源氏物語 第47帖 総角(39)
女一の宮の絵
中宮は「お心に留めて思う人がいるなら、ここに参らせて、世間並みにのどかに扱いなさい。格別に思い申し上げているのに、軽々しいように人が噂するらしいのも、たいそう残念です」と明け暮れ匂宮に申し上げる。時雨がひどく降ってのどかな日、匂宮が女一の宮の御方に参ると、御前に人も多くは控えておらず、しめやかに絵などをご覧になっているところである。御几帳だけを隔ててお話しする。この上なく上品で気高いものの、なよやかで美しいご様子を、匂宮は長年またとないものと思っていて、この方に並ぶ人が世にいるだろうか、冷泉院の姫君だけが、ご寵愛のほどや内々のご様子も奥ゆかしく聞こえるが、口に出しようもなく思い続けていたところに、あの山里の人(中の君)は、可憐で上品な点では劣らないだろうなどとまず思い出すと、ますます恋しさがまさるので、その慰めに、絵が多く散らばっているのを見ると、美しい女絵で、恋する男の住まいなどを描き混ぜ、山里の趣深い家居など、思い思いに世の有様を描いたものに、自分の身によそえられることが多くて目がとまるので、少し申し上げて、宇治へ差し上げようと思う。在五の物語(伊勢物語)を描いて、妹に琴を教えている所で、「人の結ばむ」と言った場面を見て、どうお思いになるだろうと、少し近く寄って、「昔の人も、然るべき間柄では隔てなく親しんでいたのですね。ひどくよそよそしくばかりなさるのは」とひそかに申し上げると、女一の宮はどんな絵かと思うので、匂宮が巻き寄せて御前に差し入れると、うつむいてご覧になる髪がなびいてこぼれ出た片側だけをほのかに拝見するのが、飽きずすばらしく、少しでも隔てのある他人と思えたらと思うと、こらえきれず、匂宮は、若草のように共寝しようとは思わないが、心が結ぼれる心地がすると詠む。
- 1「「「御心御心みこころにににつきつきつきててておぼすおぼすおぼす人人ひとあらあらあらばばばこゝこゝここにににまゐらまゐらまいらせせせててて、、、例例れいざまざまざまにににのどやかのどやかのどやかにににもてもてもてなしなしなし給給たまへへえすぢすぢすじことことことににに思思おもひひい聞聞きこえええたまへたまへたまえるるるににに、、、かるびかるびかるびたるたるたるやうやうようににに人人ひとののの聞聞きこゆゆゆべかべかべかめるめるめるももも、、、いといといとなむなむなん口口くち惜惜おしきしきしき」」」ととと大大おお宮宮みやははは明明あけ暮暮くれ聞聞きこえええ給給たまふふう。。。時雨時雨しぐれいたくいたくいたくしししてててのどやかのどやかのどやかなるなるなる日日ひ、、、女女おんな一一いち宮宮のみやののの御御おん方方かたににに參參まいりりり給給たまへへえれれればばば、、、おおお前前まえににに人人ひと多多おおくくくもももさぶらはさぶらはさぶらわずずず、、、しめやかしめやかしめやかににに御御おん繪繪えなどなどなど御御ご覽覽らんずるずるずる程程ほどなりなりなり。。。御御おん几几き帳帳ちょうばかりばかりばかり隔隔へだてててゝゝて、、、御御おん物物もの語語がたり聞聞きこえええ給給たまふふう。。。限限かぎりもももなくなくなくあてあてあてにににけだかきけだかきけだかきものものものからからから、、、なよびかなよびかなよびかにににをかしきをかしきおかしき御御おんけはひけはひけはいををを、、、年年としごろごろごろ二二ふたつつつなきなきなきものものものににに思思おもひひい聞聞きこえええ給給たまひひいててて、、、又又またこのこのこの有有あり樣樣さまににになずらふなずらふなずらう人人ひと世世よにににありありありなななむむんややや、、、冷冷れい泉泉ぜい院院いんののの姫姫ひめ君君ぎみばかりばかりばかりこそこそこそ、、、御御おんおぼえおぼえおぼえののの程程ほど內內うち々々うちののの御御おんけはひけはひけはいももも心心こころにくゝにくゝにくく聞聞きこゆれゆれゆれどどど、、、うちうちうちいでいでいでむむん方方かたもももなくなくなくおぼしおぼしおぼしわたるわたるわたるににに、、、かのかのかの山山やま里里ざと人人びとははは、、、らうたげらうたげろうたげにににあてあてあてなるなるなる方方かたののの劣劣おとりりり聞聞きこゆゆゆまじきまじきまじきぞぞぞかしかしかしなどなどなどまづまづまず思思おもひひい出出いづるづるずるににに、、、いとゞいとゞいとど戀戀こいしさしさしさまさるまさるまさるなぐさめなぐさめなぐさめににに御御おん繪繪えどもどもどものののあまたあまたあまたちりちりちりたるたるたるををを見見み給給たまへへえばばば、、、をかしげをかしげおかしげなるなるなる女女おんな繪繪えどもどもどもののの、、、戀戀こいするするする男男おとこのののすまひすまひすまいなどなどなどかきかきかきまぜまぜまぜ、、、山山やま里里ざとのののをかしきをかしきおかしき家家いえ居居いなどなどなど心心こころ々々ごころににに世世よののの有有あり樣樣さま書書かきききたるたるたるををを、、、よそへよそへよそえらるゝらるゝらるることことこと多多おおくくくててて御御おん目目めとまりとまりとまり給給たまへへえばばば、、、少少すこししし聞聞きこえええ給給たまひひいててて、、、かしこかしこかしこへへへ奉奉たてまつらららむむんとととおぼすおぼすおぼす。。。
