源氏物語 第50帖 東屋(8)
浮舟の婚儀の準備
大臣になろう、贖労を取ろうなどということは、あまりに大げさなことと少将の耳にとまった。少将は「それで、あの北の方にはこうと伝えたか。格別に思い始めていらっしゃるだろうに、それを引き違えたら、ひねくれて意地の悪いことのように言いなす人もいるだろう。さあどうだろう」とためらうので、仲人は「何の、北の方もあの姫君(常陸介の実の娘)をたいそう大切なものと思ってかしずいていらっしゃるのです。ただ浮舟が兄弟の中の年長で年も大人びていらっしゃるのを心苦しく思って、そちらにと仕向けて申し上げたのです」と申し上げる。何か月も、またとなく世の常ならず大切にしていると言っていたのに、急にこう言うのもどうかと思うが、やはり一度はつらいと思われ、人に少し非難されても、長く頼もしいことをと、たいそう抜け目なく賢い君で決めてしまったので、日取りさえ変えずに、約束した日の夕暮れから常陸介の実の娘のもとに通い始めた。北の方は人知れず準備をして、女房たちの装束を作らせ、部屋の飾りつけなどを由緒ありげに整える。浮舟にも髪を洗わせ身づくろいさせて見ると、少将程度の人に見せるのも惜しいほどすばらしい様子なので、ああ、父宮に認められてお育ちになっていたら、宮が亡くなっても、大将殿(薫)がおっしゃるように、身の程知らずでもどうして思い立たないことがあろう、けれども内々にはこう思っても、よその評判では守の子とも見分けず、また本当の事情を尋ね知る人も、かえって見下すだろうことが悲しいなどと思い続ける。どうしよう、盛りを過ぎてしまうのもつまらない、卑しくなく見苦しくない程度の人がこう熱心におっしゃるのだからなどと、心一つに思い定めるのも、仲人がこう口がうまくすばらしく言うので、女はまして騙されたのだろう。
- 1大臣大臣おとどにににならならならむむん、、、ぞくらうぞくらうぞくろうををを取取とらららむむんなどなどなどぞぞぞ、、、あまりあまりあまりおどろおどろしきおどろおどろしきおどろおどろしきことことことゝゝと耳耳みみとゞまりとゞまりとどまりけるけるける。。。「「「さてさてさてかのかのかの北北きたののの方方かたにににはははかくかくかくとととものものものしししつつつややや。。。志志こころざしことことことににに思思おもひひい始始はじめめめ給給たまふふうらむらむらんににに、、、引引ひきききたがへたがへたがえたらたらたらむむん、、、ひがひがしくひがひがしくひがひがしくねぢけねぢけねじけたるたるたるやうやうようにににとりとりとりなすなすなす人人ひともももあらあらあらむむん。。。いさいさいさややや」」」とととおぼしおぼしおぼしたゆたひたゆたひたゆたいたるたるたるををを、、、「「「何何なにかかか北北きたののの方方かたもももかのかのかの姫姫ひめ君君ぎみをををばばばいといといとやむごとなきやむごとなきやむごとなきものものものににに思思おもひひいかしづきかしづきかしずき奉奉たてまつりりり給給たまふふうなりなりなりけりけりけり。。。唯唯ただ中中なかのののこのこのこのかみかみかみにてにてにて年年としもももおとなびおとなびおとなび給給たまふふうををを心苦心苦こころぐるしきしきしき事事ことににに思思おもひひいててて、、、そなたそなたそなたにににとととおもむけおもむけおもむけててて申申もうささされれれけるけるけるなりなりなり」」」ととと聞聞きこゆゆゆ。。。月月つき頃頃ごろははは又又またなくなくなく、、、よよよのののつねつねつねならならならずずずかしづくかしづくかしずくととといひいひいいつるつるつるものものものゝゝの、、、うちつけうちつけうちつけにににかくかくかくいふいふいうもももいかならいかならいかならむむんととと思思おもへへえどもどもども、、、猶猶なおひとひとひとわたりわたりわたりはははつらしつらしつらしととと思思おもははわれれれ、、、人人ひとにににははは少少すこししし譏譏そしらららるるるともともともながらへながらへながらへててて賴賴たのもしきもしきもしきことことことをををこそこそこそととと、、、いといといとまたくまたくまたくかしこきかしこきかしこき君君きみにてにてにて思思おもひひいとりとりとりてててけれけれければばば、、、日日ひをををだにだにだにとりとりとりかへかへかえででで契契ちぎりりりししし暮暮くれにににぞぞぞおはしおはしおわしはじめはじめはじめけるけるける。。。
