源氏物語 第50帖 東屋(29)
浮舟を連れ出す母
乳母は車を頼んで常陸殿へ行った。北の方にこれこれと言うと、北の方は胸がつぶれて騒ぎ、人もけしからぬことと言い思っているだろう、ご本人(中の君)もどうお思いになるだろう、このような筋の嫉妬は高貴な人も変わらないものだと、自分の心の習いからあわただしく思うようになって、夕方に参った。宮がいらっしゃらないので気楽で、「妙に幼げな人を参らせておいて、安心してお頼み申し上げながらも、鼬がおりますような心地がいたしますので、よからぬ者どもに憎まれ恨まれております」と申し上げる。中の君は「たいそうそう言うほどの幼さではないようですのに、気がかりそうに様子ありげなお目つきこそ厄介です」と言ってお笑いになるが、気後れするほどのお目もとを見るにつけても、北の方は心の鬼で恥ずかしく思われる。どうお思いだろうと思うと、言い出すこともできず、「こうしてお仕えなさるのは、長年の願いがかなう心地がして、人が漏れ聞きますのも見苦しくなく、面目あることと存じておりますが、さすがに気が引けることでございましたのを。深い山の本意こそ、確かでございましょうに」と言って泣くのも、中の君はたいそう気の毒で、「ここでは何が気がかりに思われましょう。どうあっても疎々しく思い放ち申し上げているならともかく。けしからぬ様子で、よくない人が時々いらっしゃるようですが、その心を皆が知っているようですから、気をつけて不都合にはお扱い申し上げまいと思っていますのに、どう推し量りなさるのか」とおっしゃる。北の方は「全くお心を隔てがあるとは思い申し上げておりません。決まり悪く、お認めいただけなかった筋のことは、どうして申し上げましょう。その方ではなくても、お見捨てになれない綱もございますのを、手がかりとしてお頼み申し上げるのです」などと、並々でなく申し上げて、「明日明後日は固い物忌でございますので、人目の多くない所で過ごして、またお参らせいたしましょう」と申し上げて浮舟を誘う。
- 1めのとめのとめのと車車くるまこひこひこいててて常常ひた陸陸ち殿殿どのへへへいぬいぬいぬ。。。北北きたののの方方かたにににかうかうこうかうかうこうととといへいへいえばばば胸胸むねつぶれつぶれつぶれさわぎさわぎさわぎててて、、、人人ひともももけしからぬけしからぬけしからぬさまさまさまにににいひいひいい思思おもふふうらむらむらん、、、さうじみさうじみそうじみもももいかゞいかゞいかがおぼすおぼすおぼすべきべきべき、、、かゝるかゝるかかるすぢすぢすじののの物物ものにくみにくみにくみははは、、、あてあてあて人人びともももなきなきなきものものものなりなりなりととと、、、おのおのおのががが心心こころならひならひならいにににあわたゞしくあわたゞしくあわただしく思思おもひひいなりなりなりててて、、、夕夕ゆうつつつ方方かたまゐりまゐりまいりぬぬぬ宮宮みやおはしまさおはしまさおわしまさねねねばばば心心こころやすくやすくやすくててて、、、「「「怪怪あやしくしくしく心心こころ幼幼おさなげげげなるなるなる人人ひとををを參參まいらららせせせおきおきおきててて、、、うしろうしろうしろやすくやすくやすくはははたのみたのみたのみ聞聞きこえええさせさせさせながらながらながら、、、いたちいたちいたちののの侍侍はべらららむむんやうやうようなるなるなる心地心地ここちのののししし侍侍はべれれればばば、、、よからよからよからぬぬぬものものものともともともににに惡惡にくみみみ怨怨うらみみみられられられ侍侍はべりりり」」」ととと聞聞きこゆゆゆ。。。「「「いといといとさささいふいふいうばかりばかりばかりののの幼幼おさなげげげさささにににはははあらあらあらざざざめるめるめるををを、、、うしろめたげうしろめたげうしろめたげににに氣氣け色色しきばみばみばみたるたるたる御御おんまままかげかげかげこそこそこそ煩煩わずらはしけれはしけれわしけれ」」」とてとてとて笑笑わらひひい給給たまへへえるるるががが、、、心心こころ耻耻はずかしげしげしげなるなるなる御御おんまみまみまみををを見見みるるるももも、、、心心こころのののおにおにおにゝゝに耻耻はずかしくしくしくぞぞぞ覺覺おぼゆるゆるゆる。。。