源氏物語 第50帖 東屋(24)
中宮の急病
中の君は「安心できるようにと繰り返し言い置いていったのに」と、気の毒にお思いになるが、どう申し上げられよう、仕える女房たちも少し若々しく見苦しくない者はお見捨てにならない、妙なお癖なので、どうして思い寄りなさったのだろうと、呆れて物もおっしゃれない。右近は「上達部が大勢参られる日で、遊び戯れなさって、いつもこのような時は遅くお越しになるので、皆気を許して休んでいらっしゃったのですよ。それにしてもどうすればよいことでしょう。あの乳母こそ気が強かった。ぴったり寄り添って座ってお守り申し上げ、引きはがし申し上げそうに思っていました」と、少将の君と二人で気の毒がるうちに、内裏から人が参って、大宮(明石の中宮)がこの夕暮れからお胸をお悩みになって、ただ今たいそう重くお苦しみであると申させる。右近は「間の悪い時のご病気ですこと。申し上げましょう」と言って立つ。少将は「さあ、今となっては甲斐もないでしょうに、愚かしく、あまりお脅し申し上げなさいますな」と言うと、右近は「いいえ、まだでしょう」と忍んでささやき交わすのを、中の君は、たいそう聞き苦しい人のご性分なのだろう、少し心ある人なら私のあたりまで疎んじてしまいそうだとお思いになる。右近は参って、お使いが申したよりももう少しあわただしげに申し上げるので、宮は動きなさる様子もないご気色で、「誰が参ったのだ。いつものように大げさに脅す」とおっしゃるので、「宮の侍で、平重経と名乗りました」と申し上げる。宮はお出かけになるのがたいそうつらく残念で、人目もお構いにならないので、右近は出て、このお使いを西面で問うと、取り次いだ人も寄って来て、「中務の宮も参られました。大夫はただ今参る途中で、御車を引き出すのを見ました」と申し上げるので、宮は本当に急に時々お悩みになる折々もあるのだとお思いになって、人がどう思うだろうかということも体裁悪くなって、たいそう恨み言を言い約束を残してお出かけになった。浮舟は恐ろしい夢から覚めた心地がして、汗にびっしょり濡れて臥していらっしゃった。
- 1うしろうしろうしろ安安やすくくくととと返返かえすすすがへすがへすがえすいひいひいい置置おきききつるつるつるものものものををを」」」ととと、、、いとほしくいとほしくいとおしくおぼせおぼせおぼせどどど、、、いかゞいかゞいかが聞聞きこえええむむん、、、侍侍さぶらふふう人々人々ひとびとももも少少すこししし若若わかやかやかやかににによろしきよろしきよろしきははは見見み捨捨すててて給給たまふふうなくなくなく、、、怪怪あやしきしきしき人人ひとののの御御おんくせくせくせなれなれなればばば、、、いかでいかでいかでかかかははは思思おもひひいよりよりより給給たまひひいけむけむけんととと、、、あさましきあさましきあさましきにににものものものもももいはいはいわれれれ給給たまははわずずず。。。「「「上上かん達達だち部部めあまたあまたあまた參參まいりりり給給たまふふう日日ひにてにてにて、、、遊遊あそびびび戯戯たわぶれぶれぶれ給給たまひひいてててははは例例れいもももかゝるかゝるかかる時時ときははは遲遲おそくくくももも渡渡わたりりり給給たまへへえばばば、、、皆皆みな打打うちちち解解とけけけてててやすみやすみやすみ給給たまふふうぞぞぞかしかしかし。。。さてさてさてもももいかにいかにいかにすすすべきべきべきことことことぞぞぞ。。。