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現代語訳
大臣になろう、贖労を取ろうなどということは、あまりに大げさなことと、少将の耳にとまったのだった。少将は「それで、あの北の方には、こうと伝えたか。格別に思い始めていらっしゃるだろうに、それを引き違えたら、ひねくれて意地の悪いように言いなす人もいるだろう。さあどうだろう」とためらっていらっしゃるのを、仲人は「何の、北の方も、あの姫君をたいそう大切なものと思ってかしずき申し上げていらっしゃるのでした。ただ兄弟の中の年長で、年も大人びていらっしゃるのを心苦しいことに思って、そちらにと仕向けて申し上げられたのです」と申し上げる。何か月も、またとなく、世の常ならず大切にしていると言っていたのに、急にこう言うのもどうかと思うけれど、やはり一度はつらいと思われ、人には少し非難されても、長く頼もしいことをこそと、たいそう抜け目なく賢い君で、決めてしまったので、日取りさえ変えずに、約束した日の夕暮れから通い始めなさった。
北の方は人知れず準備を始めて、女房たちの装束を作らせ、部屋の飾りつけなどを由緒ありげになさる。浮舟にも髪を洗わせ身づくろいさせて見ると、少将などという程度の人に見せるのも惜しくもったいない様子なので、ああ、父宮に認められ申し上げてお育ちになっていたら、宮がお亡くなりになったとしても、大将殿がおっしゃっているらしいように、身の程知らずでも、どうして思い立たないことがあろうか、けれども内々にこそこう思うものの、よその評判では守の子とも見分けず、また本当の事情を尋ね知るような人も、かえって見下すに違いないことが悲しいなどと、思い続ける。どうしようもない、盛りを過ぎてしまわれるのもつまらない、卑しくなく見苦しくない程度の人がこう熱心におっしゃるのだからなどと、心一つに思い定めるのも、仲人がこう口がうまくすばらしく言うので、女はまして騙されたのであろうか。
意訳
少将は常陸介の大げさな言葉に驚きつつ、北の方への配慮をためらうが、仲人は北の方も実の娘を大切にしていると言いくるめる。少将は打算から、約束の日のまま常陸介の実の娘のもとに通い始める。何も知らない北の方は浮舟の婚礼の準備を進め、浮舟の美しさを見て、八の宮に認められていれば薫にも縁づけられたのにと嘆きつつ、仲人の言葉を信じて少将との結婚を決めていた。
語釈・文法注
文法
- 「ぞくらう」(大臣にならむ、ぞくらうを取らむなどぞ)
- 贖労。財物を献じて官位を得ること。
- 「このかみ」(唯中のこのかみにて年もおとなび給ふを)
- 兄弟の中の年長者。
- 「すかされたる」(女はましてすかされたるにやあらむ)
- だまされた。
解説
少将は約束の日をそのままに、浮舟ではなく常陸介の実の娘のもとに通い始める。浮舟を迎えるはずだった日が、別の娘の婚礼の日となる。冷酷な打算の結果である。
母中将の君は、浮舟の美しさを見て、八の宮に認められていればと嘆く。少将との縁談に妥協したのも、浮舟の身分の不安定さゆえであった。その妥協さえ、仲人の言葉に裏切られる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、1072–1073頁(コマ247)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日