源氏物語 第50帖 東屋(22)
浮舟を見つけた匂宮
中ほどの障子が細めに開いている所からご覧になると、障子の向こうに一尺ほど離して屏風を立ててある。その端に几帳を簾に添えて立ててある。帷子を一重打ちかけて、紫苑色の華やかなものに、女郎花の織物と見えるものが重なって袖口がのぞいている。屏風の一枚が畳まれているので、思いがけず見えるのだろう。宮は、新参の女房で悪くない者のようだとお思いになって、この廂に通じる障子をたいそうひそかに押し開けなさって、そっと歩み寄られるのも人は気づかない。こちらの廊の中の坪の前栽がたいそう趣深くいろいろに咲き乱れていて、遣水のあたりの石が高い所もたいそう趣深いので、浮舟は端近に添い臥して眺めていたのだった。開いた障子をもう少し押し開けて、屏風の端からおのぞきになると、浮舟は宮とは思いもかけず、いつもこちらに来慣れた人だろうかと思って起き上がった姿が、たいそう美しく見えるので、宮はいつものお心のままにはお過ごしにならず、衣の裾をとらえなさって、こちらの障子を閉めなさって、屏風の間にお座りになった。浮舟は妙だと思って、扇で顔を隠して振り返った様子がたいそう美しい。扇を持たせたまま手をとらえなさって、「誰だ。名乗りこそ聞きたい」とおっしゃるので、気味悪くなった。宮はそのような物の陰に顔をよそに向けて隠して、たいそうひどく忍んでいらっしゃるので、浮舟は、このただならずほのめかしていらっしゃったという大将だろうか、芳しい気配なども思い合わされるので、たいそう恥ずかしくてどうしようもない。乳母は人の気配がいつもと違うのを妙だと思って、向こうの屏風を押し開けて来て、「これはどうしたことでございましょう。妙なことでございますね」と申し上げるが、宮が憚りなさるべきことでもない。このように突然のなさりようだが、言葉の多いご性分なので、何やかやとおっしゃるうちに、すっかり暮れてしまったが、「誰と聞かないうちは許さない」と言って馴れ馴れしく臥しなさるので、宮だったのだと思い定めると、乳母は言いようもなく呆れて座っていた。
- 1中中なかののの程程ほどなるなるなるさうじさうじそうじのののほそめほそめほそめにににあきあきあきたるたるたるよりよりより見見み給給たまへへえばばば、、、さうじさうじそうじのののあなたあなたあなたににに一一いつ尺尺さくばかりばかりばかり引引ひきききさげさげさげててて屏屏びょう風風ぶ立立たてててたりたりたり。。。そのそのそのつまつまつまににに几几き帳帳ちょう簾簾すだれににに添添そへへえててて立立たてててたりたりたり。。。かたびらかたびらかたびらひとへひとへひとえををを打打うちちちかけかけかけててて、、、しをんしをんしおんいろいろいろののの花花はなやかやかやかなるなるなるににに女女おみな郞郞へ花花しののの織織おり物物ものととと見見みゆるゆるゆるかさなりかさなりかさなりててて袖袖そで口口ぐちさしさしさし出出いでででたりたりたり。。。屏屏びょう風風ぶのののひとひとひとひらひらひらたゝまたゝまたたまれれれたるたるたるよりよりより、、、心心こころにににもももあらあらあらででで見見みゆるゆるゆるなななめりめりめり。。。今今いままゐりまゐりまいりののの口口くち惜惜おしからしからしからぬぬぬなななめりめりめりとととおぼしおぼしおぼしててて、、、このこのこの廂廂ひさしににに通通かよふふうさうじさうじそうじををを、、、いといといとみそかみそかみそかにににおしおしおしあけあけあけ給給たまひひいててて、、、やをらやをらやおら步步あゆみみみよりよりより給給たまふふうももも人人ひと知知しらららずずず。。。こなたこなたこなたののの廊廊ろうのののなかなかなかののの坪坪つぼせんざいせんざいせんざいのののいといといとをかしうをかしうおかしゅういろいろいろいろいろいろににに咲咲さききき亂亂みだれれれたるたるたるににに、、、やりやりやりみづみづみずのののわたりわたりわたりののの石石いし高高たかききき程程ほどいといといとをかしけれをかしけれおかしければばば、、、はしはしはし近近ちかくくくそひそひそい臥臥ふしししててて眺眺ながむるむるむるなりなりなりけりけりけり。。。