百人一首 第57首
めぐりあひて
久しぶりにめぐり逢ったのに、それがあなたかどうか見分けもつかないうちに、雲に隠れてしまった夜中の月のように、あなたはあわただしく帰ってしまった。

現代語訳
久しぶりにめぐり逢って、見たのがそれ(あなた)だったのかどうかも見分けがつかないうちに、雲に隠れてしまった夜中の月のように、(あなたはあわただしく帰ってしまったことよ。)
意訳
子どものころからの友だちと、何年ぶりかに再会した。ところが、ゆっくり話をする間もなく、友はすぐに帰ってしまった。その名残惜しさを、雲間からちらりと顔を出してすぐに隠れてしまう夜中の月にたとえた歌である。
『源氏物語』の作者の歌でありながら、恋の歌ではなく、女友だちとの再会と別れを詠んでいるところが印象的である。めぐり逢う「月」と友の姿とが重なり、つかの間の再会のはかなさと、懐かしさとが、しみじみと伝わってくる。
語釈・文法注
- みしやそれとも
- 見たのがそれ(あなた)だったのかどうか。「や」は疑問。
- 雲がくれにし
- 雲に隠れてしまった。月が雲に隠れたことと、友が帰ってしまったことを重ねる。
- 夜半
- 夜中。
文法
- 見立て
- あわただしく帰ってしまった友を、雲に隠れた月に見立てる。
- 体言止め・詠嘆の「かな」
- 「夜半の月かな」で結び、名残惜しさを詠嘆する。
- 縁語
- 「めぐり」「雲がくれ」「月」が、月に関係する言葉としてつながる。
和歌
- 詠者
- 紫式部(973頃–1014頃)
学者藤原為時の娘。藤原宣孝と結婚し、大弐三位(第58首)を産んだが、夫と死別した。のちに一条天皇の中宮彰子に仕え、宮中で『源氏物語』を書き継いだ。宮仕えの日々を『紫式部日記』に記している。 - 出典
- 『新古今和歌集』巻十六・雑上・1499(国歌大観番号)
- 状況
- 詞書に「早くより童友達に侍りける人の、年ごろ経て行きあひたる、ほのかにて、七月十日のころ、月にきほひて帰り侍りければ」とある。幼いころからの友だちと何年もたってから再会したが、ほんの少しの間で、七月十日ごろの月が沈むのと競うように帰ってしまったので詠んだ。
修辞
- 見立て
- 友を月に見立てる。
- 縁語
- 「めぐり」「雲がくれ」「月」。
解説
『百人一首一夕話』は、新古今集の詞書を引き、早くから幼友達であった人が、数年たって行き逢ったが、すぐに帰ってしまったときの歌であると説明している。
紫式部の家集『紫式部集』では、この歌が冒頭に置かれており、結句は「夜半の月影」となっている。百人一首では新古今集に従って「夜半の月かな」の形で採られた。
紫式部の曾祖父は藤原兼輔(第27首)と藤原定方(第25首)、娘は大弐三位(第58首)で、四代にわたる一族の歌が百人一首に選ばれている。
関連
地図で見る
歌の舞台と作者ゆかりの場所を、現在の地図で探せます。印は場所の目安です。
作者ゆかりの場所
出典
- 底本
- 尾崎雅嘉『百人一首一夕話』 天保4年(1833)刊、巻5。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校合
- 古谷知新編『日本歴史図会』第12輯(百人一首一夕話) 国民図書、大正9–10年。国立国会図書館デジタルコレクション松下大三郎・渡辺文雄編『国歌大観』歌集部 明治34–36年
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日