源氏物語 第47帖 総角(55)
物越しの匂宮
日頃のつらさも紛れてしまいそうなほどの訪れだが、中の君は対面する気にもならない。大君が嘆いていた様子が恥ずかしかったのを、そのまま見直されないまま亡くなってしまったのも、これから先お心が改まってもかいがないだろうと深く思い込んでいるので、女房たちが皆ひどく道理を言い聞かせて、物越しで、日頃の怠りを尽きることなく詫びる匂宮の言葉をつくづくと聞いている。中の君もたいそうあるかなきかの様子で、姉君に遅れることはあるまいかと聞こえる気配が心苦しく、匂宮も不安でひどいことと思っている。今日は身を捨てる覚悟で留まった。物越しでなくてとひどく嘆くが、中の君は「もう少し気持ちがしっかりしましたら」とだけ言ってつれないので、中納言(薫)も様子を聞いて、然るべき女房を呼び出して、「ご様子に反して浅い心のようなお扱いで、昔も今もつらかったこの何か月の罪は、そうお思いになるのも当然ですが、憎らしくない程度にお咎めなさるのがよいでしょう。このようなことをまだご存じないお心で、苦しくお思いでしょう」などとひそかに賢ぶるので、ますます中の君は恥ずかしくて、お返事もできない。匂宮は「呆れるほどつれなくいらっしゃる。申し上げたことをすっかりお忘れになったのか」と並々でなく嘆き暮らす。夜の気配はますます激しい風の音で、匂宮が自分のせいで嘆き臥せっているのもさすがで、中の君はいつものように物を隔ててお話しする。匂宮が千々の社を引き合いに出して、末長いことを約束するのも、どうしてこうも口慣れていらっしゃるのかと情けないが、よそでつれない時の疎ましさより、しみじみと人の心も和らぎそうなご様子を、一途に疎み果てることもできないと、ただつくづくと聞いて、過ぎたことを思い出すのもはかないのに、行く末かけて何を頼みましょうとほのかに言う。かえって気が晴れずもどかしい。匂宮は「行く末を短いものと思うなら、せめて目の前だけでも背かないでほしい。何事もこうはかない世を、罪深くお思いなさいますな」とあれこれなだめるが、中の君は「気分も悪いので」と奥に入ってしまった。匂宮は人がどう見るかもひどく体裁が悪くて、嘆き明かす。恨むのももっともな時だが、あまりに人を憎らしくと、つらい涙が落ちるので、まして中の君はどんなにつらかっただろうと、さまざまにしみじみと思い知る。
- 1日日ひごろごろごろのののつらさつらさつらさももも紛紛まぎれれれぬぬぬべきべきべき程程ほどなれなれなれどどど對對たい面面めんししし給給たまふふうべきべきべき心心こころちちちもももせせせずずず。。。おぼしおぼしおぼし歎歎なげきききたるたるたるさまさまさまののの恥恥はずかしかりしかりしかりしししををを、、、やがてやがてやがて見見みなほさなほさなおされれれ給給たまははわずずずなりなりなりにににしししももも、、、今今いまよりよりより後後のちののの御心御心みこころあらたまらあらたまらあらたまらむむんはははかひかひかいなかるなかるなかるべくべくべく思思おもひひいしみしみしみててて物物ものししし給給たまへへえれれればばば、、、誰誰たれももも誰誰たれもももいみじういみじういみじゅうことわりことわりことわりををを聞聞きこえええしらせしらせしらせつゝつゝつつ、、、物物ものごしごしごしにてにてにてぞぞぞ日日ひごろごろごろのののをこたりをこたりおこたり盡盡つくせせせずずずのたまふのたまふのたまうをををつくつくつくつくつくつくととと聞聞きききき居居い給給たまへへえるるる。。。これこれこれもももいといといとあるあるあるがががなきなきなきかかかにてにてにて、、、後後おくれれれ給給たまふふうまじきまじきまじきにににやややととと聞聞きこゆるゆるゆる御御おんけはひけはひけはいののの心苦心苦こころぐるしさしさしさををを、、、後後うしろめたうめたうめとういみじいみじいみじととと宮宮みやもももおぼしおぼしおぼしたりたりたり。。。今日今日きょうははは御御おん身身みををを捨捨すてててゝゝてとまりとまりとまり給給たまひひいぬぬぬ。。。