源氏物語 第47帖 総角(52)
中の君の悲しみ
忌みに籠る人が多くて、心細さは少し紛れそうだが、中の君は、人がどう見て思っているだろうと恥ずかしい身のつらさを思い沈んで、この人も亡くなってしまいそうに見える。匂宮からもお見舞いがたいそう頻繁に来る。大君が思いがけずつらいと思っていた様子も直らないまま亡くなってしまったのを思うと、薫にとって匂宮はたいそう嫌な人のゆかりである。中納言(薫)は、こうも世の中がつらく思われる機会に出家の本意を遂げようと思うが、三条の宮(母宮)がどうお思いになるかを憚り、この中の君のことの心苦しさとに思い乱れて、大君がおっしゃったように、中の君を形見としてでも見るべきだったのに、心の底では大君が身を分けたとおっしゃっても、心が移るとは思えなかったが、こう物思いをさせ申し上げるよりは、ただ中の君と語らって、尽きない慰めとしてでも通えばよかったなどと思う。かりそめにも京へ出ず、すっかり慰めようもなく籠っているのを、世の人もおろそかならず思っていたのだと見聞きして、帝をはじめとして見舞いが多い。はかなく日数が過ぎていく。七日ごとの法事もたいそう尊くさせて、おろそかならず供養するが、正式な妻ではないので限りがあって、薫の衣の色は変わらないのを、大君に心を寄せていた女房たちがたいそう黒い喪服に着替えているのをほの見ても、薫は、紅に落ちる涙もかいがないのは、形見の色を染めないからだと詠む。許し色の衣の氷が解けたように見えるのを、ますます涙で濡らし添えながら物思いにふける様子は、たいそう優美で清らかである。
- 1御御おんいみいみいみににに籠籠こもれれれるるる人人ひとかずかずかず多多おおくくくててて、、、心心こころぼそさぼそさぼそさははは少少すこししし紛紛まぎれれれぬぬぬべけれべけれべけれどどど、、、中中なかののの君君きみははは人人ひとののの見見み思思おもふふうらむらむらんことことことももも恥恥はずかしきしきしき身身みののの心心こころうさうさうさををを思思おもひひい沈沈しずみみみ給給たまひひいててて、、、又又またなきなきなき人人ひとににに見見みえええ給給たまふふう。。。宮宮みやよりよりよりももも御御おんとぶらひとぶらひとぶらいいといといと繁繁しげくくく奉奉たてまつれれれ給給たまふふう。。。思思おもははわずずずにににつらしつらしつらしととと思思おもひひい聞聞きこえええ給給たまへへえりりりしししけしきけしきけしきもももおぼしおぼしおぼしなほらなほらなおらででで止止やみみみぬるぬるぬるをををおぼすおぼすおぼすににに、、、いといといと憂憂うききき人人ひとののの御御おんゆかりゆかりゆかりなりなりなり。。。中中ちゅう納納な言言ごん、、、かくかくかく世世よのののいといといと心心こころ憂憂うくくく覺覺おぼゆるゆるゆるついでついでついでにににほいほいほい遂遂とげげげむむんとととおぼさおぼさおぼさるれるれるれどどど、、、三三さん條條じょうののの宮宮みやのののおぼさおぼさおぼさむむん事事ことにににはゞかりはゞかりはばかり、、、このこのこの君君きみののの御御おん事事ことののの心苦心苦こころぐるしさしさしさとととににに思思おもひひいみだれみだれみだれててて、、、かのかのかののたまひのたまひのたまいしししやうやうようにてにてにて、、、かたみかたみかたみにににももも見見みるるるべかりべかりべかりけるけるけるものものものををを、、、したしたしたののの心心こころははは身身みををを分分わけけけ給給たまへへえりりりともともとも、、、うつろふうつろふうつろうべくべくべくはははおぼえおぼえおぼえざりざりざりしししををを、、、かうかうこう物物もの思思おもははわせせせ奉奉たてまつるるるよりよりよりははは唯唯ただうちうちうち語語かたらひらひらいててて、、、盡盡つきききせせせぬぬぬなぐさめなぐさめなぐさめにににももも見見み奉奉たてまつりりり通通かよははわましましましものものものをををなどなどなどおぼすおぼすおぼす。。。かりそめかりそめかりそめににに京京きょうにににももも出出いででで給給たまははわずずず、、、かきかきかき絕絕たえええ慰慰なぐさむむむ方方かたなくなくなくててて籠籠こもりりりおはするおはするおわするををを、、、世世よののの人人ひともももおろかおろかおろかならならならずずず思思おもひひい給給たまへへえるるることことことゝゝと見見み聞聞ききききててて、、、うちうちうちよりよりよりはじめはじめはじめ奉奉たてまつりりりててて、、、御御おんとぶらひとぶらひとぶらい多多おおかりかりかり。。。はかなくはかなくはかなくててて日日ひごろごろごろははは過過すぎぎぎ行行ゆくくく。。。