いかにいかにいかにおぼすおぼすおぼすらむらむらんととと思思おもへへえばばばえええもももうちうちうち出出いででで聞聞きこえええずずず、、、「「「かくかくかくててて侍侍さぶらひひい給給たまふふうははは、、、年年とし頃頃ごろののの願願ねがひひいのののみつみつみつこゝちこゝちここちしししててて、、、人人ひとのののもりもりもり聞聞きききき侍侍はべらららむむんもももめやすくめやすくめやすく、、、おもだゝしきおもだゝしきおもだたしきことことことににになむなむなん思思おもひひい給給たまふるふるうるををを、、、さすがさすがさすがにににつゝましきつゝましきつつましきことことことににになむなむなん侍侍はべりりりけるけるけるををを、、、深深ふかききき山山やまのののほいほいほいははは、、、みさをみさをみさおににになむなむなん侍侍はべるるるべきべきべきををを」」」とてとてとて、、、打打うちちち泣泣なくくくもももいといといといとほしくいとほしくいとおしくててて
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現代語訳
乳母は車を頼んで常陸殿へ行った。北の方にこれこれと言うと、胸がつぶれて騒ぎ、人もけしからぬことと言い思っているだろう、ご本人もどうお思いになるだろう、このような筋の嫉妬は、高貴な人も変わらないものだと、自分の心の習いから、あわただしく思うようになって、夕方に参った。宮がいらっしゃらないので気楽で、「妙に幼げな人を参らせておいて、安心してお頼み申し上げながらも、鼬がおりますような心地がいたしますので、よからぬ者どもに憎まれ恨まれております」と申し上げる。「たいそうそう言うほどの幼さではないようですのに、気がかりそうに様子ありげなお目つきこそ、厄介です」と言ってお笑いになるが、気後れするほどのお目もとを見るにつけても、心の鬼で恥ずかしく思われる。どうお思いだろうと思うと、言い出すこともできず、「こうしてお仕えなさるのは、長年の願いがかなう心地がして、人が漏れ聞きますのも見苦しくなく、面目あることと存じておりますが、さすがに気が引けることでございましたのを。深い山の本意こそ、確かでございましょうに」と言って泣くのも、たいそう気の毒で、
「ここでは何が気がかりに思われましょう。どうあっても疎々しく、思い放ち申し上げているならともかく。けしからぬ様子で、よくない人が時々いらっしゃるようですが、その心を皆が見知っているようですから、気をつけて、不都合にはお扱い申し上げまいと思っていますのに、どう推し量りなさるのですか」とおっしゃる。「全くお心を隔てがあるとは思い申し上げておりません。決まり悪く、お認めいただけなかった筋のことは、どうして申し上げましょう。その方ではなくても、お見捨てになれない綱もございますのを、手がかりとしてお頼み申し上げるのです」などと、並々でなく申し上げて、「明日明後日は固い物忌でございますので、人目の多くない所で過ごして、またお参らせいたしましょう」と申し上げて浮舟を誘う。
意訳
乳母から匂宮の一件を聞いた北の方は、中の君の嫉妬を恐れ、あわてて二条院に参る。北の方は鼬がいるような心地だと遠回しに言い、中の君は笑って取り合わない。北の方は、浮舟が中の君に仕えるのは長年の願いだったが、やはり気が引けると泣き、中の君は匂宮には気をつけているのにと言う。北の方は、物忌を口実に浮舟を連れ出す。
語釈・文法注
文法
- 「いたちの侍らむやうなる」(いたちの侍らむやうなる心地のし侍れば)
- 鼬は人の様子をうかがうとされた。ここでは、浮舟を狙う者がいる不安の比喩。
- 「まかげ」(氣色ばみたる御まかげこそ煩はしけれ)
- 目蔭。額に手をかざして見ること。転じて、目つき、警戒する様子。
- 「心のおに」(心のおにゝ耻しくぞ覺ゆる)
- 心の鬼。良心の呵責、やましい気持ち。
解説
北の方は匂宮の一件を直接口にせず、物忌を口実に浮舟を連れ出す。中の君もまた、事情を知りながら知らぬふりをする。互いに本心を隠しながらのやりとりが、宮廷社会の繊細な人間関係を映し出す。
「おぼし放つまじきつな」とは、浮舟が中の君の異母妹であるという血縁のこと。北の方はその縁にすがりながらも、浮舟を中の君から引き離さざるをえない。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1094–1095頁(コマ258)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日