古典ライブラリー

百人一首 第54首

わすれじの

儀同三司母(高階貴子)(ぎどうさんしのはは(たかしなのきし))

「いつまでも忘れない」というあなたの言葉が、遠い将来まで変わらずにいるとは信じがたいので、幸せな今日を最後に、命が尽きてしまえばいいのに。

結婚したばかりの若い女性が、夫の去ったあとの部屋で、幸福のただ中にありながら将来への不安を胸に空を見上げる場面(AI生成)
結婚したばかりの若い女性が、夫の去ったあとの部屋で、幸福のただ中にありながら将来への不安を胸に空を見上げる場面
  1. 1わすれわすれわすれののの初句
  2. 2までまでまでははは二句
  3. 3ばばば三句
  4. 4今日けふ今日けふきょうをををかぎりかぎりかぎりののの四句
  5. 5命いのち命いのちいのちととと結句

引用の仕方

レポート・論文で引用する場合の表記例です。行番号を選んでから開くと、その行へのリンクになります。

現代語訳

「いつまでも忘れまい」というあなたの言葉が、遠い将来まで変わらないことは難しいでしょうから、(幸せな)今日を最後とする命であってほしいものです。

意訳

藤原道隆が通い始めたばかりのころ、結婚の幸福のさなかに詠んだ歌である。「決して忘れない」という夫の誓いの言葉はうれしい。けれど、人の心は移ろいやすく、その言葉がいつまでも守られるとは思えない。それならいっそ、いちばん幸せな今日のうちに死んでしまいたい、という激しい思いが込められている。

幸せの絶頂で死を願うという、逆説的な愛の表現である。のちに夫の道隆は関白となり、娘の定子は一条天皇の中宮となって、一家は栄華を極めた。しかし道隆の死後、息子の伊周・隆家は失脚し、作者もまもなく世を去った。その後の運命を思い合わせると、この歌の不安は予言のようにも響く。

語釈・文法注

わすれじ
「忘れまい」。「じ」は打消意志の助動詞。夫の誓いの言葉を指す。
行末
将来、この先ずっと。
かたければ
難しいので。「(変わらずにいることは)難しいだろうから」。
ともがな
「〜であってほしい」。「もがな」は願望の終助詞。

文法

願望の「もがな」
「今日をかぎりの命ともがな」で、今日を最後に死んでしまいたいと願う。
原因・理由の「ば」
「かたければ」で、死を願う理由を示す。

和歌

詠者
儀同三司母(高階貴子)(?–996)
高階成忠の娘。円融天皇の内侍として仕え、漢詩文にすぐれて「高内侍」と呼ばれた。関白藤原道隆の妻となり、伊周・隆家・定子(一条天皇の中宮)らを産んだ。「儀同三司」は伊周のこと。
出典
『新古今和歌集』巻十三・恋三・1149(国歌大観番号)
状況
詞書に「中関白かよひそめ侍りけるころ」とある。のちの関白藤原道隆が通い始めたころに詠んだ歌。

修辞

逆説
幸福の絶頂で死を願う。

解説

『百人一首一夕話』は、中関白道隆公がまだ若く、通い始めた頃の歌であると説明している。

貴子は漢学者の家に生まれ、女性ながら漢詩をよくし、円融天皇の宮中で内侍として仕えた。娘の定子が、清少納言の仕えた中宮である。『枕草子』に描かれる定子の後宮の華やかな知的雰囲気は、母貴子から受け継がれたものともいわれる。

995年に道隆が亡くなると、翌年、伊周と隆家は花山法皇に矢を射かけた事件(長徳の変)で左遷された。貴子は息子の身を案じながら、その年のうちに亡くなった。

関連

出典

底本
尾崎雅嘉『百人一首一夕話』 天保4年(1833)刊、巻5。国立国会図書館デジタルコレクション
校合
古谷知新編『日本歴史図会』第12輯(百人一首一夕話) 国民図書、大正9–10年。国立国会図書館デジタルコレクション
松下大三郎・渡辺文雄編『国歌大観』歌集部 明治34–36年
校訂・訳・注
古典ライブラリー編集部
更新日