源氏物語 第50帖 東屋(23)
右近の機転
大殿油は灯籠に入れて、今にも宮がお越しになるだろうと女房たちが言っているようだ。御前でない方の御格子などを下ろしているらしい。こちらは離れた所として、高い棚厨子を一揃いほど立て、屏風を袋に入れてしまい込んだものを所々に寄せかけ、何かと粗雑な様子にしてあった。このように人がいらっしゃるからといって、通路の障子を一間ほど開けてあったのを、右近という大輔の娘で仕えている者が来て、格子を下ろしてこちらに寄ってくるようだ。「まあ暗いこと。まだ大殿油も差し上げていなかったのですね。御格子を、苦しいのに急いで下ろして、闇に迷うことよ」と言って引き上げるので、宮も少し困ったとお聞きになる。乳母もまたたいそう困ったと思って、遠慮もせず、せっかちで気の強い人なので、「申し上げたいことがございます。ここにたいそう妙なことがございまして、見るに困り果てて、動けずにおります」と言う。「何事です」と右近が手探りで寄ると、袿姿の男が、たいそう芳しい香りで添い臥していらっしゃるのを、例のけしからぬご様子と思い当たった。女が心を合わせなさるはずのないことと推し量られるので、「本当にたいそう見苦しいことでございますね。右近はどう申し上げましょう。今参って、御前(中の君)にこそ忍んで申し上げましょう」と言って立つのを、呆れて不体裁なことと誰もが思うが、宮は臆しもなさらず、呆れるほど上品で美しい人だな、やはり何者だろう、右近が言った様子も、ありきたりの新参女房ではないようだと、合点がいかずお思いになって、あれこれと言って恨みなさる。浮舟は気に入らない様子をあらわにしてふるまうのではないが、ただたいそう死ぬほどに思っているのが気の毒なので、宮は情けをこめてなだめなさる。右近が上(中の君)に「これこれでいらっしゃいます。お気の毒に、どうお思いでしょう」と申し上げると、中の君は「いつものいやなご様子ですこと。あの母もどんなに軽々しく、けしからぬことにお思いになるでしょう。
- 1おほとおほとおおとなぶらなぶらなぶらははは燈燈とうろろろにてにてにて、、、今今いまわたらわたらわたらせせせ給給たまひひいなななむむんととと人々人々ひとびといふいふいうなりなりなり。。。おおお前前まえならならならぬぬぬかたかたかたののの御御おん格格こう子子しどもどもどもぞぞぞおろすおろすおろすなるなるなる。。。こなたこなたこなたははは離離はなれれれたるたるたる方方かたにににしししなしなしなしててて高高たかききき棚棚たな厨厨ず子子しひとひとひとよろひよろひよろいばかりばかりばかりたてたてたて、、、屏屏びょう風風ぶののの袋袋ふくろににに入入いれれれ込込こめめめたるたるたる所所ところ々々どころににに寄寄よせせせ掛掛かけけけ、、、何何なにかかかのののあらゝかあらゝかあららかなるなるなるさまさまさまにににししし放放はなちちちたりたりたり。。。かくかくかく人人ひとののの物物ものししし給給たまへへえばばばとてとてとて、、、通通かよふふう道道みちのののさうじさうじそうじひとひとひとまままばかりばかりばかりぞぞぞあけあけあけたるたるたるををを、、、右右う近近こんとてとてとて大大たい輔輔ふががが娘娘むすめののの侍侍さぶらふふう來來きててて、、、格格こう子子しおろしおろしおろしてててこゝこゝここににに寄寄よりりりくくくなりなりなり。。。「「「あなあなあなくらくらくらややや。。。まだまだまだおほとおほとおおとなぶらなぶらなぶらももも參參まいらららざりざりざりけりけりけり御御おん格格こう子子しををを苦苦くるしきしきしきににに急急いそぎぎぎまゐりまゐりまいりてててやみやみやみににに惑惑まどふふうよよよ」」」とてとてとて引引ひききき上上あぐるぐるぐるににに宮宮みやもももなまなまなま苦苦ぐるしししととと聞聞きききき給給たまふふう。。。めのとめのとめのとはたはたはたいといといと苦苦くるしししととと思思おもひひいててて物物もの包包つつませせせずずず、、、はやりかはやりかはやりかにににおぞきおぞきおぞき人人ひとにてにてにて「「「物物もの聞聞きこえええ侍侍はべらららむむん。。。こゝこゝここにににいといといと怪怪あやしきしきしきことことことののの侍侍はべるるるににに、、、見見み給給たまへへえこうじこうじこうじてててなむなむなん。。。えええ動動うごききき侍侍はべらららでででなむなむなん」」」、、、「「「何何なに事事ことぞぞぞ」」」とととさぐりさぐりさぐりよるよるよるににに、、、袿袿うちき姿姿すがたなるなるなる男男おとこののの、、、いといといとかうばしくかうばしくこうばしくててて添添そひひい臥臥ふししし給給たまへへえるるるををを例例れいのののけしからぬけしからぬけしからぬ御御おん樣樣さまととと思思おもひひいよりよりよりにににけりけりけり。。。