物物ものごしごしごしならならならでででととといたくいたくいたくわびわびわび給給たまへへえどどど、、、「「「今今いま少少すこししし物物ものおぼゆるおぼゆるおぼゆる程程ほどにてにてにて侍侍はべらららばばば」」」とととのみのみのみ聞聞きこえええ給給たまひひいてててつれなきつれなきつれなきををを、、、中中ちゅう納納な言言ごんももも氣色氣色けしき聞聞きききき給給たまひひいててて、、、さるべきさるべきさるべき人人ひとめしめしめし出出いでででゝゝて、、、「「「御御おん有有あり樣樣さまにににたがひたがひたがいててて心心こころ淺淺あさきききやうやうようなるなるなる御御おんもてもてもてなしなしなしののの、、、昔昔むかしももも今今いまももも心心こころうかりうかりうかりけるけるける月月つきごろごろごろののの罪罪つみははは、、、さささももも思思おもひひい聞聞きこえええ給給たまひひいぬぬぬべきべきべきことことことなれなれなれどどど、、、にくからにくからにくからぬぬぬさまさまさまにににこそこそこそかうがへかうがへこうがえ奉奉たてまつりりり給給たまははわめめめ。。。かやうかやうかようなるなるなる事事ことまだまだまだ見見み知知しらららぬぬぬ御心御心みこころにてにてにて苦苦くるしうしうしゅうおぼすおぼすおぼすらむらむらん」」」などなどなど、、、忍忍しのびびびてててさかしがりさかしがりさかしがり給給たまへへえばばば、、、いよいよいよいよいよいよこのこのこの君君きみののの御心御心みこころももも恥恥はずかしうしうしゅうててて、、、えええ聞聞きこえええ給給たまははわずずず。。。
- 2「「「あさましうあさましうあさましゅう心心こころ憂憂うくくくおはしおはしおわしけりけりけり。。。聞聞きこえええしししさまさまさまをををもももむげむげむげににに忘忘わすれれれ給給たまひひいけるけるけることことこと」」」とととおろかおろかおろかならならならずずず歎歎なげきききくらしくらしくらし給給たまへへえりりり。。。よるよるよるののの氣色氣色けしきいとゞいとゞいとど烈烈はげしきしきしき風風かぜののの音音おとににに、、、人人ひとやりやりやりならならならずずず歎歎なげきききふしふしふし給給たまへへえるるるもももさすがさすがさすがにてにてにて、、、例例れいののの物物ものへだてへだてへだてゝゝて聞聞きこえええ給給たまふふう。。。ちちちとととのののやしろやしろやしろをををひきひきひきかけかけかけててて、、、行行ゆくくくさきさきさき長長ながきききことことことををを契契ちぎりりり聞聞きこえええ給給たまふふうももも、、、いかでいかでいかでかくかくかくくちくちくちなれなれなれ給給たまひひいけむけむけんととと心心こころ憂憂うけれけれけれどどど、、、よそよそよそにてにてにてつれなきつれなきつれなき程程ほどののの疎疎うとましさましさましさよりよりより、、、あはれあはれあわれににに人人ひとののの心心こころもももたをやぎたをやぎたおやぎぬぬぬべきべきべき御御おんさまさまさまををを、、、ひとひとひとかたかたかたにににもももえええうとみうとみうとみはつはつはつまじかりまじかりまじかりけりけりけりととと、、、唯唯ただつくづくつくづくつくずくととと聞聞きききき給給たまひひいててて、、、「「「きききしししかたかたかたををを思思おもひひいいづるいづるいずるもももはかなきはかなきはかなきををを行行ゆくくく末末すえかけかけかけてててなになになにたのむたのむたのむらむらむらん」」」とととほのかほのかほのかにににのたまふのたまふのたまう。。。なかなかなかなかなかなかいぶせういぶせういぶしょう心心こころもとなしもとなしもとなし。。。
- 3「「「行行ゆくくく末末すえをををみじかきみじかきみじかきものものものととと思思おもひひいなななばばばめめめのののまへまへまえにににだにだにだにそむかそむかそむかざらざらざらなむなむなん。。。何何なに事事こともももいといといとかうかうこうみるみるみるほどほどほどなきなきなき世世よををを、、、罪罪つみ深深ふかくくくなななおぼしおぼしおぼしななないそいそいそ」」」とととよろづよろづよろずにににこしらへこしらへこしらえ給給たまへへえどどど、、、「「「心地心地ここちもももなやましくなやましくなやましくなむなむなん」」」とてとてとて、、、入入いりりり給給たまひひいにににけりけりけり。。。人人ひとののの見見みるるるらむらむらんもももいといといと人人ひとわろくわろくわろくててて歎歎なげきききあかしあかしあかし給給たまふふう。。。恨恨うらみみみむむんもももことわりことわりことわりなるなるなるほどほどほどなれなれなれどどど、、、あまりあまりあまりににに人人ひとにくゝにくゝにくくもももとととつらきつらきつらき淚淚なみだのののおつれおつれおつればばば、、、ましてましてましていかにいかにいかに思思おもひひいつらむつらむつらむととと、、、さまざまさまざまさまざまあはれあはれあわれにににおぼしおぼしおぼししらしらしらるるる。。。
