源氏物語 第47帖 総角(16)
明けての騒ぎ
逢う人によって長くも短くもなるわけではない秋の夜だが、ほどもなく明けてしまう心地がして、どちらとも区別できないほど優美な中の君の様子を、自分から進んでのことながら名残惜しく思い、薫は「私を思ってください。たいそう情けなくつれない人のご様子を見習いなさいますな」などと後の逢瀬を約束して出ていく。我ながら妙に夢のように思われるが、やはりつれない大君の様子をもう一度見届けようという心で気持ちを落ち着けて、いつものように出て横になった。弁が参って、ひどく妙に思い、「中の君はどこにいらっしゃるのでしょう」と言うのを、中の君はひどく恥ずかしく思いもかけない心地で、どういうことだったのかと思いながら横になっている。昨日大君がおっしゃったことを思い出して、姉君をつらいと思う。明けた光につられて、壁の中のこおろぎのように大君は這い出てきた。中の君がどう思っているかと思うとひどく気の毒なので、互いに何も言えない。大君は、見苦しく情けないことだ、これから後も油断できない世の中なのだと思い乱れる。弁は薫の方に参って、呆れるほどの大君の気強さを聞き知って、ひどく度を越して人を憎んだようなことだと気の毒でぼんやりしている。薫は「これまでのつらさはまだ望みが残っている気がして、何かと慰めてきたが、今夜こそ本当に恥ずかしく身を投げてしまいたい心地がする。捨てがたく姫君たちを残していかれた宮のお心苦しさを思えばこそ、また一途に身を思い捨てることもできない。色恋めいた筋は、どちらにもお寄せすまい。つらさも恨めしさも、それぞれ忘れられないでしょう。匂宮などが遠慮なく申し上げているようなので、同じことなら身分の高い方をと思う心が特におありなのだろうと得心したので、いっそうもっともなことと恥ずかしくて、また参って人々にお会いするのも悔しい。まあよい、こんな愚かな身の上のことは、せめて他人には漏らさないでください」と恨み言を言い置いて、いつもより急いで帰っていく。女房たちは「どなたのためにもお気の毒に」とささやき合っている。
- 1逢逢あふふう人人ひとからからからにににしもしもしもあらあらあらぬぬぬ秋秋あきののの夜夜よなれなれなれどどど、、、ほどほどほどもももなくなくなく明明あけけけぬるぬるぬるこゝちこゝちここちしししててていづれいづれいずれとととわくわくわくべくべくべくもももあらあらあらずずずなまめかしきなまめかしきなまめかしき御御おんけはひけはひけはいををを、、、人人ひとやりやりやりならならならずずず飽飽あかかかぬぬぬ心心こころちちちしししててて、、、「「「あひあひあいおぼせおぼせおぼせよよよ。。。いといといと心心こころ憂憂うくくくつらきつらきつらき人人ひとののの御御おんさまさまさま見見み習習ならひひい給給たまふふうなななよよよ」」」などなどなど、、、のちのちのちせせせををを契契ちぎりりりててて出出いででで給給たまふふう。。。我我わながらながらながらあやしくあやしくあやしく夢夢ゆめのののやうやうようにににおぼゆれおぼゆれおぼゆれどどど、、、猶猶なおつれなきつれなきつれなき人人ひとののの御御おん氣色氣色けしき、、、今今いま一一ひと度度たび見見みはてはてはてむむんののの心心こころににに思思おもひひいのどめのどめのどめつゝつゝつつ、、、例例れいののの出出いでででゝゝてふしふしふし給給たまへへえりりり。。。辨辨べん參參まいりりりててていといといとあやしくあやしくあやしく、、、「「「中中なかののの君君きみはははいづくいづくいずくにににおはしますおはしますおわしますらむらむらん」」」ととといふいふいうををを、、、いといといと恥恥はずかしくしくしく思思おもひひいかけかけかけぬぬぬ御御おん心地心地ここちにににいかなりいかなりいかなりけむけむけんことことことにににかかかととと思思おもひひいふしふしふし給給たまへへえりりり。。。