源氏物語 第47帖 総角(43)
父の夢
夕暮れの空の気配がたいそうもの寂しく時雨れて、木の下を吹き払う風の音などはたとえようもなく、過去や未来を思い続けて物に寄りかかって臥せっている大君の様子は、上品でこの上なく見える。白い衣に、髪は梳くこともなく時が経ったが、乱れる筋もなくうち広げられて、日頃の病で少し青ざめているのがかえって優美さがまさり、外を眺めている目元や額つきの様子も、見る目のある人に見せたいほどである。昼寝をしていた中の君は、風がひどく荒いのに驚かされて起き上がった。山吹や薄色など華やかな色合いに、顔はことさら染めて匂わせたようにたいそう美しく華やかで、少しも物思いをしている様子もない。中の君が「亡き父宮が夢に現れて、たいそう物思いをしている様子で、このあたりにほのかに見えていらした」と語ると、大君はますます悲しさが加わって、「亡くなってから、近頃夢にでもお会いしたいと思うのに、全くお会いできません」と言って、お二人ともひどく泣く。明け暮れ思い出し申し上げているので、ほのかに現れなさるのだろうか、何とかしていらっしゃる所に訪ねて参りたい、罪深そうな身の私たちでと、後の世のことまで思いやる。異国にあったという反魂香の煙をたいそう得たいと思う。たいそう暗くなる頃に、匂宮からお使いがある。折が折だけに少し物思いも慰むだろう。中の君はすぐにはご覧にならない。大君が「やはり素直におっとりとお返事申し上げなさい。私がこうしてはかなくなったら、これよりもっと名残なくお扱い申し上げる人も出て来るかと不安ですが、たまにでもこの方が思い出してくださるなら、そんなあるまじき心を使う人はいないだろうと思うので、つらいながらも頼みにしているのです」と言うと、中の君は「私を後に残そうとお思いになるのがひどくつらい」と、ますます顔を引き入れる。大君は「寿命には限りがあるので、片時も後に残るまいと思っていましたが、生き長らえるものなのだと思いましたよ。明日をも知れぬ世がさすがに嘆かわしいのも、誰のために惜しい命でしょう」と言って、灯火を持って来させて手紙を見る。
- 1夕夕ゆう暮暮ぐれののの空空そらののの氣色氣色けしきいといといとすごくすごくすごくしぐれしぐれしぐれててて、、、木木こののの下下した吹吹ふきききはらふはらふはらう風風かぜののの音音おとなどなどなどたとへたとへたとえむむんかたかたかたなくなくなく、、、きききしししかたかたかた行行ゆくくくさきさきさき思思おもひひい續續つづけけけられられられてててそひそひそいふしふしふし給給たまへへえるるるさまさまさま、、、あてあてあてにににかぎりかぎりかぎりなくなくなく見見みえええ給給たまふふう。。。白白しろききき御御おんぞぞぞににに、、、髮髮かみはははけづるけづるけずることことこともももししし給給たまははわででで程程ほど經經へねれねれねれどどど迷迷まよふふうすぢすぢすじなくなくなくうちうちうちやらやらやられれれててて、、、日日ひごろごろごろににに少少すこししし靑靑あおみみみ給給たまへへえるるるしもしもしもなまめかしさなまめかしさなまめかしさまさりまさりまさりててて、、、ながめながめながめ出出いだししし給給たまへへえるるるまみまみまみひたひひたひひたいつきつきつきのののほどほどほどももも、、、見見み知知しらららむむん人人ひとににに見見みせせせまほしまほしまほし。。。ひるひるひるねねねののの君君きみ風風かぜのののいといといと荒荒あらきききににに驚驚おどろかかかささされれれててて起起おきききあがりあがりあがり給給たまへへえりりり。。。山山やま吹吹ぶき薄薄うす色色いろなどなどなど花花はなやかやかやかなるなるなる色色いろあひあひあいににに、、、御御おん顏顏かおははは殊殊こと更更さらにににそめそめそめにほはしにほはしにおわしたらたらたらむむんやうやうようににに、、、いといといとをかしうをかしうおかしゅうはなばなはなばなはなばなとととしししててて聊聊いささか物物もの思思おもふふうべきべきべきさまさまさまもももししし給給たまへへえらららずずず。。。「「「故故こ宮宮みやののの夢夢ゆめににに見見みえええ給給たまへへえるるる、、、いといといと物物ものおぼしおぼしおぼしたるたるたるけしきけしきけしきにてにてにて、、、このこのこのわたりわたりわたりいかでいかでいかでにににこそこそこそほのめきほのめきほのめき給給たまへへえれれれ」」」ととと語語かたりりり給給たまへへえれれればばば、、、いとゞしくいとゞしくいとどしく悲悲かなしさしさしさそひそひそいててて、、、「「「うせうせうせ給給たまひひいててて後後のち、、、このこのこのごろごろごろ夢夢ゆめにににももも見見み奉奉たてまつらららむむんととと思思おもふふうををを、、、更更さらにににこそこそこそ見見み奉奉たてまつらららねねね」」」とてとてとて二二ふた所所ところながらながらながらいみじういみじういみじゅう泣泣なききき給給たまふふう。。。