源氏物語 第47帖 総角(22)
夜明けの帰り道
ますます激しい川の水の音に目も冴えて、夜半の嵐に、谷を隔てて独り寝する山鳥のような心地で、薫は夜を明かしかねる。いつものように明けていく気配に鐘の音などが聞こえる。匂宮は寝坊して出てくる様子もないと、薫が苛立って咳払いをするのも、本当に妙なことである。薫は、道案内をした自分がかえって迷ってしまいそうだ、心も晴れない明け方の道に、こんな例が世にあっただろうかと詠むと、大君は、あれこれと心を暗くしている私の心を思いやってください、自分から好んで道に迷うのなら、とほのかに返すのを、薫はひどく物足りなく思い、「どうしてこうもひどく隔たっていらっしゃるのでしょう。ひどくつらいことです」などとあれこれ恨みながら、ほのぼのと明けていく頃に、匂宮は昨夜の方から出てくるようである。たいそう柔らかに振る舞う匂いなど、艶なお心づかいで言いようもなく香を薫きしめている。老女房たちはひどく妙で合点がいかず戸惑ったが、それでも悪いお心ではあるまいと慰めている。暗いうちにと急いで帰る。帰り道も匂宮にはたいそう遠く思われて、気安く通えないだろうことが今から苦しく、一夜でも隔てることになるのかと思い悩んでいるようである。まだ人の騒がしくない朝のうちに京に着いた。廊に車を寄せて降りる。妙な女車のふりをして隠れて入るので、二人とも笑って、薫は「並々でない宮仕えの志と存じます」と申し上げる。案内役の愚かしさが、ひどく悔しくて、薫は愚痴も言わない。
- 1いとゞしきいとゞしきいとどしき水水みずののの音音おとににに目目めもももさめさめさめててて、、、夜夜よ半半はののの嵐嵐あらしににに山山やま鳥鳥どりののの心心こころちちちしししててて明明あかしししかねかねかね給給たまふふう。。。例例れいののの明明あけけけ行行ゆくくくけはひけはひけはいににに鐘鐘かねののの聲聲こえなどなどなど聞聞きこゆゆゆ。。。いぎたなくいぎたなくいぎたなくててて出出いででで給給たまふふうべきべきべき氣色氣色けしきもももなきなきなきよよよととと、、、心心こころやましくやましくやましくこわこわこわづくりづくりずくり給給たまふふうももも、、、げにげにげにあやしきあやしきあやしきわざわざわざなりなりなり。。。「「「しるべしるべしるべせせせししし我我わやややかへりてかへりてかえりて惑惑まどふふうべきべきべきこゝろこゝろこころもももゆかゆかゆかぬぬぬあけあけあけぐれぐれぐれののの道道みち。。。かゝるかゝるかかるためしためしためし世世よにににありありありけむけむけんややや」」」とととのたまへのたまへのたまえばばば、、、「「「かたかたかたかたかたかたにににくらすくらすくらすこゝろこゝろこころををを思思おもひひいやれやれやれ人人ひとやりやりやりならならならぬぬぬ道道みちにににまどはまどはまどわゞゞば」」」とととほのかほのかほのかにににのたまふのたまふのたまうををを、、、いといといと飽飽あかかかぬぬぬ心地心地ここちすれすれすればばば、、、「「「いかにいかにいかにこよなうこよなうこよのう隔隔へだたりたりたりててて侍侍はべるるるめれめれめればばば、、、いといといとわりなうわりなうわりのうこそこそこそ」」」などなどなどよろづよろづよろずににに恨恨うらみみみつゝつゝつつ、、、ほのぼのほのぼのほのぼのととと明明あけけけゆくゆくゆくほどほどほどににに、、、よべよべよべののの方方かたよりよりより出出いででで給給たまふふうなりなりなり。。。いといといとやはらかやはらかやわらかにににふるまひふるまひふるまいなしなしなし給給たまへへえるるるにほひにほひにおいなどなどなど、、、えんえんえんなるなるなる御心御心みこころげさうげさうげそうにににはははいひいひいいしらしらしらずずずしめしめしめ給給たまへへえりりり。。。ねびねびねび人人びとどもどもどもはははいといといとあやしくあやしくあやしく心心こころえええ難難がたくくく思思おもひひい惑惑まどははわれれれけれけれけれどどど、、、さりともさりともさりともあしざまあしざまあしざまなるなるなる御心御心みこころあらあらあらむむんやややはははととと慰慰なぐさめめめたりたりたり。。。暗暗くらききき程程ほどにににととと急急いそぎぎぎ歸歸かえりりり給給たまふふう。。。