昨日昨日きのうのたまひのたまひのたまいししし事事ことをををおぼしおぼしおぼしいでいでいでゝゝて、、、姫姫ひめ君君ぎみをををつらしつらしつらしととと思思おもひひい聞聞きこえええ給給たまふふう。。。明明あけけけにににけるけるける光光ひかりにににつきつきつきてててぞぞぞ壁壁かべののの中中なかのののきりぎりすきりぎりすきりぎりすはひはひはいいでいでいで給給たまへへえるるる。。。おぼすおぼすおぼすらむらむらんことことことのののいといといといとほしけれいとほしけれいとおしければばば、、、かたみかたみかたみににに物物ものもももいはいはいわれれれ給給たまははわずずず。。。ゆかしげゆかしげゆかしげなうなうのう心心こころ憂憂うくくくもももあるあるあるかなかなかな、、、今今いまよりよりより後後のちももも心心こころゆるびゆるびゆるびすすすべくべくべくもももあらあらあらぬぬぬ世世よにににこそこそこそととと思思おもひひい亂亂みだれれれ給給たまへへえりりり。。。
- 2辨辨べんはははあなたあなたあなたににに參參まいりりりててて、、、あさましかりあさましかりあさましかりけるけるける御心御心みこころつよさつよさつよさををを聞聞きききき顯顯あらわしししててて、、、いといといとあまりあまりあまりふかくふかくふかく人人ひとにくかりにくかりにくかりけるけるけることことことゝゝといとほしくいとほしくいとおしくおもほれおもほれおもおれ居居いたりたりたり。。。「「「きききししし方方かたのののつらさつらさつらさははは猶猶なお殘殘のこりりりあるあるあるこゝちこゝちここちしししててて、、、よろづよろづよろずににに思思おもひひい慰慰なぐさめめめつるつるつるををを、、、今今こ夜夜よいなむなむなん誠誠まことににに恥恥はずかしくしくしく身身みももも投投なげげげつつつべきべきべき心心こころちちちするするする。。。捨捨すてててがたくがたくがたくおとしおとしおとし置置おききき奉奉たてまつりりりたまへたまへたまえりりりけむけむけん心苦心苦こころぐるしさしさしさををを思思おもひひい聞聞きこゆるゆるゆる方方かたこそこそこそ、、、又又またひたぶるひたぶるひたぶるににに身身みをををもももえええ思思おもひひい捨捨すつつつまじけれまじけれまじけれ。。。かけかけしきかけかけしきかけかけしきすぢすぢすじははは、、、いづかたいづかたいずかたにににももも思思おもひひい聞聞きこえええじじじ。。。憂憂うきききもももつらきつらきつらきももも、、、かたがたかたがたかたがたににに忘忘わすららられれれ給給たまふふうまじくまじくまじくなむなむなん。。。宮宮みやなどなどなどののの恥恥はずかしげしげしげなくなくなく聞聞きこえええ給給たまふふうめるめるめるををを、、、同同おなじくじくじくははは高高たかくくくととと思思おもふふう方方かたぞぞぞ殊殊ことににに物物ものししし給給たまふふうらむらむらんととと心心こころ得得えはてはてはてつれつれつればばば、、、いとゞいとゞいとどことわりことわりことわりににに耻耻はずかしくしくしくててて又又また參參まいりりりててて人々人々ひとびとににに見見みえええ奉奉たてまつらららむむんことことこともももねたくねたくねたくなむなむなん。。。よしよしよしかくかくかくをこがましきをこがましきおこがましき身身みののの上上うえ、、、またまたまた人人ひとにににだにだにだに洩洩もらしらしらし給給たまふふうななな」」」とととゑんじゑんじえんじ置置おきききててて、、、例例れいよりよりよりももも急急いそぎぎぎ出出いででで給給たまふふう。。。「「「誰誰たががが御御おんためためためもももいとほしくいとほしくいとおしく」」」とととさゝめきさゝめきささめきあへあへあえりりり。。。
