源氏物語 第47帖 総角(30)
九月の訪れ
匂宮は道すがら、心苦しかった中の君の様子を思い出しながら、引き返したいと見苦しいほど思うが、世間の評判を憚って帰ったので、たやすくは忍び出ることもできず、手紙は毎日幾度も送る。おろそかなお気持ちではないのだろうかと思いながらも、心もとない日数が積もるので、大君は、ひどく心を尽くすような思いは見まいと思っていたのに、我が身のこと以上に心苦しいことよと嘆くが、ますます中の君が思い沈むだろうからとさりげなく振る舞って、自分だけでもやはりこのような物思いを加えまいと、いよいよ深く思う。中納言の君(薫)も、宇治では待ち遠しく思っているだろうと思いやって、自分の過ちだと気の毒で、匂宮を促し申し上げながら絶えずご様子を見ると、たいそう深く思い込んでいる様子なので、それでもと安心した。九月十日頃なので、野山の気配も思いやられるうえに、時雨めいて空が暗くなり、群雲が恐ろしげな夕暮れ、匂宮がますます落ち着かず物思いにふけって、どうしようかと一人では出かけかねている折に、薫は推し量って参った。「布留の山里はどうでしょう」と促し申し上げる。匂宮はたいそううれしく思って一緒に誘うので、いつものように同じ車で出かける。山深く分け入るにつれて、まして物思いにふけっているだろう中の君の心の内がますます推し量られる。道中もただこのことの心苦しさを語り合う。たそがれ時のひどく心細そうな頃、雨は冷ややかに降り注いで秋の終わりの気配がもの寂しい中、しっとりと濡れた二人の匂いは、この世のものとも思えず優艶で、連れ立っていらっしゃるのを、山里の者たちがどうして心惑わずにいられよう。
- 1道道みちすがらすがらすがら心苦心苦こころぐるしかりしかりしかりつるつるつる御御おん氣色氣色けしきをををおぼしおぼしおぼしいでいでいでつゝつゝつつ、、、立立たちちちもももかへりかへりかえりなななまほしくまほしくまほしくさまさまさまあしきあしきあしきまでまでまでおぼせおぼせおぼせどどど、、、世世よののの聞聞きこえええををを忍忍しのびびびててて歸歸かえらららせせせ給給たまふふうほどほどほどににに、、、えええたはやすくたはやすくたわやすくももも紛紛まぎれれれさせさせさせ給給たまははわずずず、、、御御おん文文ふみははは明明あくるくるくる日日ひごとごとごとにににあまたあまたあまたかへりかへりかえり奉奉たてまつらららせせせ給給たまふふう。。。おろかおろかおろかにににはははあらあらあらぬぬぬにににやややととと思思おもひひいながらながらながら、、、おぼつかなきおぼつかなきおぼつかなき日日ひ數數かずののの積積つもるるるをををいといといと心心こころづくしづくしずくしににに見見みじじじととと思思おもひひいしししものものものををを、、、身身みにににまさりまさりまさりててて心苦心苦こころぐるしくしくしくもももあるあるあるかなかなかなととと姫姫ひめ君君ぎみはははおぼしおぼしおぼし歎歎なげかかかるれるれるれどどど、、、いとゞいとゞいとどこのこのこの君君きみののの思思おもひひいしづみしづみしずみ給給たまははわむむんににによりよりよりつれなくつれなくつれなくもてもてもてなしなしなしててて、、、みづからみづからみずからだにだにだに猶猶なおかゝるかゝるかかることことこと思思おもひひい加加くわへへえじじじととといよいよいよいよいよいよふかくふかくふかくおぼすおぼすおぼす。。。中中ちゅう納納な言言ごんののの君君きみももも待待まちちち遠遠どおにににぞぞぞおぼすおぼすおぼすらむらむらんかしかしかしととと思思おもひひいやりやりやりててて、、、我我わがががあやまちあやまちあやまちにににいとほしくいとほしくいとおしくててて宮宮みやををを聞聞きこえええおどろかしおどろかしおどろかしつゝつゝつつ絕絕たえええずずず御御おん氣色氣色けしきををを見見み給給たまふふうににに、、、いといといといたくいたくいたくおもほしおもほしおもおしいれいれいれたるたるたるさまさまさまなれなれなればばば、、、さりともさりともさりともとととうしろうしろうしろやすかりやすかりやすかりけりけりけり。。。九九なが月月ずき十十とお日日かののの程程ほどなれなれなればばば、、、野野の山山やまののの氣色氣色けしきももも思思おもひひいやらやらやらるゝるゝるるににに、、、時雨時雨しぐれめきめきめきてててかきかきかきくらしくらしくらし空空そらのののむらむらむら雲雲くもおそろしげおそろしげおそろしげなるなるなる夕夕ゆう暮暮ぐれ、、、宮宮みやいとゞいとゞいとどしづしづしず心心こころなくなくなくながめながめながめ給給たまひひいててて、、、いかにいかにいかにせせせむむんととと御心御心みこころひとつひとつひとつををを出出いででで立立たちちちかねかねかね給給たまふふうをりをりおり、、、推推おししし量量はかりりりててて參參まいりりり給給たまへへえりりり。。。