源氏物語 第47帖 総角(56)
年の暮れ
中納言(薫)が主人側として住み慣れて、女房たちを気安く呼び使い、仕える人も多くして食事を差し上げたりしているのを、匂宮はしみじみとも面白くもご覧になる。薫がひどく痩せて青ざめ、ぼんやりするほど物思いをしているので、匂宮は心苦しく見て真心から見舞う。薫は大君の生前の様子など、言ってもかいのないことだが、この匂宮にこそ申し上げようと思うが、口に出すにつけてもひどく気弱で愚かしく見られるのを憚って言葉少なである。声を上げて泣いてばかりで日数が経ったので、面変わりしているのも見苦しくはなく、ますます清らかで優美なのを、匂宮は、女ならきっと心が移るだろうと、自分のよからぬ癖から思い寄るのも何となく不安だったので、何とかして人の非難も恨みも避けて、中の君を京に移そうと思う。中の君はこうつれないものの、宮中でも宇治通いをお聞きになってひどくよくないことになるだろうと困って、匂宮は今日は帰った。並々でなく言葉を尽くすが、つれないのは苦しいものだと一度は思い知らせたくて、中の君は打ち解けないままだった。年の暮れ方には、こんな所でなくても空の気配はいつもと違うのに、荒れない日もなく降り積もる雪に物思いにふけりながら明け暮れする薫の心地は、尽きることなく夢のようである。四十九日の法事も盛大に行わせる。匂宮からも誦経など大げさなほど見舞う。いつまでもこうして新しい年まで嘆き過ごしていられようか、あちこちでも心配して、閉じ籠っていることを申し上げるので、今はと京に帰る心地もたとえようがない。こうしてお住みになり慣れて、人の多かった名残もなくなるのを嘆く女房たちは、大君が亡くなった時の差し迫った悲しい騒ぎよりも、落ち着いてからかえってひどく悲しく思う。時折、季節の趣ある折に便りを交わしていた年月よりも、こうしてのどかに過ごした日々の薫のご様子や気配が親しみやすく、情け深く、ちょっとしたことにも真剣なことにも思いやりの多いお心を、今は限りと見納めたのだと、皆ぼんやりと悲しんでいる。
- 1中中ちゅう納納な言言ごんのののあるじあるじあるじがたがたがたににに住住すみみみなれなれなれててて、、、人々人々ひとびと安安やすらからからかににによびよびよびつかひつかひつかい人人ひともももあまたあまたあまたしししててて、、、物物もの參參まいらせらせらせなどなどなどししし給給たまふふうををを、、、あはれあはれあわれにににもももをかしうをかしうおかしゅうももも御御ご覽覽らんずずず。。。いといといといたういたういとう瘠瘠やせせせ靑靑あおみみみほれぼれしきほれぼれしきほれぼれしきまでまでまで物物ものををを思思おもひひいたれたれたればばば、、、心苦心苦こころぐるしししととと見見み給給たまひひいててて、、、まめやかまめやかまめやかにににとぶらひとぶらひとぶらい給給たまふふう。。。ありありありしししさまさまさまなどなどなどかひかひかいなきなきなきことことことなれなれなれどどどこのこのこの宮宮みやにににこそこそこそははは聞聞きこえええめめめととと思思おもへへえどどど、、、うちうちうち出出いでででむむんにににつけつけつけてててもももいといといと心心こころよわくよわくよわくかたくなしくかたくなしくかたくなしく見見みえええ奉奉たてまつらららむむんにににはゞかりはゞかりはばかりてててことことことずくなずくなずくなゝりゝりなり。。。ねねねをををのみのみのみ泣泣なきききててて日日ひ數數かず經經へにににけれけれければばば顏顏かおがはりがはりがわりのののしししたるたるたるももも、、、見見み苦苦ぐるしくしくしくはははあらあらあらでででいよいよいよいよいよいよ物物もの淸淸ぎよげげげににになまめいなまめいなまめいたるたるたるををを、、、女女おんなならならならばばば必必かならずずず心心こころうつりうつりうつりなななむむんととと、、、おのおのおのがががけしからけしからけしからぬぬぬ御心御心みこころならひならひならいにににおぼしおぼしおぼしよるよるよるもももなまなまなまうしろめたかりうしろめたかりうしろめたかりけれけれければばば、、、いかでいかでいかで人人ひとのののそしりそしりそしりをををもももうらみうらみうらみをををもももはぶきはぶきはぶきててて、、、京京きょうにににうつろはしうつろはしうつろわしてててむむんとととおぼすおぼすおぼす。。。