源氏物語 第50帖 東屋(28)
絵物語を見る浮舟
中の君は絵などを取り出させて、右近に詞書を読ませてご覧になると、浮舟は向かい合って恥ずかしがることもしきれず、熱心にご覧になっている灯火に照らされた顔は、全くここが欠点と見える所もなく、細やかで美しい。額つきや目もとが匂い立つような心地がして、たいそうおっとりとした上品さは、ただあの方(大君)とばかり思い出されるので、中の君は絵には特に目もお留めにならず、たいそうしみじみとした人の容貌だな、どうしてこうも似ているのだろう、故宮にたいそうよく似申し上げているのだろう、故姫君は宮の方に、私は母上に似申し上げていると、古女房たちが言っていたが、本当に似た人はすばらしいものだったと思い比べなさると涙ぐんでご覧になる。あの方はこの上なく上品で気高いものの、親しみやすくしなやかで、度が過ぎるほどなよなよとたわんだ様子をしていらっしゃった。この人はまだ物腰が不慣れな様子で、何事もただ気が引けるとばかり思っているせいか、見どころの多い優美さは劣っている。由緒ありげな気配さえ身につけたら、大将がご覧になるにも全く不体裁ではないだろうなどと、姉心でお世話を思われなさる。お話などなさって明け方になってお休みになる。浮舟をそばに寝かせなさって、故宮のことや、長年いらしたご様子などを、詳しくではないがお話しになる。浮舟はたいそう知りたく、お目にかかれずに終わったのを、たいそう残念で悲しいと思った。昨夜の事情を知っている女房たちは、「どうだったのでしょうね。たいそう可憐なご様子を宮がひどくお思いになっても、甲斐のあることでしょうか。お気の毒に」と言うと、右近は「そうではないでしょう。あの乳母が引き据えて、とりとめもない話をして訴えていましたが、様子は事がなかったように言っていました。宮も逢っても逢わないような気持ちだと、口ずさみなさっていましたが、さあ、わざとそうしたのかもしれません、それはわかりませんよ。昨夜の灯火に照らされた顔がたいそうおっとりしていたのも、何かあったような顔には見えなさらなかったけれど」などとささやき合って気の毒がる。
- 1繪繪えなどなどなど取取とりりり出出いださささせせせててて、、、右右う近近こんにににことわりことわりことわり讀讀よませせせててて見見み給給たまふふうににに、、、向向むかひひいててて物物ものはぢはぢはじもももえええしししあへあへあえ給給たまははわずずず、、、心心こころににに入入いれれれててて見見み給給たまへへえるるるほほほかげかげかげ、、、更更さらにににこゝこゝここととと見見みゆるゆるゆる所所ところなくなくなく、、、こまかこまかこまかにににをかしげをかしげおかしげなりなりなり。。。額額ひたいつきつきつきまみまみまみのののかほりかほりかおりたるたるたる心地心地ここちしししててて、、、いといといとおほどかおほどかおおどかなるなるなるあてあてあてさささははは、、、唯唯ただそれそれそれとととのみのみのみ思思おもひひい出出いでででらるれらるれらるればばば、、、繪繪えはははことことことににに目目めももも留留とめめめ給給たまははわででで、、、いといといと哀哀あわれなるなるなる人人ひとのののかたちかたちかたちかなかなかな、、、いかでいかでいかでかうかうこうしもしもしもありありありけるけるけるにににかかかあらあらあらむむん、、、故故こ宮宮みやにににいといといとよくよくよく似似に奉奉たてまつりりりたるたるたるなななめりめりめりかしかしかし、、、故故こ姫姫ひめ君君ぎみははは宮宮みやののの御御おん方方かたざまざまざまににに、、、我我わははは母母はは上上うえににに似似に奉奉たてまつりりりたりたりたりとととこそこそこそははは、、、ふるふるふる人人ひとどもどもどもいふいふいうなりなりなりしがしがしが、、、げにげにげに似似にたるたるたる人人ひとはははいみじきいみじきいみじきものものものなりなりなりけりけりけりとととおぼしおぼしおぼしくらぶるくらぶるくらぶるににに淚淚なみだぐみぐみぐみててて見見み給給たまふふう。。。かれかれかれははは限限かぎりなくなくなくあてあてあてににに氣氣け高高だかきききものものものからからから、、、なつかしうなつかしうなつかしゅうなよゝかなよゝかなよよかににに、、、かたはかたはかたわなるなるなるまでまでまで、、、なよなよなよなよなよなよとととたはみたはみたわみたるたるたるさまさまさまししし給給たまへへえりりりしししにににこそこそこそ。。。これこれこれはははまだまだまだもてなしもてなしもてなしのののうひうひしげうひうひしげういういしげににに、、、よろづよろづよろずののの事事ことをををつゝましうつゝましうつつましゅうのみのみのみ思思おもひひいたるたるたるけけけにににややや、、、見見み所所どころ多多おおかるかるかるなまめかしさなまめかしさなまめかしさぞぞぞ劣劣おとりりりたるたるたる。。。ゆゑゆゑしきゆゑゆゑしきゆえゆえしきけはひけはひけはいだにだにだにもももてててつけつけつけたらたらたらばばば、、、大大たい將將しょうののの見見み給給たまははわむむんにににももも、、、更更さらにににかたはかたはかたわなるなるなるまじまじまじなどなどなど、、、このこのこのかみかみかみ心心こころににに思思おもひひいあつかはあつかはあつかわれれれ給給たまふふう。。。
