり」」」とととよめよめよめりりりけるけるけるををを、、、來こ來ここざりざりざりけるけるける男をとこ男をとこおとこきゝきゝききててて、、、
  7. 7「「「みなみなみなにににわれわれわれややや見み見みみゆゆゆらむらむらんかはづかはづかわずさへさへさえ水みづ水みづみずののの下した下したしたにににてててもろもろもろこゑこゑこえににになくなくなく」」」。。。
  8. 8むかしむかしむかし、、、色いろ色いろいろごのみごのみごのみなりなりなりけるけるける女をんな女をんなおんな出い出いいでゝでゝでていにいにいにけれけれければばば、、、いふいふいうかひかひかいなくなくなくててて、、、男をとこ男をとこおとこ、、、
  9. 9「「「などなどなどてててかくかくかく逢あ逢ああふふうごごごににになりなりなりぬぬぬらむらむらん水みづ水みづみず漏もら漏もらもらさささじじじととと契ちぎ契ちぎちぎりりりしししものものものををを」」」。。。
  10. 10むかしむかしむかし、、、春とう春とうとう宮ぐう宮ぐうぐうののの女御にようご女御にようごにょうごののの御おほん御おほんおおんかたかたかたののの、、、花はな花はなはなののの賀が賀ががににに召め召めめしししあげあげあげられられられたりたりたりけるけるけるににに、、、なりなりなりけるけるける人ひと人ひとひと、、、
  11. 11「「「花はな花はなはなにににあかあかあかぬぬぬなげきなげきなげきはははいついついつもももせせせしかしかしかどもどもども今日けふ今日けふきょうのののこよひこよひこよいににに似に似ににるるる時とき時ときときはははなしなしなし」」」。。。
  12. 12むかしむかしむかし、、、男をとこ男をとこおとこ、、、はつかはつかはつかなりなりなりけるけるける女をんな女をんなおんなのののもともともとににに、、、
  13. 13「「「逢あ逢ああふふうことことことははは玉たま玉たまたまののの緒を緒ををばかりばかりばかりおもほえおもほえおもおえてててつらきつらきつらき心こころ心こころこころのののながくながくながく見み見みみゆゆゆらむらむらん」」」。。。
  14. 14むかしむかしむかし、、、男をとこ男をとこおとこ、、、宮みや宮みやみやののの內うち內うちうちにににててて、、、あるあるあるごたちごたちごたちののの局つぼね局つぼねつぼねののの前まへ前まへまえをををわたりわたりわたりけるけるけるににに、、、何なに何なになにのののあだあだあだにににかかか思おも思おもおもひひいけむけむけん、、、「「「よしよしよしややや草くさ草くさくさ葉ば葉ばばよよよならならならむむんさがさがさがみみみむむん」」」ととといひいひいいけれけれければばば、、、男をとこ男をとこおとこ、、、
  15. 15「「「罪つみ罪つみつみもももなきなきなき人ひと人ひとひとをををばばばわすれわすれわすれ草ぐさ草ぐさぐさおのおのおのがががうへうへうえにににぞぞぞおふおふおうととといふいふいうなるなるなる」」」
  16. 16ととといふいふいうををを、、、ねたうねたうねとう女をんな女をんなおんなもももおもひおもひおもいけりけりけり。。。
  17. 17昔むかし昔むかしむかし、、、物もの物ものものいひいひいいけるけるける女をんな女をんなおんなににに年とし年としとしごろごろごろありありありててて、、、
  18. 18「「「いにしへいにしへいにしえのののしづしづしずのののををおくりくりくりかへしかへしかえし昔むかし昔むかしむかしををを今いま今いまいまににになすなすなすよしよしよしもももがながながな」」」
  19. 19ととといへいへいえりりりけれけれけれどどど、、、何なに何なになにとととももも思おも思おもおもははわずずずやややありありありけむけむけん。。。
  20. 20昔むかし昔むかしむかし、、、男をとこ男をとこおとこ、、、津つ津つつののの國くに國くにくにうばらうばらうばらののの郡こほり郡こほりこおりににに通かよ通かよかよひひいけるけるける女をんな女をんなおんな、、、このこのこのたびたびたびいきいきいきてててはははまたまたまたははは來こ來ここじじじととと思おも思おもおもへへえるるる氣色けしき氣色けしきけしきなれなれなればばば、、、男をとこ男をとこおとこ、、、