- 2在在ざい五五ごががが物物もの語語がたりををを書書かきききててて、、、妹妹いもうとにににきんきんきん敎敎おしへへへたるたるたる所所ところののの、、、人人ひとのののむすばむすばむすばむむんととといひいひいいたるたるたるををを見見みててて、、、いかゞいかゞいかがおぼすおぼすおぼすらむらむらん、、、少少すこししし近近ちかくくく參參まいりりりよりよりより給給たまひひいててて、、、「「「いにしへいにしへいにしえののの人人ひともももさるべきさるべきさるべき程程ほどははは隔隔へだてなくなくなくこそこそこそならはしならはしならわしててて侍侍はべりりりけれけれけれ。。。いといといとうとうとしううとうとしううとうとしゅうのみのみのみもてもてもてなさなさなさせせせ給給たまふふうこそこそこそ」」」ととと忍忍しのびびびててて聞聞きこえええ給給たまへへえばばば、、、いかなるいかなるいかなる繪繪えにににかかかとととおぼすおぼすおぼすににに、、、おしおしおしまきまきまきよせよせよせててておおお前前まえにににさしさしさし入入いれれれ給給たまへへえるるるををを、、、うつぶしうつぶしうつぶしててて御御ご覽覽らんずるずるずるみみみぐしぐしぐしのののうちうちうち靡靡なびきききてててこぼれこぼれこぼれ出出いでででたるたるたるかたかたかたそばそばそばばかりばかりばかりほのかほのかほのかににに見見み奉奉たてまつりりり給給たまふふうががが、、、飽飽あかかかずずずめでたくめでたくめでたく、、、少少すこししし物物もののののへだてへだてへだてたるたるたる人人ひとととと思思おもひひい聞聞きこえええましかましかましかばばばとととおぼすおぼすおぼすににに、、、忍忍しのびびびがたくがたくがたくててて、、、「「「若若わか草草くさのののねねねみみみむむんものものものとととははは思思おもははわねねねどどどむすぼゝれむすぼゝれむすぼおれたるたるたるこゝちこゝちここちこそこそこそすれすれすれ」」」。。。
現代語訳
「お心に留めてお思いになる人があるならば、ここに参らせて、世間並みにのどかにお扱いなさい。格別にお思い申し上げていらっしゃるのに、軽々しいように人が噂申し上げるらしいのも、たいそう残念です」と、中宮は明け暮れ申し上げなさる。時雨がひどく降ってのどかな日、匂宮が女一の宮の御方に参上なさると、御前に人も多くは控えておらず、しめやかに絵などをご覧になっているところである。御几帳だけを隔てて、お話を申し上げなさる。この上なく上品で気高いものの、なよやかで美しいご様子を、長年またとないものとお思い申し上げなさって、またこのご様子に並ぶ人が世にいるだろうか、冷泉院の姫君だけが、ご寵愛のほどや内々のご様子も奥ゆかしく聞こえるけれど、口に出しようもなく思い続けていらっしゃったところに、あの山里の人は、可憐で上品な点では劣り申し上げないだろうなどと、まず思い出すにつけ、ますます恋しさのまさる慰めに、絵が多く散らばっているのをご覧になると、美しい女絵どもで、恋する男の住まいなどを描き混ぜ、山里の趣深い家居など、思い思いに世の有様を描いたものに、自分の身によそえられることが多くて、お目がとまりなさるので、少し申し上げなさって、宇治へ差し上げようとお思いになる。
在五の物語を描いて、妹に琴を教えている所で、「人の結ばむ」と言った場面を見て、どうお思いになるだろうか、少し近く寄りなさって、「昔の人も、然るべき間柄では隔てなく親しみ慣れておりましたのですね。ひどくよそよそしくばかりなさるのは」とひそかに申し上げなさると、女一の宮はどんな絵だろうかとお思いになるので、匂宮が巻き寄せて御前に差し入れなさったのを、うつむいてご覧になる御髪がなびいてこぼれ出た片側だけを、ほのかに拝見なさるのが、飽きずすばらしく、少しでも隔てのある他人とお思い申し上げられたならばとお思いになると、こらえきれず、「若草のように共寝しようとは思わないけれど、心が結ぼれるような心地がします」。
意訳
中宮は匂宮に、思う人がいるなら宮中に迎えよと勧める。匂宮は姉の女一の宮のもとを訪ね、その美しさに中の君を思い出す。絵の中に自分の境遇に似たものを見つけ、宇治に贈ろうと思う。伊勢物語の兄妹の絵を差し出し、姉への思いをほのめかす歌を詠む。
語釈・文法注
文法
- 「在五が物語」(在五が物語を書きて)
- 在五中将(在原業平)の物語。伊勢物語。
- 「人のむすばむ」(人のむすばむといひたるを見て)
- 伊勢物語四十九段、兄が妹に「うら若みねよげに見ゆる若草を人の結ばむことをしぞ思ふ」と詠んだ場面。
- 「若草のねみむものとは思はねど」(若草のねみむものとは思はねどむすぼゝれたるこゝちこそすれ)
- 伊勢物語の歌を踏まえ、姉への思慕をほのめかす匂宮の歌。
解説
匂宮は中の君を恋しく思いながら、姉の女一の宮にも心を寄せる。薫と同じく、匂宮も女一の宮の気高い美しさに惹かれている。
伊勢物語の兄妹の場面を持ち出す匂宮の戯れは、色好みの本性を示す。中の君への思いが真実であっても、匂宮の心は一人の女性にとどまらない。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、972–973頁(コマ197)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日