源氏物語 第47帖 総角(20)
匂宮を導く
薫は匂宮を馬で暗い紛れに山荘へ来させておいて、弁を呼び出し、「ここで一言だけ申し上げたいことがあるのですが、私を思い放っていらっしゃる様子を見てしまったので、たいそう恥ずかしいけれど、すっかり引きこもったままではいられないので、もう少し夜が更けてから、この前のように案内してくださらないか」などと裏表なく語るので、弁はどちらでも同じことだと思って大君のもとに参る。弁がそう申し上げると、大君は、やはり心が中の君に移ったのだとうれしくて安心し、薫が入るはずの道ではない方の襖障子をしっかり閉めて対面した。薫は「一言申し上げたいのですが、また人が聞くほど大声で言うのも筋が通らないので、少し開けてください。たいそう気詰まりです」と言うが、大君は「このままでもよく聞こえるでしょう」と言って開けない。大君は、今はと中の君に心を移そうとするので、黙ってはいられないと言うのだろうか、何も珍しい対面でもない、無愛想に答えずにいて夜を更かすまいなどと思って、これだけでも出てきたのに、薫は障子の中から袖を捕らえて引き寄せ、ひどく恨むので、大君は、本当に嫌なことだ、どうして聞き入れてしまったのだろうと悔しく煩わしいが、なだめて出してしまおうと思って、中の君を自分と別人と分け隔てなさらないようにとほのめかしながら語る心づかいなど、たいそう哀れである。
- 1宮宮みやをををばばば御御おん馬馬うまにてにてにて、、、暗暗くらきききまぎれまぎれまぎれにににおはしまさおはしまさおわしまさせせせ給給たもうううててて、、、辨辨べん召召めししし出出いでででゝゝて、、、「「「こゝこゝここもともともとににに唯唯ただ一一ひと言言こと聞聞きこえええさすさすさすべきべきべきことことことなむなむなん侍侍はべるるるををを、、、おぼしおぼしおぼし放放はなつつつさまさまさま見見み奉奉たてまつりりりてててしししににに、、、いといといと恥恥はずかしけれしけれしけれどどどひたひたひたやややごもりごもりごもりにてにてにてえええやむやむやむまじきまじきまじきををを、、、今今いましばししばししばしふかしふかしふかしてててををを、、、ありありありしししさまさまさまにににははは導導みちびききき給給たまひひいてててむむんややや」」」などなどなど、、、うらうらうらもももなくなくなく語語かたらひらひらい給給たまへへえばばば、、、いづかたいづかたいずかたにににももも同同おなじじじ事事ことにににこそこそこそはははととと思思おもひひいててて參參まいりりりぬぬぬ。。。さささなむなむなんととと聞聞きこゆれゆれゆればばば、、、されされさればばばよよよ思思おもひひい移移うつりりりにににけりけりけりととと嬉嬉うれしくしくしくててて、、、心心こころおちおちおちゐゐいててて、、、かのかのかの入入いりりり給給たまふふうべきべきべき道道みちにににはははあらあらあらぬぬぬ麻麻あさのののさうじさうじそうじをををいといといとよくよくよくさしさしさしててて對對たい面面めんししし給給たまへへえりりり。。。「「「一一ひと言言こと聞聞きこえええさすさすさすべきべきべきががが又又また人人ひと聞聞きくくくばかりばかりばかりのののゝしらゝしらのしらむむんはははあやなきあやなきあやなきををを、、、いさゝかいさゝかいささかあけあけあけさせさせさせ給給たまへへえ。。。いといといといぶせしいぶせしいぶせし」」」ととと聞聞きこえええ給給たまへへえどどど、、、「「「かくかくかくてててもももいといといとよくよくよく聞聞きこえええぬぬぬべしべしべし」」」とてとてとて、、、あけあけあけ給給たまははわずずず。。。