源氏物語 第47帖 総角(24)
二夜目
その夜も匂宮はあの案内役(薫)を誘うが、薫は「冷泉院に必ず伺わねばならない用がありますので」と言って残った。匂宮は、例によって何かにつけ世をつまらなそうに扱うと憎らしく思う。大君は、どうしようもない、本意ではなかったこととはいえ、おろそかにはできないと気弱になって、調度なども不釣り合いな住まいの有様だが、それなりに趣深く整えて匂宮を待っていた。遠い道のりを急いでいらしたのも、うれしいことに思えるのが一方では妙である。当の中の君は正気もないような様子で、身づくろいをされるままに、濃い色の衣がひどく涙で濡れるので、賢ぶっていた大君も泣きながら、「私は世の中に長くいられるとも思えませんので、明け暮れの物思いにも、ただあなたのことばかり心苦しく思っていましたが、女房たちもよいことだと聞き苦しいほど言い知らせるので、年を経た者たちの心には、そうはいっても世の道理も分かっているだろう、頼りにならない自分一人の考えを立てて、このままでばかりお世話しようかと思うようにもなったのですが、今こうして思いもかけず恥ずかしいことに思い乱れようとは全く思いもしませんでした。これが人の言う逃れがたいご宿縁だったのでしょう。たいそう苦しいことです。少しお気持ちが落ち着いたら、私が知らなかった事情もお話ししましょう。憎いと思い込まないでください。罪にもなりますから」と髪をなでつくろいながら言うので、中の君は返事もできないが、さすがに姉君がこう思って言うのは、本当に不安で悪くなれとはお考えでなかったのだろうけれど、人の笑いものになるような見苦しいことが加わって、姉君に世話をされるのがつらいと、あれこれ思っている。匂宮は、何の心構えもなく呆然としていた様子でさえ並々でなく美しかったのに、まして少し世間並みに打ち解けた様子にはお志もまさるので、たやすく通えないだろう山道の遠さも胸が痛むほど思って、心深げに語って頼みにさせるが、中の君は哀れともどうとも分からない。言いようもなく大切に育てられた姫君でも、少し世間並みに人の気配に近く、親兄弟などと言って人の振る舞いも見慣れている人は、物の恥ずかしさも程々であろうか。家で大切にお世話する人こそいないが、このような山深い所なので、人から遠く奥まって育った心地に、思いがけない有様が気が引けて恥ずかしく、何事も世の人に似ず田舎びているだろうと、ちょっとしたお返事でも言い出しようもなく慎んでいる。実のところ、この中の君こそ、才気があって気の利いた方面の美しさはまさっているのである。
- 1そのそのその夜夜よもももかのかのかのしるべしるべしるべさそひさそひさそい給給たまへへえどどど、、、「「「冷冷れい泉泉ぜい院院いんににに必必かならずずず侍侍さぶらふふうべきべきべき事事こと侍侍はべれれればばば」」」とてとてとてとまりとまりとまり給給たまひひいぬぬぬ。。。例例れいのののことことことにににふれふれふれてててすさまじげすさまじげすさまじげににによよよをををもてもてもてなすなすなすとととにくゝにくゝにくくおぼすおぼすおぼす。。。いかゞいかゞいかがはははせせせむむん、、、ほいほいほいならならならざりざりざりししし事事こととてとてとて、、、おろかおろかおろかにににやややはははととと思思おもひひいよわりよわりよわり給給たまひひいててて、、、御御おんしつらひしつらひしつらいなどなどなどうちうちうちあはあはあわぬぬぬすみかすみかすみかのののさまさまさまなれなれなれどどど、、、さるさるさる方方かたにににをかしくをかしくおかしくしししなしなしなしててて待待まちちち聞聞きこえええ給給たまひひいけりけりけり。。。遙遙はるかなるなるなる御御おん中中なか道道みちををを、、、急急いそぎぎぎおはしましおはしましおわしましたりたりたりけるけるけるももも、、、嬉嬉うれしきしきしきわざわざわざなるなるなるぞぞぞかつかつかつはははあやしきあやしきあやしき。。。さうじみさうじみそうじみははは我我わにににもももあらあらあらぬぬぬさまさまさまにてにてにて、、、つくろはつくろはつくろわれれれ奉奉たてまつりりりたまふたまふたまうまゝまゝままににに、、、濃濃こききき御御おんぞぞぞのののいたくいたくいたくぬるれぬるれぬるればばば、、、さかしさかしさかし人人びともももうちうちうちなきなきなきつゝつゝつつ、、、「「「世世よののの中中なかににに久久ひさしくしくしくもももとととおぼえおぼえおぼえ侍侍はべらららねねねばばば、、、明明あけ暮暮くれのののながめながめながめにににももも唯唯ただ御御おん事事ことをををのみのみのみなむなむなん心苦心苦こころぐるしうしうしゅう思思おもひひい聞聞きこゆるゆるゆるににに、、、このこのこの人々人々ひとびともももよかるよかるよかるべきべきべきさまさまさまのののことことことゝゝと、、、聞聞ききききにくきにくきにくきまでまでまでいひいひいいしらすしらすしらすめれめれめればばば、、、年年とし經經へたるたるたる心心こころどもどもどもにににははは、、、さりともさりともさりとも世世よのののことわりことわりことわりをををももも知知しりりりたらたらたらむむんはかばかしくはかばかしくはかばかしくもももあらあらあらぬぬぬ心心こころひとつひとつひとつをををたてたてたてゝゝて、、、かうかうこうでででのみのみのみやややははは見見み奉奉たてまつらららむむんととと思思おもひひいなるなるなるやうやうようもももありありありしかしかしかととと、、、只只ただ今今いまかくかくかく思思おもひひいもももあへあへあえずずず恥恥はずかしきしきしきことことことゞゞどもももににに亂亂みだれれれ思思おもふふうべくべくべくははは更更さらににに思思おもひひいかけかけかけ侍侍はべらららざりざりざりしししににに、、、これこれこれやややげにげにげに人人ひとのののいふいふいうめるめるめる遁遁のがれれれ難難がたききき御御おん契契ちぎりなりなりなりけむけむけん。。。