かのかのかのめのとめのとめのとこそこそこそおずまじかりおずまじかりおずまじかりけれけれけれつとつとつとそひそひそいてててゐゐいてててまもりまもりまもり奉奉たてまつりりりひきひきひきもももかなぐりかなぐりかなぐり奉奉たてまつりりりつつつべくべくべくこそこそこそ思思おもひひいたりたりたりつれつれつれ」」」ととと、、、少少しょう將將しょうとととふたりふたりふたりしししててていとほしがるいとほしがるいとおしがる程程ほどににに、、、內內うちよりよりより人人ひと參參まいりりりててて、、、大大おお宮宮みやこのこのこの夕夕ゆう暮暮ぐれよりよりより御御おん胸胸むね惱惱なやままませせせ給給たまふふうををを、、、只只ただ今今いまいみじくいみじくいみじく重重おもくくく惱惱なやままませせせ給給たまふふうよしよしよし申申もうさささすすす。。。右右う近近こん「「「心心こころなきなきなきをりをりおりののの御御おんなやみなやみなやみかなかなかな、、、聞聞きこえええさせさせさせむむん」」」とてとてとて立立たつつつ。。。少少しょう將將しょう「「「いでいでいでややや今今いまはははかひかひかいなくなくなくもももあああべいべいべいことことことををを、、、をこがましくをこがましくおこがましく、、、あまりあまりあまりなななおびやかしおびやかしおびやかし聞聞きこえええ給給たまひひいそそそ」」」ととといへいへいえばばば、、、「「「いないないなまだしかるまだしかるまだしかるべしべしべし」」」ととと、、、忍忍しのびびびてててさゝめきさゝめきささめきかはすかはすかわすををを、、、うへうへうえはははいといといと聞聞ききききにくきにくきにくき人人ひとののの御御おん本本ほんじやうじやうじょうにににこそこそこそあああめれめれめれ、、、少少すこししし心心こころあらあらあらむむん人人ひとははは我我わがががあたりあたりあたりをををさへさへさへ疎疎うとみみみぬぬぬべかべかべかめりめりめりととと覺覺おぼすすす。。。
- 2參參まいりりりててて御御おん使使つかいののの申申もうすすすよりよりよりももも今今いま少少すこしししあわたゞしげあわたゞしげあわただしげににに申申もうしししなせなせなせばばば動動うごききき給給たまふふうべきべきべきさまさまさまにににもももあらあらあらぬぬぬ御御おん氣色氣色けしきににに「「「たれたれたれががが參參まいりりりたるたるたる。。。例例れいのののおどろおどろしくおどろおどろしくおどろおどろしく劫劫おびやかすすす」」」とととのたまはすれのたまはすれのたまわすればばば、、、「「「宮宮みやののの侍侍さぶらいににに、、、平平たいらのののまげつねまげつねまげつねとととなむなむなん名名なのりのりのり侍侍はべりりりつるつるつる」」」ととと聞聞きこゆゆゆ。。。出出いででで給給たまははわむむんとととのののいといといとわりなくわりなくわりなく口口くち惜惜おしきしきしきににに、、、人人ひと目目めもももおぼさおぼさおぼされれれぬぬぬににに、、、右右う近近こん立立たちちち出出いでででゝゝて、、、このこのこの御御おん使使つかいをををにしにしにしおもておもておもてにてにてにて問問とへへへばばば、、、申申もうしししつぎつぎつぎつるつるつる人人ひともももよりよりよりきききででで、、、「「「中中なか務務つかさののの宮宮みやももも參參まいらららせせせ給給たまひひいぬぬぬ大大だい夫夫ぶははは只只ただ今今いまなむなむなん參參まいりりりつるつるつる道道みちににに、、、御御おん車車くるま引引ひききき出出いづるづるずる見見み侍侍はべりりりつつつ」」」ととと申申もうせせせばばば、、、げにげにげに俄俄にわかににに時々時々ときどき惱惱なやみみみ給給たまふふうをりをりをりをりおりおりもももあるあるあるをををとととおぼすおぼすおぼすににに、、、人人ひとのののおぼすおぼすおぼすらむらむらんことことこともももはしたなくはしたなくはしたなくなりなりなりててて、、、いみじういみじういみじゅう恨恨うらみみみ契契ちぎりりり置置おきききててて出出いででで給給たまひひいぬぬぬ恐恐おそろしきしきしき夢夢ゆめののの覺覺さめめめたるたるたる心地心地ここちしししててて、、、汗汗あせににに押押おしししひたしひたしひたしててて臥臥ふししし給給たまへへえりりり。。。
