源氏物語 第47帖 総角(15)
中の君との一夜
中納言(薫)は、一人で寝ているのを見て、心得てくれたのかとうれしく胸がときめくが、だんだん大君ではなかったと分かる。もう少し美しく可憐な様子はまさっているかと思われる。中の君が呆れて途方に暮れているのを、本当に何も知らなかったのだと見えるので、たいそう気の毒でもあり、また一方で隠れてしまった大君のつれなさが本当に情けなく悔しいので、この中の君も他人とは思い離れることはできまいが、やはり本意が違うのが残念で、軽々しく浅い心だったとも思われたくない。この一件はやはりやり過ごして、ついに宿世から逃れられないなら、中の君の方に結ばれることになっても、どうして他人のように思おうかと思い直して、いつものように趣深く親しげに語らって夜を明かした。老女房たちはうまくいったと思って、中の君はどこにいらっしゃるのだろう、妙なことだと探り合っている。「それでも何か訳があるのでしょう」などと言う。「いつも拝見すると、しわも伸びる心地がして、すばらしく哀れで見ていたいご容貌やご様子なのに、どうしてひどくよそよそしく申し上げなさるのでしょう。何かこれは世の人が言うような、恐ろしい神が取り憑き申し上げているのでしょう」と歯の抜けた口で愛嬌もなく言う女がいる。また「ああ縁起でもない。どんなものが取り憑きましょう。ただ人から遠く離れてお育ちになったようなので、こういうことにもふさわしく取り計らってお世話する人もいらっしゃらないので、きまり悪くお思いなのでしょう。そのうち自然に見慣れなされば、お慕いなさるでしょう」などと語り合って、「早くうちとけて思うとおりになっていただきたい」と言い言い寝入って、いびきなどを見苦しくかく者もいる。
- 1中中ちゅう納納な言言ごんははは一一ひと人人りふしふしふし給給たまへへえるるるををを、、、心心こころしししけるけるけるにににやややととと嬉嬉うれしくしくしくててて心心こころときめきときめきときめきししし給給たまふふうににに、、、やうやうやうやうようようあらあらあらざりざりざりけりけりけりととと見見みるるる。。。今今いま少少すこししし美美うつくしくくしくくしくらうたげらうたげろうたげなるなるなる氣色氣色けしきはははまさりまさりまさりてててやややとととおぼゆおぼゆおぼゆ。。。あさましげあさましげあさましげにににあきれあきれあきれ惑惑まどひひい給給たまへへえるるるををを、、、げにげにげに心心こころももも知知しらららざりざりざりけりけりけりととと見見みゆれゆれゆればばばいといといといとほしくいとほしくいとおしくもももありありあり、、、又又またおしおしおしかへしかへしかえしててて隱隱かくれれれ給給たまへへえらららむむんつらさつらさつらさのののまめやかまめやかまめやかににに心心こころうくうくうくねたけれねたけれねたければばば、、、これこれこれをををもももよそよそよそのののものものものとととはははえええ思思おもひひい離離はなれれれまじけれまじけれまじけれどどど、、、猶猶なおほいほいほいののの違違たがははわむむん口口くち惜惜おしくしくしくててて、、、うちつけうちつけうちつけにににあさかりあさかりあさかりけりけりけりととともももおぼえおぼえおぼえ奉奉たてまつらららじじじ。。。このこのこのひとひとひとふしふしふしははは猶猶なお過過すぐしぐしぐしててて遂遂ついにににすくせすくせすくせのがれのがれのがれずずずははは、、、こなたこなたこなたざまざまざまにににならならならむむんももも何何なにかかかはははことことこと人人びとのののやうやうようにににやややはははととと思思おもひひいさましさましさましててて、、、例例れいのののをかしくをかしくおかしくなつかしきなつかしきなつかしきさまさまさまににに語語かたらひらひらいてててあかしあかしあかし給給たまひひいつつつ。。。老老おいいい人人びとどもどもどもはははしそじつしそじつしそじつととと思思おもひひいててて、、、中中なかののの君君きみはははいづこいづこいずこにににかかかおはしますおはしますおわしますらむらむらん、、、怪怪あやしきしきしきわざわざわざかなかなかなとととたどりたどりたどりあへあへあえりりり。。。「「「さりともさりともさりともあるあるあるやうやうようあらあらあらむむん」」」などなどなどいふいふいう。。。「「「大大おお方方かた例例れいののの見見み奉奉たてまつるるるににに、、、皺皺しわのぶるのぶるのぶる心心こころちちちしししてててめでたくめでたくめでたくあはれあはれあわれににに見見みまほしきまほしきまほしき御御おんかたちかたちかたち有有あり樣樣さまををを、、、などなどなどててていといといともてもてもてはなれはなれはなれてててははは聞聞きこえええ給給たまふふうらむらむらん。。。