  21. 21「「「蘆あし蘆あしあし邊べ邊べべよりよりよりみちみちみち來く來くくるるる潮しほ潮しほしおのののいやいやいやましましましににに君きみ君きみきみにににこゝろこゝろこころをををおもひおもひおもいますますますかなかなかな」」」。。。かへしかへしかへし、、、
  22. 22「「「こもりこもりこもりににに思おも思おもおもふふうこゝろこゝろこころをををいかでいかでいかでかはかはかは船ふね船ふねふねさすさすさす棹さを棹さをさおのののさしさしさしてててしるしるしるべきべきべき」」」。。。田舍ゐなか田舍ゐなかいなか人びと人びとびとのののことばことばことばにににてててははは、、、よしよしよしやややあしあしあしややや。。。
  23. 23むかしむかしむかし、、、男をとこ男をとこおとこ、、、つれなかりつれなかりつれなかりけるけるける人ひと人ひとひとのののもともともとににに、、、
  24. 24「「「いへいへいえばばばえええにににいはいはいわねねねばばば胸むね胸むねむねにににさわがさわがさわがれれれててて心こころ心こころこころひとつひとつひとつににになげくなげくなげくころころころかなかなかな」」」。。。おもおもおもなくなくなくててていへいへいえるるるなるなるなるべしべしべし。。。
  25. 25昔むかし昔むかしむかし、、、男をとこ男をとこおとこ、、、心こころ心こころこころにににもももあらあらあらででで絶た絶たたえええたるたるたる人ひと人ひとひとのののもともともとににに、、、
  26. 26「「「玉たま玉たまたまののの緒を緒をををををあわあわあわににによりよりよりてててむすべれむすべれむすべればばば絕た絕たたえええてててののの後のち後のちのちもももあはあはあわむむんとととぞぞぞおもふおもふおもう」」」。。。
  27. 27昔むかし昔むかしむかし、、、男をとこ男をとこおとこ忘わす忘わすわすれれれぬるぬるぬるなめりなめりなめりととととひとひといごとごとごとしししけるけるける女をんな女をんなおんなのののもともともとににに、、、
  28. 28「「「谷たに谷たにたにせばみせばみせばみ峰みね峰みねみねまでまでまではへはへはへるるる玉たま玉たまたまかづらかづらかずら絕た絕たたえええむむんととと人ひと人ひとひとをををわわわがががおもはおもはおもわなくなくなくににに」」」。。。
  29. 29むかしむかしむかし、、、男をとこ男をとこおとこ、、、色いろ色いろいろ好ごの好ごのごのみみみなりなりなりけるけるける女をんな女をんなおんなにににあへあへあえりりりけりけりけり。。。うしろうしろうしろめたくめたくめたくややや思おも思おもおもひひいけむけむけん、、、「「「われわれわれならならならででで下した下したしたとくとくとくなななあさあさあさがほがほがおののの夕ゆふ夕ゆふゆうかげかげかげまたまたまたぬぬぬ花はな花はなはなにににはははありありありともともとも」」」。。。かへしかへしかへし、、、
  30. 30「「「二ふた二ふたふた人り人りりしししててて結むす結むすむすびびびししし紐ひも紐ひもひもををを一ひと一ひとひと人り人りりしししてててあひあひあい見み見みみるるるまでまでまではははとかとかとかじじじとととぞぞぞおもふおもふおもう」」」。。。
  31. 31むかしむかしむかし、、、紀き紀ききののの有あり有ありあり常つね常つねつねいきいきいきたるたるたるにににありきありきありきててておそくおそくおそくきききけるけるけるににによみよみよみてててやりやりやりけるけるける。。。
  32. 32「「「君きみ君きみきみににによりよりよりおもひおもひおもいならひならひならいぬぬぬ世よ世よよののの中なか中なかなかののの人ひと人ひとひとはははこれこれこれをををやややこひこひこいととといふいふいうらむらむらん」」」。。。
  33. 33かへしかへしかへし、、、
  34. 34「「「ならはならはならわねねねばばば世よ世よよののの人ひと人ひとひとごとごとごとににに何なに何なになにをををかかかももも戀こひ戀こひこいとととはははいふいふいうととと問と問ととひひいしししわれわれわれしもしもしも」」」。。。

