源氏物語 第50帖 東屋(32)
薫を思う母と浮舟
北の方には、わけもなく大将殿(薫)のご様子や容貌が恋しく面影に浮かぶ。同じようにすばらしいと拝見したが、宮は思い離れなさって心も留まらず、侮って押し入りなさったのを思うにつけても憎らしい。この君(薫)はさすがに浮舟を尋ねてお思いになる心がありながら、いきなりには言いかけなさらず、そ知らぬ顔でいるのがかえって立派だ、何かにつけて思い出されるので、若い人(浮舟)はましてこのように思い出し申し上げていらっしゃるだろう、自分のものにしようと、あのような憎い人(少将)を思ったのは見苦しいことだったなどと、ただ心にかかって物思いにふけってばかりいて、ああしようかこうしようかと、万事よいように将来のことを思い続けるが、たいそう難しい。高貴なご身分で、ご待遇も帝の娘をいただいていらっしゃる方は、もう少し並々でない人でなければ、どれほどの人に心をお留めになるだろう、世の人の有様を見聞きすると、劣り優り、卑しさ高貴さの品に従って、容貌も心もあるものだった、わが子どもを見ると、この君(浮舟)に似ている者があろうか、少将をこの家の中ではまたとない者と思っていたが、宮に見比べ申し上げると、たいそう残念だったのから推し量られる、当代の帝の大切な御娘を得られた方のお目には、たいそうたいそう恥ずかしく、気の引けることだろうと思うにつけても、わけもなく心も上の空になった。旅の宿りは所在なくて、庭の草もうっとうしい心地がするうえに、卑しい東国訛りの者たちばかりが出入りして、慰めに見るような前栽の花もない。荒れていて晴れ晴れしくなく明かし暮らしていると、浮舟は宮の上のご様子を思い出すにつけ、若い心地に恋しかった。けしからずふるまった人(匂宮)のご様子も、さすがに思い出されて、何事だったのだろう、たいそう多くしみじみとおっしゃったものだ、名残の趣深かったお移り香も、まだ残っている心地がして、恐ろしかったことも思い出される。母君が、どうしているかと、たいそうしみじみとした手紙を書いてよこしなさる。
- 1あいなうあいなうあいのう大大たい將將しょう殿殿どのののの御御おんさまさまさまかたちかたちかたちぞぞぞ戀戀こいしうしうしゅう面面おも影影かげににに見見みゆるゆるゆる。。。同同おなじうじうじゅうめでたしめでたしめでたしととと見見み奉奉たてまつりりりしかしかしかどどど宮宮みやははは思思おもひひい離離はなれれれ給給たまひひいててて心心こころもももとまらとまらとまらずずず、、、あなづりあなづりあなずりててて押押おししし入入いりりり給給たまへへえりりりけるけるけるををを、、、思思おもふふうもももねたしねたしねたし、、、このこのこの君君きみはははさすがさすがさすがににに尋尋たずねねねおぼすおぼすおぼす心心こころばへばへばえのののありありありながらながらながら、、、うちつけうちつけうちつけにににもももいひいひいいかけかけかけ給給たまははわずずず、、、つれなしつれなしつれなし顏顏がおなるなるなるしもしもしもこそこそこそいたけれいたけれいたけれ、、、萬萬よろずにににつけつけつけててて思思おもひひい出出いでででらるれらるれらるればばば若若わかききき人人ひとはははましてましてましてかくかくかくややや思思おもひひい出出いででで聞聞きこえええ給給たまふふうらむらむらん、、、我我わがががものものものにににせせせむむんととと、、、かくかくかくにくきにくきにくき人人ひとををを思思おもひひいけむけむけんこそこそこそ見見み苦苦ぐるしきしきしき事事ことなるなるなるべかりべかりべかりけれけれけれなどなどなど唯唯ただ心心こころにににかゝりかゝりかかりててて眺眺ながめめめのみのみのみせせせられられられててて、、、とてとてとてやややかくかくかくてててやややととと、、、よろづよろづよろずににに善善よからからからむむんあらましあらましあらましごとごとごとををを思思おもひひいつゞくるつゞくるつづくるににに、、、いといといとかたしかたしかたし。。。やんごとなきやんごとなきやんごとなき御御おん身身みのののほどほどほど御御おんもてなしもてなしもてなし見見み奉奉たてまつりりり給給たまへへえらららむむん人人ひとははは今今いま少少すこしししなのめなのめなのめならならならずずず、、、いかいかいかばかりばかりばかりにてにてにてかかかははは心心こころををを留留とめめめ給給たまははわむむん、、、世世よののの人人ひとののの有有あり樣樣さまををを見見み聞聞きくくくににに、、、劣劣おとりりり優優まさりりり賤賤いやしうしうしゅうあてあてあてなるなるなるしなしなしなににに從從したがひひいてててかたちかたちかたちももも心心こころもももあるあるあるべきべきべきものものものなりなりなりけりけりけり、、、我我わががが子子こどもどもどもををを見見みるるるににに、、、このこのこの君君きみににに似似にるるるべきべきべきやはやはやはあるあるある、、、少少しょう將將しょうをををこのこのこの家家いえののの內內うちににに、、、又又またなきなきなきものものものににに思思おもへへえどもどもども、、、宮宮みやににに見見みくらべくらべくらべ奉奉たてまつりりりしかしかしかばばば、、、いといといとももも口口くち惜惜おしかりしかりしかりしししににに推推おししし量量はからららるるる、、、當當とう代代だいののの御御おんかしづきかしづきかしずきむすめむすめむすめををを、、、えええ奉奉たてまつりりり給給たまへへえらららむむん人人ひとののの御御おんめめめうつしうつしうつしにににははは、、、いといといともももいといといともももはづかしくはづかしくはずかしく、、、つゝましかるつゝましかるつつましかるべきべきべきものものものかなかなかなととと思思おもふふうももも、、、すゞろすゞろすずろににに心地心地ここちもももあくがれあくがれあくがれにににけりけりけり。。。