あきあきあきたるたるたるさうじさうじそうじををを今今いま少少すこししし押押おししし開開あけけけててて屏屏びょう風風ぶのののつまつまつまよりよりよりのぞきのぞきのぞき給給たまふふうににに、、、宮宮みやとととははは思思おもひひいもももかけかけかけずずず、、、例例れいこなたこなたこなたににに來來き馴馴なれれれたるたるたる人人ひとにににやややあらあらあらむむんととと思思おもひひいててて、、、起起おきききあがりあがりあがりたるたるたるやうやうようだいだいだい、、、いといといとをかしうをかしうおかしゅう見見みゆるゆるゆるににに、、、例例れいののの御心御心みこころはははすぐしすぐしすぐし給給たまははわででで、、、きぬきぬきぬののの裾裾すそをををとらへとらへとらえ給給たまひひいててて、、、こなたこなたこなたのののさうじさうじそうじ引引ひきききたてたてたて給給たまひひいててて屏屏びょう風風ぶのののはざまはざまはざまににに居居い給給たまひひいぬぬぬ。。。
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現代語訳
中ほどの障子が細めに開いている所からご覧になると、障子の向こうに一尺ほど離して屏風を立ててある。その端に几帳を簾に添えて立ててある。帷子を一重打ちかけて、紫苑色の華やかなものに、女郎花の織物と見えるものが重なって、袖口がのぞいている。屏風の一枚が畳まれているので、思いがけず見えるのだろう。新参の者で悪くない者のようだとお思いになって、この廂に通じる障子を、たいそうひそかに押し開けなさって、そっと歩み寄られるのも、人は気づかない。こちらの廊の中の坪の前栽が、たいそう趣深くいろいろに咲き乱れているうえに、遣水のあたりの石が高い所もたいそう趣深いので、端近に添い臥して眺めていたのだった。開いた障子をもう少し押し開けて、屏風の端からおのぞきになると、宮とは思いもかけず、いつもこちらに来慣れた人だろうかと思って、起き上がった姿が、たいそう美しく見えるので、いつものお心のままにはお過ごしにならず、衣の裾をとらえなさって、こちらの障子を閉めなさって、屏風の間にお座りになった。
妙だと思って、扇で顔を隠して振り返った様子がたいそう美しい。扇を持たせたまま、手をとらえなさって、「誰だ。名乗りこそ聞きたい」とおっしゃるので、気味悪くなった。そのような物の陰に顔をよそに向けて隠して、たいそうひどく忍んでいらっしゃるので、このただならずほのめかしていらっしゃるという大将だろうか、芳しい気配なども思い合わされるので、たいそう恥ずかしくてどうしようもない。乳母は人の気配がいつもと違うのを妙だと思って、向こうの屏風を押し開けて来て、「これはどうしたことでございましょう。妙なことでございますね」と申し上げるが、宮が憚りなさるべきことでもない。このように突然のなさりようだが、言葉の多いご性分なので、何やかやとおっしゃるうちに、すっかり暮れてしまったが、「誰と聞かないうちは許さない」と言って、馴れ馴れしく臥しなさるので、宮だったのだと思い定めると、乳母は言いようもなく呆れて座っていた。
意訳
匂宮は障子の隙間から、屏風の陰に美しい衣の袖口を見つけ、新参の女房と思って忍び寄る。浮舟は庭の前栽を眺めて端近に臥していたが、来慣れた女房かと思って起き上がる。匂宮はその美しさに心を動かし、衣の裾をとらえて屏風の間に座り込む。浮舟は扇で顔を隠し、芳しい香から薫かと思って恥じ入る。乳母が駆けつけるが、匂宮は意に介さず、名を聞くまでは許さないと臥し、乳母は相手が匂宮と知って呆然とする。
語釈・文法注
文法
- 「しをんいろ」(しをんいろの花やかなるに)
- 紫苑色。薄紫色。秋の襲の色目。
- 「坪せんざい」(こなたの廊のなかの坪せんざいの)
- 坪前栽。建物に囲まれた中庭の植え込み。
- 「本じやう」(言葉おほかる御本じやうなれば)
- 本性。生まれつきの性分。
解説
浮舟は、芳しい香から相手を薫だと思う。薫の香を真似て香を焚きしめる匂宮の習いが、ここで浮舟の取り違えを生む。二人の貴公子の香が、浮舟の運命を揺るがす。
屏風の陰で庭を眺める浮舟の姿は、無防備で美しい。中の君の洗髪という偶然の隙に、物語は大きく動き出す。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1086–1089頁(コマ254–255)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日