源氏物語 第47帖 総角(50)
大君の最期の言葉
腕などもたいそう細くなって影のように弱々しいものの、肌の色合いは変わらず白く美しく、なよなよとして、白い柔らかな衣を何枚か着て、衾を押しやって、中に身のない雛人形を寝かせたような心地がして、髪はそれほど多くもない程度にうち広げられ、枕から落ちたあたりがつやつやとすばらしく美しいのも、どうなってしまわれるのか、生きていられそうにもないと見るのが、類なく惜しい。長い間病んで身づくろいもしていない様子が、打ち解けず気後れするほどで、この上なく身なりを整えて振る舞う人よりもずっとまさっていて、細かに見るにつれて、魂も鎮まりようがない。薫は「ついに私を捨てて逝かれたら、この世にしばらくも留まることはできません。命にもし限りがあって留まるとしても、深い山にさすらうつもりです。ただたいそう心苦しくて、残される方(中の君)のことを思い申し上げるのです」と、返事をさせようと中の君のことを持ち出すと、大君は顔を隠していた袖を少し直して、「こうはかない身でしたのに、思いやりのない者とお思いになっていたのもかいがないので、この残る人を私と同じことと思ってくださいとほのめかし申し上げたのに、違えなさらなかったら安心でしたのにと、このことだけが恨めしい点で、この世に執着が残りそうに思われます」と言うので、薫は「こうもひどく物思いをする身だったのでしょうか。どうしても他の方にこの世を思いかかずらう気持ちがありませんでしたので、お心に従い申し上げなかったのです。今になって悔しく心苦しくも思われます。けれども不安にお思いなさいますな」などとなだめて、大君がたいそう苦しそうにするので、修法の阿闍梨たちを呼び入れさせ、さまざまに効験のある限りの僧に加持をさせる。薫自身も仏を念じることこの上ない。世の中を殊更に厭い離れているわけではないが、出家を勧める仏などがこうもひどい思いをおさせになるのだろうか。
- 1かひなかひなかいななどなどなどもももいといといと細細ほそうううなりなりなりてててかげかげかげのののやうやうようににに弱弱よわげげげなるなるなるものものものからからから、、、色色いろあひあひあい變變かわらららずずず白白しろううう美美うつくしげくしげくしげににになよなよなよなよなよなよとととしししててて、、、白白しろききき御御おんぞぞぞどもどもどものののなよびかなよびかなよびかなるなるなるににに、、、ふすまふすまふすまををを押押おしししやりやりやりててて、、、中中なかににに身身みもももなきなきなきひゝなひゝなひいなをををふせふせふせたらたらたらむむん心地心地ここちしししててて、、、御御おんぐしぐしぐしはははいといといとこちたうこちたうこちとうもももあらあらあらぬぬぬほどほどほどにににうちうちうちやらやらやられれれたるたるたる、、、枕枕まくらよりよりより落落おちちちたるたるたるきはきはきわのののつやつやつやつやつやつやとととめでたうめでたうめでとうをかしげをかしげおかしげなるなるなるももも、、、いかにいかにいかになりなりなり給給たまひひいなななむむんとととするするするぞぞぞととと、、、あるあるあるべきべきべきものものものにににもももあらあらあらざざざめりめりめりととと見見みるるるががが惜惜おしきしきしき事事ことたぐひたぐひたぐいなしなしなし。。。こゝらこゝらここら久久ひさしくしくしくなやみなやみなやみてててひきひきひきもももつくろはつくろはつくろわぬぬぬけはひけはひけはいののの、、、心心こころとけとけとけずずず恥恥はずかしげしげしげににに、、、限限かぎりなうなうのうもてもてもてなしなしなしさまよふさまよふさまよう人人ひとにににもももおほうおほうおおうまさりまさりまさりてててこまかこまかこまかににに見見みるるるまゝまゝままににに、、、たましひたましひたましいもももしづまらしづまらしずまらむむん方方かたなしなしなし。。。「「「つひつひついにににうちうちうち捨捨すててて給給たまひひいてててははは世世よにににしばししばししばしもももとまるとまるとまるべきべきべきにににもももあらあらあらずずず。。。命命いのち若若もしししかぎりかぎりかぎりありありありてててとまるとまるとまるべうべうびょうともともとも深深ふかききき山山やまにににさすらへさすらへさすらえなななむむんとととすすす。。。唯唯ただいといといと心苦心苦こころぐるしうしうしゅうててて、、、とまりとまりとまり給給たまははわむむん御御おん事事ことをををなむなむなん思思おもひひい聞聞きこゆるゆるゆる」」」ととと、、、いらへいらへいらえさせさせさせ奉奉たてまつらららむむんとてとてとてかのかのかの御御おん事事ことをををかけかけかけ給給たまへへえばばば、、、
- 2顏顏かおかくしかくしかくし給給たまふふう御御おん袖袖そでををを少少すこししし引引ひきききなほしなほしなおしててて「「「かくかくかくはかなかりはかなかりはかなかりけるけるけるものものものををを、、、思思おもひひいぐまぐまぐまなきなきなきやうやうようにににおぼさおぼさおぼされれれたりたりたりつるつるつるもももかひかひかいなけれなけれなければばば、、、このこのこのとまりとまりとまり給給たまははわむむん人人ひとををを、、、同同おなじじじ事事ことととと思思おもひひい聞聞きこえええ給給たまへへえとととほのめかしほのめかしほのめかし聞聞きこえええしししににに、、、違違たがへへえ給給たまははわざらざらざらましかましかましかばばば、、、うしろうしろうしろ安安やすからからからましましましとととこれこれこれのみのみのみなむなむなんうらめしきうらめしきうらめしきふしふしふしにてにてにて、、、とまりとまりとまりぬぬぬべくべくべくおぼえおぼえおぼえ侍侍はべるるる」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、「「「かくかくかくいみじういみじういみじゅう物物もの思思おもふふうべきべきべき身身みにににやややありありありけむけむけん。。。