かくかくかくつれなきつれなきつれなきものものものからからからうちうちうちわたりわたりわたりにににももも聞聞きこししし召召めしししててて、、、いといといとあしかるあしかるあしかるべきべきべきにににおぼしおぼしおぼしわびわびわびててて、、、今日今日きょうはははかへらかへらかえらせせせ給給たまひひいぬぬぬ。。。おろかおろかおろかならならならずずず言言ことののの葉葉はをををつくしつくしつくし給給たまへへえどどど、、、つれなきつれなきつれなきははは苦苦くるしきしきしきものものものをををとととひとひとひとふしふしふしををを思思おもししししらしらしらせせせまほしくまほしくまほしくててて心心こころとけとけとけずずずなりなりなりぬぬぬ。。。
- 2年年としのののくれくれくれがたがたがたにににはははかゝらかゝらかからぬぬぬ所所ところだにだにだに、、、空空そらののの氣色氣色けしき例例れいにににははは似似にぬぬぬををを、、、荒荒あれれれぬぬぬ日日ひなくなくなく降降ふりりり積積つむむむ雪雪ゆきにににうちうちうち眺眺ながめめめつゝつゝつつ明明あかししし暮暮くらししし給給たまふふう心地心地ここち、、、つきつきつきせせせずずず夢夢ゆめのののやうやうようなりなりなり。。。御御おんわざわざわざもももいかめしういかめしういかめしゅうせせせさせさせさせ給給たまふふう。。。宮宮みやよりよりよりももも御御おん誦誦ず經經きょうなどなどなどこちたきこちたきこちたきまでまでまでとぶらひとぶらひとぶらい聞聞きこえええ給給たまふふう。。。かくかくかくてててのみのみのみやややははは新新あたらしきしきしき年年としさへさへさへなげきなげきなげきすぐさすぐさすぐさむむん、、、こゝこゝここかしこかしこかしこにににももも覺束覺束おぼつかなくなくなくててて、、、閉閉とぢぢじ籠籠こもりりり給給たまへへえるるることことことををを聞聞きこえええ給給たまへへえばばば、、、今今いまはははとてとてとてかへりかへりかえり給給たまははわむむん心心こころちちちもももたとへたとへたとえむむんかたかたかたなしなしなし。。。かくかくかくおはしおはしおわしならひならひならいててて、、、人人ひとしげかりしげかりしげかりつるつるつる名名な殘殘ごりなくなくなくならならならむむんををを、、、思思おもひひいわぶるわぶるわぶる人々人々ひとびと、、、いみじかりいみじかりいみじかりししし折折おりのののさしさしさしあたりあたりあたりててて悲悲かなしかりしかりしかりしししさわぎさわぎさわぎよりよりよりもももうちうちうちしづまりしづまりしずまりててていみじくいみじくいみじくおぼゆおぼゆおぼゆ。。。時々時々ときどきをりをりおりふしふしおりふしをかしやかをかしやかおかしやかなるなるなる程程ほどににに聞聞きこえええかはしかはしかわし給給たまひひいししし年年としごろごろごろよりよりよりももも、、、かくかくかくのどやかのどやかのどやかにてにてにて過過すぐしぐしぐし給給たまへへえるるる日日ひごろごろごろののの御御おんありさまありさまありさまけはひけはひけはいのののなつかしくなつかしくなつかしく、、、なさけなさけなさけぶかうぶかうぶこうはかなきはかなきはかなきことことことにににもももまめまめまめなるなるなるかたかたかたにににももも、、、思思おもひひいやりやりやり多多おおかるかるかる御御おん心心こころばへばへばえををを、、、今今いまははは限限かぎりににに見見み奉奉たてまつりりりさしさしさしつるつるつることことことゝゝとおぼゝれおぼゝれおぼおれあへあへあえりりり。。。