- 2女女おんなののの心心こころ合合あわせせせ給給たまふふうまじきまじきまじきことことことととと推推おししし量量はからららるれるれるればばば「「「げにげにげにいといといと見見み苦苦ぐるしきしきしきことことことにににももも侍侍はべるるるかなかなかな。。。右右う近近こんはははいかにいかにいかにかかか聞聞きこえええさせさせさせむむん。。。今今いま參參まいりりりててて御御お前前まえにににこそこそこそははは忍忍しのびびびててて聞聞きこえええさせさせさせめめめ」」」とてとてとてたつたつたつををを、、、あさましくあさましくあさましくかたはかたはかたわににに誰誰たれももも誰誰たれももも思思おもへへえどどど、、、宮宮みやははは怖怖おぢぢじ給給たまははわずずず、、、あさましきあさましきあさましきまでまでまであてあてあてにににをかしきをかしきおかしき人人ひとかなかなかな、、、猶猶なおなになになに人人びとならならならむむん、、、右右う近近こんがががいひいひいいつるつるつる氣色氣色けしきももも、、、いといといとおしおしおしなべてなべてなべてののの今今いままゐりまゐりまいりにににはははあらあらあらざざざめりめりめりととと、、、心心こころえええがたくがたくがたくおぼさおぼさおぼされれれててて、、、ととといひいひいいかくかくかくいひいひいい怨怨うらみみみ給給たまふふう。。。心心こころづきなげづきなげずきなげににに氣氣け色色しきばみばみばみてててももももてもてもてなさなさなさねねねどどど、、、唯唯ただいみじういみじういみじゅう死死しぬぬぬばかりばかりばかり思思おもへへえるるるががが、、、いとほしけれいとほしけれいとおしければばば情情なさけありありありてててこしらへこしらへこしらえ給給たまふふう。。。右右う近近こんうへうへうえににに「「「しかじかしかじかしかじかこそこそこそおはしませおはしませおわしませ。。。いとほしくいとほしくいとおしくいかにいかにいかに思思おもほすほすおすらむらむらん」」」ととと聞聞きこゆれゆれゆればばば、、、「「「例例れいののの心憂心憂うききき御御おんさまさまさまかなかなかな。。。かのかのかの母母ははもももいかにいかにいかにあはあはしくあはあはしくあわあわしく、、、けしからぬけしからぬけしからぬさまさまさまににに思思おもひひい給給たまははわむむんとととすらむすらむすらむ。。。
現代語訳
大殿油は灯籠に入れて、今にも宮がお越しになるだろうと女房たちが言っているようだ。御前でない方の御格子などを下ろしているらしい。こちらは離れた所として、高い棚厨子を一揃いほど立て、屏風を袋に入れてしまい込んだものを所々に寄せかけ、何かと粗雑な様子にしてあった。このように人がいらっしゃるからといって、通路の障子を一間ほど開けてあったのを、右近という、大輔の娘で仕えている者が来て、格子を下ろしてこちらに寄ってくるようだ。「まあ暗いこと。まだ大殿油も差し上げていなかったのですね。御格子を、苦しいのに急いで下ろして、闇に迷うことよ」と言って引き上げるので、宮も少し困ったとお聞きになる。乳母もまたたいそう困ったと思って、遠慮もせず、せっかちで気の強い人なので、「申し上げたいことがございます。ここにたいそう妙なことがございまして、見るに困り果てまして。動けずにおります」と言うと、「何事です」と手探りで寄ると、袿姿の男が、たいそう芳しい香りで添い臥していらっしゃるのを、例のけしからぬご様子と思い当たった。
女が心を合わせなさるはずのないことと推し量られるので、「本当にたいそう見苦しいことでございますね。右近はどう申し上げましょう。今参って、御前にこそ忍んで申し上げましょう」と言って立つのを、呆れて不体裁なことと誰もが思うけれど、宮は臆しもなさらず、呆れるほど上品で美しい人だな、やはり何者だろう、右近が言った様子も、全くありきたりの新参女房ではないようだと、合点がいかずお思いになって、あれこれと言って恨みなさる。気に入らない様子をあらわにしてふるまうのではないが、ただたいそう死ぬほどに思っているのが気の毒なので、情けをこめてなだめなさる。右近が上に「これこれでいらっしゃいます。お気の毒に、どうお思いでしょう」と申し上げると、「いつものいやなご様子ですこと。あの母も、どんなに軽々しく、けしからぬことにお思いになるでしょう。
意訳
夕暮れ、女房たちが格子を下ろして回り、大輔の娘の右近が西の廂に来る。乳母は困り果てて右近に助けを求め、右近は手探りで寄って、袿姿の匂宮が浮舟に添い臥しているのを知る。右近は中の君に知らせに行くが、匂宮は臆さず、浮舟の美しさにただの新参女房ではないと思いながら口説き続ける。浮舟は死ぬほど思い詰めている。右近から事情を聞いた中の君は、匂宮のいつもの癖を嘆き、浮舟の母がどう思うかと案じる。
語釈・文法注
文法
- 「おほとなぶら」(おほとなぶらは燈ろにて)
- 大殿油。宮中や貴人の邸でともす灯火。
- 「見給へこうじて」(見給へこうじてなむ)
- 見たまへ困じて。見て困り果てて。
- 「おぞき」(はやりかにおぞき人にて)
- 気が強い、しっかりした。
解説
右近は匂宮の「例のけしからぬ御樣」をすぐに察する。匂宮の好色は、二条院の女房たちにもよく知られていた。
浮舟は死ぬほどに思い詰めながら、ただ黙って耐える。自分の意思を表せない浮舟の性格が、この場面に早くも表れている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1088–1089頁(コマ255)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日