源氏物語 第47帖 総角(25)
三日夜の餅
三日目に当たる夜は、女房たちが「お餅を差し上げるのです」と申し上げるので、大君は、ことさらに然るべきお祝いのことなのだと思って、自分の前で作らせるのもおぼつかなく、一方では大人ぶって指図するのも人がどう見るかと気恥ずかしくて、顔を赤らめているさまはたいそう美しい。姉らしい心からか、おっとりと気高いものの、人のためには情け深く思いやりがあるのだった。中納言殿(薫)から「昨夜参ろうと思いましたが、宮仕えの苦労もかいのなさそうな世の中なので、恨めしく思いまして。今夜は雑用でもと思いましたが、宿直所がきまりの悪い様子でしたので、乱れた気分がますます落ち着かず、ためらっております」と、陸奥紙に老成した筆跡で書いて、婚儀の用意の品々、細かに縫いもしていないさまざまな色の布を巻いたものなどを、御衣櫃いくつもの懸子に入れて、老女房のもとに、女房たちの分としてお贈りになった。母宮のもとにあった物に従って、それほど多くは取り集められなかったのだろうか、無地の絹や綾などを下には入れ隠しながら、姫君たちのお召し物と思われる二揃いをたいそう美しく仕立てたのに添えて、単衣の袖に、古風なことだが、「小夜衣を着て馴れ親しんだとは言わないまでも、言いがかりくらいは付けないでもないでしょう」と脅し申し上げた。大君は、どちらの姉妹のことも見られてしまい、ますます恥ずかしく思って、お返事もどう申し上げようかと思い悩むうちに、使者の一部は逃げ隠れてしまった。粗末な下人を引き止めてお返事を渡す。「隔てのない心だけは通っても、馴れ親しんだ袖とは言いがかりをつけないでほしい」。気ぜわしく思い乱れていた名残で、ますます平凡な歌を、思ったままにと、待ち受けて見る薫はただ哀れに思われる。
- 1三三みつ日日かにににあたるあたるあたる夜夜よははは「「「もちひもちひもちいなむなむなん參參まいるるる」」」ととと人々人々ひとびとののの聞聞きこゆれゆれゆればばば、、、殊殊こと更更さらにににさるべきさるべきさるべき祝祝いわひひいのののことことことにににこそこそこそはははとととおぼしおぼしおぼしててて、、、御御お前前まえにてにてにてせせせさせさせさせ給給たまふふうもももたどたどしうたどたどしうたどたどしゅう、、、かつかつかつはははおとなおとなおとなににになりなりなりててておきておきておきて給給たまふふうももも、、、人人ひとののの見見みるるるらむらむらんことことこと憚憚はばかららられれれててて、、、おもておもておもてうちうちうち赤赤あかめめめててておはするおはするおわするさまさまさま、、、いといといとをかしげをかしげおかしげなりなりなり。。。このこのこのかみかみかみ心心こころにににややや、、、のどかのどかのどかにににけけけ高高だかきききものものものからからから、、、人人ひとのののためためためあはれあはれあわれににになさけなさけしうなさけなさけしうなさけなさけしゅうぞぞぞおはしおはしおわしけるけるける。。。中中ちゅう納納な言言ごん殿殿どのよりよりより、、、「「「よべよべよべ參參まいらららむむんととと思思おもひひい給給たまへへえしかしかしかどどど、、、宮宮みや仕仕づかえのののらうらうろうもももしるししるししるしなげなげなげなななめるめるめる世世よににに、、、思思おもううう給給たまへへえ恨恨うらみみみてててなむなむなん。。。今今こ夜夜よいはははざうやくざうやくぞうやくもももやややととと思思おもひひい給給たまへへえれれれどどど、、、殿殿との居居い所所どころのののはしたなげはしたなげはしたなげににに侍侍はべりりりししし、、、亂亂みだりりり心地心地ここちいとゞいとゞいとど安安やすからからからでででやすらはやすらはやすらわれれれ侍侍はべるるる」」」ととと、、、みちのくにみちのくにみちのくに紙紙がみにににおいおいおいつきつきつき書書かききき給給たまひひいててて、、、まうけまうけもうけのののものものものどもどもどもこまやかこまやかこまやかににに縫縫ぬひひいなどなどなどもももせせせざりざりざりけるけるけるいろいろいろいろいろいろおしおしおしまきまきまきなどなどなどしししつゝつゝつつ、、、みみみそそそ櫃櫃びつあまたあまたあまたかけごかけごかけごにににいれいれいれててて、、、おいおいおい人人びとのののもともともとににに、、、人々人々ひとびとののの料料りょうにににとてとてとて賜賜たまへへえりりり。。。