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

〔第25段〕昔、ある男がいた。逢おうとも逢うまいとも言わなかった女で、そうはいってもやはり心を許さない女のもとに、歌を贈った。「秋の野で笹を分けて帰った朝の袖よりも、逢えずに寝る夜の袖のほうが、涙でいっそう濡れています」。

恋多き女の返歌、

「海松布(みるめ)の生えない浦のように、逢う気のない私を憂いものと知らないのでしょうか。離れずに、海人が足もだるくなるほど通って来るように、あなたは通って来ますね」。

〔第26段〕昔、ある男が、五条あたりに住んでいた女を手に入れられなくなってしまったことを嘆いていた人への返事に、「思いがけず、袖に港のように涙の波が騒ぐことです。唐土の船が寄って来るような、大きな出来事があったわけでもないのに」。

〔第27段〕昔、ある男が、女のもとに一夜通って、その後は行かなくなってしまったので、女の親が腹を立てて、手を洗う所で、たらいに掛けた簀を取って投げ捨てたところ、たらいの水に泣いている自分の姿が映ったのを見て、女が自分で、

「私ほど物思いをする人はほかにいないだろうと思っていたら、水の下にもいたことです」と詠んだのを、来なかった男が聞いて、

「水の口に私の姿が見えるのでしょうか。蛙までも水の下で声をそろえて鳴いています(私もあなたと一緒に泣いているのです)」。

〔第28段〕昔、恋多き女が家を出て行ってしまったので、どうしようもなくて、男が、

「どうしてこのように、逢うことがかたみ(竹かご)のように難しくなってしまったのだろう。水も漏らさないほど固く契ったのに」。

〔第29段〕昔、東宮の母である女御の御方で催された花の宴に召し出されたときに、近衛府の役人であった人が、

「花をいくら見ても見飽きない嘆きはいつもしてきたけれど、今日の今宵ほどその思いが深いときはありません」。

〔第30段〕昔、ある男が、ほんのわずかに逢っただけの女のもとに、

「逢うことは玉の緒ほど短く思われて、つれないあなたの心がなんと長く続くように見えることか」。

〔第31段〕昔、ある男が、宮中で、ある女房の局の前を通りかかったとき、女は何を恨みに思ったのだろうか、「まあいいわ、草葉のようなあなたが、どうなっていくか見ていましょう」と言ったので、男が、

「罪もない人を呪うと、忘れ草が自分の身の上に生えるということですよ(あなたが人から忘れられることになりますよ)」

と言うのを、女も憎らしく思った。

〔第32段〕昔、親しく語らっていた女に、何年もたってから、

「昔の倭文(しず)の苧環(おだまき)の糸を繰り返すように、昔を今に取り戻すすべがあればよいのに」

と言ったけれど、女は何とも思わなかったのだろうか。

〔第33段〕昔、ある男が、摂津の国菟原の郡に通っていた女が、今度帰ったら二度と来ないだろうと思っている様子だったので、男が、

「蘆の生える岸辺から満ちてくる潮がいよいよ増すように、あなたを思う心はますます深まります」。女の返歌、

「入り江にこもるように心の奥に秘めた私の思いを、どうして船を棹さすように、それと知ることができるでしょうか」。田舎の人の言葉としては、よいのだろうか悪いのだろうか。

