源氏物語 第54帖 夢浮橋(4)
小君を使いに
薫は「親子の仲の思いは絶えず、悲しみに堪えずに訪ねて来たりなどするでしょうね」などとおっしゃって、「それで、たいそう不都合な案内役とお思いになっても、あの坂本にお下りください。これほど聞いて、いい加減に思い過ごせそうにはなかった人なので、夢のようなことどもを、せめて今でも語り合いたいと思うのです」とおっしゃる様子がたいそう哀れとお思いになっているので、僧都は、姿を変え世を背いたと思っても、髪や鬚を剃った法師でさえ妙な心は失せないこともあるようだ、まして女の御身というものはどうだろう、気の毒にも罪を得てしまいそうなことでもあるなと、味気なく心が乱れた。「下山しますのは今日明日は差し支えがございます。月が改まった頃にお便りを差し上げさせましょう」と申し上げなさる。薫はたいそうじれったいが、やはりやはりとむやみに焦るのも体裁が悪いので、「それでは」と言ってお帰りになる。あの浮舟の弟の童を御供に連れていらっしゃっていた。他の兄弟たちよりは容貌も清らかなのを呼び出しなさって、「これがその人の近い縁者なので、これをとりあえず遣わしましょう。お手紙を一筆ください。誰それとはなくて、ただお尋ね申し上げる人がいるとだけの心をお書きください」とおっしゃると、僧都は「私はこの案内役で必ず罪を得てしまいましょう。事の有様は詳しく申し上げました。今はただご自身でお立ち寄りになって、しかるべきことをなさるのに、何の咎がございましょう」と申し上げなさると、薫は笑って、「罪を得てしまいそうな案内役とお思いになっているのこそ恥ずかしいことです。私は俗人の姿で今まで過ごしているのがたいそう不思議なほどです。幼い頃から出家を思う志が深うございましたが、三条の宮(女三の宮)が心細げに、頼りない私の身一つを頼みにお思いになっているのが、去りがたい絆に思われまして、かかずらっておりますうちに、自然と位などということも高くなり、身の処し方も思うにまかせなくなったりして、思いながら過ごしておりますうちに、またやむをえないことも数ばかり増えていきますが、公私に逃れがたいことにつけてはそうもございましょう。
- 1親親おや子子こののの中中なかののの思思おもひひいたえたえたえずずず、、、かなしびかなしびかなしびにににたへたへたえでででとぶらひとぶらひとぶらい物物ものしししなどなどなどししし侍侍はべりりりなななむむんかしかしかし」」」などなどなどのたまひのたまひのたまいててて「「「さてさてさていといといとびんなきびんなきびんなきしるべしるべしるべとととはははおぼすおぼすおぼすともともとも、、、かのかのかのさかさかさかもともともとにににおりおりおり給給たまへへえかばかりかばかりかばかり聞聞ききききてててなのめなのめなのめににに思思おもひひい過過すぐすすすべくべくべくははは侍侍はべらららざりざりざりししし人人ひとなるなるなるををを、、、夢夢ゆめのののやうやうようなるなるなる事事ことどもどもどもををを今今いまだにだにだに語語かたりりり合合あわせせせむむんとととなむなむなん、、、思思おもひひい給給たまふるふるうる」」」とととのたまふのたまふのたまう氣色氣色けしきいといといと哀哀あわれととと思思おもひひい給給たまへへえれれればばば、、、かたちかたちかたちをををかへかへかへ世世よををを背背そむきききにににきききとととおぼえおぼえおぼえたれたれたれどどど、、、かみかみかみひげひげひげをををそりそりそりたるたるたる法法ほう師師しだにだにだにあやしきあやしきあやしき心心こころははは失失うせせせぬぬぬもももあああなりなりなり、、、ましてましてまして女女おんなののの御御おん身身みととといふいふいうものものものはははいかゞいかゞいかがあらあらあらむむん、、、いとほしういとほしういとおしゅう罪罪つみえええぬぬぬべきべきべきわざわざわざにににもももあるあるあるべきべきべきかなかなかなととと味味あじ氣氣きなくなくなく心心こころみだれみだれみだれぬぬぬ。。。