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現代語訳
三日目に当たる夜は、「お餅を差し上げるのです」と女房たちが申し上げるので、大君は、ことさらに然るべきお祝いのことなのだとお思いになって、御前で作らせなさるのもおぼつかなく、一方では大人になって指図なさるのも、人がどう見ているだろうと気恥ずかしくて、顔を赤らめていらっしゃる様子は、たいそう美しい。姉らしい心からであろうか、おっとりと気高いものの、人のためには情け深く思いやり深くいらっしゃった。中納言殿から、「昨夜参ろうと存じましたが、宮仕えの苦労もかいのなさそうな世の中なので、恨めしく存じまして。今夜は雑用でもと存じましたが、宿直所がきまりの悪い様子でございましたので、乱れた気分がますます落ち着かず、ためらわれております」と、陸奥紙に老成した筆跡でお書きになって、婚儀の用意の品々、細かに縫いもしていないさまざまな色の布を巻いたものなどを、御衣櫃いくつもの懸子に入れて、老女房のもとに、女房たちの分としてお与えになった。
母宮の御方にあった物に従って、それほど多くは取り集めなさることができなかったのだろうか、無地の絹や綾などを下には入れて隠しながら、姫君たちのお召し物と思われる二揃いを、たいそう美しく仕立てたのに、単衣のお召し物の袖に、古風なことだが、「小夜衣を着て馴れ親しんだとは言わないまでも、言いがかりくらいは付けないでもないでしょう」と脅し申し上げなさった。大君は、どちらの姉妹のことも見られてしまって奥ゆかしさもないことを、ますます恥ずかしくご覧になって、お返事もどう申し上げようかと思い悩んでいらっしゃるうちに、お使いの一部は逃げ隠れてしまった。粗末な下人を引き止めて、お返事をお与えになる。「隔てのない心だけは通い合うとしても、馴れ親しんだ袖とは言いがかりをつけないでほしいと思います」。気ぜわしく思い乱れていらっしゃった名残で、ますます平凡な歌を、思ったままにと、待ち受けてご覧になる薫は、ただ哀れに思われなさる。
意訳
三日夜の餅の夜、大君は顔を赤らめながら祝いの準備を指図する。薫は女房たちへの衣料と姉妹の衣装を贈り、衣の袖に、馴れ親しんだとは言わないが言いがかりくらいはつけたいと歌を添える。大君は、心は通っても馴れた袖とは言わないでほしいと返す。
語釈・文法注
文法
- 「もちひ」(「もちひなむ參る」)
- 三日夜の餅。結婚三日目の夜に新郎新婦が食べる祝いの餅。結婚の成立を示す。
- 「このかみ心」(このかみ心にや)
- 兄・姉らしい心。年長者としての心づかい。
- 「かごとばかりはかけずしもあらじ」(かごとばかりはかけずしもあらじ)
- 言いがかりくらいはつけないでもないでしょう。障子越しに一夜を過ごしたことを言う。
解説
三日夜の餅は結婚の成立を意味する。大君は、親代わりとして妹の結婚の儀を整える。顔を赤らめながら指図する大君の姿には、慣れない役目を果たそうとする健気さがある。
薫の贈り物は行き届いており、後見としての誠意を示す。しかし衣の袖に添えた歌には、大君への未練がにじんでいる。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、956–959頁(コマ189–190)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日