- 2物物もの語語がたりなどなどなどししし給給たまひひいててて曉曉あかつきがたがたがたににになりなりなりてててぞぞぞ寢寢ね給給たまふふう。。。傍傍かたわらににに臥臥ふせせせ給給たまひひいててて、、、故故こ宮宮みやののの御御おん事事ことどもどもども、、、年年とし頃頃ごろおはせおはせおわせししし御御おん有有あり樣樣さまなどなどなど、、、まほまほまほならならならねねねどどど語語かたりりり給給たまふふう。。。いといといとゆかしうゆかしうゆかしゅうててて見見み奉奉たてまつらららずずずなりなりなりにににけるけるけるををを、、、いといといと口口くち惜惜おしうしうしゅう悲悲かなしししととと思思おもひひいたりたりたり。。。よべよべよべののの心心こころしりしりしりののの人々人々ひとびとははは、、、いかいかいかなりなりなりつつつらむらむらんななな。。。いといといとらうたげらうたげろうたげなるなるなる御御おんさまさまさまをををいみじういみじういみじゅうおぼすおぼすおぼすともともとも、、、かひかひかいあるあるあるべきべきべきことことことかはかはかは。。。いとほしいとほしいとおしととと」」」いへいへいえばばば、、、右右う近近こんぞぞぞさもさもさもあらあらあらじじじ、、、かのかのかの御御おんめのとめのとめのとののの引引ひきききすゑすゑすえててて、、、すゞろすゞろすずろ語語がたりりりうれへうれへうれえししし、、、氣色氣色けしきもてもてもてはなれはなれはなれてててぞぞぞいひいひいいししし。。。宮宮みやもももあひあひあいてててももも逢逢あははわぬぬぬやうやうようなるなるなる心心こころばへばへばえにににこそこそこそ、、、打打うちちちうそぶきうそぶきうそぶき口口くちすさびすさびすさび給給たまひひいしかしかしか、、、いさいさいさややや殊殊こと更更さらにににもももやややあらあらあらむむん、、、そそそははは知知しらららずずずかしかしかし。。。よべよべよべのののほほほかげかげかげのののいといといとおほどかおほどかおおどかなりなりなりしししももも、、、ことことことありありあり顏顏がおにににははは見見みえええ給給たまははわざりざりざりしししををを」」」などなどなど、、、うちうちうちさゝめきさゝめきささめきててていとほしがるいとほしがるいとおしがる。。。
現代語訳
絵などを取り出させて、右近に詞書を読ませてご覧になると、浮舟は向かい合って恥ずかしがることもしきれず、熱心にご覧になっている灯火に照らされた顔は、全くここが欠点と見える所もなく、細やかで美しい。額つきや目もとが匂い立つような心地がして、たいそうおっとりとした上品さは、ただあの方とばかり思い出されるので、絵には特に目もお留めにならず、たいそうしみじみとした人の容貌だな、どうしてこうも似ているのだろう、故宮にたいそうよく似申し上げているのだろう、故姫君は宮の方に、私は母上に似申し上げていると、古女房たちが言っていたが、本当に似た人はすばらしいものだったのだと思い比べなさると、涙ぐんでご覧になる。あの方はこの上なく上品で気高いものの、親しみやすくしなやかで、度が過ぎるほどに、なよなよとたわんだ様子をしていらっしゃった。この人はまだ物腰が不慣れな様子で、何事もただ気が引けるとばかり思っているせいか、見どころの多い優美さは劣っている。由緒ありげな気配さえ身につけたならば、大将がご覧になるにも、全く不体裁ではないだろうなどと、姉心でお世話を思われなさる。
お話などなさって、明け方になってお休みになる。そばに寝かせなさって、故宮の御事や、長年いらしたご様子などを、詳しくではないがお話しになる。浮舟はたいそう知りたく、お目にかかれずに終わったのを、たいそう残念で悲しいと思った。昨夜の事情を知っている女房たちは、「どうだったのでしょうね。たいそう可憐なご様子を宮がひどくお思いになっても、甲斐のあることでしょうか。お気の毒に」と言うと、右近は「そうではないでしょう。あの御乳母が引き据えて、とりとめもない話をして訴えていましたが、様子は事がなかったように言っていました。宮も逢っても逢わないような気持ちだと、うそぶいて口ずさみなさっていましたが、さあ、わざとそうなさったのかもしれません、それはわかりませんよ。昨夜の灯火に照らされた顔がたいそうおっとりしていたのも、何かあったような顔にはお見えにならなかったけれど」などと、ささやき合って気の毒がる。
意訳
中の君は浮舟に絵物語を見せ、熱心に絵を見る浮舟の顔に大君の面影を見て涙ぐむ。大君は父八の宮に、自分は母に似ていると言われていたことを思い出し、浮舟が大君より物慣れない点はあるが、身だしなみを整えれば薫にもふさわしいと姉のように思う。二人は並んで寝て、中の君は浮舟に父八の宮のことを語る。女房たちは昨夜の一件を噂し、右近は何事もなかったようだと言う。
語釈・文法注
文法
- 「ことわり讀せて」(右近にことわり讀せて見給ふに)
- 絵物語の詞書を読ませて。
- 「このかみ心」(このかみ心に思ひあつかはれ給ふ)
- 姉としての心。
- 「まほならねど」(まほならねど語り給ふ)
- 真秀ならねど。十分ではないが、詳しくではないが。
解説
絵物語を見る浮舟と、その顔に大君を見る中の君。この場面は「源氏物語絵巻」東屋の図として名高い。物語を楽しむ浮舟の無邪気な姿と、亡き姉を偲ぶ中の君の思いが重なる。
中の君は浮舟を薫にふさわしい女性に育てようとする。姉としての愛情と、薫の自分への執着を浮舟に向けさせたいという思いが、そこには混じり合っている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1092–1095頁(コマ257–258)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日