源氏物語 第50帖 東屋(36)
雨夜の来訪
浮舟も乳母も、すばらしいと拝見していた方のご様子なので、忘れずにおっしゃっているらしいのも哀れだが、急にこのようにお計らいになっているとは思いも寄らないでいると、宵を少し過ぎる頃、宇治から人が参ったと言って、門を忍びやかに叩く。そうだろうかと思って、弁の尼が門を開けさせると、車を引き入れるようだ。妙だと思ううちに、尼君に対面したいと言って、この近くの御荘園の管理人の名を名乗らせなさったので、尼君は戸口にいざり出た。雨が少し降りかかるうえに、風がたいそう冷ややかに吹き入って、言いようもなく薫ってくるので、そういうことだったのだと、誰も彼も胸がときめきそうなご様子が趣深いので、用意もなく見苦しいうえに、まだ思いも寄らないことなので心騒いで、「どういうことでしょう」と言い合っている。薫は「気楽な所で、何か月もの思い余ることも申し上げたいと思いまして」と言わせなさった。どうお答え申し上げるべきことかと浮舟は苦しげに思っていらっしゃると、乳母は見苦しがって、「そのようにおいでになったのを、立ったままお帰し申し上げなさいましょうか。あの殿(母君の家)にこうでしたと忍んで申し上げましょう。近い所ですから」と言う。尼君は「不慣れに、どうしてそのようなことをなさるでしょう。若い方同士がお話し申し上げなさるのは、すぐに深く馴れ親しむはずもないのに、不思議なほど心のどかで思慮深くいらっしゃる君ですから、まさか人の許しもなく打ち解けなさることはありますまい」などと言ううちに、雨がやや降ってきて、空はたいそう暗い。宿直人の妙な声をした者が夜回りして、「家の東南の隅の崩れがたいそう危ない。この人のお車を入れるなら引き入れて御門を閉めよ。このような人の供人こそ、心がいやなものだ」などと言い合っているのも、気味悪く聞き慣れない心地がなさる。薫は「佐野のわたりに家もあらなくに」などと口ずさんで、田舎びた簀子の端の方に座っていらっしゃった。
- 1君君きみもももめのとめのとめのとももも、、、めでたしめでたしめでたしととと見見み置置おききき聞聞きこえええてててししし人人ひとののの御御おんさまさまさまなれなれなればばば忘忘わすれれれぬぬぬさまさまさまにににのたまふのたまふのたまうらむらむらんももも哀哀あわれなれなれなれどどど、、、俄俄にわかにににかくかくかくおぼしおぼしおぼしたばかるたばかるたばかるらむらむらんとととははは思思おもひひいもももよらよらよらずずず、、、宵宵よいうちうちうち過過すぐるぐるぐる程程ほどににに宇宇う治治じよりよりより人人ひと參參まいれれれりりりとてとてとて、、、門門かど忍忍しのびやかびやかびやかににに打打うちちち叩叩たたくくく。。。さささにににやややあらあらあらむむんととと思思おもへへえばばば、、、辨辨べんあけあけあけさせさせさせたれたれたればばば、、、車車くるまをををぞぞぞひきひきひき入入いるるるなるなるなる。。。怪怪あやしししととと思思おもふふうににに、、、尼尼あま君君ぎみににに對對たいめんめんめん給給たまはらはらわらむむんとてとてとて、、、このこのこの近近ちかききき御御おんさうさうそうのののあづかりあづかりあずかりののの名名なのりのりのりをををせせせさせさせさせ給給たまへへえれれればばば、、、戶戶と口口ぐちにににゐざりゐざりいざり出出いでででたりたりたり。。。雨雨あめ少少すこしししうちうちうちそゝぐそゝぐそそぐににに、、、風風かぜはははいといといとひやゝかひやゝかひややかににに吹吹ふききき入入いりりりててて、、、いひいひいい知知しらららずずず薰薰かおりりりくれくれくればばば、、、かうかうこうなりなりなりけりけりけりととと、、、たれたれたれもももたれたれたれももも心心こころときめきときめきときめきしししつつつべきべきべき御御おんけはひけはひけはいをかしけれをかしけれおかしければばば、、、用用よう意意いもももなくなくなくあやしきあやしきあやしきににに、、、まだまだまだ思思おもひひいあへあへあえぬぬぬ程程ほどなれなれなればばば心心こころさわぎさわぎさわぎててて、、、いかいかいかなるなるなることことことにににかかかあらあらあらむむん」」」ととといひいひいいあへあへあえりりり。。。「「「心心こころやすきやすきやすき所所ところにてにてにて月月つき頃頃ごろののの思思おもひひいあまるあまるあまることことことももも聞聞きこえええさせさせさせむむんとてとてとてなむなむなん」」」ととといはいはいわせせせ給給たまへへえりりり。。。いかにいかにいかに聞聞きこゆゆゆべきべきべきことことことにににかかかととと君君きみははは苦苦くるしげしげしげににに思思おもひひいててて居居い給給たまへへえれれればばば、、、めのとめのとめのと見見み苦苦ぐるしししがりがりがりててて、、、「「「しかしかしかおはしましおはしましおわしましたらたらたらむむんををを、、、立立たちちちながらながらながらやはやはやは返返かえししし奉奉たてまつりりり給給たまははわむむん。。。かのかのかの殿殿とのにににこそこそこそかくかくかくなむなむなんととと忍忍しのびびびててて聞聞きこえええめめめ。。。近近ちかききき程程ほどなれなれなればばば」」」ととといふいふいう。。。
