源氏物語 第47帖 総角(46)
病床の大君と薫
日が暮れたので、女房たちがいつものあちらへと申し上げて、湯漬けなどを差し上げようとするが、薫はせめて近くで拝見しようと、南の廂は僧の座なので、東面のもう少し近い方に屏風などを立てさせて入って座る。中の君は困ったことと思うが、女房たちは皆、お二人の仲はやはり離れていらっしゃらないのだと思って、疎遠に扱って隔てることもしない。初夜から始めて、法華経を絶え間なく読ませる。声の尊い僧ばかり十二人でたいそう尊い。灯火はこちらの南の間にともして内は暗いので、薫が几帳を引き上げて少し滑り入って見ると、老女房が二三人控えている。中の君はさっと隠れてしまったので、ひどく人が少なく心細そうに臥せっている大君に、薫は「どうしてお声だけでも聞かせてくださらないのですか」と言って、手を取って起こし申し上げると、大君は「心では分かっていながら、物を言うのがたいそう苦しくて。何日もお便りがなかったので、お会いできずに死んでしまうのかと残念に思っていました」と息の下で言う。こんなにお待ちいただくまで参らなかったことよと、薫はしゃくりあげて泣く。大君の頭などが少し熱くていらした。「何の罪によるご病気なのか。人の嘆きを負うとこうなるのだそうです」と耳に口を当てて多くのことを言うので、大君は煩わしくも恥ずかしくも思って顔を覆っている。ますますなよなよとか弱く臥せっているのを、亡くなってしまうのを見たらどんな心地がするだろうと、薫は胸もつぶれる思いがする。
- 1暮暮くれれれぬれぬれぬればばば、、、例例れいのののあなたあなたあなたにににととと聞聞きこえええててて、、、御御おん湯湯ゆづけづけずけなどなどなど參參まいらせらせらせむむんとととすれすれすれどどど、、、近近ちかくくくてててだにだにだに見見み奉奉たてまつらららむむんとてとてとて、、、南南みなみののの廂廂ひさしははは僧僧そうののの座座ざなれなれなればばば、、、東東ひんがしおもておもておもてののの今今いま少少すこしししけけけ近近じかききき方方かたににに屏屏びょう風風ぶなどなどなど立立たてててさせさせさせててて入入いりりり居居い給給たまふふう。。。中中なかののの君君きみ苦苦くるしししとととおぼしおぼしおぼしたれたれたれどどど、、、このこのこの御御おん中中なかををを猶猶なおもてもてもてはなれはなれはなれ給給たまははわぬぬぬなりなりなりけりけりけりととと皆皆みな思思おもひひいててて、、、疎疎うとくくくももももてもてもてなしなしなし隔隔へだててて奉奉たてまつらららずずず。。。そやそやそやよりよりよりはじめはじめはじめててて、、、法法ほ華華け經經きょうををを不不ふ斷斷だん讀讀よままませせせ給給たまふふう。。。聲聲こえたふときたふときとうときかぎりかぎりかぎり十十じゅう二二に人人にんしししててていといといとたふとしたふとしとうとし。。。火火ひはははこなたこなたこなたののの南南みなみのののまままにににともしともしともしててて內內うちはははくらきくらきくらきににに、、、几几き帳帳ちょうをををひきひきひきあげあげあげててて少少すこしししすべりすべりすべり入入いりりりててて見見み奉奉たてまつりりり給給たまへへえばばば、、、おいおいおい人人びとどもどもども二二ふた三三み人人りぞぞぞさぶらふさぶらふさぶらう。。。中中なかののの君君きみはははふとふとふと隱隱かくれれれ給給たまひひいぬれぬれぬればばば、、、いといといと人人ひとずくなずくなずくなににに心心こころぼそくぼそくぼそくてててふしふしふし給給たまへへえるるるををを、、、「「「などなどなどかかか御御おん聲聲こえをををだにだにだに聞聞きかかかせせせ給給たまははわぬぬぬ」」」とてとてとて、、、御御おん手手てをををとらへとらへとらえててて驚驚おどろかしかしかし聞聞きこえええ給給たまへへえばばば「「「心地心地ここちにににはははおぼえおぼえおぼえながらながらながら物物ものいふいふいうがががいといといと苦苦くるしくしくしくてててなむなむなん。。。日日ひごろごろごろ音音おとづれづれずれ給給たまははわざりざりざりつれつれつればばば、、、覺束覺束おぼつかなくなくなくててて過過すぎぎぎ侍侍はべりりりぬぬぬべきべきべきにににやややととと口口くち惜惜おしうしうしゅうこそこそこそ侍侍はべりりりつれつれつれ」」」ととと息息いきのののしたしたしたにににのたまふのたまふのたまう。。。