今今いまはははとととうつろひうつろひうつろいなななむむんをををたゞたゞただならならならじじじとてとてとていふいふいうべきべきべきにににややや、、、何何なにかかかははは例例れいならならならぬぬぬ對對たい面面めんにににもももあらあらあらずずず、、、人人ひとにくゝにくゝにくくいらへいらへいらえででで、、、夜夜よもももふかさふかさふかさじじじなどなどなど思思おもひひいてててかばかりかばかりかばかりももも出出いででで給給たまへへえるるるににに、、、障障しょう子子じのののなかなかなかよりよりより御御おん袖袖そでをををとらへとらへとらえててて引引ひきききよせよせよせててていみじういみじういみじゅううらむれうらむれうらむればばば、、、いといといとうたてうたてうたてもももあるあるあるわざわざわざかなかなかな、、、何何なにににに聞聞ききききいれいれいれつらむつらむつらむとととくやしうくやしうくやしゅうむつかしけれむつかしけれむつかしけれどどど、、、こしらへこしらへこしらえててて出出いだしししてててむむんとととおぼしおぼしおぼしててて、、、ことことこと人人びとととと思思おもひひいわきわきわき給給たまふふうまじきまじきまじきさまさまさまにににかすめかすめかすめつゝつゝつつ語語かたらひらひらい給給たまへへえるるる心心こころばへばへばえなどなどなどいといといとあはれあはれあわれなりなりなり。。。
現代語訳
薫は匂宮を御馬で、暗い紛れにいらっしゃるようになさって、弁を呼び出して、「ここで、ただ一言申し上げなければならないことがございますが、私を思い放っていらっしゃるご様子を拝見してしまったので、たいそう恥ずかしいけれど、すっかり引きこもったままではいられないので、もう少し夜が更けてから、この前のように案内してくださいませんか」などと、裏表なくお話しになるので、弁はどちらでも同じことだと思って大君のもとに参った。そのようにと申し上げると、大君は、やはり心が中の君に移ったのだとうれしくて、安心して、あの薫がお入りになるはずの道ではない方の襖障子をたいそうしっかりと閉めて対面なさった。「一言申し上げたいのですが、また人が聞くほど大声で言うのも筋が通らないので、少しお開けください。たいそう気詰まりです」と申し上げなさるが、「このままでもたいそうよく聞こえるでしょう」と言って、お開けにならない。今はと中の君に心を移そうとするので、黙ってはいられないと言うのだろうか、何も珍しい対面でもない、無愛想にお答えしないで、夜も更かすまいなどと思って、これだけでも出ていらっしゃったのに、薫は障子の中から袖を捕らえて引き寄せて、ひどく恨むので、大君は、たいそう嫌なことであるよ、どうして聞き入れてしまったのだろうと悔しく煩わしいけれど、なだめて出してしまおうとお思いになって、中の君を別人と分け隔てなさらないようにとほのめかしながらお話しになる心づかいなど、たいそう哀れである。
意訳
薫は匂宮を連れて来ておいて、弁に大君への取り次ぎを頼む。大君は薫の心が中の君に移ったと思って安心し、障子を閉めたまま対面する。薫は障子越しに大君の袖をつかんで恨み、大君は困りながらも、中の君を自分と同じに思ってほしいとほのめかす。
語釈・文法注
文法
- 「ひたやごもり」(ひたやごもりにてえやむまじきを)
- すっかり引きこもること。
- 「麻のさうじ」(麻のさうじをいとよくさして)
- 麻布を張った襖障子。
- 「こと人と思ひわき給ふまじきさまに」(こと人と思ひわき給ふまじきさまにかすめつゝ)
- 中の君を自分と別人と分け隔てなさらないように。中の君を自分と同じに思ってほしいという大君の願い。
解説
大君は、薫の心が中の君に移ったと思い込んで安心する。しかし薫の目的は、大君を引き留めている間に匂宮を中の君のもとへ送り込むことだった。大君の安心は、薫の策略の上に成り立っている。
障子越しに袖を捕らえられながら、大君はなお中の君を薫に託そうとする。大君の願いと薫の計画は、正反対の方向に動いている。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、952–953頁(コマ187)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日