現代語訳
逢う人によって長くも短くもなるわけではない秋の夜だけれど、ほどもなく明けてしまった心地がして、どちらとも区別できそうもない優美なご様子の中の君を、自分の心からのことながら名残惜しい心地がして、薫は「私を思ってください。たいそう情けなくつれない人のご様子を見習いなさいますな」などと、後の逢瀬を約束してお出になる。我ながら妙に夢のように思われるけれど、やはりつれない大君のご様子を、もう一度見届けようという心で気持ちを落ち着けながら、いつものように出て横になっていらっしゃった。弁が参って、ひどく妙に思って、「中の君はどこにいらっしゃるのでしょう」と言うのを、中の君はひどく恥ずかしく思いもかけないお気持ちで、どういうことだったのだろうかと思いながら横になっていらっしゃる。昨日大君がおっしゃったことを思い出しなさって、姉君をつらいとお思い申し上げなさる。明けてしまった光につられて、壁の中のこおろぎのように、大君は這い出していらっしゃった。中の君がどうお思いだろうかと思うと、ひどく気の毒なので、互いに何もおっしゃれない。大君は、見苦しく情けないことよ、これから後も油断のできない世の中なのだと思い乱れていらっしゃる。
弁はあちらの薫の方に参って、呆れるほどの大君のお心の強さを聞き知って、ひどく度を越して人を憎んだようなことだと、気の毒でぼんやりしていた。薫は「これまでのつらさは、まだ望みが残っている心地がして、何かと思い慰めてきたが、今夜こそ本当に恥ずかしく、身も投げてしまいそうな心地がする。捨てがたく姫君たちを残し置きなさった宮のお心苦しさをお思い申し上げる方面でこそ、また一途に身を思い捨てることもできないのだ。色恋めいた筋は、どちらの方にもお寄せ申し上げまい。つらさも恨めしさも、それぞれに忘れられなさることはないでしょう。匂宮などが遠慮なく申し上げなさっているようなので、同じことなら身分の高い方をと思う心が、特におありなのだろうと得心してしまったので、いっそうもっともなことと恥ずかしくて、また参って人々にお会いすることも悔しい。まあよい、このような愚かな身の上のことは、せめて他人には漏らしなさるな」と恨み言を言い置いて、いつもより急いでお帰りになる。女房たちは「どなたのためにもお気の毒に」とささやき合っている。
意訳
薫は中の君に後の逢瀬を約して出る。中の君は事情を知り、姉を恨む。大君も屏風の陰から這い出るが、姉妹は言葉を交わせない。薫は弁に、大君の頑なさを恥じ、大君は匂宮のような高い身分を望んでいるのだろうと恨み言を言って急いで帰る。
語釈・文法注
文法
- 「逢ふ人からにしもあらぬ秋の夜」(逢ふ人からにしもあらぬ秋の夜なれど)
- 「長しとも思ひぞはてぬ昔より逢ふ人からの秋の夜なれば」(古今集、躬恒)による。秋の夜の長さは逢う人次第だが、という意。
- 「壁の中のきりぎりす」(壁の中のきりぎりすはひいで給へる)
- 「秋風の吹くにつけても壁の中のきりぎりす」などの表現を踏まえ、壁際に隠れていた大君をこおろぎにたとえる。
- 「おもほれ居たり」(いとほしくおもほれ居たり)
- 呆然としていた。
解説
屏風の陰から這い出す大君を「壁の中のきりぎりす」にたとえる表現は、滑稽でありながら哀れである。気高い大君が、こおろぎのように身を潜めていたのである。
薫は、大君が匂宮のような高い身分の男を望んでいると誤解する。大君の真意は独身を貫くことにあるが、その心は薫にも伝わらない。すれ違いが深まっていく。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、948–949頁(コマ185)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日