かくかくかくまたまたまたれれれ奉奉たてまつりりりつるつるつる程程ほどまでまでまで、、、參參まいりりりこここざりざりざりけるけるけることことことゝゝとててて、、、さくりさくりさくりもももよゝよゝよよとととなきなきなき給給たまふふう。。。御御おんぐしぐしぐしなどなどなど少少すこしししあつくあつくあつくぞぞぞおはしおはしおわしけるけるける。。。「「「何何なにののの罪罪つみなるなるなる御御おん心心こころちちちにににかかか、、、人人ひとののの歎歎なげきききおふおふおうこそこそこそかくかくかくはははあああなれなれなれ」」」ととと御御おん耳耳みみにににさしさしさしあてあてあてゝゝて物物ものをををおほくおほくおおく聞聞きこえええ給給たまへへえばばば、、、うるさううるさううるそうももも恥恥はずかしうしうしゅうもももおぼえおぼえおぼえててて、、、顏顏かおをををふたぎふたぎふたぎ給給たまへへえりりり。。。いとゞいとゞいとどなよなよなよなよなよなよとととあえかあえかあえかにてにてにて臥臥ふししし給給たまへへえるるるををを、、、空空むなしうしうしゅう見見みなしなしなしててていかなるいかなるいかなる心心こころちちちせせせむむんととと胸胸むねもももひしけひしけひしけててておぼゆおぼゆおぼゆ。。。
現代語訳
日が暮れたので、女房たちがいつものあちらへと申し上げて、御湯漬けなどを差し上げようとするが、薫は、せめて近くで拝見しようとして、南の廂は僧の座なので、東面のもう少し近い方に屏風などを立てさせて、入ってお座りになる。中の君は困ったこととお思いになるが、このお二人の仲は、やはり離れていらっしゃらないのだったと皆思って、疎遠に扱って隔て申し上げることもしない。初夜から始めて、法華経を絶え間なく読ませなさる。声の尊い僧ばかり十二人で、たいそう尊い。灯火はこちらの南の間にともして、内は暗いので、薫が几帳を引き上げて、少し滑り入って拝見なさると、老女房たちが二三人控えている。中の君はさっと隠れておしまいになったので、たいそう人が少なく心細そうに臥せっていらっしゃるのを、「どうしてお声だけでも聞かせてくださらないのですか」と言って、御手を取って起こし申し上げなさると、大君は「心では分かっていながら、物を言うのがたいそう苦しくて。何日もお便りがなかったので、お会いできずに死んでしまうのかと、残念に思っておりました」と息の下でおっしゃる。このようにお待ちいただくまで、参らなかったことよと、薫はしゃくりあげておいおいとお泣きになる。大君の御頭などが少し熱くていらっしゃった。「何の罪によるご病気なのでしょう。人の嘆きを負うと、このようになるのだそうです」と御耳に口を当てて、多くのことを申し上げなさるので、大君は煩わしくも恥ずかしくも思われて、顔を覆っていらっしゃる。ますますなよなよとか弱く臥せっていらっしゃるのを、亡くなってしまうのを見たならば、どのような心地がするだろうかと、胸もつぶれる思いがする。
意訳
薫は大君のそば近くに座を移し、十二人の僧に法華経を読ませる。几帳の内に入った薫が大君の手を取ると、大君は、便りがなかったので会えずに死ぬのかと思っていたと息の下で語る。薫は泣き、大君の病は自分の嘆きを負ったためだと耳元でささやく。大君の衰弱ぶりに、薫は胸がつぶれる思いをする。
語釈・文法注
文法
- 「そや」(そやよりはじめて)
- 初夜。夜の勤行の時刻。午後八時頃。
- 「不斷讀ませ給ふ」(法華經を不斷讀ませ給ふ)
- 不断経。僧が交代で絶え間なく経を読むこと。
- 「人の歎きおふこそ」(人の歎きおふこそかくはあなれ)
- 人の嘆きを負うと病になる。薫自身の嘆きのせいだと言う。
解説
大君は、薫からの便りがないことを気にかけていた。拒み続けてきた大君が、死を前にして初めて薫を待っていたことを口にする。
薫は、大君の病を自分の嘆きのせいだと言う。恋の恨みを抱えた男の嘆きが女を病ませるという考えは、当時の信仰に基づくが、ここでは薫の深い自責の念を表している。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、978–979頁(コマ200)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日