源氏物語 第50帖 東屋(18)
人形と撫で物
薫は「今朝もたいそう怠けて参内なさったのを、あいにく宮のご過失のように推し量り申し上げまして」と申し上げなさると、中の君は「本当に並々でなく、思いやりの深いお心づかいで」とだけお答え申し上げなさる。薫は宮が内裏にお泊まりになったのを見届けて、ただならぬ心でおいでになったのだろう。いつものようにお話をたいそう親しげに申し上げなさる。何かにつけてただ昔が忘れがたく、世の中がますます物憂くなることを、あらわには言わずにほのめかして嘆きなさる。中の君は、それほどどうして年を経ても心から離れないことがあろうか、やはり浅からず言い始めたことなので、名残がないようにはすまいというのだろうかなどと見なしなさるが、人のご様子ははっきりわかるものなので、見ていくにつれて、哀れなお心の様を、岩や木ではないので思い知られる。恨み申し上げなさることも多いので、たいそう困って嘆いて、このようなお心を止めるみそぎをおさせ申し上げたいとお思いになったのだろうか、あの人形のことを言い出して、たいそう忍んでこのあたりにと、ほのめかし申し上げなさると、薫もその人には並々でない心地がして、知りたくなったが、急にふと心が移る気持ちもさすがにしないので、「さあ、その本尊が願いを満たしてくださるならば尊いでしょう。時々心を悩ますのなら、かえって山の水も濁ってしまいそうで」とおっしゃると、中の君は「最後にはいやなお聖心ですこと」とほのかにお笑いになるのも趣深く聞こえる。薫は「さあ、それならお伝えくださいよ。このお逃れの言葉こそ、思い出すと不吉で」とおっしゃっても、また涙ぐんだ。「見し人のかたしろならば身にそへて恋しき瀬々のなでものにせむ」と、いつものように冗談に言いなして紛らわしなさる。中の君は「みそぎ河瀬々に出さむなでものを身に添ふかげとたれかたのまむ。引く手あまたにとか言いますね、差し出がましいようですが、気の毒でございます」とおっしゃると、薫は「最後に寄る瀬は言うまでもありませんよ。
- 1けさけさけさもももいといといとけだいけだいけだいしししててて參參まいらららせせせ給給たまへへえるるるををを、、、あいなうあいなうあいのう御御おんあやまちあやまちあやまちににに推推おししし量量はかりりり聞聞きこえええさせさせさせてててなむなむなん」」」ととと聞聞きこえええ給給たまへへえばばば、、、「「「げにげにげにおろかおろかおろかならならならずずず、、、思思おもひひいやりやりやり深深ふかききき御御おん用用よう意意いににになむなむなん」」」とととばかりばかりばかりいらへいらへいらえ聞聞きこえええ給給たまふふう。。。宮宮みやははは內內うちにににとまりとまりとまり給給たまひひいぬるぬるぬるををを見見みおきおきおきててて、、、たゞたゞただならならならずずずおはしおはしおわしたるたるたるなななめりめりめり。。。例例れいののの物物もの語語がたりいといといと懷懷なつかしげしげしげににに聞聞きこえええ給給たまふふう。。。事事ことににに觸觸ふれれれててて唯唯ただいにしへいにしへいにしえののの忘忘わすれれれがたくがたくがたく、、、世世よののの中中なかののの物憂物憂うくくくなりなりなりまさるまさるまさるよしよしよしををを、、、あらはあらはあらわにににはははいひいひいいなさなさなさででで、、、かすめかすめかすめ憂憂うれへへえ給給たまふふう。。。さしもさしもさしもいかでいかでいかでかかか世世よををを經經へててて、、、こゝろこゝろこころににに離離はなれれれずずずのみのみのみはははあらあらあらむむん。。。猶猶なお淺淺あさからからからずずずいひいひいいそめそめそめてててしししことことことのののすぢすぢすじなれなれなればばば、、、名名な殘殘ごりなからなからなからじじじとととにににやややなどなどなど見見みなしなしなし給給たまへへえととと、、、人人ひとののの御御おん氣色氣色けしきはははしるきしるきしるきものものものなれなれなればばば見見みもてもてもて行行ゆくくくまゝまゝままににに、、、哀哀あわれなるなるなる御心御心みこころざまざまざまををを、、、岩岩いわ木木きならならならねねねばばば思思おもほしほしおししるしるしる。。。恨恨うらみみみ聞聞きこえええ給給たまふふうことことことももも多多おおかれかれかればばば、、、いといといとわりなくわりなくわりなく打打うちちちなげきなげきなげきててて、、、かゝるかゝるかかる御心御心みこころをををやむるやむるやむるみそぎみそぎみそぎをををせせせさせさせさせ奉奉たてまつらららまほしくまほしくまほしくおぼすおぼすおぼすにににやややあらあらあらむむん、、、かのかのかの人人ひとがたがたがたのたまひのたまひのたまい出出いでででゝゝて、、、いといといと忍忍しのびびびてててこのこのこのわたりわたりわたりににになむなむなんととと、、、ほのめかしほのめかしほのめかし聞聞きこえええ給給たまふふうををを、、、かれかれかれもももなべてなべてなべてののの心地心地ここちはははせせせずずず、、、ゆかしくゆかしくゆかしくなりなりなりにににたれたれたれどどど、、、打打うちちちつけつけつけにににふとふとふと移移うつらららむむん心地心地ここちはははたたたせせせずずず、、、
