源氏物語 第54帖 夢浮橋(9)
薫の手紙
妹尼たちは「並々で軽々しいご身分でもいらっしゃいません」などと言い騒いで、「世に類なく気の強くいらっしゃることですね」と皆で言い合わせて、母屋の端に几帳を立てて小君を中に入れた。この子も、そうとは聞いていたが、幼いので急に言い寄るのも気が引けるが、「もう一通ございますお手紙を、何とか差し上げたい。僧都のご案内では確かなことですのに、このようにはっきりしないのでは」と伏し目になって言うので、尼たちは「そうそう、まあ可愛らしい」などと言って、「お手紙をご覧になるはずの方はここにいらっしゃるようです。外の者はどういうことかと納得しがたいので、やはりおっしゃってください。幼いお年頃ですが、このようなお使いを頼まれなさるわけもあるのでしょう」などと言うが、小君は「隔てをお置きになって、はっきりしない態度をおとりになるのでは、何を申し上げましょう。疎くお思いになってしまったので、申し上げるべきこともございません。ただこのお手紙を人づてでなく差し上げよと言われましたので、何とか差し上げたい」と言うので、妹尼は「たいそうもっともです。やはりこのように嫌なふうになさいますな。さすがに気味の悪いお心ですこと」と浮舟を説き動かして、几帳のもとに押し寄せ申し上げたので、浮舟が呆然として座っていらっしゃる気配が他の人とは違う心地がするので、小君はそこに寄って差し上げた。「お返事を早くいただいて帰参しましょう」と、このようによそよそしいのをつらいと思って急ぐ。妹尼がお手紙を解いてお見せ申し上げる。昔のままの薫のご筆跡で、紙の香りなどもいつものようにこの世のものとも思えぬほど染みている。ほのかに見て、例の物好きな出しゃばり者は、たいそう世にまれで趣深いと思うだろう。「全く申し上げようもなく、さまざまに罪の重いあなたのお心を、僧都に免じてお許し申し上げて、今は何とかせめてあきれた昔の夢語りだけでもと、急がれる心が我ながらもどかしいことです。まして人目にはどう見えるでしょう」と書きも終えなさらない。「法の師と尋ねて行く道を案内として、思いもかけぬ恋の山に踏み迷うことよ。この人(小君)をお見忘れになったでしょうか。私は行方知れずのあなたの形見として見ているのです」などと、たいそう細やかである。
- 1なのめなのめなのめににに輕々輕々かるがるしきしきしき御御おん程程ほどにににもももおはしまさおはしまさおわしまさずずず」」」などなどなどいひいひいいさわぎさわぎさわぎててて「「「世世よににに知知しらららずずず心心こころ强强つよくくくおはしますおはしますおわしますことことことぞぞぞ」」」ととと皆皆みないひいひいい合合あわせせせててて母母も屋屋やのののきはきはきわににに几几き帳帳ちょうたてたてたてゝゝて入入いれれれたりたりたりこのこのこの子子こもももさささははは聞聞ききききつれつれつれどどど、、、幼幼おさなけれけれければばばふとふとふといひいひいいよらよらよらむむんもももつゝましけれつゝましけれつつましけれどどど「「「まだまだまだ侍侍はべるるる御御おん文文ふみいかでいかでいかでたてまつらたてまつらたてまつらむむん。。。僧僧そう都都ずののの御御おんしるべしるべしるべにににはははたしかたしかたしかなるなるなるををを、、、かくかくかくおぼつかなくおぼつかなくおぼつかなく侍侍はべるるるこそこそこそ」」」とととふしふしふしめめめにてにてにていへいへいえばばば「「「そゝやそゝやそそや、、、あなあなあなうつくしうつくしうつくし」」」などなどなどいひいひいいててて「「「御御おん文文ふみ御御ご覽覽らんずずずべきべきべき人人ひとはははこゝこゝここににに物物ものせせせさせさせさせ給給たまふふうめりめりめり。。。