源氏物語 第54帖 夢浮橋(3)
生きていた浮舟
僧都は続けて、「この悪しきものの妨げを逃れて、後世のことを思いたいなどと悲しげにおっしゃることどもがございましたので、法師としてはお勧めも申し上げるべきことだと思って、本当に出家させ申し上げたのでございます。あなた様がご存じのはずのこととは、どうして推し量れましょう。珍しい事の次第でもあるので、世間話にもしてしまいそうでしたが、噂になって厄介なことにもなりはしないかと、この老人どもがあれこれ申しまして、この数か月音沙汰なくしておりましたので」と申し上げなさると、薫は、やはりそうだったのかとほのかに聞いて、これほどまでも尋ね出しなさったことだが、すっかり亡き人と思い果てていた人を、それでは本当に生きているのだとお思いになると、夢の心地がしてあきれるので、こらえきれずに涙ぐまれなさったのを、やはり僧都が気の置ける様子なので、これほどまで見せるべきことかと思い返して、さりげなく振る舞いなさるが、僧都は、このようにお思いになっていた人を、この世には亡い人と同じようにしてしまったことよと、過ちをした心地がして罪深いので、「悪しきものに取り憑かれなさったのも、然るべき前世の宿縁です。思うに、高貴な家のお子でいらっしゃったのでしょう。どのような過ちで、これほどまでさすらいなさったのでしょうか」とお尋ね申し上げなさると、薫は「皇族の末流などと言うべき筋だったのでしょうか。私ももとよりことさら思っていた人でもございません。ちょっとした縁で見つけ始めてはおりましたが、またたいそうこれほどまで落ちぶれるはずの身分とは思いませんでしたのに、珍しいことに跡もなく消え失せてしまったので、身を投げたのかなどとさまざまに疑いが多くて、確かなことは聞けずにおりました。罪を軽くしてお過ごしだそうなので、たいそう良いことと安心して私自身は思うようになりましたが、母である人がひどく恋い悲しんでいるそうなので、このように聞き出したと知らせたく思いますが、この数か月お隠しになっていた本意に背くようで、騒がしいことになりましょうか。
- 1このこのこの惡惡あしきしきしきものものものゝゝのさまだけさまだけさまだけををを遁遁のがれれれててて後後のちののの世世よををを思思おもははわむむんなどなどなど悲悲かなしげしげしげにににののの給給たまふふう事事ことどもどもどもののの侍侍はべりりりしかしかしかばばば法法ほう師師しにてにてにてはははすゝめすゝめすすめももも申申もうしししつつつべきべきべきことことことにににこそこそこそはははとてとてとて誠誠まことにににすけすけすけせしめせしめせしめ奉奉たてまつりりりてててしししににに侍侍はべるるる。。。更更さらにににしろしめすしろしめすしろしめすべきべきべきことことことゝゝとはははいかでいかでいかでかかかそらそらそらにににさとりさとりさとり侍侍はべらららむむん。。。珍珍めずらしきしきしき事事ことのののさまさまさまにににもももあるあるあるををを、、、世世よ語語がたりりりにににもももししし侍侍はべりりりぬぬぬべかりべかりべかりしかしかしかどどど聞聞きこえええありありありててて煩煩わずらわしかるしかるしかるべきべきべきことことことにににもももこそこそこそととと、、、このこのこのおいおいおい人人びとどもどもどものののとかくとかくとかく申申もうしししててて、、、このこのこの月月つきごろごろごろおとおとおとなくなくなくててて侍侍はべりりりつるつるつるににになむなむなん」」」ととと申申もうししし給給たまへへえばばば、、、さささでででこそこそこそあああなれなれなれとととほのほのほのぎゝぎゝぎきててて、、、かくかくかくまでまでまでもももとひとひとい出出いででで給給たまへへえるるることことことなれなれなれどどど、、、むげむげむげににになきなきなき人人ひとととと思思おもひひいはてはてはてにににししし人人ひとををを、、、さささははは誠誠まことにににあるあるあるにににこそこそこそはははとととおぼすおぼすおぼすほどほどほど夢夢ゆめののの心地心地ここちしししてててあさましけれあさましけれあさましければばば、、、つゝみつゝみつつみもももあへあへあえずずず淚淚なみだぐまぐまぐまれれれ給給たまひひいぬるぬるぬるををを、、、猶猶なお僧僧そう都都ずののの耻耻はずかしげかしげかしげなるなるなるにににかくかくかくまでまでまで見見みゆゆゆべきべきべき事事ことかかかはははととと思思おもひひい返返かえしししててて、、、つれなくつれなくつれなくもてもてもてなしなしなし給給たまへへえどどど、、、かくかくかくおぼしおぼしおぼしけるけるけることことことをををこのこのこの世世よにににはははなきなきなき人人ひとととと同同おなじじじやうやうようににになしなしなしたるたるたることことことゝゝとあやまちあやまちあやまちしししたるたるたる心地心地ここちしししててて、、、罪罪つみ深深ふかけれけれければばば「「「惡惡あしきしきしきものものものにににらうぜらうぜろうぜられられられ給給たまひひいけむけむけんももも、、、さるべきさるべきさるべきさきさきさきののの世世よののの契契ちぎりなりなりなり。。。