源氏物語 第50帖 東屋(26)
中の君の思い
内裏に近い方なのだろうか、こちらの御門からお出かけになるので、何かおっしゃるお声も聞こえる。たいそう上品でこの上なく聞こえて、趣のある古歌などを口ずさみなさってお通りになる時、浮舟はわけもなく厄介に思われる。乗り換えの馬などを引き出して、宿直に控える人を十余人ほど連れて参内なさる。中の君は、浮舟がたいそう気の毒にいやだと思っているだろうと、知らぬ顔で「大宮がご病気だといって宮は参内なさったので、今夜はお帰りにならないでしょう。洗髪の名残でしょうか、気分も悪くて起きていられませんので、こちらにいらっしゃい。退屈にもお思いでしょう」と申し上げなさった。浮舟は「気分がひどく苦しゅうございますので、落ち着いてから」と、乳母を通して申し上げなさる。「どんなご気分か」と折り返しお見舞い申し上げなさると、「何の病気とも思われず、ただたいそう苦しゅうございます」と申し上げなさるので、少将と右近は目配せをして、「決まりが悪くお思いなのでしょう」と言うのも、何でもない時よりは気の毒である。中の君は、たいそう残念で心苦しいことだ、大将が心を留めている様子におっしゃっていたのに、どんなに軽々しく見下すだろう、このようにばかり乱れていらっしゃる人(匂宮)は、聞き苦しく事実でないことも恨みがましく言い、また本当に少し意外なことでも、さすがに大目に見てしまいそうでいらっしゃるようだ、この君(薫)は言わずに不愉快に思うことは、たいそう気後れするほど心深いので、つまらない物思いが加わってしまった人の身の上のようだ、長年会ったことも知ることもなかった人の身の上だが、心ばえや容貌を見ると、見放すことができないほど可憐で気の毒なのに、世の中はめったにないほど面倒なものだ、わが身の有様は不満なことが多い気がするが、このように頼りない目にも遭いそうだった身が、そうは落ちぶれずに済んだのは、本当に見苦しくないことだった、今はただこの憎いお心が加わった人(薫)が穏やかに思い離れてくれたら、全く何事も思い悩まなくなるだろうとお思いになる。たいそう多い御髪なので、すぐには乾かしきれず、起きていらっしゃるのもつらい。
- 1內內うち近近ちかききき方方かたにににやややあらあらあらむむん、、、こなたこなたこなたのののみかどみかどみかどよりよりより出出いででで給給たまへへえばばば物物もののたまふのたまふのたまう御御おん聲聲こえもももきこゆきこゆきこゆ。。。いといといとあてあてあてにににかぎりかぎりかぎりもももなくなくなく聞聞きこえええててて、、、心心こころばへばへばえあるあるあるふるふるふる事事ことなどなどなど打打うちちちずじずじずじ給給たまひひいててて過過すぎぎぎ給給たまふふうほどほどほど、、、すゞろすゞろすずろににに煩煩わずらはしくはしくわしく覺覺おぼゆゆゆ。。。うつしうつしうつし馬馬うまどもどもども引引ひききき出出いだしししててて、、、とのとのとのゐゐいににに侍侍さぶらふふう人人ひと十十じゅう餘餘よ人人にんばかりばかりばかりしししててて參參まいりりり給給たまふふう。。。うへうへうえいとほしくいとほしくいとおしくうたでうたでうたで思思おもふふうらむらむらんとてとてとて、、、知知しらららずずずがほがほがおにてにてにて、、、「「「大大おお宮宮みや惱惱なやみみみ給給たまふふうとてとてとて參參まいりりり給給たまひひいぬれぬれぬればばば、、、こよひこよひこよいははは出出いででで給給たまははわじじじ。。。