源氏物語 第47帖 総角(44)
時雨の文
匂宮はいつものように細やかに書いて、眺めているのは同じ空なのに、どうして心もとなさを添える時雨なのだろうと詠む。「かく袖ひづる」などということもあったのだろうか。聞き慣れた言葉なのを、やはりありきたりの言葉だと見るにつけても、恨めしさがまさる。あれほど世にめったにないご様子や容貌を、ますます何とかして人に愛されようと、好ましく優艶に振る舞っていらっしゃるので、若い中の君が心を寄せ申し上げるのも無理はない。日が経つにつけても恋しく、あれほど大げさなまでに約束しておいたのだから、それでもまさかこれきりにはなるまいと思い直す心がいつも添っていた。「お返事を今夜持って参りましょう」と使者が言うので、女房たちがそそのかすので、中の君はただ一言、霰の降る深山の里は朝夕に眺める空もかき曇っていますと返す。こう言うのは十月の末のことであった。一月も隔たってしまったことよと匂宮はまず気が気でなく、今夜こそ今夜こそと思いながら、差し障りが多い頃に、五節などが早く来た年で、宮中は華やかで紛れがちで、わざとでもないが過ごしているうちに、宇治ではひどく待ち遠しい。匂宮ははかなく女性たちとかかわるにつけても、実はお心から中の君が離れる時はない。左大臣殿のあたりの縁談のことは、中宮もやはり「そのようなのどかな後ろ盾をお持ちになって、そのほかに訪ねたいと思う人があるなら参らせて重々しく扱いなさい」と申し上げるが、匂宮は「しばらく、そう存じますことが」などと辞退して、本当につらい目をどうして中の君に見せようかなどと思っているお心を、宇治では知らないので、月日とともに物思いばかりしている。
- 1例例れいのののこまやかこまやかこまやかににに書書かききき給給たまひひいててて、、、「「「ながむるながむるながむるははは同同おなじじじ雲雲くも井井いをををいかいかいかなれなれなればばばおぼつかなさおぼつかなさおぼつかなさをををそふるそふるそうる時雨時雨しぐれぞぞぞ」」」。。。かくかくかく袖袖そでひづるひづるひずるなどなどなどいふいふいうことことこともももやややありありありけむけむけん。。。耳耳みみなれなれなれにににたるたるたるををを、、、猶猶なおあらあらあらじじじことことことゝゝと見見みるるるにににつけつけつけてててもももうらめしさうらめしさうらめしさまさりまさりまさり給給たまふふう。。。さばかりさばかりさばかり世世よにににありがたきありがたきありがたき御御おんありさまありさまありさまかたちかたちかたちををを、、、いとゞいとゞいとどいかでいかでいかで人人ひとにににめでめでめでられられられむむんととと、、、好好このしくしくしくえんえんえんにににもてもてもてなしなしなし給給たまへへえれれればばば、、、若若わかききき人人ひとののの心心こころよせよせよせ奉奉たてまつりりり給給たまははわむむんもももことわりことわりことわりなりなりなり。。。程程ほど經經ふるるるにににつけつけつけてててももも戀戀こいしうしうしゅう、、、さばかりさばかりさばかり所所ところせきせきせきまでまでまで契契ちぎりりり置置おききき給給たまひひいしししををを、、、さりともさりともさりともいといといとかくかくかくてててははは止止やまままじじじととと思思おもひひい直直なおすすす心心こころぞぞぞ常常つねにににそひそひそいけるけるける。。。「「「御御おんかへりかへりかえり今今こ夜夜よい參參まいりりりなななむむん」」」ととと聞聞きこゆれゆれゆればばば、、、これこれこれかれかれかれそゝのかしそゝのかしそそのかし聞聞きこゆれゆれゆればばば、、、たゞたゞただひとひとひとことことことなむなむなん。。。「「「あられあられあられふるふるふる深深み山山やまのののさとさとさとははは朝朝あさ夕夕ゆうにににながむるながむるながむる空空そらもももかきかきかきくらしくらしくらしつゝつゝつつ」」」。。。かくかくかくいふいふいうははは神神かん無無な月月ずきのののつごもりつごもりつごもりなりなりなりけりけりけり。。。月月つきもももへだゝりへだゝりへだたりぬるぬるぬるよよよととと宮宮みやはははまづまづまず心心こころなくなくなくおぼさおぼさおぼされれれててて、、、今今こ夜夜よい今今こ夜夜よいとととおぼしおぼしおぼしつゝつゝつつ、、、さはりさはりさわりおほみおほみおおみなるなるなる程程ほどににに、、、五五ご節節せちなどなどなど疾疾とくくく出出いででできききたるたるたる年年としにてにてにて、、、うちうちうちわたりわたりわたり今今いまめかしくめかしくめかしくまぎれまぎれまぎれがちがちがちにてにてにて、、、わざとわざとわざともももなけれなけれなけれどどどすぐいすぐいすぐい給給たまふふう程程ほどににに、、、あさましうあさましうあさましゅう待待まちちちどほどほどおなりなりなり。。。