源氏物語 第50帖 東屋(40)
浮舟を隠す思案
薫は「まだ出来上がっていない仏の御飾りなどを見ておきまして、今日はよい日でしたので急いで参りまして、気分が悪いうえに、物忌であったことを思い出しまして、今日明日はここで慎んでおります」などと、母宮(女三の宮)にも姫宮(女二の宮)にも申し上げなさる。くつろいだご様子がもう少し美しくて、薫がお入りになったのも浮舟には恥ずかしいが、隠しようもなく座っていらっしゃった。浮舟の装束などは、いろいろとよくと思って重ねてあるが、少し田舎びたことも混じっていて、昔の大君のたいそう着慣れたお姿が上品で優美だったことばかりが思い出されて、髪の裾の美しさなどは、細やかに上品である。宮(女二の宮)の御髪がたいそうすばらしいのにも劣らないだろうとご覧になる。一方では、この人をどのように扱っておこうか、今すぐ仰々しく、あの三条の宮に迎え据えるのも、外聞が悪いだろう、かといって女房たちのいる列に、並々に交じらせるのは不本意だろう、しばらくここに隠しておこうと思うのも、会わずにいては寂しいだろうと、愛しく思われなさるので、並々でなくお話しして日を暮らしなさる。故宮のことも言い出して、昔話を趣深く細やかに冗談交じりにおっしゃるが、浮舟はただたいそう遠慮がちで、ひたすら恥じらっているのを、物足りなくお思いになる。過ちとしても、このように頼りないのはたいそうよい、教えながら見ていこう、田舎びた洒落っ気を身につけて、品がなく軽率だったら、それこそ形代として役に立たなかったろうと、思い直しなさる。ここにあった琴や箏の琴を召し出して、このようなことはまして出来まいと残念なので、ひとりで調べて、宮がお亡くなりになって後、ここでこのような物にたいそう久しく手を触れなかったと、珍しく我ながら思われて、たいそう懐かしく弾き戯れながら物思いにふけっていらっしゃると、月が出た。
- 1「「「まだまだまだなりなりなりあはあはあわぬぬぬ佛佛ほとけののの御御おん飾飾かざりなどなどなど見見み給給たまへへえおきおきおきててて、、、けふけふきょうよろしきよろしきよろしき日日ひなりなりなりけれけれければばば、、、急急いそぎぎぎ物物ものししし侍侍はべりりりててて、、、みだりみだりみだり心地心地ここちのののなやましきなやましきなやましきににに、、、物物もの忌忌いみなりなりなりけるけるけるををを思思おもひひい給給たまへへえ出出いでででゝゝてなむなむなん、、、けふけふきょうあすあすあすこゝこゝここににに愼愼つつしみみみ侍侍はべるるるべきべきべき」」」などなどなど、、、母母はは宮宮みやにににももも姫姫ひめ宮宮みやにににももも聞聞きこえええ給給たまふふう打打うちちち解解とけけけたるたるたる御御おん有有あり樣樣さま今今いま少少すこしししをかしくをかしくおかしくててて、、、入入いりりりおはしおはしおわしたるたるたるもももはづかしけれはづかしけれはずかしけれどどど、、、もてもてもてかくすかくすかくすべくべくべくもももあらあらあらででで居居い給給たまへへえりりり。。。女女おんなののの御御おんさうぞくさうぞくそうぞくなどなどなど、、、いろいろいろいろいろいろににによくよくよくととと思思おもひひいてててしししかさねかさねかさねたれたれたれどどど、、、少少すこししし田田い舍舍なかびたるびたるびたることことこともももうちうちうちまじりまじりまじりてててぞぞぞ、、、昔昔むかしのののいといといとなえなえなえばみばみばみたりたりたりししし御御おん姿姿すがたののの、、、あてあてあてににになまめかしかりなまめかしかりなまめかしかりしししのみのみのみ思思おもひひいいでいでいでられられられててて、、、髮髮かみのののすそすそすそのののをかしげをかしげおかしげさささなどなどなどははは、、、こまごまこまごまこまごまとととあてあてあてなりなりなり。。。宮宮みやのののみみみぐしぐしぐしのののいみじくいみじくいみじくめでたきめでたきめでたきにににももも、、、劣劣おとるるるまじかりまじかりまじかりけりけりけりととと見見み給給たまふふう。。。かつかつかつはははこのこのこの人人ひとをををいかにいかにいかにもてもてもてなしなしなしてててあらあらあらせせせむむんとととすすすらむらむらん、、、只只ただ今今いまものものものものしげものしげものしげにてにてにて、、、かのかのかの宮宮みやにににむかへむかへむかえすゑすゑすえむむんももも、、、おとおとおとぎゝぎゝぎきびんなかるびんなかるびんなかるべしべしべし。。。さりとてさりとてさりとてこれこれこれかれかれかれあるあるあるつらつらつらにてにてにて、、、おほぞうおほぞうおおぞうにににまじらはまじらはまじらわせせせむむんはははほいほいほいなからなからなからむむん。。。しばししばししばしこゝこゝここにににかくしかくしかくしてててあらあらあらむむんととと思思おもふふうももも、、、見見みずずずばばばさうざうしかるさうざうしかるそうぞうしかるべくべくべく、、、哀哀あわれにににおぼえおぼえおぼえ給給たまへへえばばば、、、おろかおろかおろかならならならずずず語語かたらひらひらい暮暮くらししし給給たまふふう。。。