現代語訳
中納言が主人側として住み慣れて、女房たちを気安く呼び使い、仕える人も多くして、お食事を差し上げたりなさるのを、匂宮はしみじみとも、面白くもご覧になる。薫がたいそうひどく痩せて青ざめ、ぼんやりするほどまでに物思いをしているので、匂宮は心苦しいとご覧になって、真心からお見舞いなさる。薫は、大君の生前の様子など、言ってもかいのないことだけれど、この匂宮にこそ申し上げようと思うが、口に出すにつけても、たいそう気弱で愚かしく見られ申し上げるのを憚って、言葉少なである。声を上げて泣いてばかりで日数が経ったので、面変わりしているのも、見苦しくはなくて、ますます清らかで優美なのを、女であったら必ず心が移ってしまうだろうと、匂宮がご自身のよからぬお心の癖から思い寄りなさるのも、何となく不安だったので、何とかして人の非難も恨みも避けて、中の君を京に移してしまおうとお思いになる。中の君はこのようにつれないものの、宮中でもお聞きになって、たいそうよくないことになるだろうとお困りになって、匂宮は今日はお帰りになった。並々でなく言葉を尽くしなさるが、中の君は、つれないのは苦しいものだと、一度は思い知らせたくて、打ち解けないままになってしまった。
年の暮れ方には、このような所でなくても、空の気配はいつもと違うのに、荒れない日もなく降り積もる雪に物思いにふけりながら明かし暮らしなさる薫のお心地は、尽きることなく夢のようである。四十九日の法事も盛大におさせになる。匂宮からも、誦経など大げさなほどお見舞い申し上げなさる。こうしてばかりいて新しい年まで嘆き過ごしていられようか、あちこちでも心配して、閉じ籠っていらっしゃることを申し上げなさるので、今はとお帰りになる心地も、たとえようがない。こうして住み慣れていらっしゃって、人の多かった名残もなくなるのを嘆く女房たちは、大君が亡くなった時の差し迫って悲しかった騒ぎよりも、落ち着いてからかえってひどく悲しく思われる。時折、季節の趣ある折に便りを交わしていらっしゃった年月よりも、こうしてのどかに過ごしていらっしゃった日々のご様子や気配が親しみやすく、情け深く、ちょっとしたことにも真剣な方面にも、思いやりの多いお心を、今は限りと見納め申し上げたのだと、皆ぼんやりと悲しみ合っている。
意訳
宇治に住み慣れた薫を見て、匂宮は痩せ衰えた薫を心配する。匂宮は、悲しみに沈む薫の優美さに中の君が心を移すのではと不安になり、中の君を京に迎えようと決める。中の君は匂宮を許さないまま、匂宮は帰る。年の暮れ、四十九日の法事を終えた薫は京に帰ることになり、女房たちは薫との別れを悲しむ。
語釈・文法注
文法
- 「ほれぼれしきまで」(いといたう瘠せ靑みほれぼれしきまで物を思ひたれば)
- ぼんやりするほど。
- 「おのがけしからぬ御心ならひに」(おのがけしからぬ御心ならひにおぼしよるも)
- 自分の好色な心の癖から。匂宮が自分の性分から薫を疑う。
- 「御わざ」(御わざもいかめしうせさせ給ふ)
- 法事。ここでは四十九日の法要。
解説
匂宮は、悲しみにやつれた薫の美しさに嫉妬めいた不安を抱く。自分の好色な性分から他人を推し量る匂宮の心理は、のちに薫と中の君の関係を疑う伏線となる。
女房たちは、薫が宇治に籠っていた日々を惜しむ。大君の生前よりも、亡くなってからの方が薫の人柄がよく見えた。悲しみの中で、薫と宇治の人々の絆が深まっていたのである。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、988–991頁(コマ205–206)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日