源氏物語 第47帖 総角(18)
匂宮を訪ねる薫
まだ有明の空も趣深い頃に、薫は兵部卿宮(匂宮)のもとに参る。三条の宮が焼けた後は六条院に移っていたので、近くていつも参るのを、匂宮も望ましいことと思っていた。紛れることなく申し分のない住まいで、御前の前栽はよそとは違い、同じ花の姿も木や草の靡くさまも格別に見えて、遣水に澄む月影さえ絵に描いたようで、思ったとおり匂宮は起きていた。風に乗って吹いてくる薫の香りがはっきりと匂うので、すぐにそれと気づいて、直衣を着て乱れぬよう身なりを整えて出てくる。薫が階段を上りきらずに膝をついて座ると、匂宮はなお上へなどとも言わず、高欄に寄りかかって座り、世間の話を交わす。匂宮はあの宇治のことも物のついでに思い出して、あれこれと恨むのも無理なことである。薫は、自分の思いさえかなわないのにと思いながらも、中の君が匂宮と結ばれてくれればと思う事情もあるので、いつもより真剣にあるべき手立てなどを申し上げる。明け方の薄暗い頃、あいにく霧が立ちこめて空の気配がひんやりとし、月は霧に隔てられて木の下も暗く優美である。匂宮は山里の哀れな様子を思い出す。匂宮が「近いうちに。必ず置いていかないでくれ」と語るのを、薫がなお渋るので、匂宮は、女郎花の咲く大野を囲って、心狭く標を結うのかと戯れる。薫が、霧深い朝の原の女郎花は、心を寄せて見る人だけが見るのです、誰でもというわけには、などと悔しがらせるので、匂宮は「ああうるさい」としまいには腹を立ててしまった。
- 1まだまだまだ有有あり明明あけののの空空そらもももをかしきをかしきおかしき程程ほどににに、、、兵兵ひょう部部ぶ卿卿きょう宮宮のみやののの御御おん方方かたににに參參まいりりり給給たまふふう。。。三三さん條條じょうののの宮宮みや燒燒やけけけにににししし後後のちははは、、、六六ろく條條じょう院院いんにににぞぞぞうつろひうつろひうつろい給給たまへへえれれればばば近近ちかくくくてててははは常常つねににに參參まいりりり給給たまふふうををを、、、宮宮みやもももおぼすおぼすおぼすやうやうようなるなるなる御御おん心地心地ここちししし給給たまひひいけりけりけり。。。紛紛まぎるゝるゝるることことことなくなくなく、、、あらまほしきあらまほしきあらまほしき御御おん住住すまひひいににに、、、おおおまへまへまえののの前前せん栽栽ざい外外ほかのののにににははは似似にずずず、、、同同おなしきしきしき花花はなのののすがたすがたすがたももも木木き草草くさののの靡靡なびきききざまざまざまももも、、、ことことことににに見見みなさなさなされれれててて、、、遣遣やりりり水水みずにににすめすめすめるるる月月つきののの影影かげさへさへさへ繪繪えににに書書かきききたるたるたるやうやうようなるなるなるににに、、、思思おもひひいつるつるつるもももしるくしるくしるく起起おきききおはしましおはしましおわしましけりけりけり。。。風風かぜにににつきつきつきててて吹吹ふききき來來くるるるにほひにほひにおいのののいといといとしるくしるくしるくうちうちうちかをるかをるかおるににに、、、ふとふとふとそれそれそれととと驚驚おどろかかかれれれててて、、、御御おん直直のう衣衣し奉奉たてまつりりり亂亂みだれれれぬぬぬさまさまさまににに引引ひききき繕繕つくろひひいててて出出いででで給給たまふふう。。。はしはしはしをををのぼりのぼりのぼりもももはてはてはてずずずついついつい居居い給給たまへへえれれればばば、、、猶猶なおうへうへうえににになどなどなどももものたまはのたまはのたまわででで、、、高高こう欄欄らんににによりよりより居居い給給たまひひいててて世世よののの中中なかののの御御おん物物もの語語がたり聞聞きこえええかはしかはしかわし給給たまふふうかのかのかのわたりわたりわたりのののことことことをををももも物物もののののついでついでついでにににおぼしおぼしおぼし出出いでででゝゝて、、、よろづよろづよろずににに恨恨うらみみみ給給たまふふうもももわりなしわりなしわりなしややや。。。みづからみづからみずからののの心心こころにににだにだにだにかなひかなひかないがたきがたきがたきをををととと思思おもふふう思思おもふふう、、、さささもももおはせおはせおわせなむなむなんととと思思おもひひいなるなるなるやうやうようのののあれあれあればばば、、、例例れいよりよりよりはははまめやかまめやかまめやかにににあるあるあるべきべきべきさまさまさまなどなどなど申申もうししし給給たまふふう。。。