源氏物語 第50帖 東屋(35)
京へ出る弁の尼
薫は「手紙は易いことだが、人の噂はたいそういやなものなので、右大将は常陸守の娘に求婚しているそうだなどと取り沙汰するだろうよ。その守の主人は、たいそう荒々しそうだ」とおっしゃるので、尼君は笑って、お気の毒だと思う。暗くなったので薫はお出かけになる。下草の趣深い花々や紅葉などを折らせなさって、女二の宮にご覧に入れなさる。甲斐がなくはなくいらっしゃるだろうが、恐れ畏まった様子で、ひどく馴れ親しみ申し上げなさらないようである。帝からも並の親のように、入道の宮(女三の宮)にも申し上げなさるので、たいそう高貴な方として限りなく大切にお思い申し上げていらっしゃる。あちらこちらとお世話申し上げなさる宮仕えに加えて、厄介な私的な心が加わったのも苦しいことだった。約束なさった日のまだ早朝に、親しくお思いになる下臈の侍一人と、顔を知られていない牛飼を用意してお遣わしになる。御荘園の者たちで田舎びた者を召し出して「付き添え」とおっしゃる。必ず出るようにとおっしゃったので、尼君はたいそう気が引けてつらいが、化粧して身づくろいして乗った。野山の様子を見るにつけても、昔からの古いことどもが思い出されて、物思いにふけって日を暮らして到着した。たいそう所在なく人目もない所なので、気楽に車を引き入れて、「このように参りました」と、案内の男に言わせたところ、初瀬の供にいた若い女房が出てきて降ろす。浮舟は妙な所で物思いにふけって明かし暮らしていたが、昔話でもできそうな人が来たので、うれしく呼び入れなさって、親と申し上げた人(八の宮)のおそば近くの人と思うと、親しく思うのだろう。尼君は「しみじみと人知れず拝見して以来、思い出し申し上げない折はありませんが、世の中をこれほど思い捨てた身で、あの宮(中の君)のもとにさえ参りませんのに、この大将殿が不思議なほど仰せになりましたので、思い立ちまして」と申し上げる。
- 1「「「文文ふみばばばやすかるやすかるやすかるべきべきべきををを、、、人人ひとののの物物ものいひいひいいいといといとうたてうたてうたてあるあるあるものものものなれなれなればばば、、、右右う大大だい將將しょうははは常常ひた陸陸ちのののかみかみかみののの娘娘むすめをををなむなむなん、、、よばふよばふよばうなるなるなるなどなどなどもももとりとりとりなしなしなしてててむむんをををややや。。。そのそのそのかんかんかんのののぬしぬしぬし、、、いといといとあらあらしげあらあらしげあらあらしげなななめりめりめり」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、うちうちうち笑笑わらひひいててて、、、いとほしいとほしいとおしととと思思おもふふう暗暗くろうううなれなれなればばば出出いででで給給たまふふう。。。下下した草草くさのののをかしきをかしきおかしき花花はなどもどもども紅紅もみ葉葉じなどなどなどをらをらおらせせせ給給たまひひいててて宮宮みやににに御御ご覽覽らんぜぜぜさせさせさせ給給たまふふう。。。かひかひかいなからなからなからずずずおはしおはしおわしぬぬぬべけれべけれべけれどどど、、、かしこまりかしこまりかしこまり置置おきききたるたるたるさまさまさまにてにてにて、、、いたういたういとうもももなれなれなれ聞聞きこえええ給給たまははわずずずぞぞぞあああめるめるめる。。。うちうちうちよりよりよりたゞたゞただののの親親おやめきめきめきててて、、、入入にゅう道道どうののの宮宮みやにににももも聞聞きこえええ給給たまへへえばばば、、、いといといとやんごとなきやんごとなきやんごとなきかたかたかたははは限限かぎりなくなくなく思思おもひひい聞聞きこえええ給給たまへへえりりり。。。こなたこなたこなたかなたかなたかなたとととかしづきかしづきかしずき聞聞きこえええ給給たまふふう宮宮みや仕仕づかえにににそへそへそえててて、、、むつかしきむつかしきむつかしき私私わたくしののの心心こころののの添添そひひいたるたるたるももも苦苦くるしかりしかりしかりけりけりけり。。。のたまひのたまひのたまいしししまだまだまだつとめてつとめてつとめて、、、むつましくむつましくむつましくおぼすおぼすおぼす下下げ﨟﨟ろうののの侍侍さぶらい一一ひと人人り、、、顏顏かお知知しらららぬぬぬ牛牛うし飼飼かいつくりつくりつくり出出いでででゝゝてつかはすつかはすつかわす。。。御御おんさうさうそうのののものものものどもどもどもののの田田い舍舍なかびたるびたるびたる召召めししし出出いでででゝゝて「「「つけつけつけよよよ」」」とととのたまふのたまふのたまう。。。
