源氏物語 第50帖 東屋(20)
浮舟を託す母
中の君は「思い始めたことも、しつこいほど軽々しくなくいらっしゃるようですから、本当に今の有様などを思うと面倒な気持ちがするでしょうが、あの世を背いてもなどと思い寄っていらっしゃるのも同じことと思って、試してごらんなさいな」とおっしゃると、北の方は「つらい目を見せず、人に侮られまいという心でこそ、鳥の声も聞こえないような住まいまで考えておりました。本当にあの方のご様子や気配を拝見して存じますには、下仕えの身分などでも、このような方のお側に馴れ申し上げるのは甲斐があるでしょう。まして若い人は心を寄せ申し上げそうでございますが、人数でもない身に物思いの種を、いっそう蒔かせて見ることになりましょうか。身分の高い者も低い者も、女というものはこうした筋でこそ、この世も後の世も苦しい身となるようでございますが、そう存じますので、気の毒に存じます。それもただお心次第です。ともかくもお見捨てにならず、お世話くださいませ」と申し上げるので、中の君はたいそう厄介に思って、「さあ、これまでの心の深さに打ち解けても、行く末の有様はわかりにくいので」と嘆いて、特に何もおっしゃらなくなった。夜が明けたので、車などを連れてきて、守の伝言などがたいそう腹立たしげに脅しているので、北の方は「恐れ多くも万事お頼み申し上げまして。やはりしばらくかくまってくださって、岩屋の中にでも、どうにでもと思いめぐらしております間、人数でなくともお見捨てにならず、何事もお教えくださいませ」などと泣きながら申し置いて、この浮舟もたいそう心細く、慣れない心地で母と離れることを思うが、華やかで趣深く見えるあたりにしばらくでも見慣れ申し上げようと思うと、さすがにうれしく思われた。車を引き出す頃、少し明るくなったところに、匂宮が内裏から退出なさる。若君が気がかりに思われたので、忍びの様子で、御車などもいつもと違っておいでになるのに、行き合って、北の方の車を押しとどめて立てたので、宮は廊に御車を寄せてお降りになる。
- 1「「「思思おもひひいそめそめそめつるつるつることことこともももうねきうねきうねきまでまでまでかろがろしからかろがろしからかろがろしからずずずものものものししし給給たまふふうめるめるめるををを、、、げにげにげに只只ただ今今いまのののありさまありさまありさまなどなどなどををを思思おもふふうははは煩煩わずらはしきはしきわしき心地心地ここちすすすべけれべけれべけれどどど、、、かのかのかの世世よををを背背そむきききてててもももなどなどなど思思おもひひいよりよりより給給たまへへえらららむむんももも同同おなじじじことことことににに思思おもひひいなしなしなしててて、、、試試こころみみみ給給たまへへえかしかしかし」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば「「「つらきつらきつらきめめめ見見みせせせずずず人人ひとにににあなづらあなづらあなずられれれじじじののの心心こころにてにてにてこそこそこそ、、、鳥鳥とりののの音音ね聞聞きこえええざらざらざらむむん住住すまひひいまでまでまで思思おもひひい給給たまへへえおきおきおきつれつれつれげにげにげに人人ひとののの御御おんありさまありさまありさまけはひけはひけはいををを見見み奉奉たてまつりりり思思おもひひい給給たまふるふるうるははは、、、しもしもしもづかへづかへずかえののの程程ほどなどなどなどにてにてにてももも、、、かゝるかゝるかかる人人ひとののの御御おんあたりあたりあたりににに馴馴なれれれ聞聞きこえええむむんはははかひかひかいありありありぬぬぬべしべしべし。。。まいてまいてまいて若若わかききき人人ひとははは心心こころつけつけつけ奉奉たてまつりりりぬぬぬべくべくべく侍侍はべるるるめれめれめれどどど數數かずならならならぬぬぬ身身みににに物物もの思思おもひひいのののたねたねたねをををややや、、、いとゞいとゞいとどまかせまかせまかせててて見見み侍侍はべらららむむん。。。たかきたかきたかきもももみじかきみじかきみじかきももも、、、女女おんなととといふいふいうものものものはははかゝるかゝるかかるすぢすぢすじにてにてにてこそこそこそ。。。このこのこの世世よ後後のちののの世世よまでまでまで苦苦くるしきしきしき身身みとととなりなりなり侍侍はべるるるなれなれなれどどど、、、思思おもひひい給給たまへへえ侍侍はべれれればばばなむなむなん、、、いとほしくいとほしくいとおしく思思おもひひい給給たまへへえ侍侍はべるるる。。。