何何なにかかかこれこれこれははは世世よののの人人ひとのののいふいふいうめるめるめる、、、恐恐おそろしきしきしき神神かみぞぞぞつきつきつき奉奉たてまつりりりつらむつらむつらむ」」」ととと齒齒ははははうちうちうちすきすきすきててて、、、あいぎやうあいぎやうあいきょうなげなげなげにににいひいひいいなすなすなす女女おんなありありあり。。。又又また「「「あなあなあなまがまがしまがまがしまがまがし。。。なぞなぞなぞのののものものものかかかつかつかつかせせせ給給たまははわむむん。。。たゞたゞただ人人ひとににに遠遠とおくくくててておひおひおい出出いでででさせさせさせ給給たまふふうめれめれめればばば、、、かゝるかゝるかかる事事ことにににもももつきづきしげつきづきしげつきずきしげにににもてもてもてなしなしなし聞聞きこえええ給給たまふふう人人ひともももなくなくなくおはしますおはしますおわしますににに、、、はしたなくはしたなくはしたなくおぼさおぼさおぼさるゝるゝるるにににこそこそこそ。。。今今いまおのづからおのづからおのずから見見み奉奉たてまつりりりなれなれなれ給給たまひひいなななばばば思思おもひひい聞聞きこえええ給給たまひひいてててむむん」」」などなどなど語語かたらひらひらいててて、、、「「「とくとくとくうちうちうちとけとけとけててて思思おもふふうやうやうようにてにてにておはしまさおはしまさおわしまさなむなむなん」」」ととといふいふいういふいふいう寢寢ね入入いりりりててて、、、いびきいびきいびきなどなどなどかたはらいたくかたはらいたくかたわらいたくするするするもももありありあり。。。
現代語訳
中納言は、一人で寝ていらっしゃるのを見て、心得てくれたのだろうかとうれしくて、胸がときめきなさるが、だんだんと大君ではなかったのだと分かる。もう少し美しく可憐な様子はまさっているだろうかと思われる。中の君が呆れたように途方に暮れていらっしゃるのを、本当に何も知らなかったのだと見えるので、たいそう気の毒でもあり、また一方で、隠れてしまわれた大君のつれなさが本当に情けなく悔しいので、この中の君も他人とは思い離れることはできまいけれど、やはり本意が違うのが残念で、軽々しく浅い心だったとも思われ申し上げまい。この一件はやはりやり過ごして、ついに宿世から逃れられないならば、こちらの方と結ばれることになっても、どうして他人のように思おうかと思い直して、いつものように趣深く親しげな様子で語らって夜をお明かしになった。老女房たちは、うまくいったと思って、中の君はどこにいらっしゃるのだろう、妙なことだと探り合っている。「それでも何か訳があるのでしょう」などと言う。「いつも拝見すると、しわも伸びる心地がして、すばらしく哀れで見ていたいご容貌やご様子なのに、どうしてひどくよそよそしく申し上げなさるのでしょう。何か、これは世の人が言うような、恐ろしい神が取り憑き申し上げているのでしょう」と、歯は抜けて、愛嬌もなさそうに言いなす女がいる。また「ああ縁起でもない。どんなものが取り憑きなさいましょう。ただ人から遠く離れてお育ちになったようなので、このようなことにも、ふさわしく取り計らってお世話申し上げる人もいらっしゃらないので、きまり悪くお思いなのでしょう。そのうち自然と見慣れ申し上げなされば、お慕い申し上げなさるでしょう」などと語り合って、「早くうちとけて、思うとおりになっていただきたい」と言い言い寝入って、いびきなどを見苦しくかく者もいる。
意訳
薫は、寝ていたのが中の君だと気づく。何も知らない中の君を気の毒に思い、逃げた大君を恨めしく思うが、ここで中の君と結ばれては浅い心と思われると考え、穏やかに語らって夜を明かす。老女房たちは事がうまくいったと思い込み、大君に神が憑いているなどと勝手に言い合って寝入る。
語釈・文法注
文法
- 「しそじつ」(老い人どもはしそじつと思ひて)
- 為遂じつ。うまくやり遂げた。
- 「齒はうちすきて」(と齒はうちすきて)
- 歯が抜けてすき間だらけで。老女房の様子。
- 「おひ出でさせ給ふ」(たゞ人に遠くておひ出でさせ給ふめれば)
- 生ひ出で。お育ちになる。
解説
薫は中の君と一夜を過ごしながら、関係を結ばない。大君への本意を貫こうとする薫の一途さが、ここでも行動を縛る。中の君は、何も知らないまま巻き込まれた被害者である。
老女房たちの滑稽な会話が、緊迫した場面に笑いを添える。歯の抜けた口で神が憑いたと言い、いびきをかいて寝る。悲劇と喜劇が隣り合う描写である。
関連
出典
- 底本
- 丸岡桂・松下大三郎編『国文大観』物語部2(源氏物語 下) 板倉屋書房、明治36年(1903)、946–949頁(コマ184–185)。国立国会図書館デジタルコレクション
- 校訂・訳・注
- 古典ライブラリー編集部
- 更新日