源氏物語 第50帖 東屋(25)
乳母の慰め
乳母は浮舟を扇であおいだりして、「このようなお住まいは何かにつけて気が引け、不都合なものでした。このように宮がお通いになり始めては、全くよいことはございますまい。ああ恐ろしい。この上ない方と申しても、穏やかでないご関係は、たいそうつまらないことでしょう。よその縁のない人なら、よいとも悪いとも思われなさるでしょうが、人聞きも決まりの悪いことと存じまして、降魔の相を出して、じっと見つめ申し上げていたので、宮はたいそう気味悪く、下品な女とお思いになって、私の手をたいそうひどくつねりなさったのが、やはり人並みの懸想めいて、たいそうおかしくも思われました。あちらの殿(常陸介邸)では、今日もひどく言い争いなさったそうです。ただお一人(浮舟)の身の上ばかりお世話なさるといって、自分の子どもたちをお見捨てになっている、客人がいらっしゃる間のご外泊は見苦しいと、荒々しいほどに申されたそうです。下人まで聞いて気の毒がっていました。すべてこの少将の君がたいそう愛嬌なく思われなさいます。この御事がなかったら、内々に穏やかでなく面倒なことは折々ありましても、穏やかに長年のままでいらっしゃったでしょうに」などと嘆きながら言う。浮舟は今はあれこれ思いめぐらすこともできず、ただたいそう体裁悪く、見知らぬ目にあったのに加えても、中の君がどうお思いだろうと思うとつらいので、うつ伏して泣きなさる。乳母はたいそう困ったと思って世話をして、「何をそうお思いになりますか。母のいらっしゃらない人こそ頼りなく悲しいものです。よその評判では、父のない人はたいそう残念ですが、意地の悪い継母に憎まれるよりは、こちらはたいそう気楽です。母君がどうにでもしてくださるでしょう。お気を落としなさいますな。それでも初瀬の観音がいらっしゃるので、哀れとお思い申し上げなさるでしょう。慣れないお身で、たびたびしきりに参詣なさることは、人がこのように侮った様子にばかりお思い申し上げているのを、こうもあったのかと思うほどのご幸運がおありになるようにとこそ祈っておりますので、わが君は人に笑われたままでお終わりになりましょうか」と、世の中を気楽そうに言っていた。宮は急いでお出かけになるようだ。
- 1めのとめのとめのとうちうちうちあふぎあふぎあうぎなどなどなどしししててて、、、「「「かゝるかゝるかかる御御おん住住すまひひいはははよろづよろづよろずにににつけつけつけててて、、、つゝましうつゝましうつつましゅうびんなかりびんなかりびんなかりけりけりけり。。。かくかくかくおはしましおはしましおわしましそめそめそめててて、、、更更さらににによきよきよきことことこと侍侍はべらららじじじ。。。あなあなあなおそろしおそろしおそろしややや。。。限限かぎりなきなきなき人人ひとととと聞聞きこゆゆゆともともとも、、、安安やすからからからぬぬぬ御御おん有有あり樣樣さまははは、、、いといといとあぢきなかるあぢきなかるあじきなかるべしべしべし。。。よそよそよそのののさしさしさし離離はなれれれたらたらたらむむん人人ひとにににこそこそこそ、、、善善よしししとととももも惡惡あしししとととももも覺覺おぼえええられられられ給給たまははわめめめ、、、人人ひとぎゝぎゝぎきももも片片かた腹腹はら痛痛いたきききことことことゝゝと思思おもううう給給たまへへえててて、、、かまかまかまのののさうさうそうををを出出いだしししててて、、、つとつとつと見見み奉奉たてまつりりりつれつれつればばば、、、いといといとむくつけくむくつけくむくつけく、、、げすげすしきげすげすしきげすげすしき女女おんなとととおぼしおぼしおぼしててて手手てをををいといといといたくいたくいたくつまつまつませせせ給給たまへへえるるるこそこそこそ、、、猶猶なお人人ひとのののけさうけさうけそうだちだちだちててて、、、いといといとをかしくをかしくおかしくももも覺覺おぼえええ侍侍はべりりりつれつれつれかのかのかの殿殿とのにににははは、、、けふけふきょうもももいみじくいみじくいみじくいさかひいさかひいさかい給給たまひひいけりけりけり。。。