源氏物語 第47帖 総角(49)
出家を願う大君
そこまで賢しいことは口に出せず、大君は中の君に「気分がますます頼りなく思われるので、受戒をするとたいそう効験があって命が延びると聞きました。そのように阿闍梨におっしゃってください」と言うと、女房たちは皆泣き騒いで、とんでもないことだ、これほど思い惑っていらっしゃる中納言殿もどんなにがっかりなさるだろうと不似合いなことに思って、頼りの薫にも取り次がないので、大君は残念に思う。薫がこうして籠っているので、聞きつけてはわざわざ見舞いに来る人もいる。おろそかならず思っていらっしゃることと見て、薫の家人や親しい家司などは、それぞれあらゆる祈祷をさせて嘆いている。豊明の節会は今日だなあと薫は京を思いやる。風がひどく吹いて、雪の降る様子が慌ただしく荒れ狂う。都ではこうではあるまいと、自分から求めたことながら心細くて、疎遠なまま終わってしまうのかと思う宿縁はつらいが、恨むこともできない。親しみやすく可憐なお扱いを、ただしばらくでも元気になさって、思っていたことを語り合いたいと思い続けて物思いにふける。光もなく日が暮れてしまった。薫は、かき曇って日の光も見えない奥山に、心を暗くする頃だと詠む。女房たちはただ薫がこうしていらっしゃるのを頼みにしている。いつもの近い方に座っていると、御几帳などを風があらわに吹きなびかせるので、中の君は奥に入る。見苦しげな女房たちも恥ずかしがって隠れた間に、薫はたいそう近く寄って、「どんなご気分ですか。思い残すことなくお祈り申し上げているかいもなく、お声さえ聞けなくなってしまったので、ひどくつらい。私を後に残されたらひどくつらいでしょう」と泣きながら言う。大君は意識もはっきりしなくなった様子だが、顔はとてもよく隠している。「よい合間があればお話ししたいこともありますが、ただ消え入るようにばかりなっていくのが残念です」とたいそう哀れと思っている様子なので、薫はいよいよ涙をこらえきれず、不吉にこう心細げに思っているとは見せまいと慎むが、声も惜しまず泣いてしまう。どんな宿縁で、この上なく思い申し上げながらつらいことが多くて別れ申し上げることになるのか、少しでも嫌な様子を見せてくれたら思いを冷ます節にもしようと見守るが、ますます哀れげに惜しく美しいご様子ばかりが見える。
- 1さささまでまでまでさかしきさかしきさかしき事事ことはははえええうちうちうち出出いででで給給たまははわででで中中なかののの君君きみににに「「「心地心地ここちのののいよいよいよいよいよいよたのもしげたのもしげたのもしげなくなくなくおぼゆるおぼゆるおぼゆるををを、、、いむいむいむことことことなむなむなんいといといとしるししるししるしありありありててて、、、命命いのちのぶるのぶるのぶる事事ことととと聞聞ききききしししををを、、、さやうさやうさようににに阿阿あ闍闍ざ梨梨りにににのたまへのたまへのたまえ」」」ととと聞聞きこえええ給給たまへへえばばば、、、皆皆みな泣泣なきききさわぎさわぎさわぎててて、、、いといといとあるあるあるまじきまじきまじき御御おんことことことなりなりなり、、、かくかくかくばかりばかりばかりおぼしおぼしおぼし惑惑まどふふうめるめるめる中中ちゅう納納な言言ごん殿殿どのもももいかゞいかゞいかがあへなきあへなきあえなきやうやうようににに思思おもひひい聞聞きこえええ給給たまははわむむんととと似似にげげげなきなきなき事事ことににに思思おもひひいててて、、、たのもしたのもしたのもし人人びとにににももも申申もうしししつがつがつがねねねばばば、、、口口くち惜惜おしうしうしゅうおぼすおぼすおぼす。。。かくかくかく籠籠こもりりり居居い給給たまへへえれれればばば、、、聞聞ききききつぎつぎつぎつゝつゝつつ御御おんとぶらひとぶらひとぶらいにににふりはへふりはへふりわえ物物ものししし給給たまふふう人人ひともももありありあり。。。おろかおろかおろかにににおぼさおぼさおぼされれれぬぬぬことことことゝゝと見見み奉奉たてまつれれればばば、、、殿殿との人人びとしたしきしたしきしたしきけいしけいしけいしなどなどなどははは、、、おのおのおのおのおのおのよろづよろづよろずののの御御おんいのりいのりいのりをををせせせさせさせさせ歎歎なげききききこゆきこゆきこゆ。。。