けそうけそうけそうののの人人ひとなむなむなんいかいかいかなるなるなることことことにににかかかととと心心こころ得得えがたくがたくがたく侍侍はべるるるををを、、、猶猶なおののの給給たまはせはせわせよよよ。。。をさなきをさなきおさなき御御おん程程ほどなれなれなれどどどかゝるかゝるかかる御御おんしるべしるべしるべににに賴賴たのみみみ聞聞きこえええ給給たまふふうやうやうようもももあらあらあらむむん」」」などなどなどいへいへいえどどど「「「おぼしおぼしおぼしへだてへだてへだてゝゝておぼおぼしくおぼおぼしくおぼおぼしくもてもてもてなさなさなさせせせ給給たまふふうにににははは、、、何何なに事事ことをををかかか聞聞きこえええ侍侍はべらららむむん。。。疎疎うとくくくおぼしおぼしおぼしなりなりなりにににけれけれければばば聞聞きこゆゆゆべきべきべきことことことももも侍侍はべらららずずず。。。唯唯ただこのこのこの御御おん文文ふみををを人人ひとづてづてずてならならならででで奉奉たてまつれれれとてとてとて侍侍はべりりりつるつるつる、、、いかでいかでいかで奉奉たてまつらららむむん」」」ととといへいへいえばばば「「「いといといとことわりことわりことわりなりなりなり。。。猶猶なおいといといとかくかくかくうたてうたてうたてなななおはせおはせおわせそそそ。。。さすがさすがさすがにににむくつけきむくつけきむくつけき御心御心みこころにににこそこそこそ」」」ととと聞聞きこえええうごかしうごかしうごかしててて、、、几几き帳帳ちょうのののもともともとにににおしおしおし寄寄よせせせ奉奉たてまつりりりたれたれたればばば、、、あれあれあれにににもももあらあらあらででで居居い給給たまへへえるるるけはひけはひけはいことことこと人人びとにににははは似似にぬぬぬ心地心地ここちすれすれすればばばそこそこそこもともともとににによりよりよりててて奉奉たてまつりりりつつつ。。。「「「御御おん返返かえりりりとくとくとくたまはりたまはりたまわりててて參參まいりりりなななむむん」」」ととと、、、かくかくかくうとうとしきうとうとしきうとうとしきををを心心こころうううしししととと思思おもひひいててていそぐいそぐいそぐ。。。
- 2尼尼あま君君ぎみ御御おん文文ふみひきひきひきときときときててて見見みせせせ奉奉たてまつるるる。。。ありありありしししながらながらながらののの御御おん手手てにてにてにて紙紙かみののの香香かなどなどなど例例れいののの世世よつかつかつかぬぬぬまでまでまでしみしみしみたりたりたり。。。ほのかほのかほのかにににみみみててて例例れいのののものものものめでめでめでのののさしさしさしすぎすぎすぎ人人びといといといとありがたくありがたくありがたくをかしをかしおかしととと思思おもふふうべしべしべし。。。「「「更更さらににに聞聞きこえええむむん方方かたなくなくなくさまざまさまざまさまざまににに罪罪つみ重重おもききき御心御心みこころをををばばば僧僧そう都都ずににに思思おもひひい許許ゆるしししきこえきこえきこえててて今今いまはははいかでいかでいかであさましかりあさましかりあさましかりししし世世よのののゆめゆめゆめかたりかたりかたりをををだにだにだにととと、、、いそがいそがいそがるゝるゝるる心心こころのののわれわれわれながらながらながらもももどかしきどかしきどかしきににになむなむなん。。。ましてましてまして人人ひとめめめはははいかいかいかににに」」」ととと書書かきききもももやりやりやり給給たまははわずずず。。。「「「法法のりののの師師しととと尋尋たずぬるぬるぬる道道みちをををしるべしるべしるべにてにてにておもはおもはおもわぬぬぬ山山やまにににふみふみふみまどふまどふまどうかなかなかな。。。このこのこの人人ひとはははみみみややや忘忘わすれれれ給給たまひひいぬぬぬらむらむらん。。。こゝこゝここにににははは行行ゆくくくへへえなきなきなき御御おんかたみかたみかたみににに見見みるるる物物ものにてにてにてなむなむなん」」」などなどなどいといといと細細こまやかやかやかなりなりなり。。。