唯唯ただ一一ひととと所所ところのののうへうへうえををを見見みあつかひあつかひあつかい給給たまふふうとてとてとて、、、我我わががが子子こどもどもどもをををばばばおぼしおぼしおぼし捨捨すてててたりたりたり。。。まらうどまらうどまろうどのののおはするおはするおわする程程ほどののの御御おんたびたびたびゐゐい見見み苦苦ぐるしししととと、、、あらあらしきあらあらしきあらあらしきまでまでまでぞぞぞ聞聞きこえええ給給たまひひいけるけるける。。。しもしもしもびとびとびとさへさへさへ聞聞きききき、、、いとほしがりいとほしがりいとおしがりけりけりけり。。。すべてすべてすべてこのこのこの少少しょう將將しょうののの君君きみぞぞぞ、、、いといといと愛愛あいぎやうぎやうぎょうなくなくなくおぼえおぼえおぼえ給給たまふふう。。。このこのこの御御おん事事こと侍侍はべらららざらざらざらましかましかましかばばばうちうちうちうちうちうちやすからやすからやすからずずず、、、むつかしきむつかしきむつかしき事事ことははは折折おり々々おり侍侍はべりりりともともとも、、、なだらかなだらかなだらかににに年年とし頃頃ごろのののまゝまゝままにてにてにて、、、おはしますおはしますおわしますべきべきべきものものものををを」」」などなどなど、、、打打うちちち歎歎なげきききつゝつゝつついふいふいう。。。
- 2君君きみははは只只ただ今今いまはははともともともかくかくかくももも思思おもひひいめぐらさめぐらさめぐらされれれずずず、、、唯唯ただいみじくいみじくいみじくはしたなくはしたなくはしたなく、、、見見み知知しらららぬぬぬめめめををを見見みつるつるつるににに添添そへへえてててももも、、、いかにいかにいかに思思おぼすすすらむらむらんととと思思おもふふうににに、、、侘侘わびしけれしけれしければばば、、、うつぶしうつぶしうつぶし伏伏ふしししててて泣泣なききき給給たまふふう。。。いといといと苦苦くるしししととと見見みあつかひあつかひあつかいててて、、、「「「何何なにかかかかくかくかくおぼすおぼすおぼす母母ははおはせおはせおわせぬぬぬ人人ひとこそこそこそ、、、たつぎたつぎたつぎなうなうのう悲悲かなしかるしかるしかるべけれべけれべけれ。。。よそよそよそのののおぼえおぼえおぼえははは、、、父父ちちなきなきなき人人ひとはははいといといと口口くち惜惜おしけれしけれしけれどどど、、、さがなきさがなきさがなき繼繼まま母母ははににににくまにくまにくまれれれむむんよりよりよりははは、、、これこれこれはははいといといとやすくやすくやすくともともともかくかくかくもももししし奉奉たてまつりりり給給たまひひいてててむむん、、、なななおぼしおぼしおぼし屈屈くつせせせそそそ。。。さりともさりともさりともはつせはつせはつせののの觀觀かん音音のんおはしませおはしませおわしませばばば、、、哀哀あわれととと思思おもひひい聞聞きこえええ給給たまははわむむん。。。ならはならはならわぬぬぬ御御おん身身みににに、、、たびたびたびたびたびたびしきりしきりしきりてててまでまでまで給給たまふふうことことことははは人人ひとのののかくかくかくあなづりあなづりあなずりさまさまさまにににのみのみのみ思思おもひひい聞聞きこえええたるたるたるををを、、、かくかくかくもももありありありけりけりけりととと思思おもふふうばかりばかりばかりののの御御おんさいはひさいはひさいわいおはしませおはしませおわしませとととこそこそこそ念念ねんじじじ侍侍はべれれればばば、、、あがあがあが君君きみははは人人ひとわらはれわらはれわらわれにてにてにてははは止止やみみみ給給たまひひいなななむむんやややととと、、、世世よををを安安やすげげげにににいひいひいい居居いたりたりたり宮宮みやははは急急いそぎぎぎててて出出いででで給給たまふふうなりなりなり。。。
