源氏物語 第47帖 総角(53)
雪の夜の薫
女房たちはのぞきながら拝見して、「言うかいもない大君のことはそれとして、この殿がこうして見慣れていらしたのに、今はとよそに思い申し上げることになるのが惜しく残念です。思いのほかのご宿縁でいらしたことよ。これほど深いお心のほどに、お二人ともお背きになったことよ」と泣き合っている。薫は中の君に「昔の大君の形見として、今は何事も申し上げ承りたいと思います。疎遠に隔てなさるな」と言うが、中の君は万事つらい身だったと気が引けて、まだ対面してお話もしない。中の君ははっきりしている点では大君より少し幼く、気高くいらっしゃるものの、親しみやすく匂やかな心ざまは劣っていらしたと、薫は何かにつけて思う。雪のかき曇って降る日、一日中物思いにふけって暮らし、世の人が興ざめなものと言うという十二月の月夜が曇りなく差し出たのを、簾を巻き上げて見ると、向かいの寺の鐘の声が、枕をそばだてて今日も暮れたとかすかに聞こえるのを聞いて、後れまいと空を行く月を慕うことだ、ついに住み果てられるこの世ではないのだから、と詠む。風がたいそう激しいので蔀を下ろさせると、四方の山を映す鏡と見える汀の氷が月光にたいそう趣深い。京の家がこの上なく磨き立てても、こうはいかないと思われる。わずかに生き返っていらしたら一緒に語り合えたのにと思い続けると、胸からあふれる心地がする。薫は、恋い焦がれて求めて来た不死の薬が欲しいので、雪山に跡を消してしまおうかと詠む。半偈を教えてくれる鬼でもいればよい、それにかこつけて身を投げようと思うのは、不純な聖心であった。
- 1人々人々ひとびとのぞきのぞきのぞきつゝつゝつつ見見み奉奉たてまつりりりててて、、、「「「いふかひいふかひいうかいなきなきなき御御おん事事ことをををばばばさるさるさるものものものにてにてにて、、、このこのこの殿殿とののののかくかくかく見見み習習ならひひい奉奉たてまつりりりててて、、、今今いまはははとととよそよそよそににに思思おもひひい聞聞きこえええむむんこそこそこそあたらしうあたらしうあたらしゅう口口くち惜惜おしけれしけれしけれ。。。思思おもいののの外外ほかなるなるなる御御おんすくせすくせすくせにににもももおはしおはしおわしけるけるけるかなかなかな。。。かくかくかく深深ふかききき御心御心みこころののの程程ほどををを、、、かたかたかたかたかたかたににに背背そむかかかせせせ給給たまへへえるるるよよよ」」」ととと泣泣なきききあへあへあえりりり。。。「「「このこのこの御御おん方方かたにににははは、、、昔昔むかしののの御御おんかたみかたみかたみににに今今いまははは何何なに事事ことももも聞聞きこえええ承承うけたまわらららむむんとととなむなむなん思思おもひひい給給たまふるふるうる。。。うとうとしくうとうとしくうとうとしくおぼしおぼしおぼし隔隔へだつつつななな」」」ととと聞聞きこえええ給給たまへへえどどど、、、萬萬よろずののの事事ことうきうきうき身身みなりなりなりけりけりけりととと物物もののみのみのみつゝましくつゝましくつつましくててて、、、まだまだまだ對對たい面面めんしししててて物物ものなどなどなど聞聞きこえええ給給たまははわずずず。。。このこのこの君君きみはははけざやかけざやかけざやかなるなるなる方方かたににに今今いま少少すこしししこめきこめきこめき、、、けけけ高高だかくくくおはするおはするおわするものものものからからから、、、なつかしうなつかしうなつかしゅうにほひにほひにおいあるあるある心心こころざまざまざまぞぞぞ劣劣おとりりり給給たまへへえりりりけるけるけるととと、、、事事ことにににふれふれふれててておぼゆおぼゆおぼゆ。。。雪雪ゆきのののかきかきかきくらしくらしくらし降降ふるるる日日ひ、、、ひねもすひねもすひねもすにににながめながめながめくらしくらしくらしててて、、、世世よののの人人ひとのののすさまじきすさまじきすさまじきことことことにににいふいふいうなるなるなる、、、しはすしはすしわすののの月月つき夜夜よののの曇曇くもりりりなくなくなくさしさしさしいでいでいでたるたるたるををを、、、すだれすだれすだれ卷卷まきききあげあげあげててて見見み給給たまへへえばばば、、、向向むかひひいののの寺寺てらののの鐘鐘かねののの聲聲こえ、、、枕枕まくらをををそばだてそばだてそばだてゝゝて、、、今日今日きょうももも暮暮くれれれぬぬぬとととかすかかすかかすかなるなるなるををを聞聞ききききててて、、、「「「おくれおくれおくれじじじととと空空そらゆくゆくゆく月月つきをををしたふしたふしたうかなかなかなつひつひついにににすむすむすむべきべきべきこのこのこの世世よならならならねねねばばば」」」。。。