道道みちののの程程ほどもももかへるかへるかえるさささはははいといといと遙遙はるけくけくけくおぼさおぼさおぼされれれててて、、、心心こころ安安やすくくくもももえええ行行ゆききき通通かよははわざらざらざらむむんことことことののの、、、かねてかねてかねていといといと苦苦くるしきしきしきををを、、、夜夜よをををややや隔隔へだてててむむんととと思思おもひひい惱惱なやみみみ給給たまふふうなななめりめりめり。。。まだまだまだ人人ひとさわがしからさわがしからさわがしからぬぬぬ朝朝あさののの程程ほどにににおはしおはしおわしつきつきつきぬぬぬ。。。廊廊ろうににに御御おん車車くるまよせよせよせててておりおりおり給給たまふふう。。。ことことことやうやうようなるなるなる女女おんな車車ぐるまのののさまさまさましししてててかくろへかくろへかくろえ入入いりりり給給たまふふうににに、、、皆皆みなわらひわらひわらい給給たまひひいててて、、、「「「おろかおろかおろかならならならぬぬぬ宮宮みや仕仕づかえののの御御おん志志こころざしとととなむなむなん思思おもひひい給給たまふるふるうる」」」ととと申申もうししし給給たまふふう。。。しるべしるべしるべのののをこがましさをこがましさおこがましさをををばばば、、、いといといと妬妬ねたくくくてててうれへうれへうれえももも聞聞きこえええ給給たまははわずずず。。。
現代語訳
ますます激しい水の音に目も冴えて、夜半の嵐に、山鳥のような心地がして、薫は夜を明かしかねていらっしゃる。いつものように明けていく気配に、鐘の音などが聞こえる。匂宮は寝坊して出ていらっしゃりそうな様子もないことよと、薫が苛立って咳払いをなさるのも、本当に妙なことである。「道案内をした私が、かえって迷ってしまいそうです、心も晴れない明け方の薄暗い道に。このような例が世にあったでしょうか」とおっしゃると、大君は「あれこれと心を暗くしている私の心を思いやってください、ご自分から好んで道に迷われるのなら」とほのかにおっしゃるのを、薫はたいそう物足りない心地がするので、「どうしてこうもひどく隔たっていらっしゃるようなので、たいそうつらいことです」などと、あれこれ恨みながら、ほのぼのと明けていく頃に、匂宮は昨夜の方からお出ましになるようである。たいそう柔らかにお振る舞いになる匂いなど、艶なるお心づかいで、言いようもなく香を薫きしめていらっしゃる。老女房たちはたいそう妙で合点がいかず戸惑ったが、それでも悪いお心ではあるまいと慰めていた。暗いうちにと急いでお帰りになる。道中も、帰り道は匂宮にはたいそう遠く思われなさって、気安く通うこともできないだろうことが、今からたいそう苦しいので、一夜でも隔てることになるのかと思い悩んでいらっしゃるようである。まだ人の騒がしくない朝のうちに京にお着きになった。廊に御車を寄せてお降りになる。妙な女車の様子をして隠れてお入りになるので、二人ともお笑いになって、薫は「並々でない宮仕えのお志と存じます」と申し上げなさる。案内役の愚かしさを、たいそう悔しく思って、薫は愚痴も申し上げなさらない。
意訳
薫は眠れずに夜を明かし、なかなか出てこない匂宮に苛立つ。薫と大君は明け方の歌を交わすが、大君の心は隔たったままである。匂宮は香を薫きしめた姿で中の君のもとから出て、二人は女車を装って京に戻る。薫は手引きした自分の愚かさを悔しく思う。
語釈・文法注
文法
- 「山鳥の心ちして」(夜半の嵐に山鳥の心ちして)
- 山鳥は雌雄が谷を隔てて別々に寝るとされた。障子を隔てて独り夜を明かす薫のたとえ。
- 「しるべせし我やかへりて惑ふべき」(しるべせし我やかへりて惑ふべきこゝろもゆかぬあけぐれの道)
- 匂宮を手引きした自分が、かえって恋の道に迷うという嘆き。
- 「人やりならぬ道にまどはゞ」(人やりならぬ道にまどはゞ)
- 自分から好んで道に迷うのなら。薫の自業自得をほのめかす大君の返歌。
解説
匂宮は中の君と結ばれ、薫は大君と障子を隔てて夜を明かした。同じ夜に、二組の男女はまったく違う時間を過ごした。
女車を装って京に戻る二人は、思わず笑い合う。薫の「おろかならぬ宮仕」という皮肉には、手引きしただけで報われなかった自分への苦い笑いが込められている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、954–955頁(コマ188)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日