とよとよとよのののあかりあかりあかりははは今日今日きょうぞぞぞかしかしかしととと京京きょう思思おもひひいやりやりやり給給たまふふう。。。風風かぜいたういたういとう吹吹ふきききててて雪雪ゆきののの降降ふるるるさまさまさまあわたゞしうあわたゞしうあわただしゅう荒荒あれれれ惑惑まどふふう。。。みやこみやこみやこにににはははいといといとかうかうこうしもしもしもあらあらあらじじじかしかしかしととと、、、人人ひとやりやりやりならならならずずず心心こころぼそうぼそうぼそうててて、、、疎疎うとくくくててて止止やみみみぬぬぬべきべきべきにににやややととと思思おもふふうちぎりちぎりちぎりはははつらけれつらけれつらけれどどど、、、恨恨うらむむむべうべうびょうもももあらあらあらずずず。。。なつかしうなつかしうなつかしゅうらうたげらうたげろうたげなるなるなる御御おんもてもてもてなしなしなしををを、、、唯唯ただしばししばししばしにてにてにてももも、、、例例れいににになしなしなしててて思思おもひひいつるつるつる事事ことどもどもども語語かたらはらはらわゞゞばやややととと思思おもひひい續續つづけけけてててながめながめながめ給給たまふふう。。。光光ひかりもももなくなくなくててて暮暮くれれれはてはてはてぬぬぬ。。。「「「かきかきかきくもりくもりくもり日日ひかげかげかげももも見見みえええぬぬぬ奥奥おく山山やまににに心心こころをををくらすくらすくらすころころころにににもももあるあるあるかなかなかな」」」。。。
- 2たゞたゞただかくかくかくててておはするおはするおわするをををたのみたのみたのみににに皆皆みな思思おもひひい聞聞きこえええたりたりたり。。。例例れいののの近近ちかききき方方かたににに居居い給給たまへへえるるるににに、、、御御おん几几き帳帳ちょうなどなどなどををを風風かぜのののあらはあらはあらわににに吹吹ふきききなせなせなせばばば、、、中中なかののの君君きみ奥奥おくににに入入いりりり給給たまふふう。。。見見み苦苦ぐるしげしげしげなるなるなる人々人々ひとびとももも、、、かゞやきかゞやきかがやきかくれかくれかくれぬるぬるぬる程程ほどににに、、、いといといと近近ちこうううよりよりよりててて、、、「「「いかゞいかゞいかがおぼさおぼさおぼさるゝるゝるる心地心地ここちににに思思おもひひい殘殘のこすすすことことことなくなくなく念念ねんじじじ聞聞きこゆるゆるゆるかひかひかいなくなくなく、、、御御おん聲聲こえをををだにだにだに聞聞きかかかずずずなりなりなりにににたれたれたればばばいといといとこそこそこそ侘侘わびしけれしけれしけれ。。。おくらかしおくらかしおくらかし給給たまははわゞゞばいみじういみじういみじゅうつらからつらからつらからむむん」」」とととなくなくなくなくなくなく聞聞きこえええ給給たまふふう。。。物物ものおぼえおぼえおぼえずずずなりなりなりにににたるたるたるさまさまさまなれなれなれどどど、、、顏顏かおをををばばばいといといとよくよくよくかくしかくしかくし給給たまへへえりりり。。。「「「よろしきよろしきよろしきひまひまひまあらあらあらばばば、、、聞聞きこえええまほしきまほしきまほしき事事ことももも侍侍はべれれれどどど、、、たゞたゞただ消消きえええ入入いるるるやうやうようにににのみのみのみなりなりなりゆくゆくゆくははは口口くち惜惜おしきしきしきわざわざわざにににこそこそこそ」」」ととといといといとあはれあはれあわれととと思思おもひひい給給たまへへえるるるけしきけしきけしきなるなるなるににに、、、いよいよいよいよいよいよせきせきせきとゞめとゞめとどめ難難がたくくくててて、、、ゆゝしうゆゝしうゆゆしゅうかくかくかく心心こころぼそげぼそげぼそげににに思思おもふふうとととははは見見みえええじじじとととつゝみつゝみつつみ給給たまへへえどどど、、、聲聲こえもももをしまをしまおしまれれれずずず。。。いかなるいかなるいかなるちぎりちぎりちぎりにてにてにて限限かぎりなくなくなく思思おもひひい聞聞きこえええながらながらながらつらきつらきつらき事事こと多多おおくくくててて別別わかれれれ奉奉たてまつるるるべきべきべきにににかかか、、、少少すこししし憂憂うきききさまさまさまをををだにだにだに見見みせせせ給給たまははわゞゞばなむなむなん思思おもひひいさますさますさますふしふしふしにににもももせせせむむんとととまもれまもれまもれどどど、、、いよいよいよいよいよいよあはれげあはれげあわれげにににあたらしくあたらしくあたらしくをかしきをかしきおかしき御御おん有有あり樣樣さまのみのみのみ見見みゆゆゆ。。。