「「「罷罷まかりりりおりおりおりむむんととと今日今日きょう明日明日あすさはりさはりさわり侍侍はべりりり。。。月月つきたちたちたちてててののの程程ほどににに御御おんせうそこせうそこしょうそこををを申申もうさささせせせ侍侍はべらららむむん」」」ととと申申もうししし給給たまふふう。。。いといといと心心こころもとなけれもとなけれもとなけれどどどなほなほなほなほなおなおとととうちつけうちつけうちつけにににいらいらいられれれむむんもももさまさまさまあしけれあしけれあしければばば「「「さらばさらばさらば」」」とてとてとてかへりかへりかえり給給たまふふう。。。かのかのかのせうとせうとしょうとののの童童わらわ御御おん供供ともにににゐゐいててておはしおはしおわしたりたりたりけりけりけり。。。ことことことはらからはらからはらからどもどもどもよりよりよりはははかたちかたちかたちももも淸淸きよげげげなるなるなるををを呼呼よびびび出出いででで給給たまひひいててて「「「これこれこれなむなむなんそのそのその人人ひとののの近近ちかきききゆかりゆかりゆかりなるなるなるををを、、、これこれこれをををかつかつかつかつかつかつものものものせせせむむん。。。御御おん文文ふみひとひとひとくだりくだりくだりたまへたまへたまえ。。。そのそのその人人ひととととはははなくなくなくててて、、、唯唯ただ尋尋たずねねね聞聞きこゆるゆるゆる人人ひとなむなむなんあるあるあるとととばかりばかりばかりののの心心こころをををあらあらあらせせせ給給たまへへえ」」」とととののの給給たまへへえばばば
- 2「「「なにがしなにがしなにがしこのこのこのしるべしるべしるべにてにてにて必必かならず罪罪つみえええ侍侍はべりりりなななむむん。。。ことことことのののありさまありさまありさまははは委委くわしくしくしくとりとりとり申申もうしししつつつ。。。今今いまははは唯唯ただ御御おんみづからみづからみずからたちたちたちよらよらよらせせせ給給たまひひいてててあるあるあるべからべからべからむむんことことことははは、、、物物ものせせせさせさせさせ給給たまははわむむんににに、、、何何なにののの咎咎とがかかか侍侍はべらららむむん」」」ととと申申もうししし給給たまへへえばばば、、、うちうちうちわらひわらひわらいててて「「「罪罪つみえええぬぬぬべきべきべきしるべしるべしるべととと思思おもひひいなしなしなし給給たまふふうらむらむらんこそこそこそはづかしけれはづかしけれはずかしけれ。。。こゝこゝここにににははは俗俗ぞくのののかたちかたちかたちにてにてにて、、、今今いままでまでまで過過すぐすぐすぐすなむなむなんいといといとあやしきあやしきあやしき。。。いわけなかりいわけなかりいわけなかりしししよりよりより思思おもふふう志志こころざしふかくふかくふかく侍侍はべるるるををを、、、三三さん條條じょうののの宮宮みやののの心心こころぼそげぼそげぼそげにににたのもしげたのもしげたのもしげなきなきなき身身みひとつひとつひとつをををよすがよすがよすがにににおぼしおぼしおぼしたるたるたるががが、、、さりさりさりがたきがたきがたきほだしほだしほだしににに覺覺おぼえええ侍侍はべりりりてててかゝづらひかゝづらひかかずらい侍侍はべりりりつるつるつるほどほどほどにににおのづからおのづからおのずから位位くらいなどなどなどいふいふいうことことこともももたかくたかくたかくなりなりなり、、、身身みのののおきておきておきてももも心心こころにににかなひかなひかないがたくがたくがたくなどなどなどしししててて、、、思思おもひひいながらながらながら過過すぎぎぎ侍侍はべるるるにににははは、、、又又またえええさらさらさらぬぬぬことことことももも數數かずのみのみのみそひそひそいつゝつゝつつすぐせすぐせすぐせどどどおほやけおほやけおおやけわたくしわたくしわたくしににに遁遁のがれれれ難難がたきききことことことにににつけつけつけてててこそこそこそさささももも侍侍はべらららめめめ。。。