いといといとこそこそこそ苦苦くるしけれしけれしけれ少少すこしししおぼしおぼしおぼし慰慰なぐさみみみなななむむんににに、、、知知しらららざりざりざりしししさまさまさまをををももも聞聞きこえええむむん。。。にくしにくしにくしとととなななおぼしおぼしおぼしいりいりいりそそそ、、、罪罪つみもももぞぞぞ得得え給給たまふふう」」」とととみみみぐしぐしぐしをををなでなでなでつくろひつくろひつくろいつゝつゝつつ聞聞きこえええ給給たまへへえばばば、、、
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現代語訳
その夜も匂宮はあの案内役をお誘いになるが、薫は「冷泉院に必ず伺候しなければならないことがございますので」と言って残りなさった。匂宮は、例によって何かにつけ世の中をつまらなそうに扱うと、憎らしくお思いになる。大君は、どうしようもない、本意ではなかったこととはいえ、おろそかにできようかと気弱になりなさって、お部屋の調度なども不釣り合いな住まいの有様だが、それなりに趣深く整えて、お待ち申し上げなさった。遠いお道のりを急いでいらっしゃったのも、うれしいことに思えるのが、一方では妙である。当の中の君は正気もないようなご様子で、身づくろいをされなさるままに、濃い色のお召し物がひどく涙で濡れるので、賢ぶっていた大君も泣きながら、「私は世の中に長くいられるとも思われませんので、明け暮れの物思いにも、ただあなたのことばかりを心苦しくお思い申し上げていましたが、この女房たちも、よいはずのことだと、聞き苦しいほど言い知らせるようなので、年を経た者たちの心には、そうはいっても世の道理も知っているのだろう、頼りにならない自分一人の考えを立てて、このようにばかりお世話申し上げていてよいものかと思うようになったこともありましたが、ただ今このように思いもかけず恥ずかしいことどもに乱れ思うことになろうとは、全く思いも寄りませんでした。これが本当に人の言う逃れがたいご宿縁だったのでしょう。たいそう苦しいことです。少しお気持ちが慰みなさったら、私が知らなかった事情もお話しいたしましょう。憎いと思い込みなさいますな。罪をお得になりますよ」と、御髪をなでつくろいながら申し上げなさると、
中の君は返事もおできにならないが、さすがに姉君がこのようにお思いになりおっしゃるのは、本当に不安で悪くなれともお考えおきにはならなかったのだろうけれど、人の笑いものになるような見苦しいことが加わって、お世話されるのがつらいことと、あれこれ思っていらっしゃる。匂宮は、何の心構えもなく呆然としていらっしゃった気配でさえ並々でなく美しかったのに、まして少し世間並みに打ち解けていらっしゃる様子には、お志もまさるので、たやすく通いなさることのできないであろう山道の遠さも、胸が痛むほどお思いになって、心深げに語って頼みにおさせになるが、中の君は哀れともどうともお分かりにならない。言いようもなく大切に育てられた姫君でも、少し世間並みに人の気配に近く、親兄弟などと言いながら、人の振る舞いも見慣れていらっしゃる方は、物の恥ずかしさも程々であろうか。家で大切にお世話申し上げる人こそいないが、このように山深いあたりなので、人から遠く奥まってお育ちになった心地に、思いがけない有様が気が引けて恥ずかしく、何事も世の人に似ず、妙に田舎びているだろうと、ちょっとしたお返事でも言い出しようもなく慎んでいらっしゃる。実のところ、この中の君こそ、才気があって気の利いた方面の美しさはまさっていらっしゃるのである。
意訳
二夜目、薫は同行を断り、匂宮だけが宇治に通う。大君は宿縁と諦め、山荘を整えて匂宮を待つ。涙に濡れる中の君の髪をなでながら、大君は、自分も知らなかったことだから憎まないでほしいと語る。匂宮は中の君への愛情を深めて将来を約束するが、山里育ちの中の君は恥じらって言葉も出ない。
語釈・文法注
文法
- 「さうじみ」(さうじみは我にもあらぬさまにて)
- 正身。当の本人。ここでは中の君。
- 「あされ給へりし」(さる心もなくあされ給へりしけはひだに)
- 呆然としていらっしゃった。
- 「らうらうしく」(らうらうしくかどある方のにほひは)
- 才気があって気が利く。
解説
大君は、思いがけない成り行きを宿縁と受け入れ、妹の結婚を整えようとする。自分も知らなかったと言いながら、その言葉が妹に届かないもどかしさがある。
語り手は、中の君こそ才気の点では姉にまさると評する。山里に育ち、恥じらいがちな中の君の美しさが、匂宮の心を強くとらえていく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、956–957頁(コマ189)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日