古典ライブラリー

百人一首 第85首

よもすがら

俊恵法師(しゅんえほうし)

一晩中、来ない人を思って悩んでいるこのごろは、なかなか夜が明けず、寝室の戸の隙間までもが、白んでくれない薄情なものに思われる。

冬の長い夜、薄暗い寝室で来ない恋人を待ちながら、まだ光の差さない戸の隙間を恨めしげに見つめる女性(AI生成)
冬の長い夜、薄暗い寝室で来ない恋人を待ちながら、まだ光の差さない戸の隙間を恨めしげに見つめる女性
  1. 1初句
  2. 2物思ふものおもふ物思ふものおもふものおもうころころころははは二句
  3. 3明あけ明あけあけやらやらやら三句
  4. 4のののひまひまひまさへさへさえ四句
  5. 5けりけりけり結句

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

一晩中、(来ない人を思って)物思いをしているこのごろは、なかなか明けきらない寝室の戸の隙間までもが、(白んでくれずに)薄情なものに思われることだ。

意訳

来ない恋人を待ちながら、眠れぬまま夜を明かす女性の心を詠んだ歌である。早く夜が明けてくれればこの苦しさも終わるのに、夜はなかなか明けない。寝室の戸の隙間から夜明けの光が差し込んでくるのを待っているのに、その隙間さえも冷たく、光を通してくれない、と嘆いている。

薄情なのは恋人だけではない。戸の隙間という、本来なんの感情もないものまでが、自分につれなくしているように感じられる。恋に苦しむ心が、身の回りのすべてを恨めしく見せてしまう。男性の僧である作者が、女性の立場になって、待つ夜の長さとつらさを繊細に描き出している。

語釈・文法注

よもすがら
「夜もすがら」。一晩中、夜通し。
明やらぬ
「明けやらぬ」。すっかり明けきらない。底本の形で、一般には「明けやらで」(明けきらないで)として知られる。
ねやのひま
「閨の隙」。寝室の戸や板戸の隙間。夜明けの光が最初に差し込む所。
つれなかりけり
薄情であることよ。戸の隙間を、恋人のように薄情なものとして表す。

文法

擬人法
「ねやのひま」を、つれない人のように表す。
類推の「さへ」
「ねやのひまさへ」で、恋人ばかりか戸の隙間までも、と添加する。

和歌

詠者
俊恵法師(1113–1191頃)
源俊頼(第74首)の子で、源経信(第71首)の孫。若くして父を亡くし、東大寺の僧となった。京都・白川の自坊「歌林苑」に多くの歌人を集めて歌会を開き、歌壇の中心となった。鴨長明の和歌の師としても知られる。
出典
『千載和歌集』巻十二・恋二・766(国歌大観番号)
状況
詞書に「恋の歌とてよめる」とある。

修辞

擬人法
戸の隙間がつれない。
女性の立場で詠む
男性の作者が、恋人を待つ女性の心になって詠む。

解説

『百人一首一夕話』は、俊恵が大納言経信卿の孫で、俊頼朝臣の子であることを記し、夜通し物を思うこのごろは、早く夜が明けてほしいと思うのに、まだ明けきらない、と解いている。

俊恵が主宰した歌林苑には、身分や僧俗を問わず多くの歌人が集まり、自由な雰囲気の中で歌が詠まれた。弟子の鴨長明は、歌論書『無名抄』に、俊恵の教えを数多く書き留めている。

底本では第三句が「明やらぬ」となっている。現在一般に知られる「明けやらで」とは形が異なる。

関連

出典

底本
尾崎雅嘉『百人一首一夕話』 天保4年(1833)刊、巻7。国立国会図書館デジタルコレクション
校合
古谷知新編『日本歴史図会』第12輯(百人一首一夕話) 国民図書、大正9–10年。国立国会図書館デジタルコレクション
松下大三郎・渡辺文雄編『国歌大観』歌集部 明治34–36年
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日