現代語訳
日頃のつらさも紛れてしまいそうなほどの訪れであるが、中の君は対面なさる気にもならない。大君が嘆いていらっしゃった様子が恥ずかしかったのを、そのまま見直されなさらずに亡くなってしまわれたのも、これから後お心が改まっても、かいがないだろうと深く思い込んでいらっしゃるので、女房たちが誰もかれもひどく道理を言い聞かせながら、物越しで、日頃の怠りを尽きることなくおっしゃるのを、つくづくと聞いていらっしゃる。中の君もたいそうあるかなきかの様子で、姉君に遅れなさるまいかと聞こえるご様子の心苦しさを、不安でひどいことと匂宮もお思いになっている。今日は身を捨てる覚悟でお留まりになった。物越しでなくてと、ひどくお嘆きになるが、中の君は「もう少し気持ちがしっかりしております時でしたら」とだけ申し上げなさってつれないので、中納言もご様子をお聞きになって、然るべき女房を呼び出して、「ご様子に反して、浅い心のようなお扱いで、昔も今もつらかったこの何か月の罪は、そうお思い申し上げなさるのも当然のことですが、憎らしくない程度にお咎め申し上げなさるのがよいでしょう。このようなことをまだご存じないお心で、苦しくお思いでしょう」などと、ひそかに賢ぶりなさるので、ますますこの中の君のお心も恥ずかしくて、お返事もおできにならない。
匂宮は「呆れるほどつれなくいらっしゃったことよ。申し上げたことも、すっかりお忘れになったことよ」と、並々でなく嘆き暮らしていらっしゃる。夜の気配は、ますます激しい風の音で、匂宮が自分のせいで嘆き臥せっていらっしゃるのもさすがに気の毒で、中の君はいつものように物を隔ててお話し申し上げなさる。匂宮が千々の社を引き合いに出して、行く末長いことをお約束申し上げなさるのも、どうしてこうも口慣れていらっしゃったのだろうかと情けないけれど、よそでつれなくしていらっしゃった時の疎ましさよりは、しみじみと人の心も和らいでしまいそうなご様子を、一途に疎み果てることもできないことであったと、ただつくづくとお聞きになって、「過ぎたことを思い出すのもはかないのに、行く末かけて何を頼みにするのでしょう」とほのかにおっしゃる。かえって気が晴れずもどかしい。
匂宮は「行く末を短いものと思うのならば、せめて目の前だけでも背かないでほしい。何事も、このように見る間もないはかない世を、罪深くお思いなさいますな」とあれこれなだめなさるが、中の君は「気分も悪うございますので」と言って、奥にお入りになってしまった。匂宮は人がどう見ているだろうかと思うのもひどく体裁が悪くて、嘆き明かしなさる。恨むのももっともな時ではあるが、あまりに人を憎らしくもと、つらい涙が落ちるので、まして中の君はどんなにつらく思っていたことだろうと、さまざまにしみじみと思い知られなさる。
意訳
匂宮が訪れても、中の君は姉の死を思って対面せず、物越しに匂宮の詫び言を聞く。薫は女房を通して、中の君に程々に許すよう勧める。夜になり、匂宮は末長い契りを誓うが、中の君は過去もはかないのに未来を頼めないと返し、奥に入ってしまう。匂宮は一晩中嘆き、中の君がどれほどつらかったかを思い知る。
語釈・文法注
文法
- 「かうがへ奉り給はめ」(にくからぬさまにこそかうがへ奉り給はめ)
- 勘へ。咎める、責める。
- 「ちとのやしろ」(ちとのやしろをひきかけて)
- 千々の社。多くの神々にかけて誓うこと。
- 「めのまへにだにそむかざらなむ」(めのまへにだにそむかざらなむ)
- せめて目の前だけでも背かないでほしい。
解説
中の君は匂宮を許さない。姉が匂宮の不実を嘆いたまま死んだことが、中の君の心を閉ざしている。匂宮は、自分が待たせる側から待たされる側になり、初めて中の君の苦しみを知る。
薫は女房を通して中の君に助言する。大君を失った薫が、今度は中の君と匂宮の仲を取り持とうとする。後見としての薫の役割が、次の帖へと引き継がれていく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、986–989頁(コマ204–205)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日