ゆするゆするゆするのののなごりなごりなごりにににややや、、、心地心地ここちももも惱惱なやましくましくましくててて起起おききき居居い侍侍はべらららぬぬぬををを、、、わたりわたりわたり給給たまへへえ、、、つれづれつれづれつれずれにににもももおぼさおぼさおぼさるるるらむらむらん」」」ととと聞聞きこえええ給給たまへへえりりり「「「みだりみだりみだり心地心地ここちのののいといといと苦苦くるしうしうしゅう侍侍はべるるるををを、、、ためらひためらひためらいててて」」」ととと、、、めのとめのとめのとしししててて聞聞きこえええ給給たまふふう。。。「「「いかいかいかなるなるなる御御おん心地心地ここちぞぞぞととと、、、立立たちちち返返かえりりりとぶらひとぶらひとぶらい聞聞きこえええ給給たまへへえばばば、、、「「「何何なに心地心地ここちととともももおぼえおぼえおぼえずずず、、、唯唯ただいといといと苦苦くるしくしくしく侍侍はべりりり」」」ととと聞聞きこえええ給給たまへへえばばば、、、少少しょう將將しょう右右う近近こん、、、めめめましろぎましろぎましろぎをををしししててて、、、片片かた腹腹はら痛痛いたくくくぞぞぞおぼすおぼすおぼすらむらむらんととといふいふいうももも、、、たゞたゞただなるなるなるよりよりよりはははいとほしいとほしいとおし。。。
- 2いといといと口口くち惜惜おしくしくしく心苦心苦こころぐるしきしきしきわざわざわざかなかなかな、、、大大たい將將しょうののの心心こころ留留とめめめたるたるたるさまさまさまにににのたまふのたまふのたまうめりめりめりしししををを、、、いかにいかにいかにあはあはしくあはあはしくあわあわしく思思おもひひいおとさおとさおとさむむん、、、かくかくかくのみのみのみみだりがはしくみだりがはしくみだりがわしくおはするおはするおわする人人ひとははは聞聞ききききにくゝにくゝにくくじちじちじちならならならぬぬぬことことことをををもももくねりくねりくねりいひいひいい、、、又又また誠誠まことににに少少すこししし思思おもははわずずずならならならむむんことことことをををももも、、、さすがさすがさすがににに見見みゆるしゆるしゆるしつつつべうべうびょうこそこそこそおはすおはすおわすめれめれめれ、、、このこのこの君君きみはははいはいはいわでででうしうしうしととと思思おもははわむむんことことこと、、、いといといと耻耻はずかしげしげしげににに心心こころ深深ふかきききををを、、、あいなくあいなくあいなく思思おもふふうことことこと添添そひひいぬるぬるぬる人人ひとののの上上うえなななめりめりめり、、、年年とし頃頃ごろ見見みずずず知知しらららざりざりざりつるつるつる人人ひとのののうへうへうえなれなれなれどどど、、、心心こころばへばへばえかたちかたちかたちををを見見みれれればばば、、、えええ思思おもひひい放放はなつつつまじうまじうまじゅうらうたくらうたくろうたく心苦心苦こころぐるしきしきしきににに、、、世世よののの中中なかはははありがたくありがたくありがたくむつかしげむつかしげむつかしげなるなるなる物物ものかなかなかな、、、我我わががが身身みののの有有あり樣樣さまはははあかあかあかぬぬぬ事事こと多多おおかるかるかる心地心地ここちすれすれすれどどどかくかくかく物物ものはかなきはかなきはかなきめめめももも見見みつつつべかりべかりべかりけるけるける身身みののの、、、さささははははふれはふれはうれずずずなりなりなりにににけるけるけるにににこそこそこそ、、、げにげにげにめやすきめやすきめやすきなりなりなりけれけれけれ、、、今今いまははは唯唯ただこのこのこのにくきにくきにくき心心こころ添添そひひい給給たまへへえるるる人人ひとののの、、、なだらかなだらかなだらかにてにてにて思思おもひひいはなれはなれはなれなななばばば、、、更更さらににに何何なに事事ことももも思思おもひひい入入いれれれずずずなりなりなりなななむむんととと思思おもほすほすおす。。。いといといと多多おおかるかるかるみみみぐしぐしぐしなれなれなればばば、、、とみとみとみにににもももえええほしほしほしやらやらやられれれずずず、、、起起おききき居居い給給たまへへえるるるもももくるしくるしくるし。。。