あけあけあけぐれぐれぐれののの程程ほどあやにくあやにくあやにくににに霧霧きりわたりわたりわたりててて空空そらのののけはひけはひけはいひやゝかひやゝかひややかなるなるなるににに、、、月月つきははは霧霧きりににに隔隔へだてててられられられててて木木こののの下下したももも暗暗くらくくくなまめきなまめきなまめきたりたりたり。。。山山やま里里ざとのののあはれあはれあわれなるなるなるありさまありさまありさま思思おもひひいいでいでいで給給たまふふう。。。宮宮みや「「「このこのこのごろごろごろののの程程ほどににに。。。必必かならずずずおくらかしおくらかしおくらかし給給たまふふうななな」」」ととと語語かたらひらひらい給給たまふふうををを猶猶なお煩煩わずらしししがれがれがればばば、、、「「「女女おみ郞郞な花花へしさけさけさけるるるおほおほおお野野のをををふせぎふせぎふせぎつゝつゝつつ心心こころせばくせばくせばくやややしめしめしめをををゆふゆふゆうらむらむらん」」」とととたはぶれたはぶれたわぶれ給給たまふふう。。。「「「霧霧きりふかきふかきふかきあしたあしたあしたのののはらはらはらののの女女おみ郞郞な花花へしこゝろこゝろこころをををよせよせよせててて見見みるるる人人ひとぞぞぞみるみるみる。。。なべてなべてなべてやややははは」」」などなどなどねたましねたましねたまし聞聞きこゆれゆれゆればばば「「「あなあなあなかしかましかしかましかしかまし」」」とととはてはてはてはてはてはてははは腹腹はら立立だちちち給給たまひひいぬぬぬ。。。
現代語訳
まだ有明の空も趣深い頃に、薫は兵部卿宮の御方に参上なさる。三条の宮が焼けてしまった後は、六条院にお移りになっていたので、近くていつも参上なさるのを、匂宮も望ましいお気持ちでいらっしゃった。紛れることもなく、申し分のないお住まいで、御前の前栽はよそのものとは違い、同じ花の姿も、木や草の靡くさまも、格別に見えて、遣水に澄んでいる月の光さえ絵に描いたようであるうえに、思っていたとおり匂宮は起きていらっしゃった。風に乗って吹いてくる香りがたいそうはっきりと匂うので、すぐにそれと気づかれて、直衣をお召しになり、乱れのない様子に身なりを整えてお出ましになる。薫が階段を上りきらずに膝をついて座っていらっしゃると、匂宮はなお上へなどともおっしゃらず、高欄に寄りかかってお座りになって、世間のお話を交わしなさる。匂宮はあの宇治のあたりのことも物のついでに思い出しなさって、あれこれと恨みなさるのも無理なことである。薫は、自分の心の思いさえかないがたいのにと思いながらも、中の君が匂宮と結ばれてくださればと思うようになる事情もあるので、いつもより真剣に、あるべき手立てなどを申し上げなさる。明け方の薄暗い頃、あいにく霧が一面に立ちこめて、空の気配がひんやりとしているうえに、月は霧に隔てられて、木の下も暗く優美である。匂宮は山里の哀れな様子を思い出しなさる。匂宮が「近いうちに。必ず私を置いていきなさるな」とお話しなさるのを、薫がなお渋るので、「女郎花の咲いている大野を囲って、心狭く標縄を結っているのか」と戯れなさる。「霧深い朝の原の女郎花は、心を寄せて見る人だけが見るのです。誰でもというわけには」などと悔しがらせ申し上げるので、匂宮は「ああうるさい」と、しまいには腹をお立てになってしまった。
意訳
薫は明け方に六条院の匂宮を訪ねる。匂宮は宇治の姫君のことで薫を恨む。薫は中の君を匂宮と結ばせようと考え、真剣に手立てを話す。匂宮が女郎花を独り占めするのかと戯れると、薫は心を寄せる人だけが見られるのだとからかい、匂宮は腹を立てる。
語釈・文法注
文法
- 「つい居給へれば」(はしをのぼりもはてずつい居給へれば)
- 膝をついて座る。目上の人に対する礼儀。
- 「女郞花さけるおほ野をふせぎつゝ」(女郞花さけるおほ野をふせぎつゝ心せばくやしめをゆふらむ)
- 女郎花(宇治の姫君)の咲く野を囲って、独り占めするのかという匂宮の戯れ。
- 「あなかしかまし」(「あなかしかまし」とはてはては腹立ち給ひぬ)
- ああうるさい。
解説
薫は、大君に拒まれた結果、中の君を匂宮に結ばせる計画を本気で進め始める。中の君が匂宮のものになれば、大君も自分を受け入れるだろうという思惑がある。
霧の中の明け方、六条院の庭は絵のように美しい。宇治の山里と都の邸宅の対比が、二人の貴公子の会話の背景を彩る。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、950–951頁(コマ186)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日