- 2必必かならずずず出出いづづずべくべくべくのたまへのたまへのたまえりりりけれけれければばば、、、いといといとつゝましくつゝましくつつましく苦苦くるしけれしけれしけれどどど、、、打打うちちちけさうじけさうじけそうじつくろひつくろひつくろいてててのりのりのりぬぬぬ。。。野野の山山やまののの氣色氣色けしきををを見見みるるるにににつけつけつけでででももも、、、いにしへいにしへいにしえよりよりよりのののふるふるふることことことゞゞどももも思思おもひひい出出いでででられられられててて、、、眺眺ながめめめ暮暮くらしししてててなむなむなんきききつきつきつきけるけるけるいといといとつれづれつれづれつれずれににに人人ひとめめめももも見見みえええぬぬぬ所所ところなれなれなればばば心心こころやすくやすくやすく引引ひききき入入いれれれててて、、、「「「かくかくかくなむなむなん參參まいりりり來來きつるつるつる」」」ととと、、、しるべしるべしるべのののをのこをのこおのこしししててていはいはいわせせせたれたれたればばば、、、初初はつ瀨瀨せのののともともともにににありありありししし若若わか人人うど出出いででできききててておろすおろすおろす。。。怪怪あやしきしきしき所所ところをををながめながめながめ暮暮くらししし明明あかすすすににに、、、昔昔むかしがたりがたりがたりもももしししつつつべきべきべき人人ひとのののきたれきたれきたればばば嬉嬉うれしくしくしく呼呼よびびび入入いれれれ給給たまひひいててて、、、親親おやととと聞聞きこえええけるけるける人人ひとののの御御おんあたりあたりあたりののの人人ひとととと思思おもふふうににに、、、むつましきむつましきむつましきなるなるなるべしべしべし。。。「「「哀哀あわれににに人人ひとしれしれしれずずず見見み奉奉たてまつりりりししし後後のちよりよりよりははは思思おもひひい出出いででで聞聞きこえええぬぬぬをりをりおりなけれなけれなけれどどど、、、世世よののの中中なかかばかりかばかりかばかり思思おもひひい給給たまへへえ捨捨すてててたるたるたる身身みにてにてにて、、、かのかのかの宮宮みやにににだにだにだに參參まいりりり侍侍はべらららぬぬぬををを、、、このこのこの大大たい將將しょう殿殿どのののの怪怪あやしきしきしきまでまでまでのたまはせのたまはせのたまわせしかしかしかばばば、、、思思おもひひい給給たまへへえ起起おこしししてててなむなむなん」」」ととと聞聞きこゆゆゆ。。。
現代語訳
「手紙は易いことだが、人の噂はたいそういやなものなので、右大将は常陸守の娘に求婚しているそうだなどと、取り沙汰するだろうよ。その守の主人は、たいそう荒々しそうなようだ」とおっしゃるので、尼君は笑って、お気の毒だと思う。暗くなったのでお出かけになる。下草の趣深い花々や紅葉などを折らせなさって、宮にご覧に入れなさる。甲斐がなくはなくいらっしゃるに違いないが、恐れ畏まった様子で、ひどく馴れ親しみ申し上げなさらないようである。帝からも並の親のように、入道の宮にも申し上げなさるので、たいそう高貴な方として、限りなく大切にお思い申し上げていらっしゃる。あちらこちらとお世話申し上げなさる宮仕えに加えて、厄介な私的な心が加わったのも苦しいことだった。約束なさった日のまだ早朝に、親しくお思いになる下臈の侍一人と、顔を知られていない牛飼を用意してお遣わしになる。御荘園の者たちで田舎びた者を召し出して、「付き添え」とおっしゃる。
必ず出るようにとおっしゃったので、たいそう気が引けてつらいけれど、化粧して身づくろいして乗った。野山の様子を見るにつけても、昔からの古いことどもが思い出されて、物思いにふけって日を暮らして到着した。たいそう所在なく人目もない所なので、気楽に車を引き入れて、「このように参りました」と、案内の男に言わせたところ、初瀬の供にいた若い女房が出てきて降ろす。妙な所で物思いにふけって明かし暮らしていたので、昔話でもできそうな人が来たので、うれしく呼び入れなさって、親と申し上げた人のおそば近くの人と思うと、親しく思うのだろう。「しみじみと人知れず拝見して以来、思い出し申し上げない折はありませんが、世の中をこれほど思い捨てた身で、あの宮のもとにさえ参りませんのに、この大将殿が不思議なほど仰せになりましたので、思い立ちまして」と申し上げる。
意訳
薫は、手紙では常陸介の娘に求婚していると噂されると笑い、京に帰る。薫は宇治の花や紅葉を女二の宮に見せるが、夫婦仲は畏まったよそよそしいものであった。約束の日、薫は侍と牛飼を弁の尼のもとに遣わし、尼は身づくろいして京へ向かう。三条の小家に着いた尼を、浮舟は父八の宮に仕えた人と思って喜んで迎え、尼は薫に頼まれて来たと語る。
語釈・文法注
文法
- 「よばふ」(常陸のかみの娘をなむ、よばふなる)
- 呼ばふ。求婚する。
- 「かんのぬし」(そのかんのぬし、いとあらあらしげなめり)
- 守の主。常陸介のこと。
- 「けさうじ」(打ちけさうじつくろひてのりぬ)
- 化粧じ。化粧すること。
解説
帝の娘を妻とした薫は、その高貴さゆえに畏まり、打ち解けることができない。女二の宮との結婚の空虚さが、薫を浮舟へと向かわせる一因となっている。
浮舟は父を知らない。父に仕えた弁の尼の来訪を喜ぶ浮舟の姿には、父を求める娘の心が表れている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1100–1103頁(コマ261–262)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
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