思思おもふふうにににたかきたかきたかき家家いえのののこここにににこそこそこそものものものししし給給たまひひいけめけめけめ。。。いかいかいかなるなるなるあやまちあやまちあやまちにてにてにてかくかくかくまでまでまではふれはふれはふれ給給たまひひいけむけむけんにににかかか」」」ととと問問とひひい申申もうししし給給たまへへえばばば
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現代語訳
「この悪しきものの妨げを逃れて、後世のことを思いたいなどと悲しげにおっしゃることどもがございましたので、法師としてはお勧めも申し上げるべきことだと思って、本当に出家させ申し上げたのでございます。ご存じのはずのこととは、どうして推し量れましょう。珍しい事の次第でもあるので、世間話にもしてしまいそうでしたが、噂になって厄介なことにもなりはしないかと、この老人どもがあれこれ申しまして、この数か月音沙汰なくしておりましたので」と申し上げなさると、やはりそうだったのかとほのかに聞いて、これほどまでも尋ね出しなさったことだが、すっかり亡き人と思い果てていた人を、それでは本当に生きているのだとお思いになると、夢の心地がしてあきれるので、こらえきれずに涙ぐまれなさったのを、やはり僧都が気の置ける様子なので、これほどまで見せるべきことかと思い返して、さりげなく振る舞いなさるが、このようにお思いになっていた人を、この世には亡い人と同じようにしてしまったことよと、過ちをした心地がして罪深いので、「悪しきものに取り憑かれなさったのも、然るべき前世の宿縁です。思うに、高貴な家のお子でいらっしゃったのでしょう。どのような過ちで、これほどまでさすらいなさったのでしょうか」とお尋ね申し上げなさると、
「皇族の末流などと言うべき筋だったのでしょうか。私ももとよりことさら思っていた人でもございません。ちょっとした縁で見つけ始めてはおりましたが、またたいそうこれほどまで落ちぶれるはずの身分とは思いませんでしたのに、珍しいことに跡もなく消え失せてしまったので、身を投げたのかなどとさまざまに疑いが多くて、確かなことは聞けずにおりました。罪を軽くしてお過ごしだそうなので、たいそう良いことと安心して私自身は思うようになりましたが、母である人がひどく恋い悲しんでいるそうなので、このように聞き出したと知らせたく思いますが、この数か月お隠しになっていた本意に背くようで、騒がしいことになりましょうか。
意訳
僧都は、女が物の怪から逃れて後世を願ったので出家させたこと、薫の知る人とは思いもよらなかったこと、噂を恐れて黙っていたことを語る。薫は、亡くなったと思っていた浮舟が生きていると知って夢の心地がし、思わず涙ぐむが、僧都の手前、平静を装う。僧都は、薫がこれほど思う人を出家させたことを罪深く思い、どのような身分の人かと尋ねる。薫は、皇族の血を引く人で、ちょっとした縁で世話していたが、跡もなく消えたので身を投げたのかと思っていたと答え、出家したのは良いことだが、母に知らせたいと言う。
語釈・文法注
文法
- 「すけせしめ」(誠にすけせしめ奉りてしに侍る)
- 出家させる。
- 「なまわかんとほり」(「なまわかんとほり」などいふべきすぢ)
- 生王孫。皇族の血筋を引くが、末流で目立たない身分の者。
- 「はふれ」(かくまではふれ給ひけむにか)
- 放る。落ちぶれてさすらう。
解説
薫は浮舟の生存を確かめ、夢の心地で涙ぐむ。しかし僧都の手前、感情を抑えて平静を装う。人目を気にする薫の性格がよく表れている。
薫は浮舟を「わざと思ひしことにも侍らず」と言う。本心を隠し、世間体を守ろうとする薫の言葉は、浮舟への思いの深さとは裏腹である。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1236–1239頁(コマ329–330)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日