- 2旅旅たびのののやどりやどりやどりはははつれづれつれづれつれずれにてにてにて、、、庭庭にわののの草草くさもももいぶせきいぶせきいぶせき心地心地ここちするするするににに、、、いやしきいやしきいやしきあづまあづまあずまこゑこゑこえしししたるたるたるものものものどもどもどもばかりばかりばかりのみのみのみいでいでいでいりいりいり、、、慰慰なぐさめめめににに見見みるるるべきべきべきせんざいせんざいせんざいののの花花はなもももなしなしなし。。。打打うちちちあばれあばれあばれててて、、、はればれしからはればれしからはればれしからででで明明あかししし暮暮くらすすすににに、、、宮宮みやのののうへうへうえののの御御おん有有あり樣樣さま思思おもひひい出出いづるづるずるににに若若わかいいい心地心地ここちににに戀戀こいしかりしかりしかりけりけりけりあやにくあやにくあやにくだちだちだち給給たまへへえりりりししし人人ひとののの御御おんけはひけはひけはいももも、、、さすがさすがさすがににに思思おもひひい出出いでででられられられててて、、、何何なに事事ことにににかかかありありありけむけむけん、、、いといといと多多おおくくく哀哀あわれげげげにににのたまひのたまひのたまいしかしかしかななな、、、名名な殘殘ごりをかしかりをかしかりおかしかりししし御御おんうつりうつりうつりがががももも、、、まだまだまだ殘殘のこりりりたるたるたる心地心地ここちしししててて恐恐おそろしかりしかりしかりしししももも思思おもひひい出出いでででらるらるらる。。。母母はは君君ぎみだつだつだつやややととと、、、いといといと哀哀あわれげげげなるなるなる文文ふみをををかきかきかきててておこせおこせおこせ給給たまふふう。。。
現代語訳
わけもなく、大将殿のご様子や容貌が恋しく面影に浮かぶ。同じようにすばらしいと拝見したが、宮は思い離れなさって心も留まらず、侮って押し入りなさったのを思うにつけても憎らしい、この君はさすがに尋ねてお思いになる心がありながら、いきなりには言いかけなさらず、そ知らぬ顔でいるのがかえって立派だ、何かにつけて思い出されるので、若い人はましてこのように思い出し申し上げていらっしゃるだろう、自分のものにしようと、あのような憎い人を思ったのは見苦しいことだったなどと、ただ心にかかって物思いにふけってばかりいて、ああしようかこうしようかと、万事よいように将来のことを思い続けるが、たいそう難しい。高貴なご身分で、ご待遇を拝見していらっしゃるような方は、もう少し並々でない人でなければ、どれほどの人に心をお留めになるだろう、世の人の有様を見聞きすると、劣り優り、卑しさ高貴さの品に従って、容貌も心もあるものだった、わが子どもを見ると、この君に似ている者があろうか、少将をこの家の中ではまたとない者と思っていたけれど、宮に見比べ申し上げたところ、たいそう残念だったのから推し量られる、当代の帝の大切な御娘を得られた方のお目には、たいそうたいそう恥ずかしく、気の引けることだろうなと思うにつけても、わけもなく心も上の空になった。
旅の宿りは所在なくて、庭の草もうっとうしい心地がするうえに、卑しい東国訛りの者たちばかりが出入りして、慰めに見るような前栽の花もない。荒れていて、晴れ晴れしくなく明かし暮らしていると、宮の上のご様子を思い出すにつけ、若い心地に恋しかった。けしからずふるまった人のご様子も、さすがに思い出されて、何事だったのだろう、たいそう多くしみじみとおっしゃったものだ、名残の趣深かったお移り香も、まだ残っている心地がして、恐ろしかったことも思い出される。母君が、どうしているかと、たいそうしみじみとした手紙を書いてよこしなさる。
意訳
北の方は、浮舟を侮った匂宮と違い、浮舟を気にかけながらも慎み深い薫を思い、少将を婿にしようとしたことを後悔する。しかし帝の娘を妻とする薫に浮舟がふさわしいかと思うと気が引け、心が乱れる。一方、三条の荒れた家で、浮舟は東国訛りの者ばかりの中で所在なく過ごし、中の君を恋しく思い、匂宮の言葉や移り香も思い出す。そこへ母から手紙が届く。
語釈・文法注
文法
- 「つれなし顏」(つれなし顏なるしもこそいたけれ)
- そ知らぬ顔。平然とした顔つき。
- 「めうつし」(人の御めうつしには)
- 目移し。見比べること、見る目。
- 「あづまこゑ」(いやしきあづまこゑしたるものども)
- 東国訛り。
解説
北の方の心は、少将から薫へと大きく移る。匂宮の美しさに惹かれながらも、その軽薄さを憎み、慎み深い薫にこそ浮舟を託したいと願う。母の選択が、浮舟の運命を宇治へと導く。
浮舟は匂宮の言葉と移り香を思い出す。恐ろしかったと思いながらも心に残る匂宮の面影は、後の浮舟の苦悩の種となっていく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1096–1099頁(コマ259–260)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日