現代語訳
「安心できるようにと、繰り返し言い置いていったのに」と、気の毒にお思いになるが、どう申し上げられよう、仕える女房たちも、少し若々しく見苦しくない者はお見捨てになることなく、妙なお方のお癖なので、どうして思い寄りなさったのだろうと、呆れて物もおっしゃれない。右近は「上達部が大勢参られる日で、遊び戯れなさっては、いつもこのような時は遅くお越しになるので、皆気を許して休んでいらっしゃったのですよ。それにしてもどうすればよいことでしょう。あの乳母こそ気が強かった。ぴったり寄り添って座ってお守り申し上げ、引きはがしもし申し上げそうに思っていました」と、少将の君と二人で気の毒がるうちに、内裏から人が参って、大宮がこの夕暮れからお胸をお悩みになっていらっしゃるのを、ただ今たいそう重くお苦しみであるということを申させる。右近は「間の悪い時のご病気ですこと。申し上げましょう」と言って立つ。少将は「さあ、今となっては甲斐もないことでしょうに、愚かしく、あまりお脅し申し上げなさいますな」と言うと、「いいえ、まだでしょう」と、忍んでささやき交わすのを、上は、たいそう聞き苦しい人のご性分なのだろう、少し心ある人なら、私のあたりまで疎んじてしまいそうだとお思いになる。
右近は参って、お使いが申すよりも、もう少しあわただしげに申し上げるので、宮は動きなさる様子もないご気色で、「誰が参ったのだ。いつものように大げさに脅す」とおっしゃるので、「宮の侍で、平重経と名乗りました」と申し上げる。お出かけになるのがたいそうつらく残念なので、人目もお構いにならないので、右近は出て、このお使いを西面で問うと、取り次いだ人も寄って来て、「中務の宮も参られました。大夫はただ今参る途中で、御車を引き出すのを見ました」と申し上げるので、本当に急に時々お悩みになる折々もあるのだとお思いになると、人がどう思うだろうかということも体裁悪くなって、たいそう恨み言を言い約束を残してお出かけになった。浮舟は恐ろしい夢から覚めた心地がして、汗にびっしょり濡れて臥していらっしゃった。
意訳
中の君は匂宮の癖に呆れ、浮舟の母に申し訳なく思う。右近と少将の君は、乳母の気丈さを語りつつ浮舟を気の毒がる。そこへ明石の中宮が重い病だという知らせが届き、右近はそれを大げさに匂宮に伝える。匂宮はしぶるが、中務の宮や大夫も参内したと聞いて、やむなく浮舟に恨み言と約束を残して去る。浮舟は恐ろしい夢から覚めたように、汗に濡れて臥していた。
語釈・文法注
文法
- 「おずまじかりけれ」(かのめのとこそおずまじかりけれ)
- 気が強かった、しっかりしていた。
- 「かなぐり」(ひきもかなぐり奉りつべくこそ)
- 荒々しく引きはがすこと。
- 「まげつね」(平のまげつねとなむ名のり侍りつる)
- 平重経。匂宮に仕える侍の名。
解説
中宮の病という知らせが、浮舟を救う。右近が報告を大げさにするのも、浮舟を救うための機転である。女房たちの連携が、匂宮の行動を止めた。
「恐しき夢の覺めたる心地」という浮舟の姿で、この事件は一応の決着を見る。しかし匂宮の執着はここから始まり、浮舟を苦しめていくことになる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1088–1091頁(コマ255–256)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日