現代語訳
そこまで賢しいことは口にお出しになれず、大君は中の君に「気分がますます頼りなく思われますので、受戒をすると、たいそう効験があって命が延びることと聞きましたので、そのように阿闍梨におっしゃってください」と申し上げなさると、女房たちは皆泣き騒いで、たいそうとんでもないことだ、これほど思い惑っていらっしゃる中納言殿も、どんなにがっかりしたようにお思い申し上げなさるだろうと、不似合いなことに思って、頼りの薫にも取り次ぎ申し上げないので、大君は残念にお思いになる。薫がこうして籠っていらっしゃるので、聞きつけてはわざわざお見舞いにいらっしゃる人もいる。おろそかならずお思いになっていることと拝見するので、薫の家人や親しい家司などは、それぞれあらゆるご祈祷をさせて嘆き申し上げる。豊明の節会は今日であるよと、薫は京を思いやりなさる。風がひどく吹いて、雪の降る様子が慌ただしく荒れ狂う。都ではこうまでではあるまいと、自分から求めたことながら心細くて、疎遠なまま終わってしまうのかと思う宿縁はつらいけれど、恨むこともできない。親しみやすく可憐なお扱いを、ただしばらくでも、元気になさって、思っていたことどもを語り合いたいものだと思い続けて、物思いにふけっていらっしゃる。光もなく日が暮れ果てた。「かき曇って日の光も見えない奥山に、心を暗くする頃でもあるよ」。
ただ薫がこうしていらっしゃるのを頼みに、皆思い申し上げていた。薫がいつもの近い方に座っていらっしゃると、御几帳などを風があらわに吹きなびかせるので、中の君は奥にお入りになる。見苦しげな女房たちも、恥ずかしがって隠れた間に、薫はたいそう近く寄って、「どのようなご気分ですか。思い残すことなくお祈り申し上げているかいもなく、お声さえ聞けなくなってしまったので、たいそうつらいことです。私を後にお残しになったら、ひどくつらいでしょう」と、泣きながら申し上げなさる。大君は意識もはっきりしなくなった様子だが、顔はとてもよく隠していらっしゃる。「よい合間があったら、申し上げたいこともございますが、ただ消え入るようにばかりなっていくのは、残念なことです」と、たいそう哀れとお思いになっている様子なので、薫はいよいよ涙をこらえきれなくて、不吉に、このように心細げに思っているとは見せまいと慎みなさるが、声も惜しまず泣いてしまわれる。どのような宿縁で、この上なくお思い申し上げながら、つらいことが多くてお別れ申し上げることになるのか、少しでも嫌な様子だけでもお見せになるならば、思いを冷ます節にもしようと見守るが、ますます哀れげに惜しく美しいご様子ばかりが見える。
意訳
大君は受戒を望むが、女房たちは薫の悲しみを思って取り次がない。豊明の節会の日、宇治は雪が吹き荒れ、薫は京を思いながら大君の回復を祈る。薫は大君のそばに寄り、自分を残して逝かないでほしいと泣く。大君は、話したいことがあるのに消え入るようだと答える。薫は、大君に少しでも嫌なところがあれば思いを冷ませるのにと見守るが、大君はただ美しい。
語釈・文法注
文法
- 「いむこと」(いむことなむいとしるしありて)
- 忌むこと。受戒。病気平癒のために戒を受けること。出家の形を取る。
- 「とよのあかり」(とよのあかりは今日ぞかしと京思ひやり給ふ)
- 豊明の節会。新嘗祭の翌日に宮中で行われる宴。
- 「かゞやきかくれぬる」(かゞやきかくれぬる程に)
- 恥ずかしがって隠れる。
解説
大君は受戒を口実に出家しようとするが、女房たちに阻まれる。大君の最後の願いさえ、周囲の思惑によってかなえられない。
宮中の華やかな豊明の節会と、雪の吹き荒れる宇治の病床が対比される。薫は、大君に少しでも欠点を見つけて思いを冷ましたいと願うが、死に近づく大君はかえって美しさを増していく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、982–983頁(コマ202)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日