七七なぬ日日か々々々々なぬかののの事事ことどもどもどもいといといとたふとくたふとくとうとくせせせさせさせさせ給給たまひひいつゝつゝつつ、、、おろかおろかおろかならならならずずずけうじけうじきょうじ給給たまへへえどどど、、、かぎりかぎりかぎりあれあれあればばば、、、御御おんぞぞぞののの色色いろのののかはらかはらかわらぬぬぬををを、、、かのかのかの御御おん方方かたののの心心こころよせよせよせわきわきわきたりたりたりししし人々人々ひとびとののの、、、いといといとくろうくろうくろう着着きかへかへかえたるたるたるをををほのほのほの見見み給給たまふふうももも、、、「「「くれなゐくれなゐくれないにににおつるおつるおつる淚淚なみだもももかひかひかいなきなきなきはははかたみかたみかたみののの色色いろをををそめそめそめぬぬぬなりなりなりけりけりけり」」」。。。ゆるしゆるしゆるし色色いろのののこほりこほりこおりとけとけとけぬるぬるぬるととと見見みゆるゆるゆるををを、、、いとゞいとゞいとどぬらしぬらしぬらしそへそへそえつゝつゝつつながめながめながめ給給たまふふうさまさまさま、、、いといといとなまめかしうなまめかしうなまめかしゅう淸淸きよげげげなりなりなり。。。
現代語訳
忌みに籠っている人数が多くて、心細さは少し紛れそうだけれど、中の君は、人がどう見て思っているだろうかと恥ずかしい身のつらさを思い沈みなさって、この方もまた亡くなってしまいそうにお見えになる。匂宮からもお見舞いをたいそう頻繁に差し上げなさる。大君が思いがけずつらいとお思い申し上げていらっしゃった様子も、お直りにならないまま亡くなってしまったのをお思いになると、たいそう嫌な人のゆかりである。中納言は、こうも世の中がたいそうつらく思われる機会に、出家の本意を遂げようとお思いになるが、三条の宮がどうお思いになるかということを憚り、この中の君のことの心苦しさとに思い乱れて、大君がおっしゃったように、中の君を形見としてでも見るべきだったのに、心の底では、大君が身を分けたとおっしゃっても、心が移るとは思われなかったが、このように物思いをおさせ申し上げるよりは、ただ中の君と語らって、尽きない慰めとしてでも、お通い申し上げればよかったのになどとお思いになる。かりそめにも京へお出にならず、すっかり慰めようもなく籠っていらっしゃるのを、世の人も、おろそかならずお思いになっていたのだと見聞きして、帝をはじめ申し上げて、お見舞いが多い。はかなく日数は過ぎていく。七日ごとの法事どもも、たいそう尊くおさせになりながら、おろそかならずご供養なさるが、限りがあるので、お召し物の色が変わらないのを、あの大君に格別に心を寄せていた女房たちが、たいそう黒く着替えているのをほのかにご覧になるにつけても、「紅に落ちる涙もかいがないのは、形見の色を染めないからだったのだ」。許し色の衣の氷が解けたように見えるのを、ますます涙で濡らし添えながら物思いにふけっていらっしゃる様子は、たいそう優美で清らかである。
意訳
大君の死後、中の君も悲しみに沈み、衰弱していく。薫は出家を考えるが、母宮と中の君を思って思いとどまる。大君の言葉に従って中の君と結ばれていればよかったと悔やむ。薫は京に戻らず宇治に籠り、七日ごとの法事を営む。正式な夫ではない薫は喪服を着られず、涙で衣を濡らす。
語釈・文法注
文法
- 「又なき人に見え給ふ」(又なき人に見え給ふ)
- もう一人亡くなる人のように見える。中の君も姉の後を追いそうな様子。
- 「かぎりあれば、御ぞの色のかはらぬを」(かぎりあれば、御ぞの色のかはらぬを)
- 夫婦ではないので、薫は正式な喪服を着ることができない。
- 「ゆるし色」(ゆるし色のこほりとけぬると見ゆるを)
- 許し色。誰でも着られる薄紅色。涙で濡れて氷が解けたように見える。
解説
薫は大君の夫ではないので、喪服を着ることができない。女房たちが黒い喪服を着ているのを見て、薫は自分と大君の関係が形にならなかったことを痛感する。紅の涙が形見の色を染めないという歌に、薫の深い悲しみが込められている。
薫は、大君の言葉に従って中の君と結ばれていればよかったと悔やむ。しかし薫の心は大君にあり、中の君への思いはなお「形見」としてのものでしかない。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、984–987頁(コマ203–204)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日