- 2「「「いでいでいでやややそのそのその本本ほん尊尊ぞん願願ねがひひいみてみてみて給給たまふふうべくべくべくはははこそこそこそ尊尊とうとからからからめめめ。。。時々時々ときどき心心こころやましくやましくやましくばばば、、、なかなかなかなかなかなか山山やま水水みずももも濁濁にごりりりぬぬぬべくべくべく」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば「「「はてはてはてはてはてはてはははうたてうたてうたてののの御御おんひじりひじりひじり心心こころややや」」」ととと、、、ほのかほのかほのかににに笑笑わらひひい給給たまふふうももも、、、をかしうをかしうおかしゅう聞聞きこゆゆゆ。。。「「「いでいでいでさらばさらばさらば傳傳つたへへえはてはてはてさせさせさせ給給たまへへえかしかしかし。。。このこのこの御御おんのがれのがれのがれ言言こと葉葉ばこそこそこそ思思おもひひい出出いづれづれずればばば、、、ゆゝしくゆゝしくゆゆしく」」」とととのたまひのたまひのたまいてててももも、、、またまたまたなみだなみだなみだぐみぐみぐみぬぬぬ。。。「「「見見みししし人人ひとのののかたかたかたしろしろしろならならならばばば身身みにににそへそへそえててて戀戀こいしきしきしきせヾせヾせぜのののなでなでなでものものものにににせせせむむん」」」ととと例例れいのののたはぶれたはぶれたわぶれにににいひいひいいなしなしなしててて、、、まぎらはしまぎらはしまぎらわし給給たまふふう。。。「「「みそぎみそぎみそぎ河河がわせゞせゞせぜににに出出いださささむむんなでなでなでものものものををを身身みににに添添そふふうかげかげかげとととたれたれたれかかかたのまたのまたのまむむん。。。ひくひくひくてててあまたあまたあまたにににとととかやかやかや、、、さかしらさかしらさかしらなれなれなれどどど、、、いとほしくいとほしくいとおしくぞぞぞ侍侍はべるるるややや」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、「「「つひにつひについによるよるよるせせせはははさらさらさらなりなりなりややや。。。
現代語訳
「今朝もたいそう怠けて参内なさったのを、あいにく宮のご過失のように推し量り申し上げまして」と申し上げなさると、中の君は「本当に並々でなく、思いやりの深いお心づかいで」とだけお答え申し上げなさる。薫は、宮が内裏にお泊まりになったのを見届けて、ただならぬ心でおいでになったのだろう。いつものようにお話をたいそう親しげに申し上げなさる。何かにつけて、ただ昔が忘れがたく、世の中がますます物憂くなることを、あらわには言いなさずに、ほのめかして嘆きなさる。それほどどうして年を経ても、心から離れずにばかりいることがあろうか、やはり浅からず言い始めたことの筋なので、名残がないようにはすまいというのだろうかなどと見なしなさるけれど、人のご様子ははっきりわかるものなので、見ていくにつれて、哀れなお心の様を、岩や木ではないので思い知られる。恨み申し上げなさることも多いので、たいそう困って嘆いて、このようなお心を止めるみそぎをおさせ申し上げたいとお思いになったのだろうか、あの人形のことを言い出して、たいそう忍んでこのあたりにと、ほのめかし申し上げなさると、薫もその人には並々でない心地がして、知りたくなったけれど、急にふと心が移る気持ちもさすがにしないので、
「さあ、その本尊が願いを満たしてくださるならば尊いでしょう。時々心を悩ますのなら、かえって山の水も濁ってしまいそうで」とおっしゃると、「最後にはいやなお聖心ですこと」と、ほのかにお笑いになるのも、趣深く聞こえる。「さあ、それならお伝えしてしまってくださいよ。このお逃れの言葉こそ、思い出すと不吉で」とおっしゃっても、また涙ぐんだ。「亡き人の形代ならば、身に添えて、恋しい折々の撫で物にしよう」と、いつものように冗談に言いなして、紛らわしなさる。「みそぎ河の瀬々に流し出す撫で物を、身に添う影と誰が頼みにしましょう。引く手あまたにとか言いますね、差し出がましいようですが、気の毒でございます」とおっしゃると、「最後に寄る瀬は言うまでもありませんよ。
意訳
薫は匂宮の留守を見計らって中の君を訪ね、大君を忘れられないと嘆く。困った中の君は、薫の心を鎮めるために、大君に似た浮舟が忍んでここに来ていることをほのめかす。薫は関心を持ちつつも、すぐには心を移さず、冗談めかして返す。薫は浮舟を大君の形代として身に添える撫で物にしたいと歌い、中の君は、撫で物は流されるもので、引く手あまたの人を誰が頼りにするかと返す。
語釈・文法注
文法
- 「みそぎ」(かゝる御心をやむるみそぎをせさせ奉らまほしく)
- 罪や穢れを水で洗い清めること。ここでは、薫の自分への執着を払うための手段の意。
- 「なでもの」(戀しきせゞのなでものにせむ)
- 撫で物。身を撫でて穢れを移し、川に流す人形。
- 「ひくてあまた」(ひくてあまたにとかや)
- 「大幣の引く手あまたになりぬれば思へどえこそ頼まざりけれ」(古今集)による。多くの人に引かれる大幣のように、浮気な人は頼みにできないの意。
解説
中の君は、薫の自分への思いを浮舟に向けさせようとする。「人形」「撫で物」という言葉は、浮舟が大君の身代わりとして扱われることを暗示し、浮舟の悲劇の予兆となる。
撫で物は穢れを移して川に流すもの。後に浮舟が宇治川に身を投げようとすることを思えば、この贈答は不吉な響きを持つ。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1082–1085頁(コマ252–253)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日