源氏物語 第54帖 夢浮橋(8)
母にだけは
浮舟は、まず母の有様をたいそう尋ねたく、他の人々の身の上は自然と次第に聞くが、親がどうしていらっしゃるのかはほのかにも聞けないのだと、かえってこの子を見るとたいそう悲しくて、はらはらと泣いてしまった。小君がたいそう可愛らしげで、少し浮舟に似ていらっしゃる心地もするので、妹尼は「ご兄弟でいらっしゃるようですね。申し上げたくお思いのこともあるでしょう。中にお入れしましょう」と言うのを、浮舟は、どうして今さら、世に生きているものとも思っていないだろうに、妙な姿に面変わりして急に会うのも恥ずかしいと思うので、しばらくためらって、「本当に隔てがあるとお思いになっているのがつらくて、物も言えずにおります。あきれた有様は、珍しいこととご覧になったでしょうが、それで正気も失せ、魂などというものもない有様になってしまったのでしょうか。どうしても過ぎた昔のことを我ながら全く思い出せませんが、紀伊守とかいった人が世間話をしていた中に、見たことのあるあたりのことかとほのかに思い出されることがある心地がしました。その後あれこれと思い続けても全くはっきり思い出せませんが、ただお一人いらっしゃった人(母)が、何とかと並々でなく思っていたようなのを、まだ世にいらっしゃるだろうかと、そればかりが心から離れず悲しい折々がございますのに、今日見ると、この童の顔は小さい頃に見た心地がするにつけてもたいそう忍びがたいのですが、今さらにこのような人に生きているとも知られずに終わろうと思います。あの人がもし世にいらっしゃるなら、その人一人にだけはお会いしたいと思います。この僧都のおっしゃっている人などには、決して生きているとは知られ申し上げまいと思います。くれぐれも人違いだったと申し上げて連れて帰してください」とおっしゃると、妹尼は「たいそう難しいことですね。僧都のお心は、聖という中でもあまりに隠し立てのない方なので、まさか残して申し上げなさらないことがありましょうか。後で隠れはないでしょう。
- 1まづまづまず母母ははのののありさまありさまありさまいといといと問問とはははまほしくまほしくまほしくことことこと人々人々びとののの上上うえはははおのづからおのづからおのずからやうやうやうやうようよう聞聞きけけけどどど、、、親親おやのののおはすおはすおわすらむらむらんやうやうようはははほのかほのかほのかにににもももえええ聞聞きかかかずずずかしかしかしととと、、、なかなかなかなかなかなかこれこれこれををを見見みるるるにににいといといと悲悲かなしくしくしくてててほろほろほろほろほろほろとととなかなかなかれれれぬぬぬいといといとをかしげをかしげおかしげにてにてにて少少すこしししうちうちうち覺覺おぼえええ給給たまへへえるるる心心こころちちここちもももすれすれすればばば「「「御御おんはらからはらからはらからにににこそこそこそおはすおはすおわすめれめれめれ聞聞きこえええまほしくまほしくまほしくおぼすおぼすおぼすことことこともももあらあらあらむむん。。。うちうちうちににに入入いれれれ奉奉たてまつらららむむん」」」ととといふいふいうををを、、、何何なにかかか今今いまははは世世よにににあるあるあるものものものともともとも思思おもははわざらざらざらむむんににに、、、怪怪あやしきしきしきさまさまさまにににおもおもおもがはりがはりがわりしししてててふとふとふと見見みえええむむんももも恥恥はずかしししととと思思おもへへえばばば、、、とばかりとばかりとばかりためらひためらひためらいててて「「「げにげにげにへだてへだてへだてありありありともともともおぼしおぼしおぼしなすなすなすらむらむらんががが苦苦くるしさしさしさににに物物ものもももいはいはいわれれれでででなむなむなん。。。あさましかりあさましかりあさましかりけむけむけんありさまありさまありさまははは珍珍めずらからからかなるなるなることことことゝゝと見見み給給たまひひいてててけむけむけんををを、、、さてさてさてうつしうつしうつしこゝろこゝろこころもももうせうせうせたましひたましひたましいなどなどなどいふいふいうらむらむらんものものものもももあらあらあらぬぬぬさまさまさまににになりなりなりにににけるけるけるにににやややあらあらあらむむん。。。いかにもいかにもいかにもいかにもいかにもいかにも過過すぎぎぎにににししし方方かたのののことことことををを我我われれれながらながらながら更更さらにににえええ更更さらにににえええ思思おもひひい出出いでででぬぬぬににに、、、きのかみきのかみきのかみとととかかかありありありししし人人ひとののの世世よののの物物もの語語がたりすすすめりめりめりししし中中なかににになむなむなん、、、見見みしししあたりあたりあたりのののことことことにににやややとととほのかほのかほのかににに思思おもひひい出出いでででらるゝらるゝらるることことことあるあるある心心こころちちここちせせせししし。。。