「「「ふるふるふるののの山山やま里里ざといかならいかならいかならむむん」」」とととおどろかしおどろかしおどろかし聞聞きこえええ給給たまふふう。。。いといといと嬉嬉うれしししとととおぼしおぼしおぼしててて、、、諸諸もろ共共ともにににいざなひいざなひいざない給給たまへへえばばば、、、例例れいのののひとつひとつひとつ御御おん車車くるまにてにてにておはすおはすおわす。。。分分わけけけ入入いりりり給給たまふふうまゝまゝままにににぞぞぞまいてまいてまいて眺眺ながめめめ給給たまふふうらむらむらん心心こころのののうちうちうちいとゞいとゞいとど推推おししし量量はかららられれれ給給たまふふう。。。道道みちのののほどほどほどももも唯唯ただこのこのこの事事ことののの心苦心苦こころぐるしきしきしきををを語語かたらひらひらい聞聞きこえええ給給たまふふう。。。たそがれたそがれたそがれ時時どきのののいみじくいみじくいみじく心心こころぼそげぼそげぼそげなるなるなるににに、、、雨雨あめははは冷冷ひややかやかやかにににうちうちうちそゝぎそゝぎそそぎててて秋秋あきはつるはつるはつる氣色氣色けしきのののすごきすごきすごきににに、、、うちうちうちしめりしめりしめりぬれぬれぬれ給給たまへへえるるるにほひにほひにおいどもどもどもははは、、、世世よのののものものものににに似似にずずずえんえんえんにてにてにてうちうちうちつれつれつれ給給たまへへえるるるををを、、、やまやまやまがつがつがつどもどもどもはははいかゞいかゞいかが心心こころ惑惑まどひひいもももせせせざらざらざらむむん。。。
現代語訳
匂宮は道すがら、心苦しかった中の君のご様子を思い出しなさりながら、引き返してしまいたいと見苦しいほどにお思いになるが、世間の評判を憚ってお帰りになったので、たやすくは忍び出ることもおできにならず、お手紙は毎日幾度も差し上げなさる。おろそかなお気持ちではないのだろうかと思いながらも、心もとない日数が積もるのを、大君は、ひどく心を尽くすような思いは見まいと思っていたのに、我が身のこと以上に心苦しいことよと嘆かれなさるが、ますますこの中の君が思い沈みなさるだろうからと、さりげなく振る舞って、自分だけでもやはりこのような物思いを加えまいと、いよいよ深くお思いになる。中納言の君も、宇治では待ち遠しくお思いになっているだろうと思いやって、自分の過ちで気の毒なので、匂宮を促し申し上げながら絶えずご様子をご覧になると、たいそう深くお思い込みになっている様子なので、それでもと安心なのであった。九月十日頃なので、野山の気配も思いやられるうえに、時雨めいて空が暗くなり、群雲が恐ろしげな夕暮れ、匂宮がますます落ち着かず物思いにふけりなさって、どうしようかと、お心一つでは出かけかねていらっしゃる折に、薫は推し量って参上なさった。「布留の山里はどうでしょう」と促し申し上げなさる。匂宮はたいそううれしいとお思いになって、ご一緒にお誘いになるので、いつものように同じ御車でいらっしゃる。分け入りなさるにつれて、まして物思いにふけっていらっしゃるだろう中の君の心の内が、ますます推し量られなさる。道中も、ただこのことの心苦しさをお話し申し上げなさる。たそがれ時のひどく心細そうな頃に、雨は冷ややかに降り注いで、秋の終わる気配がもの寂しいところに、しっとりと濡れていらっしゃる二人の匂いは、この世のものとも思えず優艶で、連れ立っていらっしゃるのを、山里の者たちはどうして心惑わずにいられよう。
意訳
匂宮は宮中の目を憚って宇治に通えず、手紙だけを送る。大君は妹の苦しみを見て、自分は決して恋の物思いをすまいと決意を深める。薫は自分の過ちを悔やんで匂宮を促し、時雨の降る九月の夕暮れ、二人は同じ車で宇治へ向かう。
語釈・文法注
文法
- 「心づくしに見じ」(いと心づくしに見じと思ひしものを)
- 心を尽くすような物思いは見まいと思っていたのに。
- 「ふるの山里」(「ふるの山里いかならむ」)
- 布留の山里。「石上布留」の古里の意を掛け、宇治を指す。
- 「やまがつ」(やまがつどもはいかゞ心惑ひもせざらむ)
- 山里に住む身分の低い者。
解説
大君は、妹が匂宮の途絶えに苦しむのを見て、自分は決して恋をすまいと誓う。中の君の苦しみが、大君の独身の決意をさらに固める。皮肉にも、薫が手引きした結婚が、薫自身の恋をいっそう遠ざけている。
時雨に濡れた二人の貴公子の香りが、山里に満ちる。雨と秋の終わりの寂しさの中で、華やかな匂いだけが際立つ描写である。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、962–965頁(コマ192–193)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日