- 2故故こ宮宮みやののの御御おんことことことももものたまひのたまひのたまい出出いでででゝゝて、、、昔昔むかし物物もの語語がたりをかしうをかしうおかしゅうこまやかこまやかこまやかにににいひいひいい戯戯たわぶれぶれぶれ給給たまへへえどどど唯唯ただいといといとつゝましげつゝましげつつましげにてにてにてひたひたひた道道みちににに耻耻はぢぢじたるたるたるををを、、、さうざうしうさうざうしうそうぞうしうおぼすおぼすおぼす。。。誤誤あやまりりりてててもももかうかうこう心心こころもとなきもとなきもとなきはははいといといとよしよしよし、、、敎敎おしへへへつゝつゝつつももも見見みてててむむん、、、田田い舎舎なかびたるびたるびたるざれざれざれ心心こころもてもてもてつけつけつけててて、、、しなしなしからしなしなしからしなしなしからずずず、、、はやりかはやりかはやりかならならならましかましかましかばばばしもしもしも、、、かたしろかたしろかたしろふようふようふようならならならましましましととと思思おもひひいなほしなほしなおし給給たまふふう。。。こゝこゝここにににありありありけるけるけるきんきんきん、、、さうさうそうのののことことこと召召めししし出出いでででゝゝて、、、かゝるかゝるかかることことことはたはたはた、、、ましてましてましてえええせせせじじじかしかしかしととと口口くち惜惜おしけれしけれしければばば、、、ひとりひとりひとりしらべしらべしらべててて、、、宮宮みやうせうせうせ給給たまひひいててて後後のち、、、こゝこゝここにてにてにてかゝるかゝるかかるものものものににに、、、いといといと久久ひさしうしうしゅう手手て觸觸ふれれれざりざりざりつつつかしかしかしととと、、、めづらしくめづらしくめずらしく我我わながらながらながら覺覺おぼえええててて、、、いといといとなつかしくなつかしくなつかしくまさぐりまさぐりまさぐりつゝつゝつつながめながめながめ給給たまふふうににに、、、月月つきさしさしさし出出いでででぬぬぬ。。。
現代語訳
「まだ出来上がっていない仏の御飾りなどを見ておきまして、今日はよい日でしたので、急いで参りまして、気分が悪いうえに、物忌であったことを思い出しまして、今日明日はここで慎んでいなければなりません」などと、母宮にも姫宮にも申し上げなさる。くつろいだご様子がもう少し美しくて、お入りになったのも恥ずかしいけれど、隠しようもなく座っていらっしゃった。女のご装束などは、いろいろとよくと思って重ねてあるけれど、少し田舎びたことも混じっていて、昔のたいそう着慣れたお姿が、上品で優美だったことばかりが思い出されて、髪の裾の美しさなどは、細やかに上品である。宮の御髪がたいそうすばらしいのにも、劣らないだろうとご覧になる。一方では、この人をどのように扱っておこうとするのだろう、今すぐ仰々しく、あの宮に迎え据えるのも、外聞が悪いだろう、かといって誰彼のいる列に、並々に交じらせるのは不本意だろう、しばらくここに隠しておこうと思うのも、会わずにいては寂しいに違いなく、愛しく思われなさるので、並々でなくお話しして日を暮らしなさる。
故宮の御ことも言い出して、昔話を趣深く細やかに冗談交じりにおっしゃるけれど、ただたいそう遠慮がちで、ひたすら恥じらっているのを、物足りなくお思いになる。過ちとしても、このように頼りないのはたいそうよい、教えながら見ていこう、田舎びた洒落っ気を身につけて、品がなく、軽率だったならば、それこそ形代として役に立たなかったろうと、思い直しなさる。ここにあった琴や箏の琴を召し出して、このようなことはまた、まして出来まいなと残念なので、ひとりで調べて、宮がお亡くなりになって後、ここでこのような物に、たいそう久しく手を触れなかったなと、珍しく我ながら思われて、たいそう懐かしく弾き戯れながら物思いにふけっていらっしゃると、月が出た。
意訳
薫は京の母宮と女二の宮に、物忌で宇治に留まると手紙を書く。浮舟の装束は少し田舎びているが、髪の美しさは女二の宮にも劣らない。薫は浮舟を三条の宮に迎えるのも、女房として扱うのもためらわれ、しばらく宇治に隠しておこうと考える。浮舟はひたすら恥じらうばかりで物足りないが、教え育てればよいと思い直す。薫は久しぶりに琴を弾き、月が昇る。
語釈・文法注
文法
- 「なえばみたりし」(昔のいとなえばみたりし御姿の)
- 萎えばむ。着慣れて柔らかくなる。
- 「おとぎゝ」(かの宮にむかへすゑむも、おとぎゝびんなかるべし)
- 音聞き。外聞、世間の評判。
- 「かたしろふよう」(かたしろふようならまし)
- 形代不用。身代わりとして役に立たないこと。
解説
薫は浮舟をどう扱うかに悩み、宇治に隠しておくことに決める。この決断が、匂宮の宇治訪問を招き、浮舟の悲劇へとつながっていく。
薫は浮舟を「教へつゝも見てむ」と思う。光源氏が紫の上を育てたように、自分好みの女性に育てようとする薫の姿勢には、浮舟自身への関心の薄さが表れている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1106–1107頁(コマ264)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日