〔第34段〕昔、ある男が、つれなかった人のもとに、

「口に出して言おうとしても言えず、言わなければ胸の中が騒がしくて、自分の心ひとつに嘆いているこのごろです」。恥ずかしげもなく言ったのだろう。

〔第35段〕昔、ある男が、本意でもなく縁の切れてしまった人のもとに、

「玉の緒を沫緒(あわお)に縒って結んであるので、いったん切れても、のちにはまた逢おうと思います」。

〔第36段〕昔、「私を忘れてしまったようね」と問いかけて責めた女のもとに、

「谷が狭いので峰まで這いのぼる玉かずらのように、あなたとの仲が絶えようとは、私は思っていないのに」。

〔第37段〕昔、ある男が、恋多き女と結ばれた。気がかりに思ったのだろうか、「私以外の人のために下紐を解かないでおくれ。あなたは夕方を待たずにしぼむ朝顔の花のように、移り気であるとしても」。女の返歌、

「二人で結んだ紐を、私一人では、ふたたびあなたに逢うまでは解くまいと思います」。

〔第38段〕昔、紀有常のもとに行ったところ、有常が出歩いていて遅く帰って来たので、詠んで贈った。

「あなたのおかげで、待つつらさを思い知りました。世間の人は、これを恋というのでしょうか」。

有常の返歌、

「恋に慣れていない私は、世間の人に会うたびに、何を恋というのかと尋ねていたのですよ(その私が教えたというのですか)」。

意訳

〔第25〜28段〕逢おうとしない女に、逢わない夜の涙を訴える男。親に簀を投げ捨てられたたらいの水に、自分の泣き顔を見つけて「水の下にも物思う人がいた」と詠む女と、蛙の声に重ねて「私も泣いている」と返す男。歌は嘆きを、ときに大げさに、ときにおかしみを込めて言い表す。

〔第29〜32段〕花の宴で見飽きぬ思いをうたう歌、玉の緒の短さとつれなさの長さを比べる歌、呪いの言葉に「忘れ草はあなたの身に生える」とやり返す歌、昔を今に取り戻したいとうたう歌。どれも一首の歌が段の中心で、地の文はその場面設定にとどまる。

〔第33〜37段〕摂津の女との潮と入り江の贈答、言うに言えない胸の内、切れてもまた結ばれる玉の緒、絶えることのない玉かずら、二人で結んだ下紐。縁が切れそうな恋をつなぎとめようとする歌が続く。

〔第38段〕男が紀有常を訪ねて待ちぼうけを食い、「これが恋というものか」とからかうと、有常は「恋を知らない私に恋を教わるつもりか」と切り返す。男同士の親しい冗談で、短い恋の段の連なりを締めくくる。

語釈・文法注

みるめ
海松布。海藻のミル。「見る目(逢う機会)」を掛けることが多い。
ぬきす
貫簀。細い竹を糸で編んだ簀で、たらいの上に置いて、手を洗う水が飛び散らないようにした。
みなくち
水口。田に水を引き入れる口。たらいの水の出入り口に見立てる。
かたみ
筐(かたみ)。竹で編んだ目の粗いかご。「難(かた)み」を掛ける。
このゑづかさ
近衛府の役人。近衛府は宮中の警護にあたる役所。在原業平は右近衛権中将を務めた。
うけへ
「うけふ」は、神に祈って誓う、呪う。
しづのをだまき
倭文(しず、古代の織物)を織るための糸を、丸く巻いたもの。くり返し糸を繰り出すことから「くりかへし」を導く。
こもりえ
隠り江。奥まって外から見えない入り江。心に秘めた思いのたとえ。
あわを
沫緒。糸の縒り方の一つとされるが、詳しくはわからない。切れてもまた結び合わせられる縒り方と解されている。
下紐
下着の紐。恋人と別れるとき互いに結び合い、再会まで解かないという習俗があった。
がり
…のもとへ。人を表す語に付く。