現代語訳
内裏に近い方なのだろうか、こちらの御門からお出かけになるので、何かおっしゃるお声も聞こえる。たいそう上品でこの上なく聞こえて、趣のある古歌などを口ずさみなさってお通りになる時、わけもなく厄介に思われる。乗り換えの馬などを引き出して、宿直に控える人を十余人ほど連れて参内なさる。上は、浮舟がたいそう気の毒にいやだと思っているだろうと思って、知らぬ顔で「大宮がご病気だといって参内なさったので、今夜はお帰りにならないでしょう。洗髪の名残でしょうか、気分も悪くて起きていられませんので、こちらにいらっしゃい。退屈にもお思いでしょう」と申し上げなさった。「気分がひどく苦しゅうございますので、落ち着いてから」と、乳母を通して申し上げなさる。「どんなご気分か」と、折り返しお見舞い申し上げなさると、「何の病気とも思われず、ただたいそう苦しゅうございます」と申し上げなさるので、少将と右近は目配せをして、決まりが悪くお思いなのでしょうと言うのも、何でもない時よりは気の毒である。
たいそう残念で心苦しいことだ、大将が心を留めている様子におっしゃっていたのに、どんなに軽々しく見下すだろう、このようにばかり乱れていらっしゃる人は、聞き苦しく事実でないことも恨みがましく言い、また本当に少し意外なことでも、さすがに大目に見てしまいそうでいらっしゃるようだ、この君は言わずに不愉快に思うことは、たいそう気後れするほど心深いので、つまらない物思いが加わってしまった人の身の上のようだ、長年会ったことも知ることもなかった人の身の上だが、心ばえや容貌を見ると、見放すことができそうにないほど可憐で気の毒なのに、世の中はめったにないほど面倒なものだな、わが身の有様は不満なことが多い気がするけれど、このように頼りない目にも遭いそうだった身が、そうは落ちぶれずに済んだのは、本当に見苦しくないことだった、今はただこの憎いお心が加わっていらっしゃる人が、穏やかに思い離れてくれたら、全く何事も思い悩まなくなるだろうとお思いになる。たいそう多い御髪なので、すぐには乾かしきれず、起きていらっしゃるのもつらい。
意訳
匂宮は古歌を口ずさみながら参内し、浮舟はその声に心を乱される。中の君は知らぬふりで浮舟を自分の部屋に誘うが、浮舟は気分が悪いと断る。中の君は、薫が心を寄せていた浮舟を匂宮が見初めたことで、薫が浮舟を軽んじるのではと案じる。中の君は浮舟を可憐に思いつつ、自分も浮舟のような境遇になりかねなかったことを思い、薫が自分への思いを断ってくれればと願う。
語釈・文法注
文法
- 「うつし馬」(うつし馬ども引き出して)
- 乗り換え用の馬。
- 「めましろぎ」(少將右近、めましろぎをして)
- 目配せ。
- 「はふれず」(さははふれずなりにけるにこそ)
- 落ちぶれずに。
解説
中の君は、匂宮と薫の性格の違いを見抜いている。何でも許してしまう匂宮と、口に出さずに不快を抱く薫。この対比は、浮舟がやがて二人の間で引き裂かれる運命を予感させる。
中の君は浮舟の境遇に自分を重ね、落ちぶれずに済んだ自分の幸運を思う。同じ八の宮の娘でありながら、母の身分によって大きく隔たった姉妹の運命が対照される。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1090–1093頁(コマ256–257)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日