それそれそれももも唯唯ただ御心御心みこころににになむなむなん。。。ともともともかくかくかくもももおぼしおぼしおぼし捨捨すてててずずず、、、物物ものせせせさせさせさせ給給たまへへえ」」」ととと聞聞きこゆれゆれゆればばば、、、いといといと煩煩わずらはしくはしくわしくてててなりなりなりててて「「「いさいさいさやややきしきしきし方方かたののの心心こころ深深ふかきききににに打打うちちち解解とけけけててて、、、行行ゆくくくさきさきさきののの有有あり樣樣さまははは知知しりりり難難がたきききををを」」」とととうちうちうち歎歎なげきききててて、、、殊殊ことににに物物ものももものたまはのたまはのたまわずずずなりなりなりぬぬぬ。。。
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現代語訳
「思い始めたことも、しつこいほど軽々しくなくいらっしゃるようですから、本当に今の有様などを思うと、面倒な心地がするでしょうけれど、あの世を背いてもなどと思い寄っていらっしゃるのも同じことと思いなして、試してごらんなさいな」とおっしゃると、北の方は「つらい目を見せず、人に侮られまいという心でこそ、鳥の声も聞こえないような住まいまで考えておりました。本当にあの方のご様子や気配を拝見して存じますには、下仕えの身分などでも、このような方のお側に馴れ申し上げるのは甲斐があるに違いありません。まして若い人は心をお寄せ申し上げそうでございますが、人数でもない身に物思いの種を、いっそう蒔かせて見ることになりましょうか。身分の高い者も低い者も、女というものはこうした筋でこそ、この世も後の世も苦しい身となるようでございますが、そう存じますので、気の毒に存じます。それもただお心次第です。ともかくもお見捨てにならず、お世話くださいませ」と申し上げるので、中の君はたいそう厄介に思って、「さあ、これまでの心の深さに打ち解けても、行く末の有様はわかりにくいものですから」と嘆いて、特に何もおっしゃらなくなった。
夜が明けたので、車などを連れてきて、守の伝言などが、たいそう腹立たしげに脅しているので、北の方は「恐れ多くも、万事お頼み申し上げまして。やはりしばらくかくまってくださって、岩屋の中にでも、どうにでもと思いめぐらしております間、人数でございませんでも、お見捨てにならず、何事もお教えくださいませ」などと、泣きながら申し置いて、この御方もたいそう心細く、慣れない心地で母と離れることを思うけれど、華やかで趣深く見えるあたりに、しばらくでも見慣れ申し上げようと思うと、さすがにうれしく思われた。車を引き出す頃、少し明るくなったところに、宮が内裏から退出なさる。若君が気がかりに思われたので、忍びの様子で、御車などもいつもと違っておいでになるのに、行き合って、北の方の車を押しとどめて立てたので、宮は廊に御車を寄せてお降りになる。
意訳
中の君は北の方に、薫の思いは軽々しいものではないので、浮舟を出家させるくらいなら薫に任せてみてはと勧める。北の方は、薫のような方のお側なら下仕えでも甲斐があるが、身分違いの恋は女の苦しみの種になると迷い、すべてを中の君に託す。夜明けに常陸介が迎えの車を寄越し、北の方は浮舟をしばらくかくまってほしいと頼んで帰る。浮舟は心細いが、華やかな二条院での暮らしをうれしく思う。北の方の車が出るとき、匂宮が内裏から帰ってくる。
語釈・文法注
文法
- 「うねきまで」(思ひそめつることもうねきまで)
- しつこいほど、執念深いほど。
- 「鳥の音聞えざらむ住ひ」(鳥の音聞えざらむ住ひまで思ひ給へおきつれ)
- 「飛ぶ鳥の声も聞こえぬ奥山の深き心を人は知らなむ」(古今集)による。人里離れた奥山。浮舟を出家させることを言う。
- 「いはほの中に」(いはほの中にとも、いかにとも)
- 「いかならむ巌の中に住まばかは世の憂きことの聞こえ来ざらむ」(古今集)による。世を逃れて住む所。
解説
北の方は、身分違いの恋が女を苦しめることを知りながら、薫への期待を捨てきれない。すべてを中の君に託す言葉には、娘の幸福を願う母の切実な思いがこもる。
北の方の車が出るのと入れ違いに匂宮が帰ってくる。浮舟が母から離れた直後に匂宮が現れるという展開が、次の場面の事件を予感させる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1084–1087頁(コマ253–254)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日