現代語訳
乳母は扇であおいだりして、「このようなお住まいは何かにつけて気が引け、不都合なものでした。このように宮がお通いになり始めては、全くよいことはございますまい。ああ恐ろしい。この上ない方と申しても、穏やかでないご関係は、たいそうつまらないことでしょう。よその縁のない人なら、よいとも悪いとも思われなさるでしょうが、人聞きも決まりの悪いことと存じまして、降魔の相を出して、じっと見つめ申し上げていたので、たいそう気味悪く、下品な女とお思いになって、私の手をたいそうひどくつねりなさったのが、やはり人並みの懸想めいて、たいそうおかしくも思われました。あちらの殿では、今日もひどく言い争いなさったそうです。ただお一人の身の上ばかりお世話なさるといって、自分の子どもたちをお見捨てになっている、客人がいらっしゃる間のご外泊は見苦しいと、荒々しいほどに申されたそうです。下人まで聞いて気の毒がっていました。すべてこの少将の君が、たいそう愛嬌なく思われなさいます。この御事がございませんでしたら、内々に穏やかでなく、面倒なことは折々ございましても、穏やかに長年のままでいらっしゃったでしょうに」などと、嘆きながら言う。
浮舟は今はあれこれ思いめぐらすこともできず、ただたいそう体裁悪く、見知らぬ目にあったのに加えても、中の君がどうお思いだろうと思うと、つらいので、うつ伏して泣きなさる。乳母はたいそう困ったと思って世話をして、「何をそうお思いになりますか。母のいらっしゃらない人こそ、頼りなく悲しいものです。よその評判では、父のない人はたいそう残念ですが、意地の悪い継母に憎まれるよりは、こちらはたいそう気楽です。母君がどうにでもしてくださるでしょう。お気を落としなさいますな。それでも初瀬の観音がいらっしゃるので、哀れとお思い申し上げなさるでしょう。慣れないお身で、たびたびしきりに参詣なさることは、人がこのように侮った様子にばかりお思い申し上げているのを、こうもあったのかと思うほどのご幸運がおありになるようにとこそ祈っておりますので、わが君は人に笑われたままでお終わりになりましょうか」と、世の中を気楽そうに言っていた。宮は急いでお出かけになるようだ。
意訳
乳母は浮舟をあおぎながら、匂宮に見初められては良いことはないと嘆き、自分が恐ろしい顔でにらみつけていたので匂宮に手をつねられたと語る。常陸介の家では北の方が浮舟ばかり世話すると夫婦喧嘩があったことも伝え、すべては少将のせいだと言う。浮舟は中の君にどう思われるかと泣き伏す。乳母は、母がいるのだから大丈夫、初瀬の観音のご加護で必ず幸運が来ると慰める。
語釈・文法注
文法
- 「かまのさう」(かまのさうを出して、つと見奉りつれば)
- 降魔の相。悪魔を降伏させる不動明王のような恐ろしい形相。
- 「たつぎなう」(たつぎなう悲しかるべけれ)
- 方便なく。頼りなく。
- 「はつせの觀音」(さりともはつせの觀音おはしませば)
- 初瀬(長谷寺)の観音。霊験あらたかとされ、浮舟たちも参詣していた。
解説
乳母は降魔の相で匂宮をにらみつけたと語る。必死に浮舟を守った乳母の姿は、悲壮でありながら滑稽でもある。
乳母は初瀬の観音の加護を信じて、浮舟の幸運を楽観する。しかし浮舟自身は、中の君への申し訳なさに泣き伏すばかりであった。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1090–1091頁(コマ256)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日