現代語訳
「並々で軽々しいご身分でもいらっしゃいません」などと言い騒いで、「世に類なく気の強くいらっしゃることですね」と皆で言い合わせて、母屋の端に几帳を立てて中に入れた。この子も、そうとは聞いていたが、幼いので急に言い寄るのも気が引けるが、「もう一通ございますお手紙を、何とか差し上げたい。僧都のご案内では確かなことですのに、このようにはっきりしないのでは」と伏し目になって言うので、「そうそう、まあ可愛らしい」などと言って、「お手紙をご覧になるはずの方はここにいらっしゃるようです。外の者はどういうことかと納得しがたいので、やはりおっしゃってください。幼いお年頃ですが、このようなお使いを頼まれなさるわけもあるのでしょう」などと言うが、「隔てをお置きになって、はっきりしない態度をおとりになるのでは、何を申し上げましょう。疎くお思いになってしまったので、申し上げるべきこともございません。ただこのお手紙を人づてでなく差し上げよと言われましたので、何とか差し上げたい」と言うので、「たいそうもっともです。やはりこのように嫌なふうになさいますな。さすがに気味の悪いお心ですこと」と説き動かして、几帳のもとに押し寄せ申し上げたので、呆然として座っていらっしゃる気配が他の人とは違う心地がするので、そこに寄って差し上げた。「お返事を早くいただいて帰参しましょう」と、このようによそよそしいのをつらいと思って急ぐ。
尼君がお手紙を解いてお見せ申し上げる。昔のままのご筆跡で、紙の香りなどもいつものようにこの世のものとも思えぬほど染みている。ほのかに見て、例の物好きな出しゃばり者は、たいそう世にまれで趣深いと思うだろう。「全く申し上げようもなく、さまざまに罪の重いあなたのお心を、僧都に免じてお許し申し上げて、今は何とかせめてあきれた昔の夢語りだけでもと、急がれる心が我ながらもどかしいことです。まして人目にはどう見えるでしょう」と書きも終えなさらない。「法の師と尋ねて行く道を案内として、思いもかけぬ山に踏み迷うことよ。この人をお見忘れになったでしょうか。私は行方知れずのあなたの形見として見ているのです」などと、たいそう細やかである。
意訳
尼たちは浮舟の強情さに呆れ、小君を几帳の中に入れる。小君は、薫の手紙を直接渡したいと言い、妹尼は浮舟を説得して几帳のもとに押し出す。小君が手紙を差し出し、妹尼が開いて見せる。昔のままの薫の筆跡に、香りが深く染みている。手紙には、罪深いあなたを僧都に免じて許し、昔の夢語りだけでもしたいとあり、仏道の師を訪ねる道を案内に、思いがけぬ恋の山に迷ったと詠まれていた。小君を自分は浮舟の形見として見ているとも書かれていた。
語釈・文法注
文法
- 「けそうの人」(けそうの人なむいかなることにかと)
- 外様の人。部外者。
- 「ものめでのさしすぎ人」(例のものめでのさしすぎ人)
- 物好きで出しゃばりな人。尼たちを指す。
- 「法の師と尋ぬる道」(法の師と尋ぬる道をしるべにて)
- 仏道の師(僧都)を訪ねる道。「山」は比叡山と恋の山を掛ける。
解説
薫の手紙は、浮舟の出家を「罪重き御心」と責めつつ、昔の夢語りをしたいと迫る。出家した女に対しても、なお恋の論理で迫る薫の姿がある。
「おもはぬ山にふみまどふかな」の歌は、仏道を求めて恋に迷う薫の矛盾を自ら認めている。薫の生涯を貫く、道心と恋心の葛藤がここにも表れる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1242–1245頁(コマ332–333)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日