明明あけ暮暮くれ思思おもひひい出出いででで奉奉たてまつれれればばば、、、ほのめきほのめきほのめきもももやややおはすおはすおわすらむらむらん、、、いかでいかでいかでおはすおはすおわすらむらむらん處處ところににに尋尋たずねねね參參まいらららむむん、、、罪罪つみ深深ぶかげげげなるなるなる身身みどもどもどもにてにてにてととと、、、後後のちののの世世よをををさへさへさへ思思おもひひいやりやりやり給給たまふふう。。。人人ひとののの國國くににににありありありけむけむけん香香こうののの煙煙けぶりぞぞぞいといといとえええまほしくまほしくまほしくおぼさおぼさおぼさるゝるゝるる。。。
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現代語訳
夕暮れの空の気配がたいそうもの寂しく時雨れて、木の下を吹き払う風の音などはたとえようもなく、過去や未来のことが思い続けられて、物に寄りかかって臥せっていらっしゃる様子は、上品でこの上なくお見えになる。白いお召し物に、髪は梳くこともなさらずに時が経ったけれど、乱れる筋もなくうち広げられて、日頃の病で少し青ざめていらっしゃるのが、かえって優美さがまさって、外を眺めていらっしゃる目元や額つきの様子も、見る目のある人に見せたいほどである。昼寝をしていた中の君は、風がひどく荒いのに驚かされて、起き上がりなさった。山吹や薄色など華やかな色合いに、お顔はことさらに染めて匂わせたように、たいそう美しく華やかで、少しも物思いをするような様子もしていらっしゃらない。「亡き父宮が夢に現れなさって、たいそう物思いをしていらっしゃる様子で、このあたりにほのかにお見えになりました」とお話しになると、大君はますます悲しさが加わって、「お亡くなりになって後、近頃夢にでもお会い申し上げたいと思うのに、全くお会いできません」と言って、お二人ともひどくお泣きになる。明け暮れ思い出し申し上げているので、ほのかに現れなさるのだろうか、何とかしていらっしゃる所に訪ねて参りたい、罪深そうな私たちの身でと、後の世のことまで思いやりなさる。異国にあったという反魂香の煙を、たいそう得たいとお思いになる。
たいそう暗くなる頃に、匂宮からお使いがある。折が折だけに、少しは物思いも慰むだろう。中の君はすぐにはご覧にならない。大君が「やはり素直に、おっとりとした様子でお返事申し上げなさい。私がこうしてはかなくなってしまいましたら、これよりもっと名残なくお扱い申し上げる人も出て来るかと不安ですが、たまにでもこの方が思い出し申し上げてくださるならば、そのようなあるまじき心を使う人は、まさかいないだろうと思うので、つらいながらも頼みにしているのです」と申し上げなさると、中の君は「私を後に残そうとお思いになっていたのが、ひどくつらいことです」と、ますます顔を引き入れなさる。大君は「寿命には限りがあるので、片時も後に残るまいと思っていましたが、生き長らえるものなのだと思いましたよ。明日をも知れぬ世が、さすがに嘆かわしいのも、誰のために惜しい命でしょうか」と言って、灯火を持って来させてご覧になる。
意訳
時雨の夕暮れ、病で青ざめた大君は臥せって物思いにふける。昼寝から覚めた中の君は、父宮が夢に現れたと語り、姉妹は泣く。大君は父のもとへ行きたいと願う。匂宮から手紙が来ると、大君は中の君に素直に返事をするよう諭し、自分が死んだ後も匂宮が中の君を守ってくれるだろうと言う。中の君は姉の死をほのめかす言葉に泣く。
語釈・文法注
文法
- 「人の國にありけむ香の煙」(人の國にありけむ香の煙ぞいとえまほしくおぼさるゝ)
- 反魂香。漢の武帝が焚いて亡き李夫人の姿を見たという香。
- 「おくらさむ」(おくらさむとおぼしけるこそいみじう侍れ)
- 後に残す。姉が先に死ぬつもりでいることを中の君は悲しむ。
- 「誰がために惜しき命にかは」(誰がために惜しき命にかは)
- あなたのためにこそ惜しい命なのだという大君の言葉。
解説
白い衣で臥せる大君と、華やかな色の衣で起き上がる中の君の対比が鮮やかである。病に青ざめた大君は、かえって優美さを増している。死に近づく人の美しさが描かれる。
大君は、自分の死後を見据えて妹に匂宮を頼るよう諭す。「誰がために惜しき命」という言葉に、妹への愛情だけが大君をこの世につなぎ留めていることが表れている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、974–977頁(コマ198–199)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日