はかなうはかなうはかのう人人ひとををを見見み給給たまふふうにににつけつけつけてててももも、、、さるはさるはさるは御心御心みこころにににはははなるゝなるゝなるる折折おりなしなしなし。。。左左ひだりののの大大おお臣臣い殿殿どののののわたりわたりわたりののの事事こと、、、大大おお宮宮みやももも猶猶なお「「「さるさるさるのどやかのどやかのどやかなるなるなる御御おんうしろみうしろみうしろみをををまうけまうけもうけ給給たまひひいててて、、、そのそのその外外ほかののの尋尋たずねねねまほしうまほしうまほしゅうおぼさおぼさおぼさるゝるゝるる人人ひとあらあらあらばばば參參まいらせらせらせててておもおもしくおもおもしくおもおもしくもてもてもてなしなしなし給給たまへへえ」」」ととと聞聞きこえええ給給たまへへえどどど、、、「「「暫暫しばしししさささ思思おもううう給給たまふるふるうるやうやうよう」」」などなどなど聞聞きこえええすまひすまひすまい給給たまひひいててて、、、誠誠まことにににつらきつらきつらきめめめはははいかでいかでいかでかかか見見みせせせむむんなどなどなどおぼすおぼすおぼす御心御心みこころををを知知しりりり給給たまははわねねねばばば、、、月月つき日日ひにににそへそへそえててて物物ものをををのみのみのみおぼすおぼすおぼす。。。
現代語訳
匂宮はいつものように細やかにお書きになって、「眺めているのは同じ空なのに、どうして心もとなさを添える時雨なのだろう」。「かく袖ひづる」などということもあったのだろうか。聞き慣れた言葉なのを、やはりありきたりの言葉だと見るにつけても、恨めしさがまさりなさる。あれほど世にめったにないご様子や容貌を、ますます何とかして人に愛されようと、好ましく優艶に振る舞っていらっしゃるので、若い人が心をお寄せ申し上げなさるのも無理はない。日が経つにつけても恋しく、あれほど大げさなまでに約束しておきなさったのだから、それでもまさかこれきりで終わるまいと思い直す心が、いつも添っていた。「お返事を今夜持って参りましょう」と使者が申し上げるので、女房たちがあれこれとそそのかし申し上げるので、ただ一言。「霰の降る深山の里は、朝夕に眺める空もかき曇っております」。こう言うのは十月の末のことであった。一月も隔たってしまったことよと、匂宮はまず気が気でなくお思いになって、今夜こそ今夜こそとお思いになりながら、差し障りが多い頃に、五節などが早く来た年で、宮中は華やかで紛れがちで、わざとでもないがお過ごしになるうちに、宇治ではひどく待ち遠しい。匂宮ははかなく女性たちとかかわりなさるにつけても、実はお心から離れる折はない。左大臣殿のあたりのことは、中宮もやはり「そのようなのどかなご後見をお持ちになって、そのほかに訪ねたいとお思いになる人があるならば、参らせて重々しくお扱いなさい」と申し上げなさるが、匂宮は「しばらく、そのように存じますことが」などと辞退申し上げなさって、本当につらい目をどうして見せようかなどとお思いになるお心を、宇治ではご存じないので、月日とともに物思いばかりなさる。
意訳
匂宮から時雨に寄せた手紙が届き、中の君は聞き慣れた言葉だと恨めしく思いながらも、匂宮を信じようとする。中の君は霰の降る里の寂しさを一言だけ返す。十一月になっても、五節の行事などで匂宮は宇治に行けない。中宮は六の君を正妻にして中の君を宮中に迎えよと勧めるが、匂宮は辞退する。その真心は宇治には伝わらない。
語釈・文法注
文法
- 「かく袖ひづる」(かく袖ひづるなどいふこともやありけむ)
- 「かきくらし降る白雪の下消えに消えて物思ふ頃にもあるかな」など、恋の嘆きの決まり文句をほのめかす。
- 「五節」(五節など疾く出できたる年にて)
- 十一月の新嘗祭に行われる五節の舞。宮中の華やかな行事。
- 「すぐい給ふ」(わざともなけれどすぐい給ふ程に)
- 過ぐし給ふ。お過ごしになる。
解説
匂宮は中の君を本当に思っているが、その思いは宇治に伝わらない。宮中の行事や縁談に縛られ、言葉だけが届く。言葉が美しいほど、中の君には空々しく聞こえる。
中の君の「あられふる」の歌は、一言だけの短い返事である。匂宮への恨みと寂しさが、霰の降る冬の風景に託されている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、976–977頁(コマ199)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日