文法

「さすがなりけるが」
そうはいってもやはり(逢うことは許さない)女であったが。
「え得ずなりにけること」
手に入れることができなくなってしまったこと。
「来ざりける男きゝて」
来なくなっていた男が(女の歌を)聞いて。
「よしや草葉よならむさがみむ」
「よしや」は、ままよ。「さが」は性質、成り行き。草葉のようなあなたの末を見届けよう、の意に解される。
「何とも思はずやありけむ」
語り手の推測。女は何とも思わなかったのだろうか。
「よしやあしや」
語り手の評。田舎の人の歌としては、よいのか悪いのか(なかなかよい)。
「いへばえに」
「え」は「得」で、言おうとしても言えずに。
「おもなくて」
「面無し」は、恥ずかしげもない、厚かましい。
「下紐とくな」
「な」は禁止の終助詞。下紐を解くな。
「問ひしわれしも」
「しも」は強意。尋ねていたこの私が(恋を教えたというのか)。

和歌

秋の野にさゝわけし朝の袖よりもあはでぬる夜ぞひぢまさりける

詠者
男
状況
逢うとも逢わないとも言わない女に贈った歌。『古今和歌集』恋三に在原業平の歌として載る。

修辞

対比
露に濡れた朝の袖と、涙に濡れる夜の袖を比べる。

みるめなき我が身をうらと知らねばやかれなであまの足たゆくくる

詠者
色好みの女
状況
男の歌への返歌。『古今和歌集』恋三に小野小町の歌として載る。

修辞

掛詞
「みるめ」に「海松布」と「見る目」、「うら」に「浦」と「憂」、「かれ」に「離れ」と「枯れ」を掛ける。
縁語
「みるめ」「うら」「あま」は海の縁語。

おもほえず袖にみなとのさわぐかなもろこし船のよりしばかりに

詠者
男
状況
五条あたりの女を手に入れられなくなって嘆く人への返事。

修辞

比喩
涙を港の波にたとえる。
誇張
唐土の船が着いたほどの騒ぎにたとえる。

我ばかり物思ふ人はまたもあらじとおもへば水のしたにもありけり

詠者
女
状況
たらいの水に映った自分の泣き顔を見て詠んだ歌。

修辞

機知
水に映った自分の姿を、もう一人の物思う人に見立てる。

みなくちにわれや見ゆらむかはづさへ水の下にてもろこゑになく

詠者
男
状況
女の歌を聞いて返した歌。

修辞

掛詞
「なく」に「鳴く」と「泣く」を掛ける。
見立て
蛙の声に、ともに泣く自分を重ねる。

などてかく逢ふごかたみになりぬらむ水漏さじと契りしものを

詠者
男
状況
恋多き女が出て行ったあとに詠んだ歌。

修辞

掛詞
「あふご」に「逢ふ期」と「朸(おうご、天秤棒)」、「かたみ」に「難み」と「筐(かご)」を掛ける。
縁語
「あふご」「かたみ」「水漏さじ」が縁語。

花にあかぬなげきはいつもせしかども今日のこよひに似る時はなし

詠者
近衛府の役人
状況
東宮の母女御の御方の花の宴に召されて詠んだ歌。『新古今和歌集』春下に在原業平の歌として載る。

修辞

強調
「いつも」と「今日のこよひ」を対比して、今宵の感動の深さをいう。

逢ふことは玉の緒ばかりおもほえてつらき心のながく見ゆらむ

詠者
男
状況
わずかに逢っただけの女に贈った歌。

修辞

対比
短い「玉の緒」と、長く続くつれなさを対比する。

罪もなき人をうけへばわすれ草おのがうへにぞおふといふなる

詠者
男
状況
宮中で女房に恨み言を言われて返した歌。

修辞

比喩
人を呪えば、自分の身に忘れ草が生える、つまり自分が忘れられると言い返す。

いにしへのしづのをだまきくりかへし昔を今になすよしもがな

詠者
男
状況