- 2「「「うひうひしくうひうひしくういういしくなどなどなどてててかかかさささはははあらあらあらむむん。。。若若わかききき御御おんどちどちどち物物もの聞聞きこえええ給給たまははわむむんははは、、、ふとふとふとしもしもしもまみまみまみつくつくつくべくべくべくもももあらあらあらぬぬぬををを、、、怪怪あやしきききまでまでまで心心こころのどかのどかのどかににに物物もの深深ふこうううおはするおはするおわする君君きみなれなれなればばば、、、よもよもよも人人ひとのののゆるしゆるしゆるしなくなくなくててて打打うちちち解解とけけけ給給たまははわじじじなどなどなどいふいふいう程程ほど、、、雨雨あめやゝやゝやや降降ふりりりくれくれくればばば空空そらはははいといといとくらしくらしくらし。。。とのゐとのゐとのいびとびとびとのののあやしきあやしきあやしき聲聲こえしししたるたるたるやぎやうやぎやうやぎょううちうちうちじじじててて、、、「「「やややかのかのかの辰辰たつ巳巳みのののすみすみすみのののくづれくづれくずれいといといとあやうしあやうしあようし。。。このこのこの人人ひとののの御御おん車車くるま入入いるるるべくべくべくばばば引引ひききき入入いれれれててて御御み門門かどさしさしさしてててよよよ。。。かゝるかゝるかかるひとひとひとののの供供とも人人びとこそこそこそ、、、心心こころはははうたてうたてうたてあれあれあれなどなどなどいひいひいいあへあへあえるるるももも、、、むくむくしくむくむくしくむくむくしく聞聞きききき習習ならははわぬぬぬ心地心地ここちししし給給たまふふう。。。さささのののゝゝのわたりわたりわたりににに家家いえもももあらあらあらなくなくなくににになどなどなど口口くちずさびずさびずさびててて、、、さとさとさとびたるびたるびたる簀簀すの子子このののはしはしはしつかたつかたつかたににに居居い給給たまへへえりりり。。。
現代語訳
浮舟も乳母も、すばらしいと拝見しておいた方のご様子なので、忘れずにおっしゃっているらしいのも哀れだが、急にこのようにお計らいになっているとは思いも寄らないでいると、宵を少し過ぎる頃、宇治から人が参ったと言って、門を忍びやかに叩く。そうだろうかと思うので、弁の尼が開けさせると、車を引き入れるようだ。妙だと思ううちに、尼君に対面したいと言って、この近くの御荘園の管理人の名を名乗らせなさったので、尼君は戸口にいざり出た。雨が少し降りかかるうえに、風がたいそう冷ややかに吹き入って、言いようもなく薫ってくるので、そういうことだったのだと、誰も彼も胸がときめきそうなご様子が趣深いので、用意もなく見苦しいうえに、まだ思いも寄らないことなので心騒いで、「どういうことでしょう」と言い合っている。「気楽な所で、何か月もの思い余ることも申し上げたいと思いまして」と言わせなさった。どうお答え申し上げるべきことかと、浮舟は苦しげに思っていらっしゃると、乳母は見苦しがって、「そのようにおいでになったのを、立ったままお帰し申し上げなさいましょうか。あの殿にこそ、こうでしたと忍んで申し上げましょう。近い所ですから」と言う。
尼君は「不慣れに、どうしてそのようなことがあるでしょう。若い方同士がお話し申し上げなさるのは、すぐに深く馴れ親しむはずもないのに、不思議なほど心のどかで思慮深くいらっしゃる君ですから、まさか人の許しもなく打ち解けなさることはありますまい」などと言ううちに、雨がやや降ってきて、空はたいそう暗い。宿直人で妙な声をした者が夜回りをして、「やあ、あの東南の隅の崩れがたいそう危ない。この人のお車を入れるなら、引き入れて御門を閉めよ。このような人の供人こそ、心がいやなものだ」などと言い合っているのも、気味悪く聞き慣れない心地がなさる。「佐野のわたりに家もあらなくに」などと口ずさんで、田舎びた簀子の端の方に座っていらっしゃった。
意訳
浮舟と乳母は薫のことを話していたが、宵過ぎに、宇治の荘園の管理人を名乗る者が来る。雨の中、言いようのない香りが漂い、一同は薫の来訪と知って胸をときめかせる。薫は思いを伝えたいと申し入れ、浮舟はどう答えるべきか悩む。乳母は帰すわけにはいかないと言い、弁の尼は薫は思慮深い方だから無理なことはしないと言う。雨が強まる中、粗野な宿直人の声が聞こえ、薫は古歌を口ずさみながら簀子の端に座っていた。
語釈・文法注
文法
- 「やぎやう」(やぎやううちじて)
- 夜行。夜回り。
- 「辰巳のすみ」(やかの辰巳のすみのくづれいとあやうし)
- 東南の隅。
- 「さのゝわたりに家もあらなくに」(さのゝわたりに家もあらなくになど口ずさびて)
- 「苦しくも降り来る雨か三輪の崎佐野のわたりに家もあらなくに」(万葉集)による。雨宿りする家もない嘆き。
解説
薫は弁の尼の来訪を口実に、自ら三条の小家に乗り込む。いつもの慎重さを捨てた薫の大胆な行動は、匂宮の行動と対照をなしつつ、同じく浮舟を求める男の姿を描いている。
雨の夜、粗末な家の簀子に座る薫。宿直人の粗野な声と、薫の雅な古歌の対比が、身分の違う二つの世界の出会いを象徴する。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1102–1103頁(コマ262)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日