- 2そのそのその後後のちとざまとざまとざまかうざまかうざまこうざまににに思思おもひひい續續つづくれくれくれどどど更更さらにににはかばかしくはかばかしくはかばかしくももも覺覺おぼえええぬぬぬににに、、、唯唯ただ一一ひと人人り物物ものししし給給たまひひいししし人人ひとのののいかでいかでいかでかかかとととおろかおろかおろかならならならずずず思思おもひひいたたためりめりめりしししををを、、、まだまだまだややや世世よにににおはすおはすおわすらむらむらんとととそればかりそればかりそればかりなむなむなん心心こころにににはなれはなれはなれずずず悲悲かなしきしきしき折々折々おりおり侍侍はべるるるににに、、、今日今日きょう見見みれれればばばこのこのこの童童わらわののの顏顏かおはははちひさくちひさくちいさくててて見見みししし心心こころちちここちするするするにににもももいといといと忍忍しのびびびがたけれがたけれがたけれどどど、、、今今いまさらさらさらにににかゝるかゝるかかる人人ひとにににもももありありありとととははは知知しららられれれででで、、、止止やみみみなななむむんとととなむなむなん思思おもひひい侍侍はべるるる。。。かのかのかの人人ひと若若もししし世世よににに物物ものししし給給たまははわゞゞばそれそれそれ一一ひと人人りににになむなむなんたいめんたいめんたいめんせせせまほしくまほしくまほしく思思おもひひい侍侍はべるるる。。。このこのこの僧僧そう都都ずののののたまへのたまへのたまえるるる人人ひとなどなどなどにににははは更更さらにににありありありとととしられしられしられ奉奉たてまつらららじじじとととこそこそこそ思思おもひひい侍侍はべれれれかまへかまへかまえてててひがひがひがことことことなりなりなりけりけりけりととと聞聞きこえええなしなしなしてててもてもてもてかへしかへしかえし給給たまへへえ」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、「「「いといといとかたいかたいかたいことことことかなかなかな。。。僧僧そう都都ずののの御心御心みこころはははひじりひじりひじりととといふいふいう中中なかにににもももあまりあまりあまりくまくまくまなくなくなく物物ものししし給給たまへへえばばば、、、まさにまさにまさにのこいのこいのこいてててははは聞聞きこえええ給給たまひひいてててむむんややや後後のちにににかくれかくれかくれあらあらあらじじじ。。。
現代語訳
まず母の有様をたいそう尋ねたく、他の人々の身の上は自然と次第に聞くが、親がどうしていらっしゃるのかはほのかにも聞けないのだと、かえってこの子を見るとたいそう悲しくて、はらはらと泣いてしまった。たいそう可愛らしげで、少し似ていらっしゃる心地もするので、「ご兄弟でいらっしゃるようですね。申し上げたくお思いのこともあるでしょう。中にお入れしましょう」と言うのを、どうして今さら、世に生きているものとも思っていないだろうに、妙な姿に面変わりして急に会うのも恥ずかしいと思うので、しばらくためらって、「本当に隔てがあるとお思いになっているのがつらくて、物も言えずにおります。あきれた有様は、珍しいこととご覧になったでしょうが、それで正気も失せ、魂などというものもない有様になってしまったのでしょうか。どうしても過ぎた昔のことを我ながら全く思い出せませんが、紀伊守とかいった人が世間話をしていた中に、見たことのあるあたりのことかとほのかに思い出されることがある心地がしました。
その後あれこれと思い続けても全くはっきり思い出せませんが、ただお一人いらっしゃった人が、何とかと並々でなく思っていたようなのを、まだ世にいらっしゃるだろうかと、そればかりが心から離れず悲しい折々がございますのに、今日見ると、この童の顔は小さい頃に見た心地がするにつけてもたいそう忍びがたいのですが、今さらにこのような人に生きているとも知られずに終わろうと思います。あの人がもし世にいらっしゃるなら、その人一人にだけはお会いしたいと思います。この僧都のおっしゃっている人などには、決して生きているとは知られ申し上げまいと思います。くれぐれも人違いだったと申し上げて連れて帰してください」とおっしゃると、「たいそう難しいことですね。僧都のお心は、聖という中でもあまりに隠し立てのない方なので、まさか残して申し上げなさらないことがありましょうか。後で隠れはないでしょう。
意訳
浮舟は母の消息を知りたくて、小君を見て泣く。妹尼は兄弟なら中に入れようと言うが、浮舟は尼姿を見られるのを恥じてためらう。浮舟は、自分は正気を失い昔のことを思い出せないが、母のことだけは心から離れないと語る。小君の顔には見覚えがある気がするが、生きていると知られずに終わりたい、母にだけは会いたいが、僧都の言う人(薫)には決して知られたくないと言い、人違いだと言って小君を帰してほしいと頼む。妹尼は、僧都は隠し事をしない人なので、それは難しいと言う。
語釈・文法注
文法
- 「うつしこゝろ」(さてうつしこゝろもうせ)
- 現し心。正気。
- 「ひがこと」(かまへてひがことなりけりと聞えなして)
- 僻事。間違い、人違い。
- 「のこいて」(まさにのこいては聞え給ひてむや)
- 残して。隠して。
解説
浮舟は母にだけは会いたいと願い、薫には決して知られたくないと言う。浮舟の心は、肉親への情と、男女の関わりへの拒絶とに引き裂かれている。
浮舟は記憶を失ったと言い張る。それは、過去と向き合うことを拒む浮舟の、精一杯の自己防衛である。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1242–1243頁(コマ332)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日