源氏物語 第47帖 総角(54)
匂宮の弔問
薫が女房たちを近くに呼び出して話などをさせる様子が、たいそう申し分なく、のどかで思慮深いのを、拝見する若い女房たちは心にしみてすばらしいと思う。老いた女房たちは、残念でひどいことだとますます思う。「大君のご病気が重くなられたのも、ただこの匂宮のことを思いがけない有様に拝見して、人の笑いものになるとひどくお思いだったようですが、さすがに中の君には、こう思っていると知られ申し上げまいと、ただお心一つで世を恨んでいらしたうちに、ちょっとした果物も召し上がらず、ただ弱りに弱っていかれたようです。表面にはそれほど大げさに深刻そうにも振る舞われず、心の底ではこの上なく、何事も思っていらしたようで、亡き八の宮のお戒めにまで背いてしまったことと、つまらなく中の君の身の上を思い悩み始められたのです」と申し上げて、折々おっしゃったことなどを語り出しながら、誰もかれも泣き惑うことが尽きない。薫は、自分のせいでつまらない物思いをおさせしたのだと取り返したく、世の中すべてがつらいので、念誦をたいそうしみじみとして、まどろむ間もなく夜を明かしていると、まだ夜深い頃の雲の様子がたいそう寒そうな中、人々の声が大勢して馬の音が聞こえる。どんな人がこんな夜中に雪を分けて来るのかと高僧たちも驚いていると、匂宮が狩衣にひどくやつれた姿で、濡れながら入っていらしたのだった。戸を叩く様子にそうだと聞きつけて、中納言は隠れた方に入ってひそかにいる。忌みの日数はまだ残っていたが、匂宮は待ちきれず思い悩んで、一晩中雪に惑わされながらいらしたのであった。
- 1人々人々ひとびと近近ちこううう呼呼よびびびいでいでいで給給たまひひいててて御御おん物物もの語語がたりなどなどなどせせせさせさせさせ給給たまふふうけはひけはひけはいなどなどなどのののいといといとあらまほしうあらまほしうあらまほしゅう、、、のどやかのどやかのどやかににに心心こころ深深ふかきききををを、、、見見み奉奉たてまつるるる人々人々ひとびと若若わかきききははは心心こころにににしめしめしめてててめでたしめでたしめでたしととと思思おもひひい奉奉たてまつるるる。。。老老おいいいたるたるたるははは口口くち惜惜おしうしうしゅういみじきいみじきいみじき事事ことをををいとゞいとゞいとど思思おもふふう。。。「「「御御おん心地心地ここちののの重重おもくくくならならならせせせ給給たまひひいしししことことことももも、、、唯唯ただこのこのこの宮宮みやののの御御おん事事ことををを思思おもははわずずずににに見見み奉奉たてまつりりり給給たまひひいててて、、、人人ひとわらへわらへわらえにににいみじいみじいみじとととおぼすおぼすおぼすめりめりめりしししををを、、、さすがさすがさすがにににかのかのかの御御おんかたかたかたにににははは、、、かくかくかく思思おもふふうとととしらしらしられれれ奉奉たてまつらららじじじととと唯唯ただ御心御心みこころひとつひとつひとつににに世世よををを恨恨うらみみみ給給たまふふうめりめりめりしししほどほどほどににに、、、はかなきはかなきはかなき御御おんくだものくだものくだものをををももも聞聞きこしししめしめしめしいれいれいれずずず、、、たゞたゞただよわりよわりよわりににになむなむなん弱弱よわらららせせせ給給たまふふうめりめりめりししし。。。うはべうはべうわべにににはははなになになにばかりばかりばかりことごとしくことごとしくことごとしく物物もの深深ぶかげげげにににももももてもてもてなさなさなさせせせ給給たまははわででで、、、したしたしたののの御心御心みこころのののかぎりかぎりかぎりなくなくなく、、、何何なに事事こともももおぼすおぼすおぼすめりめりめりしししににに、、、故故こ宮宮みやののの御御おんいましめいましめいましめにににさへさへさへ違違たがひひいぬるぬるぬることことことににに、、、あいなうあいなうあいのう人人ひとののの御御おんうへうへうえをををおぼしおぼしおぼし惱惱なやみみみそめそめそめしししなりなりなり」」」ととと聞聞きこえええててて、、、折折おり々々おりにににのたまひのたまひのたまいしししことことことなどなどなど語語かたりりりいでいでいでつゝつゝつつ、、、誰誰たれももも誰誰たれももも泣泣なききき惑惑まどふふうことことこと盡盡つくせせせずずず。。。