昔親しかった女に、何年もたってから贈った歌。

修辞

序詞
「いにしへのしづのをだまき」が「くりかへし」を導く。

蘆邊よりみち來る潮のいやましに君にこゝろをおもひますかな

詠者
男
状況
二度と来ないだろうと思っている摂津の女に贈った歌。

修辞

序詞
「蘆邊よりみち來る潮の」が「いやまし」を導く。

こもりえに思ふこゝろをいかでかは船さす棹のさしてしるべき

詠者
摂津の女
状況
男の歌への返歌。

修辞

序詞
「船さす棹の」が「さして」を導く。
掛詞
「さして」に「(棹を)差して」と「指して(はっきりと)」を掛ける。

いへばえにいはねば胸にさわがれて心ひとつになげくころかな

詠者
男
状況
つれない人に、思いを打ち明けた歌。

修辞

対句
「いへば」「いはねば」を並べて、どちらにもできない苦しさを表す。

玉の緒をあわをによりてむすべれば絕えての後もあはむとぞおもふ

詠者
男
状況
心ならずも縁の切れた人に贈った歌。

修辞

掛詞
「あわを」の「あわ」に「逢は(む)」を響かせる。
縁語
「緒」「より」「むすべ」「絶え」が縁語。

谷せばみ峰まではへる玉かづら絕えむと人をわがおもはなくに

詠者
男
状況
「忘れてしまったのね」と責める女に贈った歌。『古今和歌集』恋四に載る。

修辞

序詞
「谷せばみ峰まではへる玉かづら」が「絶えむ」を導く。

われならで下紐とくなあさがほの夕かげまたぬ花にはありとも

詠者
男
状況
恋多き女と結ばれて、気がかりに思って贈った歌。

修辞

比喩
夕方を待たずにしぼむ朝顔に、移り気な女をたとえる。

二人して結びし紐を一人してあひ見るまではとかじとぞおもふ

詠者
女
状況
男の歌への返歌。

修辞

対比
「二人して」「一人して」を対比する。

君によりおもひならひぬ世の中の人はこれをやこひといふらむ

詠者
男
状況
紀有常を訪ねて、帰りの遅い有常を待ちながら詠んで贈った歌。

修辞

戯れ
友人を待つつらさを恋にたとえてからかう。

ならはねば世の人ごとに何をかも戀とはいふと問ひしわれしも

詠者
紀有常
状況
男の歌への返歌。

修辞

反撃
恋に疎い自分が恋を教えたのか、とやり返す。

解説

第25段から第38段は、地の文がごく短く、歌が中心となる段が続く。とくに第25段の小野小町の歌は、『古今和歌集』で業平の歌と並んで載っているもので、物語はこの二首を一つの恋の贈答に仕立てている。このように、もとは別々の歌を組み合わせて物語を作る方法は、『伊勢物語』の成り立ちを考える手がかりとされる。

第29段の「春宮の女御」は、のちの陽成天皇の母、二条の后高子を指すと考えられている。花の宴に召された近衛府の役人を業平と見れば、后との昔の恋を秘めた歌として読むこともできる。

第32段の「いにしへのしづのをだまき」の歌は、のちに源義経の愛妾、静御前が鎌倉の鶴岡八幡宮で舞ったときに「しづやしづしづのをだまきくり返し昔を今になすよしもがな」と替えて歌ったと『吾妻鏡』『義経記』に伝えられ、広く知られるようになった。

関連

出典

底本
丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部三 雑上(伊勢物語) 板倉屋書房、明治36年(1903)、41–44頁(コマ24–26)。国立国会図書館デジタルコレクション
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日