いかにいかにいかにもももいかにいかにいかにもももことことことざまざまざまににに、、、このこのこの世世よををを思思おもひひいかゝづらふかゝづらふかかずらう方方かたののの侍侍はべらららざりざりざりつれつれつればばば、、、御御おんおもむけおもむけおもむけににに隨隨したがひひい聞聞きこえええずずずなりなりなりにににししし。。。今今いまなむなむなんくやしうくやしうくやしゅう心苦心苦こころぐるしうしうしゅうもももおぼゆるおぼゆるおぼゆる。。。されされされどもどもども後後うしろめたくめたくめたくななな思思おもひひい聞聞きこえええ給給たまひひいそそそ」」」などなどなどこしらへこしらへこしらえててて、、、いといといと苦苦くるしげしげしげにににしししたまへたまへたまえばばば、、、修修す法法ほうののの阿阿あ闍闍ざ梨梨りどもどもどもめしめしめし入入いれれれさせさせさせ、、、さまざまさまざまさまざまにににげんげんげんあるあるあるかぎりかぎりかぎりしししててて加加か持持じ參參まいらせらせらせ給給たまふふう。。。我我わももも佛佛ほとけををを念念ねんぜぜぜさせさせさせ給給たまふふうことことことかぎりかぎりかぎりなしなしなし。。。世世よののの中中なかををを殊殊こと更更さらににに厭厭いとひひい離離はなれれれねねねどどど、、、すゝめすゝめすすめ給給たまふふう佛佛ほとけなどなどなどのののいといといとかくかくかくいみじきいみじきいみじきものものものははは思思おもははわせせせ給給たまふふうにににやややあらあらあらむむん。。。
現代語訳
腕などもたいそう細くなって、影のように弱々しいものの、肌の色合いは変わらず白く美しく、なよなよとして、白いお召し物の柔らかなのを何枚か着て、衾を押しやって、中に身のない雛人形を寝かせたような心地がして、御髪はそれほど多すぎもしない程度にうち広げられているのが、枕から落ちたあたりがつやつやとすばらしく美しいのも、どうなってしまわれるのだろうかと、生きていられそうにもないと見るのが、類なく惜しい。長い間病んで身づくろいもしていない様子が、打ち解けず気後れするほどで、この上なく身なりを整えて振る舞う人よりも、ずっとまさっていて、細かに見るにつれて、魂も鎮まりようがない。薫は「ついに私をお捨てになったら、この世にしばらくも留まることはできません。命にもし限りがあって留まるとしても、深い山にさすらうつもりです。ただたいそう心苦しくて、残られる方のことをお思い申し上げるのです」と、返事をおさせ申し上げようとして、あの中の君のことを持ち出しなさると、
大君は顔を隠していらっしゃるお袖を少し引き直して、「このようにはかない身でしたのに、思いやりのない者のようにお思いになっていたのも、かいがないので、この残られる人を、私と同じことと思ってくださいと、ほのめかし申し上げましたのに、それを違えなさらなかったならば、安心だっただろうにと、このことだけが恨めしい点で、この世に心が留まってしまいそうに思われます」とおっしゃるので、薫は「このようにひどく物思いをすることになる身だったのでしょうか。どうしても、他の方にこの世を思いかかずらうことがございませんでしたので、お心に従い申し上げなかったのです。今になって、悔しく心苦しくも思われます。けれども、不安にお思い申し上げなさいますな」などとなだめて、大君がたいそう苦しそうにしていらっしゃるので、修法の阿闍梨たちを呼び入れさせ、さまざまに効験のある限りの僧に、加持をして差し上げさせなさる。薫ご自身も、仏を念じなさることこの上ない。世の中を殊更に厭い離れているわけではないが、出家をお勧めになる仏などが、このようにひどい思いをおさせになるのだろうか。
意訳
大君は痩せ細りながらも白く美しく、雛人形のように横たわる。薫は、大君に先立たれたら山にさすらうと言い、中の君のことを持ち出す。大君は、中の君を自分と同じに思ってほしいと願ったのに、薫がそれに従わなかったことだけが心残りだと答える。薫は、他の人に心を移すことはできなかったと言い、中の君のことは安心するよう約束する。
語釈・文法注
文法
- 「身もなきひゝな」(中に身もなきひゝなをふせたらむ心地して)
- 中身のない雛人形。痩せ細った大君の体のたとえ。
- 「とまりぬべくおぼえ侍る」(これのみなむうらめしきふしにて、とまりぬべくおぼえ侍る)
- この世に心が留まってしまいそう。往生の妨げとなる執着。
- 「すゝめ給ふ佛」(すゝめ給ふ佛などのいとかくいみじきものは思はせ給ふにやあらむ)
- 仏が道心を起こさせるために、つらい思いをさせるのだろうか。
解説
大君の最期の言葉は、妹のことである。中の君を薫に託したかったという願いが、大君の唯一の心残りとなる。大君は最後まで自分のことではなく妹のことを思っていた。
痩せ細った大君の姿は、雛人形にたとえられる。生気を失いながらも、白い肌とつややかな髪の美しさは変わらない。死に近づく人の、この世ならぬ美しさが描かれる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、982–985頁(コマ202–203)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日