- 2風風かぜのののいといといとはげしけれはげしけれはげしければばば蔀蔀しとみおろさおろさおろさせせせ給給たまふふうににに、、、四四よ方方もののの山山やまののの鏡鏡かがみととと見見みゆるゆるゆる汀汀みぎわののの氷氷こおり、、、月月つきかげかげかげにににいといといとおもしろしおもしろしおもしろし。。。京京きょうののの家家いえのののかぎりかぎりかぎりなくなくなくとみとみとみがくがくがくももも、、、えええかうかうこうはははあらあらあらぬぬぬはははやややとととおぼゆおぼゆおぼゆ。。。僅僅わずかにににいきいきいき出出いでででゝゝてものしものしものし給給たまははわましかましかましかばばば諸諸もろ共共ともににに聞聞きこえええましましましととと思思おもひひいつゞくるつゞくるつづくるぞぞぞ、、、胸胸むねよりよりよりあまるあまるあまる心心こころちちちするするする。。。「「「戀戀こひひいわびわびわびてててきぬるきぬるきぬるくすりくすりくすりのののゆかしきゆかしきゆかしきににに雪雪ゆきののの山山やまにににややや跡跡あとをををけなけなけなましましまし」」」。。。なかばなかばなかばなるなるなる偈偈げ敎敎おしへへへむむん鬼鬼おにもももがながながな、、、ことことことつけつけつけててて身身みもももなげなげなげむむんとととおぼすおぼすおぼすぞぞぞ心心こころぎたなきぎたなきぎたなきひじりひじりひじり心心こころなりなりなりけるけるける。。。
現代語訳
女房たちはのぞきながら拝見して、「言うかいもない大君のことはそれとして、この殿がこうして見慣れ申し上げていらっしゃったのに、今はとよそにお思い申し上げることになるのが、惜しく残念です。思いのほかのご宿縁でいらっしゃったことよ。これほど深いお心のほどに、お二方ともお背きになったことよ」と泣き合っている。薫は中の君に「この御方には、昔の大君の形見として、今は何事も申し上げ、承りたいと存じます。疎遠にお隔てなさるな」と申し上げなさるが、中の君は、万事つらい身だったのだと、ただ気が引けて、まだ対面してお話などを申し上げなさらない。この中の君は、はっきりしている方面では大君より少し幼く、気高くいらっしゃるものの、親しみやすく匂やかな心ざまは劣っていらっしゃったのだと、何かにつけて思われる。雪のかき曇って降る日、一日中物思いにふけって暮らして、世の人が興ざめなものと言うという、十二月の月夜が曇りなく差し出たのを、簾を巻き上げてご覧になると、向かいの寺の鐘の声が、枕をそばだてて、今日も暮れたとかすかに聞こえるのを聞いて、「後れまいと空を行く月を慕うことだ、ついに住み果てられるこの世ではないのだから」。
風がたいそう激しいので、蔀を下ろさせなさると、四方の山を映す鏡と見える汀の氷が、月光にたいそう趣深い。京の家がこの上なく磨き立てても、とてもこうはいかないものだと思われる。わずかにでも生き返っていらっしゃったならば、ご一緒に語り合えただろうにと思い続けるのが、胸からあふれる心地がする。「恋い焦がれて求めて来た薬が欲しいので、雪の山に跡を消してしまおうか」。半偈を教えてくれる鬼でもいればよい、それにかこつけて身も投げようとお思いになるのは、不純な聖心であったよ。
意訳
女房たちは、大君も中の君も薫の深い心に背いたと嘆く。薫は中の君に、大君の形見として親しくしたいと言うが、中の君は対面しない。十二月の月夜、薫は鐘の声を聞きながら、月を追ってこの世を去りたいと詠む。凍った宇治川の汀が月光に輝く景色を、大君と共に見たかったと思い、雪山に身を投げたいと願う。
語釈・文法注
文法
- 「しはすの月夜」(世の人のすさまじきことにいふなる、しはすの月夜)
- 十二月の月夜は「すさまじきもの」(興ざめなもの)とされた。
- 「こめき」(けざやかなる方に今少しこめき)
- 児めき。子どもっぽい。
- 「なかばなる偈敎へむ鬼」(なかばなる偈敎へむ鬼もがな)
- 雪山童子の故事。釈迦の前世の雪山童子が、鬼から偈の後半を聞くために身を投げた。
解説
薫は中の君を大君と比べ、親しみやすさでは劣ると思う。中の君を大君の形見として見ようとしながら、比べずにはいられない。薫の心は、なお大君にとらわれている。
凍った宇治川に映る月の美しさは、京の邸宅にもない。大君と共に見たかった景色を一人で眺める薫の孤独が深い。雪山童子の故事を引いて身を投げたいと思う薫を、語り手は「心ぎたなきひじり心」と評する。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、986–987頁(コマ204)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日