現代語訳
「親子の仲の思いは絶えず、悲しみに堪えずに訪ねて来たりなどするでしょうね」などとおっしゃって、「それで、たいそう不都合な案内役とお思いになっても、あの坂本にお下りください。これほど聞いて、いい加減に思い過ごせそうにはなかった人なので、夢のようなことどもを、せめて今でも語り合いたいと思うのです」とおっしゃる様子がたいそう哀れとお思いになっているので、姿を変え世を背いたと思っても、髪や鬚を剃った法師でさえ妙な心は失せないこともあるようだ、まして女の御身というものはどうだろう、気の毒にも罪を得てしまいそうなことでもあるなと、味気なく心が乱れた。「下山しますのは今日明日は差し支えがございます。月が改まった頃にお便りを差し上げさせましょう」と申し上げなさる。たいそうじれったいが、やはりやはりとむやみに焦るのも体裁が悪いので、「それでは」と言ってお帰りになる。あの弟の童を御供に連れていらっしゃっていた。他の兄弟たちよりは容貌も清らかなのを呼び出しなさって、「これがその人の近い縁者なので、これをとりあえず遣わしましょう。お手紙を一筆ください。誰それとはなくて、ただお尋ね申し上げる人がいるとだけの心をお書きください」とおっしゃると、
「私はこの案内役で必ず罪を得てしまいましょう。事の有様は詳しく申し上げました。今はただご自身でお立ち寄りになって、しかるべきことをなさるのに、何の咎がございましょう」と申し上げなさると、笑って、「罪を得てしまいそうな案内役とお思いになっているのこそ恥ずかしいことです。私は俗人の姿で今まで過ごしているのがたいそう不思議なほどです。幼い頃から思う志が深うございましたが、三条の宮が心細げに、頼りない私の身一つを頼みにお思いになっているのが、去りがたい絆に思われまして、かかずらっておりますうちに、自然と位などということも高くなり、身の処し方も思うにまかせなくなったりして、思いながら過ごしておりますうちに、またやむをえないことも数ばかり増えていきますが、公私に逃れがたいことにつけてはそうもございましょう。
意訳
薫は、母が知れば訪ねて来るだろうと言い、僧都に小野へ案内してほしいと頼む。僧都は、出家した女が再び俗の心を起こせば罪になると心を乱し、下山は来月にと答える。薫は浮舟の弟の小君を呼び出し、浮舟への手紙を書いてほしいと頼む。僧都は、自分が案内役になれば罪を得ると渋るが、薫は笑って、自分も幼い頃から出家の志が深く、母女三の宮への絆や公の務めのために俗世にとどまっているのだと語る。
語釈・文法注
文法
- 「しるべ」(いとびんなきしるべとはおぼすとも)
- 案内、手引き。
- 「かつかつ」(これをかつかつものせむ)
- とりあえず、まず。
- 「三條の宮」(三條の宮の心ぼそげに)
- 薫の母、女三の宮。三条の宮に住む。
解説
僧都は、出家した浮舟が薫と会えば還俗の罪を犯すことになると恐れる。仏道の師として、浮舟の信仰を守ろうとする僧都の葛藤がうかがえる。
薫は浮舟の弟小君を使者に立てる。肉親を介することで、浮舟の心を動かそうとする薫の計算がある。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1238–1239頁(コマ330)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日