- 2我我わががが心心こころからからから、、、あぢきなきあぢきなきあじきなきことことことををを思思おもははわせせせ奉奉たてまつりりりけむけむけんことことことゝゝととりとりとりかへさかへさかえさまほしくまほしくまほしく、、、なべてなべてなべてののの世世よもももつらきつらきつらきににに、、、念念ねん誦誦ずをををいといといとあはれあはれあわれにににししし給給たまひひいててて、、、まどろむまどろむまどろむ程程ほどなくなくなくあかしあかしあかし給給たまふふうににに、、、まだまだまだ夜夜よ深深ぶかききき程程ほどののの雲雲くものののけはひけはひけはいいといといと寒寒さむげげげなるなるなるににに、、、人々人々ひとびと聲聲こえあまたあまたあまたしししててて、、、馬馬うまのののおとおとおときこゆきこゆきこゆ。。。何何なに人人びとかかかははは、、、かゝるかゝるかかるさささ夜夜よ中中なかにににゆきゆきゆきをををわくわくわくべきべきべきととと、、、大大だいとことことこたちたちたちももも驚驚おどろききき思思おもへへえるるるににに、、、宮宮みやかりかりかりののの御御おんぞぞぞにににいたういたういとうやつれやつれやつれててて、、、ぬれぬれぬれぬれぬれぬれ入入いりりり給給たまふふうなりなりなりけりけりけり。。。うちうちうちたゝきたゝきたたき給給たまふふうさまさまさま、、、さささなななゝりゝりなりととと聞聞きききき給給たまひひいててて、、、中中ちゅう納納な言言ごんはははかくろへかくろへかくろえたるたるたる方方かたににに入入いりりり給給たまひひいててて忍忍しのびびびててておはすおはすおわす。。。御御おんいみいみいみははは日日ひ數數かず殘殘のこりりりたりたりたりけれけれけれどどど、、、心心こころもとなくもとなくもとなくおぼしおぼしおぼしわびわびわびててて、、、夜夜よ一一ひと夜夜よゆきゆきゆきににに惑惑まどはさはさわされれれてててぞぞぞおはしましおはしましおわしましけるけるける。。。
現代語訳
薫が女房たちを近くにお呼び出しになって、お話などをおさせになる様子などが、たいそう申し分なく、のどかで思慮深いのを、拝見する女房たちのうち若い者は、心にしみてすばらしいとお思い申し上げる。老いた者は、残念でひどいことだと、ますます思う。「大君のご病気が重くおなりになったことも、ただこの匂宮のことを思いがけない有様に拝見なさって、人の笑いものになるとひどくお思いになっていたようですが、さすがにあの中の君には、こう思っているとは知られ申し上げまいと、ただお心一つで世を恨んでいらっしゃったうちに、ちょっとした果物も召し上がらず、ただ弱りに弱っていかれたようでした。表面には、何ほども大げさに深刻そうにも振る舞いなさらず、心の底ではこの上なく、何事もお思いになっていたようで、亡き八の宮のお戒めにまで背いてしまったことと、つまらなく中の君の身の上を思い悩み始めなさったのです」と申し上げて、折々おっしゃったことなどを語り出しながら、誰もかれも泣き惑うことが尽きない。
薫は、自分の心から、つまらない物思いをおさせ申し上げたのだろうと、取り返したく、世の中すべてもつらいので、念誦をたいそうしみじみとなさって、まどろむ間もなく夜をお明かしになると、まだ夜深い頃の雲の様子がたいそう寒そうな中、人々の声が大勢して、馬の音が聞こえる。どのような人が、このような夜中に雪を分けて来るのだろうと、高僧たちも驚いていると、匂宮が狩衣にひどくやつれた姿で、濡れながらお入りになるのであった。戸を叩きなさる様子に、そうであるようだとお聞きになって、中納言は隠れた方にお入りになって、ひそかにいらっしゃる。忌みの日数は残っていたけれど、匂宮は待ちきれず思い悩みなさって、一晩中雪に惑わされながらいらっしゃったのであった。
意訳
女房たちは薫に、大君は匂宮の不実を妹に知られまいと一人で悩み、食事を取らずに弱っていったと語る。薫は自分のせいだと悔やみ、念誦をして夜を明かす。夜更け、匂宮が雪の中をやつれた姿で駆けつけ、薫は奥へ身を隠す。
語釈・文法注
文法
- 「よわりになむ弱らせ給ふ」(たゞよわりになむ弱らせ給ふめりし)
- 弱りに弱っていかれた。
- 「大とこたち」(大とこたちも驚き思へるに)
- 大徳たち。高僧たち。
- 「かりの御ぞ」(宮かりの御ぞにいたうやつれて)
- 狩衣。略式の外出着。お忍びの姿。
解説
女房たちの語りによって、大君の死の真相が明かされる。大君は妹に自分の苦しみを見せまいと、一人で悩み、食を絶った。大君の死は、妹への愛と誇りが生んだ悲劇であった。
匂宮は忌みの最中に、雪の夜を押して宇治に駆けつける。遅すぎた訪れではあるが、匂宮の中の君への思いは本物であることが示される。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、986–987頁(コマ204)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日